素朴な疑問 「ヒューゴ、聞きたいことがあるんだが・・・」
「石版・・・ですか?・・・あ、この近くに『石版の地』というのはありますよ。この間パーシィさんと遠乗りに行った時に見つけたんです」 鸚鵡返しのように繰り返すエイにヒューゴは、ゼクセン騎士団のパーシヴァルさんのことだと告げるがここにきてまだ日が浅いエイにはなかなか見当がつかない。ヒューゴはどうやって説明すればいいか少し考えた後、ジェスチャーを交えてみた。 「あの、俺の隣の部屋の髪がツンってなってる・・・」 ヒューゴの二つ隣の部屋の鎧を付けている騎士の片方の姿を思い浮かべる。そう言えば彼はよくヒューゴの部屋に来ていた事を思い起こす。ヒューゴも彼が来ると楽しそうで、側にいるのを何度か見かけた。 「ヒューゴはその石版見た?」 その石版については以前は無かったものでつい最近、その場所に突然現れたとセバスチャンさんが騒いでいたとヒューゴは教えてくれた。ちょうど、ここが皆が集まることとなった時期とそれは一致するらしい。 (まさか、今回は弟子が失踪?したので面倒くさいから石版だけ置いてきたとか?・・・まさかね) エイは馬鹿馬鹿しいと思いその考えを払拭した。
その質問に対する回答をヒューゴから聞いたエイは少し驚いていたようだった。 ***
ドアのノック音の少し後に聞こえてきた控えめな声。ヒューゴはそれだけで誰だか分かったらしく床から立ち上がると、ドアを開けに向かった。少し、その声の主と話をしていたがどうやら終わったらしい。 「ちょっとだけだから、仕事は終わったんでしょ?」 その声の主をヒューゴは中に招き入れる。エイは邪魔になるかな、と引き上げようと腰を抜かしたその瞬間、そこで待っててと引き止められる。 「エイさん、彼だよ」
『一番最初に名前が書かれているのって、誰?』と。最初に名前が浮かび上がるのが『天魁星』だからだ。 「最初に名前が書かれている人・・・?う〜んとね」 あの時の事を思い出しているようだった。直ぐに思い出したようで表情が明るくなる。 「確か、トーマスさんだったよ」 カラヤでもジョー軍曹から基本的な教育を受けているとは言え、難しい文字はまだまだ読めないヒューゴにパーシヴァルは一つ一つ丁寧に教えてくれた事を思い出したヒューゴは嬉しそうに教えてくれた事が思いだされた。
「あ、新しいお客様ですね。初めまして、ここエストニア城の城主のトーマスといいます」 礼儀正しい挨拶にエイも礼儀正しく挨拶を返す。 「俺はエイ、よろしく」 彼についてはヒューゴから今聞いたばかりだった。どこか、15年前に出会ったデュウという少年を思いださ せるような風貌。それでいてヒューゴとはまた違い、放って置けないというか目を離せない印象があった。 (これはこれは・・・) 最初に感じていた驚きは一体何処に消えていったのか、話をしてみると真の通った人間であることは直ぐに分かった。ただ、生来の気の弱さがそれを阻害しているののが勿体無いと思う。自信さえあればもっと違う人生をおくっていたのではないかと思われるが、もう少し年月が経てば彼は内面に似合った青年に成長するであろうとエイは考えていた。それを少し見届けたいとも考えていた。 「トーマスさんって、こうみえても結構強いんだよ。この間なんて俺が仕留め損ねたモンスターを一撃で倒しちゃったんだから!」 この二人のやり取りを見ているのは本当に飽きなくて面白い。形は違うが、昔の親友と自分の姿が二人に重なっていた。 「エイさん?」 声を掛けられてハッと我に返る。心配そうに顔を覗き込む二人が目の前に居た。 「あ、ごめん。ちょっと考え事してて・・・」 それを聞いて安心したかのように二人が息を吐いた。その後、トーマスは用事があるからと席を立とうとしたその瞬間。 「トーマス君?」 突然声を掛けられて動揺するトーマス。 「少しだけ一息ついてから話してごらん、それだけで随分と落ち着くから。あとは出来るだけ背筋を伸ばしてみるとまた違うよ」 それは、昔解放軍の軍主となった頃、まだ自信が無かった自分にマッシュが言った言葉だった。こうして改めて他人に使ってみると、例えその人物がこの世にいない存在だとしてもその志は残り続ける事を自覚する。 思えば昔の自分もそうだった。天魁星の宿星とは単に強いものが選ばれるものではない、人を惹きつけてやま ない存在でありその志である。星々がどんな宿命を持っていようともそれに振り回されてはいけないのだ。 「は、はい。ありがとうございます!!」 そう言って出て行った城主の後ろ姿を焼き付けた。27の真の紋章を受け継いだ今でも、何が起こるか分からず驚いたり、嬉しいことがあったりする。だから彼の親友は300年という長い間も人間との関わりを求めていたのだろう。そう考えるとヒューゴやトーマスたちの行く末が気になるというの、は当たり前なのかもしれない・・・。まるで自分の息子をみているようなそんな錯覚すら覚える。
02/09/06up |