愛しのピラルル星人 (俺の下であがけ/吉岡×黒崎)


夢だ

これは夢だ…

これは夢であってくれ…







 黒崎壱哉、彼のその日の目覚めは最悪の二文字から始まる。

「俺は…俺は…何故あんな夢を見てしまったんだ…」

 気が付けばパジャマが濡れていた。人間、睡眠中に汗をかくということは知っているがこれほどの量ともなると、先程の夢がここまで影響を与えると言う事にその恐怖の程が知れる。
 まさか、あんな夢を見るとは思っても見なかった。



 秘書の吉岡が、実はピラルル星人で、…しかも前髪は実は…、実は…そして朝から言えないあんなことやこんなことや…(検閲により削除)



 今更男を知らない程純情では無かったが、その欲情の相手が自分が一番信頼している吉岡なのだ…その吉岡相手にあんなことやら、こんなことやらを夢見てしまった自分にあきれ返ってしまっていた。
 夢だ、ということで解決しようとはするものの何故あんな夢を見てしまったのだろうか。もしかしたら自分は吉岡のことを…嫌、違う。自分は吉岡をそんな対象で見たことなど一度もなかったのに。夢は隠された願望を表すものだと聞いたことがあるが、あんな吉岡は嫌だ…


 ノックの音がして、いつも通りの声が聞こえる。壱哉は気力を振り絞って答えるとドアが開いた。

「壱哉さま、おはようございます」
「吉岡…」

 夢の中の吉岡が瞬間壱哉の中フィードバックした。壱哉の同様など気が付かないように、吉岡が壱哉の近くに寄ってくる。そして突然壱哉の額に手を当てた。

「よ、吉岡…!?」
「お顔の色がすぐれません。今日は土曜日ですし、1日休まれてはいかがでしょう?」
「あ、ああ…」

 壱哉の顔色が悪いのは、吉岡のせいなのだがそれは夢の中の吉岡が原因の為、表立って彼を責めることなど出来なかった。壱哉は何も言わず今日は休むとだけ告げると再びベッドに戻った。
 久し振りにベッドの感触が心地よい…そう、その心地よさに壱哉は先程の悪夢を忘れようとしていた。再び、眠りに入ろうとしたその瞬間、吉岡に声を掛けられる。

「壱哉さま、朝食をお持ちいたしました」

 鼻腔をくすぐる食欲をそそる匂いが壱哉の腹の虫を鳴らす。そういえば昨晩は何も食べていないことに気が付いた。吉岡に部屋に入るように告げると吉岡が早速部屋に戻ってくる。その両の手にはトレイが見えた。吉岡はベッドの上に手馴れたように準備をする。その姿は昔の不慣れな頃の面影など微塵にも現われない。準備を終えると壱哉に食べるように勧めた。

 湯気の上がったオムライスと簡単なサラダとスープ。短時間でこれだけのものを作ることが出来る腕前もそうだが、壱哉の好きなものばかりを選択しているのも嬉しい。早速口をつけると壱哉はゆっくりと味わうように食を進めていった。

「お味はいかがですか?」
「美味い」

 吉岡のオムライスは壱哉にとって特別なものであるのだが、それを除いても一流レストランのシェフにも引けを取らない味だ。こうしていると、先程見た夢が本当に馬鹿馬鹿しいものだと実感した。
 だから、本当にそれは自然に口に出たのだ…

「吉岡」
「何でございますか、壱哉さま」
「お前が、ピラルル星人の訳が無いよな」



 冗談だったのだ。

 本当に冗談だったのだ。







「壱哉さま…実は…」

 そういうと同時に吉岡がこちらを向く。その眼鏡から表情が消えうせている。その眼鏡の縁もキュピーンと光ったような気がした。

「そうですか、とうとうバレてしまったのですね」
「よ、吉岡…?」

 吉岡がネクタイを外しながら壱哉の方に近付いてくる。前髪が動いているように見えた…先程見た夢が脳裏に鮮やかに甦る。壱哉はまだ少し重い体を後ろに下がらせようとしたが、それよりも吉岡の動きが早かった。

「な、何をするつもりだ」
「だから、ナニですよ」
「や、止めろ!!」
「正体がバレてしまったからには仕方が無いのです。私は貴方の側を離れないと約束しました。ですから、壱哉さまには私の子供を生んでもらって一生側にいさせて頂きます」

 無茶苦茶な論理だが、既に逃げることは適わない。見たあの夢の通りなら前髪が触手のようにウネウネと動かす筈だ。吉岡はシャツのボタンも外して壱哉の方に更に近付いてきた。

「ハッスル!!」

 壱哉の上に飛び込んできたと同時に壱哉を押し倒し、あっという間に前髪が触手のように壱哉の体を絡め取った。

「壱哉さま、子供は男の子と女の子1人ずつがいいですね」
「止めろ!俺はお前の子供なんて…ああっ!そんなところ…」
「優しくしますからね」
「うわぁああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!」














「壱哉さま、壱哉さま!!」

「吉岡…」

 目が覚める。そこは、いつもの自分の部屋であった。驚いて己の体を見回すが汗は酷いものの乱れた様子がない。そう、先程のは夢だったのだ。安心したかのようにゆっくりと息をつくと先程の夢が脳裏に浮かぶ。
 あんな夢を見てしまったことにとてつもない自己嫌悪に襲われる。もしかしたら自分は吉岡とああ言う事がしたいと思っているのだろうか。そう考えると少し体が火照っているような気がした。

「壱哉さま、顔色がすぐれないようですが…」
「ああ、すまない」
「今日もお休みになられますか?」
「ああ…」

 もう一度ベッドにもぐりこむ。

 そうだ、あれは夢だったのだ。そう考えた、いやもう考えたくなかった。余りに爽やかに壱哉を押し倒したあんな夢のことなど忘却の彼方に消し去ることが一番だった。今度こそはいい夢を見ようと壱哉は再び眠りに付くのであった。




「壱哉さま…」

 そんな壱哉の寝顔を側で見ている男が居た。その男、吉岡は壱哉の寝顔を愛しげに見つめると微笑んだ。

「あと数ヶ月で私と貴方の子供が生まれます。最初は男の子がいいですね」

 そう呟いた吉岡の前髪が生き物のように動いたことに気が付いたのは誰一人として存在しなかった。



【END?】


隠し?コンテンツの「俺の下であがけ」話がいきなり出てきました(汗)
それもこれもドラマCDを試聴してしまって余りに笑いのツボを突いたので…
私は吉岡×社長派なのですが…まあ、ギャグになったかどうかはともかく。
やっぱりオチは夢だった…というかベタ。

09/09/10 tarasuji


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