はじめてのたんさく



今日も楽しい遺跡探索。

「おい、九ちゃん」
「ん?」

 緊張感があるのかないのかどうもその表情からは伺えない。軽快に前を進んでいくかのような葉佩に、隣の皆守が声を掛ける。
 九龍がバディを連れて行くのは2名まで。葉佩に言わせれば、3名でチームを組むのが役割分担が出来てオーソドックスだそうだ。とのことで、今日も皆守と、もう1人を引き連れてクエスト達成の為だと遺跡に潜っている。
 そう、基本的にバディとして連れて行くのは2名のみ・・・の筈だった。

「何で、今日はあの人を連れてきたんだ?」
「だって、楽しそうじゃないか」

 その返答に、皆守は最早返す言葉も無かった。



 今日のバディは皆守と阿門。
 阿門について来て欲しいなあ、とか葉佩が頼みに行った時に皆守は正直いって肝の冷える思いをしていた。大体、葉佩と阿門は敵対関係にあった筈であり、阿門が葉佩の頼みを受け入れる筈がないと確信していたからだ。

「今日、遺跡に行くんだけど来るか?」
「何故、俺に声を掛ける」
「いや、阿門が≪墓守≫だったんなら遺跡詳しいかなーとか思って」
「・・・・・・」

 葉佩の理由は大体あってないものである。阿門も顔面に青筋を浮かべながらも何かを考え込んでいるかのようである。

「今日は≪生徒会≫の用事もない」
「それって・・・」
「貴様が遺跡で何をやっているのか知らなければならないだろう」
「よっしゃ!」

 ガッツポーズで得意満面の葉佩をよそに、皆守は隣に立っていた阿門に声を掛ける。

「まさか、あんたが引き受けるとはな」
「仕方ないだろう、皆守なら断われるか」
「それを言われれば・・・」

 バディ同士の複雑な思惑など何処吹く風の葉佩に、阿門と皆守は顔をあわせて溜息をついた。その後葉佩が発したある一言によって更にその溜息は深く、大きくなるのであった。



「クエストを達成しました」
 H.A.N.T.のナビゲーションがクエストの達成を告げる。扉の前で時計回りにクルリと回ったり、持ってきたカレーパンを食べたり食塩水を舐めてしょっぱいと叫んでみたり、カッターナイフで敵を倒してみたり。傍目から見れば【変】としか言えない行動にも最近慣れてきた皆守であったが、葉佩のそんな行動を始めて見た阿門はこめかみを引くつかせながら、もう何度目になるであろうかの盛大な溜息をついた。

「皆守、葉佩はいつもああなのか」
「ああ、九ちゃんはいつもああだよ。いや、今日はあれで大人しい方だな」
「あれでか」

 ああ、という皆守の反応に阿門は聞かなければ良かったと思った。

「ご苦労様です、葉佩様」
「ありがと」
「そろそろ一休みしませんか。探索には一時の休憩も必要でしょう」
「魂の井戸もそろそろだし、そこで休憩しよう」

 今回の探索についてきたのは皆守・阿門・・・そして千貫だった。阿門を迎えに阿門宅まで葉佩に連れられていけば、そこには阿門家執事千貫厳十郎の姿が。そこで何気なく遺跡に行く話となりことの流れから千貫も連れていきたいという話になったのである。
 勿論、千貫はこの老体を連れて行っても迷惑になると断ったのだが葉佩の強引とも言える押しに負けてついてきてしまった。一体、葉佩という男に勝てる人間がこの學園に何人いるのだろうかと思えば、想像に難くない。目の前にて千貫とのほほんと話をしている目の前の葉佩が、戦闘となれば日本刀と拳銃にて一分の隙もなく化人の弱点を突き無駄の無い動作で倒していくその姿との差異に最初は皆守自身も戸惑うしかなかったのだから。
 実際、千貫自身も戦闘となれば熟練した身のこなしは足手まといどころか有能なもので知識もそれ相当にあるのだから役立っているといえばそうである。今のところは順調に何事も無く無事に魂の井戸までたどり着いた。

「あーついたついた」
「では、休憩にしましょう」

 そういって、千貫が持参したポッドから飲み物と食べ物を差し出す。飲んでみればそれは牛乳とオレンジスコーン(千貫お手製)であった。差し出されたミルクに阿門は少し呆れるやらなんとやらという状況であったが、それは千貫がついてきた時点で諦めてもらうことにする。

「坊ちゃま、ミルクをどうぞ」
「厳十郎、ここまで・・・」
「九龍様、皆守様、お味は如何でしょうか?」
「うん、美味いよ。あ、でもコウはこっちの方がいいだろ?」

 そういって葉佩が差し出したのはカレーパンだった。魂の井戸からはどういうシステムか葉佩の部屋と直結しているらしく、葉佩の部屋から色々と取り出しては装備の再編を行っている。しかし、傍から見ればここが遺跡のど真ん中であるということが信じられない光景だと思うと非日常の中の日常風景に緊張感もへったくれもあったもんではない。それは隣に居る阿門も同様だと思っていたが葉佩という男に巻き込まれてしまった以上受け入れていくしかないと思えた。

「やっぱり千貫さんが居ると休憩も楽しいよな」
「さようですか、ありがとうございます」

 もっとも、当の本人はそういうことなど微塵も考えていないかのような能天気な台詞ばかり言っているが。
 ひとしきり、休憩を終えると葉佩がH.A.N.T.の画面を見つめる。

「これから残る遺跡は2つ。くれぐれも危険な真似はさけること。命あっての物種だからな」
「わかってるって」
「うむ」
「わかりました」

 装備を整え、扉を開ける。
 毒を食らえば皿まで。ここまで来てしまった以上引き返すことも不可能。ならば何処までも付き合うしかないのだろうとここに居る全員が感じているのだろう。



「さあて、行くか」

 野郎4人の遺跡探索はまだまだ続く。




04/10/21 tarasuji
境の爺さんよりも千貫さんをバディにしてみたかった。