官製ワーキングプアの増大を招く学校給食の民間委託

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○ 民主法律協会権利討論集会における高石市職員労働組合の報告です。


官製ワーキングプアの増大を招く学校給食の民間委託

2008.2.16

1 委託までの経過

 高石市の学校給食は小学校全7校で自校直営方式により行われてきたが、前市長時代の2000年に作成された高石市行財政改革実施計画において給食調理業務の委託方針が打ち出された。しかし、2003年の市長選挙で新市長が当選すると委託の方針は凍結され、専門家や保護者等により構成される子育て支援懇談会により議論され、2004年12月に報告書が提出された。この報告書では、給食調理業務の委託について今後検討する必要がある、とされていたが、2006年2月に作成された第三次高石市財政健全化計画案で、2007年度から順次委託していくとの方針が示され、2006年5月2日の高石市行財政改革推進本部及び2006年5月10日の教育委員会定例会で委託を決定し、2006年7月12日の教育委員会定例会で、2007年度に2校を委託するとの決定がされた。その後、保護者等の反対運動や3次にわたる住民監査請求(いずれも却下又は棄却され、終結。)が行われたが、2007年4月から市教委の計画どおり2校で委託が始まった。

2 委託の問題

 学校給食の委託は多くの問題を含んでいるが、そのうち4点を指摘しておきたい。
第一は、委託することが本当に経費の削減になるのかということである。市職労が試算したところ、退職する正規の調理員を非正規の調理員で代替し直営を維持すると、2校委託時で2000万円、3校委託時で3000万円も経費が増加することが判明した。また、全校を委託した場合の経費およそ1億3000万円で全校直営が可能であり、全校を委託しても財政上のメリットは全くないことも判明した。
 第二は、給食の質が確保できるのかということである。学校給食は日替わりの献立の上大量調理であるため、食中毒など事故を起こさないよう安全の確保に細心の注意が必要であり、調理は熟練が求められる労働である。ところが、委託は経費の削減を目的としているため、契約は金額のみによる競争入札となり、賃金の安いところが落札する可能性が高くなる。そうすると、委託業者は非熟練の非正規の調理員を調理に就かせざるを得ず、非熟練の調理員でも安全に調理ができるように、調理に手間のかかる献立をしない、手作りをやめて冷凍食品など加工食品を多用するなど、給食の質の低下が始まることになる。また、夏休み中は、直営校では、正規の調理員は当然のことだが全員出勤して調理場を徹底して清掃し、食器類を磨き(洗浄するだけでなくスプーンの曇りを取り、皿の黒ずみを取るまで磨く。)、器具類を点検・修理し、子どもたちとの交流のための掲示板を作成しているが、委託校では、わずか数日の出勤で、直営校との作業水準の差は大きいと思われる。
 第三は、学校給食の教育的役割が低下しないかということである。食育の重要性が叫ばれ、食育基本法も制定されたが、食育は栄養士が教室で授業をする机上の学習だけではなく、調理現場を見る、実際に調理する、実際に調理に携わっている調理員と交流するというような実践的なことも重要である。直営校では、調理員が掲示板を作成し、子どもたちと交流するなど食育に関わっているが、委託校では、委託業者が食育として掲示板を作成し、子どもたちと交流するというようなことはしていない。するとすれば、委託業務として行うこととなるが、食育を委託、すなわち、学校教育の一部を委託することになり、これはこれで問題である。
 第四は、偽装請負ではないかということである。調理業務の委託は、献立は市により作成され、調理場は市から提供され、機材は市から提供され(実際はウエット方式の調理場に業者が機材を持ち込んで半ドライ方式の調理を行っている。なお、仕様書はウエット方式が前提であり、契約上問題があると思われる。)、食材は市から提供され、光熱水費は市が負担し、調理は市の衛生マニュアルにしたがって行われ(なお、市はドライ方式に対応した衛生マニュアルを持っていない。)、調理作業は府費負担栄養士又は市栄養士によりチェックされる(委託の調理員に直接、個別、具体的に作業の指示をせざるを得ないこともあると思われる。)。このような形態の調理は、請負ではなく労働者派遣に該当する疑いがある。現に、兵庫県丹波市教委は、兵庫労働局からの、市が購入した食材を受託業者に提供する方法が労働省告示に合わない、との指摘を受け、当面委託を見送っている(自治労連ホームページ、2007.3.15)。

