高石市立高石保育所の民営化について(見解)

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○ 高石市職員労働組合が2008年9月4日に発表した「高石市立高石保育所の民営化について(見解)」です。


          高石市立高石保育所の民営化について(見解)

                                2008年9月4日
                                高石市職員労働組合

 高石市は、2007年6月20日、高石市立高石保育所を2009年3月31日をもって廃止し、
保育所の運営を社会福祉法人浜寺会に引き継ぐことを決定した。そして、2008年4月から
保育の引継ぎが始まっている。我々は、これまで、公立保育所の民営化には多くの問題が
あることを指摘し、民営化に反対の立場を明らかにしてきたが、ここに、改めて、高石市
立高石保育所の民営化について、見解を明らかにしておく。

1 経過

高石市は、2002年4月に東羽衣保育所を民営化したが、2003年4月の市長選挙で新しく
市長になった阪口伸六氏は民営化を一旦凍結して高石市子育て支援懇談会を設置し、同懇
談会から、2004年12月に報告書が提出された。この報告書では、保育所について、「効率
的・効果的な方策の検討が必要」と書かれてはいるものの保育所の民営化が打ち出された
わけではかなった。しかし、その後、高石市は、保護者の参加を求めて検討するなどの民
主的な手続きを踏むことなく、2006年2月に高石市行財政改革推進本部を開催して「より
効率・効果的に進める観点から民間の活力を求めていく」とした公立保育所の民営化方針
を打ち出した(保育所・幼稚園・学校給食のあり方等について(案))。この方針を受けて、
高石公立保育所保護者会連絡会、高石保育運動連絡会、市職労保育所支部などは共同して
公立保育所の廃止・民営化の凍結・見直しを求める運動を行ってきたが、高石市議会は、
2007年6月市議会で高石市立高石保育所を2009年3月をもって廃止する条例を可決し、
高石保育所は民間に移管されることになった。その後、高石市は、高石市立保育所移管に
係る選考委員会を設置し、2007年9月に同委員会から、移管先は社会福祉法人浜寺会が適
当であるとの報告が提出され、高石市は、報告どおり高石保育所の移管先を社会福祉法人
浜寺会に決定した。

2 高石保育所の民営化の何が問題か

@ 民主的手続きを欠いた高石保育所民営化の決定過程

 「経過」にあるように、保育所民営化は一旦凍結され、2004年7月に子育て支援懇談会
が設置された。懇談会は、子育て支援施策に係る公民の役割分担、子育て支援の取組み方
等について市長に意見を述べることとされ、保育所の保護者も委員に加わった。懇談会か
らは、2004年12月に報告書が提出されたが、報告書では、保育所民営化については、事
実上、結論を先送りした内容であった。ところが、高石市は、保育ビジョンや保育施策を
明らかにしないまま突然、2006年2月に「保育所・幼稚園・学校給食のあり方等について
(案)」を発表し、保育所の民営化を決定した。子育て支援懇談会以降、保育所の民営化を
決定するまで、当事者の保護者を含め市民や関係者に情報を公開し、意見を聴くというよ
うな民主的意思決定手続きは全く講じられなかった。民営化決定後、民営化対象の保育所
の決定過程、移管先の決定過程には保護者の参加を求めているが、保護者などから強く反
対されることが想定される民営化そのものの決定過程からは保護者を完全に排除したので
あった。高石市と鋭く対立するおそれの少ないところだけ市民参加を認め、これにより、
民営化の過程全体で保護者参加や市民参加が行われたかのように印象づけたのである。こ
れは、自治体としてあるまじき対応である。
 また、子育て支援懇談会や保育所移管に係る選考委員会の資料や議事録は行政資料コー
ナーで公開されているが、一体保護者の何人が見ることができるのか。形式だけ整えた感
は否めない。

