明日を呼ぶもの (GPM/速舞/SランクED)
己にしか気が付かない震えが走る。
そう自覚して舞は自嘲気味に笑った。怖い、と言う感覚と同時に目を逸らすことは許されない。手が震えているのを誰にも気付かせない為に舞は腕を組んだ。唇が切れそうになるぐらいに噛み締めている。既に痛みは彼方に飛んでいた。
目の前では、男が戦っている。機械で出来た士魂のサムライと共に、朝をこの世界に呼び戻す為に。その戦いは舞踏の戦い、明けない夜明けはない、朝は必ず来ると告げる舞踏。目を閉じし合間に現れ、朝日と共にさっていく存在。そして、サムライが戦う相手はただ一つ。
血まみれになり、それでも己と士魂のサムライを信じ雄たけびを上げて戦う。機体内はモニターすることが出来ないが、誰かが士魂号内臓のスピーカーの音量を最大に上げていた。そこから聞こえてくるのは予想よりも整った息遣いと時々、何か…多分血であろう、口から吐き出される音。そしてコンソールを稼動させるモニター音。
周りの誰もがその動きから、音から、目が、耳が離すことなど出来ない。我らの、何処かの誰かの未来の為に今戦っている男を、その姿から感覚を逸らす必要はない。それが、恐怖であれ何であれだ。
ののみが、既にあと一撃でも受ければ倒れてしまいそうなサムライに向かって声を上げる。
「立ちなさい!……立ちなさい!」
子供だから、いやののみだからこそだ。世界の矛盾も不都合も何もかも飛び越えて明日を、未来を信じている。それは何よりも強くて、誰にも抗うことなど出来ない。
ふと、厚志が笑った。誰も気が付かなかったかもしれないが、厚志は確かにののみの声を聞いて笑ったのだ。それは弱弱しいものであったが、不敵ともいえる笑いだった。そして再認識する。確かに厚志は芝村だ、けれども彼は芝村以上の何かになっている。それを認めるのは…父を認めるようで少し複雑だったけれども今は己の小さなこだわりなどどうでもいい。
士魂号が、武器と装甲を全て捨てた。
素手の士魂号が、あしきゆめと対峙している。
震えが止まらなかった。それはこの戦いにおいて最も理に適った選択だ。士魂号が飛ぶ…いや舞っている。その動きはバレエのように軽く重さを感じさせることはない。かと思えば能のように静かで無駄のない動きが加わり、一つ一つの動作に無駄などなく、かといって野暮ったいものではない。それはまさしく舞踏だった。
「…制御系統・反応系統・操縦系統…ともに反応ありません!全て全滅しています!!…原先輩!?」
システムを見ながら森が原を呼ぶ。いや、森だけではない原も、そこに居た殆どがその報告に驚きを隠せなかった。操縦系統が全て壊れているのに士魂号の動きは万全の状態…いやそれ以上の動きだからだ。
「オールマニュアルだ。奴は手動で士魂号を動かしている、文字通り、その手でな」
まさか、という目で舞に視線が映る。スピーカーからは装甲を破壊している音も聞こえていた。それが錯覚でなければ間違いはない。舞は見えているわけではないがそう確信していた。その状態でのあの動き、舞にはコクピットの中の厚志が見えているような気がした。震えは収まるどころか、ますます強くなっている。
「戦えているじゃないか、ただの人間があんな化け物と戦えているじゃないか…いや、そなたはもう【ただの人間】じゃないな」
「芝村さん…?」
舞には森の声も何もかも聞こえてはいなかった。
「…奴はヒーローになったのだな。己の力で、己の意思で血を吐きながら人を守る人でない何かに…」
その声色は今まで誰も聞いたことが無いくらいに優しく、穏やかな声色だった。震えは相変わらず収まることがなかったが、最早それが恐怖ではなくて体中が騒ぎ出すのを抑えきれないのだと自覚していた。そして、今だからこそ己が、芝村が、ヒーローの呼び水となることを決めたことに感謝していた。どんな運命とやらが定められていたかは知らぬが、それは舞にとっては不幸なものではなかったからだ。
スピーカーから声が聞こえる。それは何よりも優しきものであった。
「始めようか、舞。君と僕とで育て上げた腕と機体だ。あともう1人ぐらいのクラスメイトなら助けられるはずだ」
「ああ、厚志!そなたは人の守護者だろう!!今で私とそなたが育て上げた腕と機体はこの時の為にあったのだ。そなたがヒーローならば、ヒーローらしく必ず最後は勝って見よ!!」
互いの声が届いたかはどうかはわからない。けれども、舞は微笑んだ。いつもどおりに、不敵に。
士魂号は最早壊れかけた機体だとその動きから判るものはいなかった。人間的、いやそれ以上の動きは既に機械という制約から跳躍していた。あしきゆめの発する光線も、士魂号を傷つけようとする動きも全てギリギリのラインでかわし近付いてゆく。舞は、いや舞だけではなくその場にいた誰もが見えた。
士魂号の右手が青く光り、そして銀の剣が現われるのを
銀の光が一閃し、あしきゆめの攻撃をかわしながらその首を刎ねる。首は地面に落ち…いやそれは幻だった。あしきゆめは形を変えて四散する。そしてそこに倒れていたのは狩谷だった。士魂号はその光景を見届けてからガタリと膝を突いた。士魂号の右手の青い光は既に消えうせ、銀の剣も存在していなかった。誰もが夢幻のその光景から己が現実に戻るのに一瞬の間を置いてそして現状を再認識し始める。
「厚志っ!」
舞が士魂号に駆け寄り、ハッチまで飛び上がる。舞はハッチの外部スイッチを入れて手動でコクピットを開けた。
赤い厚志の血と、士魂号の白い血が交じり合った鉄の匂いがする。その中で速水は意識を失っていた。もう一度、厚志の名を呼ぶ。このまま目が覚めなかったら、父のように厚志を失ってしまったならば…舞の中にいいようの知れない不安が巡る。
「…ま……い……」
厚志の瞳が開かれる。限りない青の瞳が、いつものように穏やかに舞を見つめていた。舞は厚志の名を呼ぶことしか出来ず、何度も何度も名を繰り返す。厚志は舞に微笑むとそのまま再び目を閉じて舞の方に倒れる。
舞が厚志の体を抱きしめると、意識が途切れたせいで厚志の重みが舞にのしかかってきたがその体を強く抱きしめた。
「ご苦労だった、厚志。今は休むがよい…存分に。そして……」
下の喧騒も何もかも聞こえない。ただ、厚志の温もりと微かに伝わる鼓動だけを舞は感じていた。
明日は来るのだ、明日はくるのだ。
皆の望んだ、皆に生まれた明日はくるのだ。
ガンパレラストバトル舞視点での話です。
リタガンとゲーム本編での話や設定がごっちゃ混ぜになっています。
私なりの解釈なのでかなり違っているとか思われるかもしれませんがそこはご容赦を。
この二人は男女カップリングの中では一番今でも心魅かれるもので
その後の芝村系ゲームの断片でもいいので彼らが描かれてほしいと思ってしまいます。
未熟ではありますが、ガンパレはやはり好きなゲームだと。
03/09/09 tarasuji
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