遺跡研究会へようこそ!
やあ、葉佩君。部員でない君がここに通ってくれるのを嬉しく思ってるよ。さて、今日は何の用かな? 何はともあれ、同志である君を僕と可愛いこの子達は歓迎するよ。どうだい? 今からでもいいから遺跡研究会に入部しないかい?
石たちも凄く君に懐いているね。ほら、歓喜の声が聞こえないかい?
え、今日は聞きたいことがあるって? 君の質問なら答えられるだけ答えるよ。
石研が何をやっているかって?
やっぱり、君石研に入った方がいいんじゃないかい? そうすればそんな説明の必要は無い。何なら前の部活の方には話を通しておくから本当に入部しないかい?
まあ、無理強いはしないけれども他ならぬ君の頼みだから説明するよ。
まずは石磨きから始まる。
まずは部室のこの子達を綺麗にすることから始まる。石研は石に始まって石に終わるからね。今日はこの間椎名さんから貰った絹の布があるから、それを使ってみよう。
はい、今日はこの子が葉佩君に磨かれたいって僕に熱く語りかけてきているんだ。この子は結構普段は控えめで大人しめの子なんだけれども、この子がこんなに自己主張したのなんて初めてじゃないのかな。流石葉佩君とでも言うべきかもね。
きゅっ、きゅっ。
へえ、結構いい音がしているね。
その石が言っているよ。葉佩君の磨き方が心地よいって。石もね、触り方によって出す音が違うんだよ。力任せに磨いても痛いだけで嘆きの声が聞こえるんだよ。ほら、上手いマッサージ師にマッサージなんてしてもらうと、睡魔が訪れるぐらいに眠くなって、体が楽になっていくだろう。石だって同じこと。体がすべすべに磨かれると喜びを全身で訴えているんだ。中にはざらざらのままがいいって言う男気満載の、墨木くんや夕薙くんのようなタイプの石もいるけどね。この子は本っ当に純朴な少女のような子だからすべすべに磨かれることを望んでいるんだよ。
石の中には構ってあげないと臍を曲げたりする子もいてね、毎日触れることで歌いだす子もいるんだよ。それは僕の知らない古代の歌であり、古代のメロディであったりするんだ。きっとこの子は遥かな昔に歌い手の側にいて毎日聞いていたに違いないよ。毎日喜んで歌うからね、最近では僕もメロディを覚えてしまったよ。何だったら聞かせてあげようか? …え、それはまたの機会でいい? そうだね。ちゃんと覚えたら君に歌って聞かせよう、遥かなる古代の残した記憶だから楽しみにしててくれよ。
まあ、こんな調子で本当は1日3〜4時間ぐらい磨いているんだろうけど葉佩君は探索の為に時間も無いだろうから簡単にしておこうか。
それから、毎晩學園の周辺をフィールドワークと採取を兼ねて探索している。毎日場所とポイントを変えているのだけれども、《墓地》周辺は中々《生徒会》の目も厳しかったからね。それでも何度か試みたのだけれども《墓守》も凄い勢いでやってきたからね。本当なら石の為なら危険も承知だったのだけれども、可愛いこの子達を残していくのも不憫だったんだ。でも學園が幾ら広いと言っても限りがある。
葉佩君のおかげで《遺跡》を探索することが出来るようになって、新たな石達に出会えたことにはとても感謝しているよ。ああ、でもこの間のように木ばかりの場所は勘弁して欲しいな。あそこにいる間、僕は気が狂いそうなぐらいになったんだからね。
あとは、時間が空いたときには論文を執筆したり、石のデータベースを作る為にデ部の肥後くんのところにいったりしている。彼とは分野が違うけれどもなかなかの人物だね。僕が投げた石を食べたことがあってね、彼もまた違う意味で自分の好きなことを貫いているんだということは分かるよ。だって僕もそうだからね。
そういえば、葉佩君は兵庫県は生野鉱物館にある『和田コレクション』は見たことあるかい? 僕、一度見に行ったのだけれども200円であれだけのものが見れた時には感動したよ! あの輝安鉱(きあんこう)や赤玉髄(せきぎょくずい)の滑らかさ、気高さ、美しさはどれをとっても素晴らしい! この世の奇跡がそこに揃っているということをあの時ほど実感したことは無かったんだ。口をそろえて言う「あと100年早く生まれていたら!」と言う言葉を僕も浮かんださ。和田博士には僕も会いたかったよ。葉佩君、君は以前ロックフォード? だっけ。という《宝探し屋》に会いたいという話をしていただろう? だったら君にとってのロックフォードが僕にとっての和田維四郎博士なんだよ。同じく先人に憧れる同志と言う訳だね。
けれども、憧れるだけではいつでも憧れなんだよ。
君がその《宝探し屋》を目指して《宝探し屋》になったように、僕は和田博士を目指して地質学者を目指している。君の方が一足先に進んだけれども僕も地質学者になってみせる。いや・・・なるよ。
そのためには、僕はもっともっと石たちの声を聞いて、石たちのことを知っていく必要があるんだ。
まあ、本当は君について遺跡探索をした方が僕としても有難いと思うのだけれども。それにね僕はこの、この天香學園を卒業する必要があるんだよ。おじいちゃんとの約束でね、高校だけは卒業するって約束したんだ。
おじいちゃんは、家族の中で僕の夢を笑わなかったんだ。僕が石を収集するようになって、地質学者になることを話したときも応援してくれて、徳島から東京のここまで入学したときも何も言わなかった。本当は、直ぐになりたかったのだけれども最低限高校だけは卒業しなさい、それが本当になりたいものであれば回り道も必要だって。
結果、葉佩君に出会えたこともあったし、おじいちゃんの言うことは正しかったって今は思っている。だから僕はおじいちゃんと交わしたたった一つの約束を守る必要があるんだ。本当は、君がこの遺跡の探索を終えて新たな探索にいくことになったときにはついていきたいんだけれどもね。
ああ、いけない。長話につき合わせてしまったね。
すっかり葉佩君の膝の上の石も眠ってしまったようだ。君はやはり石を落ち着かせる波動か何かあるんじゃない?
最後に一つ聞きたいって? さあ、何だい? 言ってご覧よ。
ああ・・・あそこにいる子ね。
あの人は唯一の石研の部員だよ。石を大事に扱ってくれるというよりは僕を観察したいって入ってきたんだ。まあ、邪魔にはならないみたいだから別に気にしていないけれどもね。え・・・何か凄い目でこっちを見ているって。葉佩君、そんなことよりもまだ石研の話が続きがあるんだけれども。ああ、これから探索の時間かい? それは残念、またの機会を楽しみにしようか。本当に君、石研に入らない?
じゃあ、また遺跡で珍しい石を見つけたら持ってきてくれると嬉しいよ。
♪ららら〜石は僕らを見つめてる〜
♪るるる〜石は静かに見つめている〜
04/12/19 tarasuji
何故か突然浮かんだ黒塚1人称による石研紹介ネタ。口調が難しい。
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