A 保育所民営化は財政負担の軽減にならない

高石市のこれまでの説明によると「公民の役割分担を踏まえ、多様化する新たな保育ニ
ーズに対しても柔軟に対応するため、公民の利点を生かした効率的・効果的な方策を検討
した結果、公立保育所の民営化を進める」(保育所・幼稚園・学校給食のあり方等について
(案))、「公民の役割分担や多様化する保育ニーズヘの対応、また待機児童の解消さらには
財政健全化に向けてスリムな行政をめざし、職員数の削減など人件費の削減を大きな柱に、
行財政改革を進めていることなどを総合的に検討」(公立保育所の2園民営化について)、
「財政健全化を進めるため、行政のスリム化は避けられない」(平成21年度から高石保育
所の運営主体が変わります)と民営化の目的が財政負担の軽減に置かれている。問題は、
二つある。第一は、保育所民営化で本当に財政負担が軽減されるのか、ということ、第二
は、財政負担が軽減されるとしてもそのことにより問題が生じないのか、ということであ
る。
第一の問題の答は、財政負担は増加する、である。市職労が試算したところ、高石保育
所の民営化で、財政負担は、およそ1600万円増加する(直営、民営化ともに児童20名増
と仮定)。高石市は、市職労に対して「東羽衣保育所の民営化裁判において、前年度に比べ
て7000万円を超える財政効果が、生じていると認められています。また、今回の民営化で
も、同じような財政効果が生じるものと考えています。」(市職労が高石市に提出した質問
に対する回答(2007.8.20))と説明しているが、東羽衣保育所民営化以降、公立保育所に
対する国庫負担金、都道府県負担金が廃止され、一般財源化されたこと、公立保育所にお
いて臨時保育士が大きく増えたことにより、今回の高石保育所の民営化で東羽衣保育所と
同じ財政効果が生じるようなことはあり得ない。現に第4次高石市財政健全化計画案によ
ると、高石保育所民営化による財政効果は4200万円と、市職労に対する説明よりもおよそ
3000万円も減少している。保育所民営化の唯一の理由は、初めから破綻しているのである。
 第二の問題の答は、民営化で財政負担が軽減されないのであるから検討する必要はない
のであるが、問題のある可能性がある、である。第8回高石市立保育所移管に係る選考委
員会議事録によると、同委員会事務局(子育て支援課)は、保育士の経験年数について、
市立高石保育所は23年、民間保育園は5〜7年と説明している。ベテランから新人までさ
まざまな年齢、経験年数の保育士が保育をしている保育所と、経験の少ない若手ばかりの
保育士で保育をしている保育所と保育の質に差があるかどうかということである。保育の
市場化の進むアメリカでは、保育士の離職率が保育の質の指標の一つとして使われている。
若い保育士ばかりで、しかも次々に変わるような保育所があるとすれば、保育の質に保護
者が不安を持つのは当然である。
公立でも私立でも全保育士に占める正規保育士の割合が同じであれば、勤続年数や平均
年齢の差がそのまま人件費の差となり、公私のコスト差になる。すなわち、民営化の財政
効果とは、結局のところ、公立保育所と私立保育所との経費の差であり、その多くは、保
育士の勤続年数や平均年齢の違いによる人件費の差に起因する。
では、なぜ公立と私立とで勤続年数や平均年齢に差が生じるのであろうか。それは、保
育所運営費における人件費の積算単価が異常に低いからである。「保育所の保育所運営費負
担金の予算積算上の給与格付けの例示である保育所職員の本俸基準額は、所長が253,000
円、主任保育士が227,970円、保育士が193,086円、調理員等が164,200円と、所長で30
歳代半ばの給与と現実にはあり得ないような水準である。このような低い積算が、公立保
育所で非正規の保育士を増やし、私立保育所で長期にわたって保育士を雇用し、経験を積
ませることができない状況を作り出している」(民主法律協会権利討論集会報告
2008.2.16)のである。
コスト削減圧力は、公立でも私立でも同じである。コスト削減圧力は、公立では、正規
保育士の減少と臨時保育士やパート保育士の増大をもたらし、私立保育所では保育士の勤
続年数の短期化となって現れてくる。保育所民営化で保育の質に問題が生じる可能性があ
るというのは、正確にいうと、保育所運営費の人件費の積算に問題があり、それは、公立
でも私立でも保育の質に問題を引き起こすおそれがある、ということなのである。

B 市民の保育所=公、から民間の保育所=私、に保育所の性格が変更される

 公立保育所は、保護者と市(保育士)とが相談しながら運営される。一方、私立保育所
は、保育所運営者が理想とする保育理念に基づいて運営される。すなわち、公立保育所は、
保護者に対する情報の公開と保護者の参加によって運営される地域の保育所であるのに対
し、私立保育所は、経営者の保育理念によって運営され、その理念に共鳴・賛同する保護
者がその保育所を選択することによって成立する。本来、このことを前提にした公私の役
割分担が考えられるべきであるが、現実は、無原則的に民営化が進んでいる。そして、保
育所の民営化は保育所を選択する自由としても主張されるが、これは、保育所経営に企業
参入が認められた今日、保育の市場化を意味する。そして、その行き着くところは、バウ
チャー制である。保育所に対してではなく保護者個人に対して公的補助が出され、それに
保護者がどれだけ金銭をプラスすることができるかで選択できる保育所と保育サービスの
内容が決まる。すなわち、金銭の負担を多くできる保護者の子どもには保育サービスの選
択肢が多様に用意されるが、金銭の負担ができない又は少ししかできない保護者の子ども
には限られた選択肢しか残されていないということなのである。保護者の所得や財産が保
育の選択の可能性や質を決定することになり、格差と貧困の増大とその世代間継承を引き
起こすことになる。しかも、このようなことは、子ども本人には全く責任はない。
結局のところ、保育所民営化=保育の市場化とは、保育を、単なる金銭で購入するサー
ビスとみるのか、こどもの健やかな成長と保護者の就労の保障というこどもと保護者の権
利保障とみるのかが鋭く問われている問題なのである。保育所民営化=市場化で子どもと
保護者の権利保障は後退するといわざるを得ない。

