愛しのピラルル星人 (俺の下であがけ/吉岡×黒崎) 夢だ これは夢だ… これは夢であってくれ… 「俺は…俺は…何故あんな夢を見てしまったんだ…」 気が付けばパジャマが濡れていた。人間、睡眠中に汗をかくということは知っているがこれほどの量ともなると、先程の夢がここまで影響を与えると言う事にその恐怖の程が知れる。
「壱哉さま、おはようございます」 夢の中の吉岡が瞬間壱哉の中フィードバックした。壱哉の同様など気が付かないように、吉岡が壱哉の近くに寄ってくる。そして突然壱哉の額に手を当てた。 「よ、吉岡…!?」 壱哉の顔色が悪いのは、吉岡のせいなのだがそれは夢の中の吉岡が原因の為、表立って彼を責めることなど出来なかった。壱哉は何も言わず今日は休むとだけ告げると再びベッドに戻った。 「壱哉さま、朝食をお持ちいたしました」 鼻腔をくすぐる食欲をそそる匂いが壱哉の腹の虫を鳴らす。そういえば昨晩は何も食べていないことに気が付いた。吉岡に部屋に入るように告げると吉岡が早速部屋に戻ってくる。その両の手にはトレイが見えた。吉岡はベッドの上に手馴れたように準備をする。その姿は昔の不慣れな頃の面影など微塵にも現われない。準備を終えると壱哉に食べるように勧めた。 湯気の上がったオムライスと簡単なサラダとスープ。短時間でこれだけのものを作ることが出来る腕前もそうだが、壱哉の好きなものばかりを選択しているのも嬉しい。早速口をつけると壱哉はゆっくりと味わうように食を進めていった。 「お味はいかがですか?」 吉岡のオムライスは壱哉にとって特別なものであるのだが、それを除いても一流レストランのシェフにも引けを取らない味だ。こうしていると、先程見た夢が本当に馬鹿馬鹿しいものだと実感した。 「吉岡」
本当に冗談だったのだ。
そういうと同時に吉岡がこちらを向く。その眼鏡から表情が消えうせている。その眼鏡の縁もキュピーンと光ったような気がした。 「そうですか、とうとうバレてしまったのですね」 吉岡がネクタイを外しながら壱哉の方に近付いてくる。前髪が動いているように見えた…先程見た夢が脳裏に鮮やかに甦る。壱哉はまだ少し重い体を後ろに下がらせようとしたが、それよりも吉岡の動きが早かった。 「な、何をするつもりだ」 無茶苦茶な論理だが、既に逃げることは適わない。見たあの夢の通りなら前髪が触手のようにウネウネと動かす筈だ。吉岡はシャツのボタンも外して壱哉の方に更に近付いてきた。 「ハッスル!!」 壱哉の上に飛び込んできたと同時に壱哉を押し倒し、あっという間に前髪が触手のように壱哉の体を絡め取った。 「壱哉さま、子供は男の子と女の子1人ずつがいいですね」
「吉岡…」 目が覚める。そこは、いつもの自分の部屋であった。驚いて己の体を見回すが汗は酷いものの乱れた様子がない。そう、先程のは夢だったのだ。安心したかのようにゆっくりと息をつくと先程の夢が脳裏に浮かぶ。 「壱哉さま、顔色がすぐれないようですが…」 もう一度ベッドにもぐりこむ。 そうだ、あれは夢だったのだ。そう考えた、いやもう考えたくなかった。余りに爽やかに壱哉を押し倒したあんな夢のことなど忘却の彼方に消し去ることが一番だった。今度こそはいい夢を見ようと壱哉は再び眠りに付くのであった。
そんな壱哉の寝顔を側で見ている男が居た。その男、吉岡は壱哉の寝顔を愛しげに見つめると微笑んだ。 「あと数ヶ月で私と貴方の子供が生まれます。最初は男の子がいいですね」 そう呟いた吉岡の前髪が生き物のように動いたことに気が付いたのは誰一人として存在しなかった。
隠し?コンテンツの「俺の下であがけ」話がいきなり出てきました(汗) 09/09/10 tarasuji |