暑い日差しも、寒い季節も関係なく。そこは私にとっての静寂と安息の地。 誰にも邪魔されることもなく、自分の世界に浸るにはもってこいの場所だった。
それが少し冷めるのを、自分の好きな本を読みながら待っているこの瞬間。 それが、私の一番好きな時間。 誰にも邪魔される事など無く、本の世界と戯れるこの時間が何よりも私の幸福だった。
名前はトーマス・・・と言いましたか、まだまだ子供と言った少年でその表情には戸惑いが隠しきれていなかった。別に私にはどうでも良かった、城主が誰になろうとも私のあの至高とも呼べる時間と空間を邪魔さえしなければ。この城のあの場所さえ存在していれば、私には関係のないことだと思っていた。 だから、あの日も私はいつものようにこの空間に居た。
その空間に彼は現れた。正確には、彼を始めとしたこの城の住人全員が。 これで、私だけの空間は消失した。しかし、何故か喪失感は私の胸には無かった。彼は私がここに居る事を許可した上で邪魔はしないと約束してくれたからだ。何よりも私が居ないことに気がつき、その為にここを探し当てたのだ、それだけで十分だった。
それから、成り行きというか何と言うかこの城は『炎の運び手』の本拠地と化し、この城にも随分人が増え、様々な人間がこの城を訪れた。 「のう、ここには『コタツ』は無いのか?」 「…あれは…眠く……なりますから」 「それもそうじゃのう」 「でも、寒いときには幸せですよ。特にその時に食べるアイスクリームなんて」 「そう……です…か。では……今度…」 「すまないのう、アイク殿」 ここを訪れる客は多くは無いが、それでも私は穏やかだった。 好きな本を読みながら、人々の中に居られることが。 人が去ったこの静寂な空間に僅かばかりの寂しさを感じながら、私は横になって本のページを開く。 本の文章を読みながら今度、また古道具屋を覗いて『コタツ』なるものを探してみようと計画していた。 自分がそこにいるのに気がついて、私は唇の端を少し吊り上げた。
※後書 これって一体誰の話でしょう(笑) |