新春インタビュー「水道の民営化を考える」

戻る  新着情報

◯ 高石市職員労働組合機関紙「2019新年特集号」から転載しました

        新春インタビュー「水道の民営化を考える」

 昨年の臨時国会で水道法が改正され、水道事業に運営権を設定し、民間企業が
水道事業を運営することが容易にできるようになりました。これにより水道は
どうなるのか?今日は立命館大学政策科学部の仲上健一特別任用教授にお話を
伺いしました。聞き手は吉田副委員長です。

吉田 新年あけましておめでとうございます。
仲上 あけましておめでとうございます。

 水道の意義

吉田 今日は、昨年の臨時国会で改正された水道法について、お話をおうかがい
 したいと思います。
  まず初めに、水道は蛇口を捻れば出てくるのが当たり前、毎日意識すること
 なく使っているのですが、清潔な水が滞ることなく供給されていることの意
 義についてお話しください。
仲上 水は電気やガスと違って毎日手に入れることができなければ生きていく
 ことができません。しかし、蛇口から出る水道水をそのまま飲むことができる
 国は世界189ヶ国中日本を含めてわずか13ヶ国しかありません。この中
 にドイツは入っていますがイギリス、フランス、イタリア、スペイン、アメリ
 カといった先進国が入っていません。水道水が飲めないのは自然的、社会的条
 件によるのですが、水供給者のたゆまぬ努力の賜物として飲めるようになっ
 た、という点を見過ごしてはいけません。水道は社会基盤であり、文化を支え
 る基盤でもあります。水道水が飲めるのは決して当たり前のことではありま
 せん。

 水道法の改正

吉田 水道は水道法に基づいて供給されています。水道法には水道の目的につ
 いてどのように規定されているのでしょうか。
仲上 改正前の水道法には、「水道を計画的に整備し、及び水道事業を保護育成
 することによって、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の
 向上と生活環境の改善とに寄与する」と書かれています。つまり、清潔な水を
 十分かつ安い価格で供給するために水道の計画整備と水道事業の保護育成を
 する、ということです。
吉田 今回の改正でこの部分はどのように改正されたのでしょうか。
仲上 前段の水道の計画的整備と水道事業の保護育成という部分が水道の基盤
 強化と改められました。水道事業の保護育成が削除されましたが、水道の安定
 供給のためには水道事業の保護育成は依然として必要なことだと思います。
吉田 その他に改正されたところはどこでしょうか。
仲上 関係者の責任の明確化、広域連携の推進等がありますが、重大なのは官民
 連携として民間企業の水道事業参入を容易にした点です。
吉田 詳しくご説明ください。
仲上 水道事業は自治体が資産を所有し、自治体が運営するという枠組みだっ
 たのですが、コンセッション方式といって、水道事業に運営権というものを設
 定し、資産を自治体が所有したまま運営権を民間企業に設定するという枠組
 みが作られました。金融機関が運営権に担保を設定して民間事業者に融資す
 る、民間事業者は自治体に運営権対価を支払い、住民に水道を供給し、利用料
 金を受け取る、という仕組みです。
吉田 水道民営化が提案されてきた背景は何でしょうか。
仲上 高度成長期に拡充されてきた水道施設が老朽化する一方、人口が減少し
 て給水量が減少し、料金収入も減少する。そうすると老朽化した施設の更新が
 できないということになります。また、職員数の減少、それによる技術の継承
 の困難、災害対応の困難等の問題も起きています。これら問題の解決策として
 民営化が提案されたのです。