3 直営を維持する方針

 市職労は、正規の調理員の退職を非正規の調理員で代替することにより経費を削減し、直営を維持するという方針で給食の委託問題に取り組んでいる。これは、官製ワーキングプアを容認することにもなりかねないが、一度委託されると直営に戻すには相当な困難を伴うので、当面、非正規の調理員が増えてでも直営を維持するべきであると判断したためである。正規の調理員による直営を求めても、学校給食の民間委託が増えている中でそれを実現するのは極めて難しく、結局、委託が次々と進められ、委託の非正規の調理員を増やすだけのことになる。
前述のとおり、調理には熟練が必要であるが、委託の調理員の勤続年数は3年程度(船橋市職労学校給食委託検証プロジェクト(「民間委託の5年間を検証する」)しかない。その原因は厳しい労働に見合わない低賃金にある。求人広告によると、委託の調理員の時給はわずか750円程度しかない。一方、市の非正規の調理員は、時給976円と200円以上もの差がある。したがって、市の非正規の調理員の中には、勤続10年以上で熟練の技能を身に付けた者が何人もいる。
 非正規の調理員の問題は、社会的な背景を伴った問題であり、個別の自治体単独では解決が困難である。個別の自治体ごとの運動に加えて全国的な運動が求められている問題である。

4 委託の調理員の労働実態

 委託の調理員の勤務時間は次のようになっている(2007年4月)。なお、直営は、正規及び臨時の調理員は8:15〜16:30、パートの調理員は8:30〜15:00又は15:15である。

高石小学校
 調理師(調理主任)   8:00〜16:30
 栄養士(副主任)    8:00〜15:00
 調理員・管理栄養士  9:00〜15:00
 調理員          9:00〜15:00

高陽小学校
栄養士1(責任者)    8:00〜16:30
調理師1(副責任者)  7:30〜16:30
調理師2          8:00〜16:00
調理師3          7:30〜15:00
栄養士2          9:00〜14:00
調理員1          9:00〜15:00
調理員2          9:00〜15:00

 これらの調理員のうち常勤とされているのは各校2名ずつである。委託では、細切れシフト勤務で作業に余裕がないと思われる(高陽小学校には喫食数の割には多くの調理員が配置されているが、委託を開始するときに問題が起きないよう多数の調理員を配置したものと思われる。)。また、常勤以外の調理員の賃金を求人広告どおり750円とすると、勤務時間の短い調理員は、月の収入が7万円から8万円程度しかなく(しかも、三季休業中は仕事はあるのだろうか。)、ダブルワーク、トリプルワークをしなければ、とても自立した生活を営むことはできない。

5 官製ワーキングプアをもたらすもの−財政面から

 三位一体改革の中で、地方交付税を含む地方一般財源の削減は3.4兆円、国庫補助負担金の削減は4.4兆円もあったのに対して国から地方への税源移譲は3兆円しかなく、地方の収入はトータルで4.8兆円もの削減となった(平岡和久・森裕之「新型交付税と財政健全化を問う」)。
 地方交付税は、標準的な財政需要額=基準財政需要額と、財政収入の見込み額=基準財政収入額とを比較し、収入が不足する場合に交付される。したがって、地方交付税は一般財源であるものの、標準的な財政需要とされる基準財政需要額の積算基礎は、自治体の予算編成に影響を及ぼす。基準財政需要額の小学校学校給食経費は、アウトソーシング後の経費を算定の基礎とする見直しが2004年度から3年間にわたって進められたため大きく削減された。積算は、児童数720人、学級数18学級を想定し、アウトソーシング見直し前の2003年度は、給与費16,002千円(給食従事員3人)、給食委託料6,814千円、合計22,816千円であったが、見直し後の2007年度は、給与費10,370千円(給食従事員2人)、給食委託料9,762千円、合計20,132千円と、委託にシフトし、2,684千円、11.8%も削減された。このような削減が、直営、委託を問わず非正規の調理員の増大をもたらしているのである。
 もう一つ例を見てみよう。清掃は給食と並ぶ市町村における主要な現業職場である。基準財政需要額のごみ処理費の積算は、学校給食経費と同様に2004年度から3年間にわたってアウトソーシングの見直しがされた。見直し前の2003年度は、給与費268,610千円(職員46人)、報償費41千円、需用費等130,466千円、委託料107,519千円、合計506,636千円であったが、見直し後の2007年度は、給与費222,400千円(職員39人)、報償費41千円、需用費等105,081千円、委託料137,002千円、合計464,524千円と学校給食と同様に委託にシフトし、経費が大きく削減されている。
 また、基準財政需要額ではないが、保育所の保育所運営費負担金の予算積算上の給与格付けの例示である保育所職員の本俸基準額は、所長が253,000円、主任保育士が227,970円、保育士が193,086円、調理員等が164,200円と、所長で30歳代半ばの給与と現実にはあり得ないような水準である。このような低い積算が、公立保育所で非正規の保育士を増やし、私立保育所で長期にわたって保育士を雇用し、経験を積ませることができない状況を作り出しているのである。

(2008.2.21 掲載)

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