君の名は



−この世界にはかつて『空』が存在していた−



それは、むかしむかしのおとぎ話。

本当にあったとは今は誰も信じていない話。

かつて、この世界には『空』があって、その下では人間は誰もが自由に暮らしていた。

『空』には、鳥が飛び、風が吹いていた。

それは、今では誰もが笑うおとぎ話。



 生まれたときから世界には『空』は無かった。

 生れ落ちた瞬間、自分には「1/8192」という値が付けられ、自分の住む世界が決められた。

ただ一つ与えられた自分の名「リュウ」

 それだけが、自分が自分であることの証だった。幼い頃死別した両親が何を思ってこの名前を自分に付けたのか、今となっては知る由もなく。レンジャーになったのも危険と隣り合わせの仕事ではあるが、食い扶持に困ることが滅多に無い。・・・ただそれだけの理由だった。
 自分は一生この世界で『空』を知ることも無く生きていくと思っていた。この暗い地下で一生を終えることを疑っていなかった。この世界ではそれに異を唱えることすら出来なかった。



だが、今は違う。



 自分はそのおとぎ話を信じている・・・いや信じざるを得ない状況にあるとでも言った方がいいのだろう。

−『空』に向かう−

 本当にあるかなんて判らない。でも、彼女を助ける為にはそれしかないのだから。今まで取り巻いていた全ての世界を捨てても、自分は彼女を『空』に連れて行く。
 そう決意し、空虚な自分の内に生まれたのは『決意』。生きる為に、自分が何かを求めるのは初めてだった。この世界に生まれてから、欲しいと願うことを許されるのは多分初めてだろう。

「少し、休まないかい?」

 度重なる戦闘でリュウもニーナもリンも疲れていた。自分やリンはともかくここで無理を通してニーナを倒れさせる訳にはいかない。冷たい地面に腰を下ろし、少し昔の夢を見た。




「リュウ・・・いい名前だと思わない?」

「ああ、そうだね」

何処かで聞き覚えのある、でも誰だか思い出せない声が聞こえる。

「この名前はかつて『空』を飛んでいた生き物の名前なの」

「君は『空』の話が好きだからね」

「もう、馬鹿にして」

「ははは」

「でも・・・いつかこの子が『空』を見ることが出来たら素敵だと思わない?」




「んーー、んーーー」

その瞬間、リュウの意識が覚醒した。

「どうしたんだい?」

 何時の間にかニーナがリュウの側に座っていた。リュウの顔を見るなりニーナが少し安心したような表情を見せた後そのまま、再びリュウの隣で眠りについた。少し離れた場所からリンがそんな二人を微笑ましげに見つめていた。

(さっきのあの夢・・・まさかね)

 もう殆どおぼろげにしか覚えていないあの夢を、覚えているだけ反芻させるとリュウは一時の休息を味わっていた。



「さあ、行こう」

3人は再び『空』に向かって歩き始める。

例えこの身が滅びたとしても、自分の意思で決めたたった一つの決意を確かめるように。

『空』に向かって一歩を踏みしめた。



to be continued...


【後書】

初めて書いたドラクォ話です。少し消化不良気味なところも否めないのですが(汗)
リュウの設定も少し捏造していますね。彼らの両親とかはどうなっているのかは不明なのですが、多分彼は現在一人きりの模様ではないかと。
少しガンパレに近い表現になってしまったかも。

2002/12/26 tarasuji

戻る