 水道民営化の問題点

吉田 改正水道法に盛り込まれたコンセッション方式による水道事業の民営化
 にはどのような問題があるのでしょうか。
仲上 一般論として、水道民営化のメリットとしては、民間の技術やノウハウで
 水道料金が下がる、効率的な運営・多角的な展開ができる、民間資金による施
 設の更新・耐震化の進行、が挙げられていますが、日本ではコンセッション方
 式による水道民営化の実績がなく、これが本当にできるかどうかはわかりま
 せん。
  一方、デメリットとしては、利益を確保するための料金値上げ、コスト削減
 のために運営レベルが下がり水質が悪化する等の懸念があるほか、水道事業
 と地域住民、社会、行政、水道労働者等との関係の希薄化、議会等によるガバ
 ナンスの不徹底、自治体間連携が取りにくい、例えば、自治体ごとに事業者が
 異なる場合、河川水から有害物質を検出しても下流自治体に速やかに情報が
 提供されるのか?等が考えられます。
  水ing社の水谷重夫氏の作成した資料によると、資産の所有も運営も民間
 であるイギリスやチリは「適切な設備投資が行われているか?維持可能性へ
 の不安」と評価され、完全公営のウィーンは「維持可能な理想の水道」と評価
 されています。

 外国ではどうなっているのか

吉田 今外国の例が出ましたが、民営化で料金高騰、水質悪化などの報道もあり
 ました。詳しく実情をお話しください。
仲上 世界では、2000年から2017年の間で267件が再公営化されて
 います。この傾向は今後ますます増加するでしょう。水道料金が4倍にも5倍
 にもなり水質も悪化したため、大きいところでは、パリ市が2010年にヴェ
 オリア・スエズ社から再公営化し、マニラ市がベクテル社から再公営化してい
 ます。
  水道事業者から見ると利益が出ないから撤退ということになります。近年
 の民間企業は株式への高配当が求められています。運営権に抵当権を設定し
 た金融機関からも利益を上げることが求められます。その結果、料金値上げ、
 運営コストの削減による水質悪化、維持可能性の低下となり、住民から批判を
 受けて撤退となるのです。住民から見ると人権保障、水の民主主義ということ
 になります。ただし、再公営化するためには民間事業者に対する高額の違約金
 の支払いが必要となる場合もあり、困難が伴います。パリ市やマニラ市はそれ
 でも再公営化を選んだということです。

 大阪府の水道広域化をどう考えるか

吉田 大阪府では大阪府広域水道企業団が府内42市町村に対して水道用水供
 給事業を行い、3市町村の水道事業を行っています。水道事業は今後拡大が見
 込まれています。これについてどうお考えでしょうか。
仲上 大阪府広域水道企業団の評価は難しいところがあります。施設の老朽化、
 職員数の削減等厳しい条件の中で広域的運営もやむを得ない面もありますが、
 地域の特性が軽視されないか、災害時に脆弱で対応が的確にできるのか等の
 懸念があります。
吉田 水道民営化を想定して広域化を進めているということでしょうか。
仲上 初めから民営化を想定して広域化したということはないと思いますが、
 広域化が結果として民営化の地ならしになるという面はあり得ると思います。

 高石市の水道事業の未来は

吉田 最後に高石市の水道事業についてお聞きします。
  高石市の水道は大阪府広域水道企業団からの受水と光明池を水源とする泉
 北水道企業団からの受水とがあります。施設の老朽化、人口の減少による給水
 量の減少・料金収入の減少、職員数の削減に苦しんでいるのは他の水道事業と
 同じです。どのような取り組みが必要でしょうか。
仲上 高石市水道事業ビジョンによると、平成57年度には企業債未償還残高
 は40億円、内部留保資金はマイナス30億円とあり得ないような数字にな
 っています。まずは、このビジョンについて市民とともに検証し、議論してい
 くことが必要です。その上で、高石市という地域の特性を生かした持続可能な
 水道経営プランの策定が必要です。
吉田 今日はお忙しいところありがとうございました。命の水を守るために地
 道に取り組んで行きたいと思います。

仲上健一:立命館大学政策科学部特別任用教授(工学博士)
     京都大学大学院工学研究科衛生工学専攻博士課程中退
     国際公共経済学会顧問・名誉会長
     政策情報学会顧問(前会長)
     水資源・環境学会理事
     近畿水問題合同研究会理事長
     高槻市・茨木市の審議会の委員長・会長を歴任
     著書「水危機への戦略的適応策と統合的水管理」
       「水をめぐる政策科学」等多数

(2019.1.8 掲載)

戻る  新着情報

 

高石市職員労働組合 「高石まちづくり情報」
http://www5e.biglobe.ne.jp/~t-joho/
E-mail sroso-takaishi@mse.biglobe.ne.jp