C 保育所選択権の侵害である

保育所の設置を規定している児童福祉法は、第24条第1項で「市町村は、・・・児童の
保育に欠けるところがある場合において、保護者から申込みがあつたときは、それらの児
童を保育所において保育しなければならない。」と規定し、第2項で「・・・保護者は、厚
生労働省令の定めるところにより、入所を希望する保育所その他厚生労働省令の定める事
項を記載した申込書を市町村に提出」することとし、第5項で「・・・保護者の保育所の
選択及び保育所の適正な運営の確保に資するため・・・情報の提供を行わなければならな
い。」と規定している。すなわち、児童福祉法は、自治体が、それぞれの保育所における保
育方針、保育計画、保育士等の配置、施設・設備、交通の便等の情報を保護者に提供し、
保護者はそれらの情報を基に子どもが保育を受けるのにふさわしい保育所を選択するとう
枠組みを用意したのである。したがって、選択された保育所では、保育を受ける子どもが
卒園するまで、保育方針、保育計画等の変更は、保護者の同意のない限り、当然には許さ
れないことになる。保育所の民営化とは、従前の公立保育所をそのまま経営主体を民間に
移行するというのではなく、従前の公立保育所を廃止するということであり、従前の保育
方針、保育計画等が、民営化当時に保育を受けている子どもが卒園するまで、保護者の同
意がない限りそのまま維持されるという条件が移管先の民間保育所に義務付けられている
わけではない。したがって、保護者の同意のない保育所民営化は、児童福祉法に違反する
と考えられるのである。
保育所選択権は、大東市保育所民営化訴訟地裁判決でも「児童福祉法第24条は、平成9
年改正前の市町村の措置による入所の仕組みから、同改正により、保育所に関する情報の
提供に基づき保護者が保育所を選択し、市町村と保護者との間で、保護者が選択した保育
所における保育を実施することを内容とする利用契約(公法上の契約)を締結する仕組み
に変更されたと解される。・・・そして利用契約は、原則として当該保育に欠ける児童の就
学までをその契約期間とするものと解するのが相当である。」と認められ、同訴訟控訴審判
決でも「平成9年改正の趣旨からすれば、本件保育所を廃止するかどうかは保護者の保育
所の選択において極めて重要な情報であり、本件保育所の入所契約において、予め明示的
に明らかにされていなければならず、そうでない限り・・・本件保育所を廃止することは
できないというべきである。」とその解釈は維持された。(なお、最高裁は、双方の上告を
棄却している。)
大東市保育所民営化訴訟判決に従えば、高石保育所を、民営化決定時点の子どもがすべ
て卒園するまでの間に保護者の同意のないまま民営化するのは違法ということになる。実
際に、2007年に高石保育所の保護者のほぼ全世帯から、高石保育所廃止条例の議会上程に
あたって、「6月議会で議決せず、慎重な審議を」求める要望書が市長に提出されている。
保護者の同意が得られていないのは明らかな状況にもかかわらず、高石市は6月議会に高
石保育所廃止条例案を提出し、市議会は廃止条例を可決した。保護者の保育所選択権の侵
害の責任が問われる強引なすすめ方である。

C 保育者が変わるのは子どもにとって大きな負担になる

 保育所は子どもにとっては長時間すごす生活の場であり、保育士との信頼関係を基礎に
友だちとの関係を通じて成長し、人格を形成していく場である。公立保育所の廃止・民営
化は、職員がほぼ全て変わってしまうだけではなく、保育方針自体が大きく変わることも
ある。これは、それまで築いてきた保育士との信頼関係が全く失われ、子どもたちの生活
の場そのものが大きく変化することを意味する。このような子どもに対する大きな負担は、
長期の引継ぎ期間を設けたとしても、負担のある程度の緩和になるに過ぎない。
先に見た大東市保育所民営化訴訟高裁判決は、「児童を心身ともに健やかに成長させるた
めには、保育の安定性、継続性が不可欠である。また保育所は、単なる箱ものではなく、
保育士と当該保護者、児童との信頼関係をもとに長年に渡り築き上げてきた人間的な営み
であり・・・したがって、これまで児童が保育の実施を受けてきた当該保育所を廃止して
児童の保育環境を一変させることは、それがどうしても避けられないやむをえない理由が
必要」である、としている。
子どもの最善の利益を保障すべき自治体としては、子どもに大きな負担を背負わせるこ
とになる保育所の廃止・民営化を安易にするべきではない。

3 保育所民営化の中止を

 以上見てきたとおり、公立保育所の民営化には多くの問題がある。高石市は、さらにも
う1園の民営化を打ち出している。東羽衣保育所の民営化の検証も十分されていない中で、
これ以上の民営化はするべきではない。高石市は、財政負担の軽減を民営化の唯一の理由
にしているが、財政負担は民営化によりむしろ増大する。このような真っ当な理由の成り
立たない民営化は即刻中止するべきである。

(2008.9.29 掲載)

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高石市職員労働組合 「高石まちづくり情報」
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