守るべきこころ (学園戦記ムリョウ/阿僧祗×百恵) 君と手を繋ぐ その手の温もりはあの頃と変わることなく。 僕は、君の側に。 僕は、君のこころを守るためにここにいる
「やあ」 澄んだ青空を眺めながら、久し振りに天気もよく気候も暖かいのを真守百恵(さねもり・ももえ)と総原瀬津名(すばる・せつな)は茶を縁側ですすっていた。そんな彼女の目の前に現われたのは百恵の友人阿僧祗(あそうぎ)であった。 「どうなさったの、阿僧祗くん?」 二人が会話をしている合間に瀬津名がお茶を入れてくれていた。 「はい、おじいちゃん」 阿僧祗は百恵の隣に座ると、そのお茶を口にした。心地よい沈黙が流れている。そんな二人っきりの世界を作られてしまったことに何故か瀬津名はじれてしまっていたようで、つい口を滑らせる。 「おじいちゃん、百恵さんを誘いに来たんでしょ。早く言いなさいよ」 目元を少し紅く染めて二人を見ている百恵。年をとろうともこういう場面では恥ずかしくなってしまうらしい。阿僧祗は一つ咳をすると百恵に向き合った。 「百恵さん、一緒に文化祭に行きませんか?」
「いいの、たまには百恵さんも遊んでこないと。そうじゃないとおじーちゃんが誘いに出るなんてもう無いかもしれないんだから、ね?」 押しの強い、けれども穏やかな笑顔でここまで言われてしまっては断る理由も無く百恵は阿僧祗と共に出かけることとなった。そして準備をしている合間に再び瀬津名が部屋を訪ねてくる。 「百恵さん、一つ提案があるんだけど…」
縁側で百恵が来るのを待っていた阿僧祗は百恵の姿に微笑んだ。それもそうだ、今の百恵は百歳を過ぎた老人ではなく始めて出会った中学3年生のあの頃の姿で現われたからだ。しかも、当時来ていた御統(みすまる)中のセーラー服を着て。普通なら驚くことであろうが、その場にいる誰一人として平然としている。ただ、百恵は少し恥ずかしそうにしていたが。 「じゃあ、僕も君のその姿に合わせようかな」 阿僧祗が一瞬にして百恵と同年代の少年の姿に変わる。彼の場合は「シングウ」の力ではなく、彼自身が持っている能力である。何せ彼もまた瀬津名と同様、一万歳をゆうに越えている異星人であり理由あって今は地球に止まっているのだから。 「さ、行こうか百恵さん」 元気良く手を振って二人を見送る瀬津名。百恵と阿僧祗はそれに手を振り替えして答えると、ゆっくりと瀬津名の視界から遠ざかって行った。 「ホントは行きたかったんだけどね〜、ま、今回は仕方ないわね」 言葉とは裏腹にその表情には微笑みが浮かんでいた。無理もない、百恵はずっと自分が見守ってきた子孫であり、阿僧祗は自分のしていることをずっと見守ってきてくれている存在である。まさか、阿僧祗が百恵を守るために一緒に老いることを選択するとは思ってもいなかったがそれはそれでいいのだろうと感じていた。
校門の入り口の前で百恵と阿僧祗は人々で賑わいを見せる校内の中を見ていた。校舎の様子は変わり、建物も百年前のあの頃と変わっているけれどもその雰囲気はあの時のままで。百恵はなんだか昔の自分に戻ったような感覚があった。 「じゃ、何処に行こうか?」 口調が昔に戻っている。今は真守家当主、真守百恵ではなくただの中学生真守百恵である。重圧だと思ったことは無いといえば嘘ではないがそれでも今はそれから解放されたような感覚だった。それは阿僧祗も同じだったのだろう、二人の口調は出会った頃に戻り校内を見て回ることにした。
【こゆるぎ番長】とは、中学生時代の真守百恵が映画研究会に無理矢理頼まれて参加した映画である。那由多からその映画を先日見たという話は聞いていたがまさかこんな所で見るのは恥ずかしい以外の何者ではない。そんな百恵を見ながら阿僧祗は「見に行くかい?」と聞いてくる始末。百恵は顔を真っ赤にして絶対見ないと言い張っていた。 「百恵さん!」 呼び声と共に手を掴まれた。勿論、その声の主は阿僧祗で彼は百恵の手をしっかりと握ると自分の方に手繰り寄せる。 「阿僧祗くん…」 強く握られたその手に、鼓動が高鳴る。 「はぐれると大変だからね」 そう言いながら、阿僧祗は百恵の手を握り締めたまま人ごみの中を掻き分けてゆく。掴まれたその手が、とても熱く感じて百恵は顔を真っ赤にさせながらもその手を離そうとはしなかった。久し振りに触れるその手の温もりが自分の心を守る、ただそのために老いを受け入れた彼の優しさと強さを伝えてくれているようで、胸の高鳴りと共にこの瞬間が一瞬でも永く続けばいいとそう感じていた。多分、そう思っているのは自分だけのような気がすると少し癪だったがこのまま負けたままでいるのも何なので百恵も阿僧祗の手を強く握り返した。 「百恵さん?」 二人はまた歩き始めた。
「ああ、楽しかった」 互いに微笑み合う。夢の時間は終わりが近いことを告げていた。 「百恵さん、そろそろ戻ろうか」 元の姿に戻りたくない気持ちが、百恵の中にあった。ずっとこのまま手を繋いでいられたらいい。そしてずっと一緒にいられたらいい。けれどそんなことは出来ないことは百も承知だった。
「私も貴方に負けない。貴方が私のこころを守るというのなら、私もあなたのこころを守る。私は貴方より力もないけれども、それでも守りたい気持ちは誰にも負けるつもりはないわ」 そんな百恵の姿を見て、阿僧祗は声を上げて笑った。そして口を開いた。
「さあ、皆が待ってる」
私はその感覚を繰り返し思い出す 非力でちいさな私だけれども 私もあなたのこころを守る 自己満足企画二日目。 03/09/08 tarasuji |