ヤマゴボウ
「おーい、九ちゃん。一緒に帰るか?」
「悪ぃ、今日は肥後っちのデ部でちょっと付き合う約束をしているんだ」
放課後に交わされるいつもの何気ない会話。いつもなら一も二も無く遺跡一筋の皆守一筋だと語る九龍が、今日に限って肥後に誘われたなどと言う。本当なら断るところなんだけど、最近遺跡探索にも誘ってないし、断ってばかりも悪いだろ? と両手を拝み頼む九龍に俺もついていくとかつい、言い出して今、俺と九龍はデ部に向っているのである。
「やあ! でしゅ。九龍くんに、皆守くんもきたでしゅか」
「悪ぃ、一人増えたけどいいか?」
「皆守くんなら歓迎でしゅよ」
九龍が、肥後に付き合わされて意味不明な話をしている間、寝ているのも何なのでと俺はその辺にあったPCで適当にネットを見る。大体肥後曰く、この天香學園は全生徒の個室にPCがついているものの、ちゃんとデ部が中心となってセキュリティ管理をしているのだから有害なサイトは自然に見れないようになっているらしい。まあ、俺から言わせれば九龍が見ているロゼッタ協会のサイトや武器屋は有害じゃないのかい、と聞きたいところだが。
で、適当に見ていたサイトにて面白いものが出てきたのでついつい見入ってしまう。最近、煩いほど聞かされた日付を適当に入れてみる。その結果…。
「はっはっは」
「コウ?」
「どうしたでしゅか、皆守くん」
「九ちゃん、お前って面白ぇな」
笑い転げる俺を横目に気になった九龍と肥後が皆守が見ていた画面を見る。そして、となりにいた肥後も思わずぶぶっと笑いをこみ上げた。九龍だけが面白く無さそうに唇を尖らせている。
「勝手に人の誕生日入力すんな!」
俺が見ていたのは『誕生花』のサイトだった。最近、白岐繋がりで嫌でも温室に行く回数が増えたのだから何気に気になっていたのだ。勿論最初は世界のスパイスの検索をしていたのだがな。
で、自分のよりも他人のを見てみようかと思ったうちに最初の辺りに聞かされた九龍の誕生日を入力してやった。
「ちなみに、俺としては九ちゃんのイメージとしては『ヤマゴボウ』なんだけどな」
「ヤマゴボウって何だよ!?」
恐らく九ちゃんは物凄く不機嫌だ。それを分かっていて尚楽しいと思うのだから俺も性質が悪いと思いつつもつい、正直に答えてしまうしかない。
「ヤマゴボウはな…野生と元気だそうだ。まさしくお前ぴったしだな」
「ひでえ、コウ。俺の何処が野生だっていうんだよ」
「こう、遺跡をうっかりをワイヤーロープで駆け上るところとか…なあ」
そっくりだろう? といえばムキになりやすい。そういうところが野性味たっぷりだっていうんだよ。
「そうでしゅね。でもそこが九龍くんの魅力だったりしゅるでしゅよ。ちなみに僕の誕生日の誕生花は一般的に『なでしこ』で意味は思慕とか無邪気だったりするでしゅよ」
肥後、お前外見もメルヘンだと思っていたが、結構内面もメルヘンちっくだったりするんだなあと俺と九龍は思わずその話に聞き入ってしまった。普通、花言葉を知っている男など殆ど居ないはずなんだが。九龍は肥後の話を素直に聞き入ってしまう。そして肥後の言葉のある一点を捉えたのであった。
「なあ、一般的っていうと、他にもあるのか?」
「そうでしゅね、一つの誕生日につき誕生花は4つか5つあるでしゅよ」
「へえ…」
なんとなく、聞きながら九龍の手がマウスに伸びてきた。
「折角俺のだけ調べられてもダメだから、コウのも調べようっと…」
「おい、いつ俺が…」
九龍の手が手馴れた感じでマウスを動かして操作していく。そういえば、以前プリクラ渡した時に誕生日書いた覚えがあるな。ちっ、八千穂に無理矢理とはいえ書くんじゃなかった。そして、その杞憂は九龍の大爆笑と共に現実となってやってくるのであった。
「コウー。お前の誕生花は桃の花で、花言葉が…」
「うるせー」
「なんでしゅか?」
「『恋のとりこ』だってさー。恋のト・リ・コ うわー、はっずかしいなあ」
本当に墓穴だ、墓穴だ。いや、こいつらをあの《墓》に埋めてくるべきであろう。そうだ、今度探索に行った時に埋めてこよう。皆守甲太郎(18)の胸に殺意が芽生えた瞬間であった。
余りに激しく笑う九龍に蹴りを食らわせ、PCの頁を閉じようとすれば下校のチャイムが鳴り響く。これ以上校内にとどまることは、まだ今の時点では危険である。俺は、九龍と肥後に寮に戻るように促すと、まだ半分伸びている九龍を連れて戻ろうとしたその時に声をかけられた。
「皆守くん」
「ん?」
「さっきの、九龍くんに言った花言葉よりも、本当は…」
「それ以上言うと、あいつを調子づかせるからな。いいんだよ、あいつはヤマゴボウで」
肥後の言いたいことは分かっているが、本人の目の前でそれを言ったら俺が恥ずかしいからな。まあ、もう少ししたら言ってやってもいいかもしれないが、俺は絶対言うつもりはないんだろうと思う。
「あれ、コウ…」
ゆっくりと九龍が意識をはっきりさせる。だから俺はこう言ってやった。
「とっくに下校時間だぞ、帰るぞ。今日も探索に行くんだろう、ヤマゴボウ」
「まだ、言うつもりか。覚えてろ、『恋のトリコ』」
「うっせえ」
俺とお前はこうして、たわいもない喧嘩を繰り返しながら日常を過ごしていく。変わらなければいい、この日常が。このままでずっと居ればいい。だから俺はお前に本当の気持ちを告げる必要もないだろう。
九龍の誕生花はリンドウ。花言葉は的確・正義感・誠実。まさにあいつそのものらしくて俺は思いっきり笑うしかなかった。いつかは、彼はその探究心ゆえにすべてを暴いてしまうだろう。そして俺と彼との間には永遠の決別が出来る日が来る事は知っている。それでもそんな日が一日でも先に長くくることを願い、俺は何も言わずこのまま沈黙を貫こう。
なあ、九ちゃん
お前はヤマゴボウでいいさ。
花言葉・誕生花資料元→FFJ 誕生花
何気なくブクマの整理をしてきたら浮かんできたネタ。
ちなみにこのサイトだとラベンダー(紫)は用心深いという意味らしいですよ。確かに…
ついでにこの設定は当サイトの葉佩限定ですので、他所の葉佩では全然違いますのでご注意下さい。
誕生日を先に決めていたので本当に調べてみて真面目にびっくりした(汗)
05/01/15 tarasuji
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