伊集院家ミステリーナイト
今日はクリスマス・イヴ。私・藤崎詩織は伊集院レイくんの家にメグ・美樹原愛と高見
公人くんと共に3人で向かっていた。伊集院家で行なう毎年恒例のクリスマスパーティー
に、伊集院くんが私たちを招待したのだ。
伊集院くんの家に行く途中で、私たちに早乙女好雄くんと優美ちゃんの兄妹が合流して
5人になった私たちは話をしながら歩いていった。
12月、と言う事もあってか星が物凄く綺麗だった。
*
「好雄、おまえノータイか?」
公人くんが聞いた。見ると公人くんは「これしかない勝負服」と常日頃言ってるブレザ
ーを着ていたのだが、好雄くんの方はワイシャツにノータイのジャケット姿だった。
「仕方ねーだろ。持ってねえんだもん」
「…ったく。そう言うと思ったぜ」
そういうと公人くんは好雄くんに箱を投げてよこした。
好雄くんはそれを受け取ると中を開いた。
「あ…」
中にはネクタイが入っていた。
「おまえ、去年ノータイであの外井とかいう門番におん出されたんだろ? こんな事もあ
ろうかと思ってオレの持ってきたんだ。…おまえはそれ絞めて中に入れよ」
「…わかったよ」
そう言うと好雄くんはネクタイを首に巻いた。慣れてないせいか、首の結び方がどうも
ぎこちない。
「…おいおい何だよ、その絞め方は」
そういうと公人くんは好雄くんのネクタイを締め直す。
「…ほらよ、これでいいだろ!」
公人くんが思い切りネクタイを絞めた。好雄くんが咳き込む。
「ぐ…ぐるじい…。公人、おまえオレを殺す気か!」
「ああ、おまえが死んだほうが世の中平和になるな」
「死んだら真っ先におまえん家に化けて出てやるからな!」
*
伊集院家はすぐに見つかった。市内でも知らない人がいない豪邸だから、当たり前とい
えば当たり前なのだが。
受付を済ませた私たち5人は伊集院家の中に入って言った。
「やあ、詩織くんに愛くんに優美くん、よく来てくれたね」
正面玄関で伊集院君が私たちを出迎えた。
「伊集院くん、招待してくれてありがとう」
「なあに、君たちにもわが伊集院家のパーティーと言うものがどんなものか知って欲しく
てね。さ、外は寒いだろう。早く中に入りたまえ」
…と、伊集院くんは公人くんたちに気付いたのか、
「何だ、君たちも来ていたのか」
「人を呼んでおいて『来ていたのか』のはねえだろう!」
「…本当は君たちを呼ぶつもりは無かったんだがな。…ま、そんな事はどうでもいい。後
で君には大事な用があるんでな」
「大事な用?」
「ま、楽しみにしていてくれたまえ」
*
やがてパーティーが始まった。
さすが伊集院家、と言おうか、来ているお客様も料理も装飾もかなり豪華なものであり、
私は少し感心してしまった。
私はメグや優美ちゃん、他にパーティーに呼ばれたきらめき高校の皆と話をしていた。
と、
「藤崎様」
門番をしていた外井さんが私のところにやってきた。
「…なんですか?」
「…レイ様からの言付けです。7時までに2階の客間にお越しくださるように、との事で
す」
「伊集院くんが?」
「はい。ちょっとした余興を用意してある、との事です。その際、高見様も一緒に連れて
くるように、との事です」
「…公人くんも?」
「はい。早乙女様にもお兄様と二人で来るように、と仰っておりました」
「お兄ちゃんも?」
優美ちゃんが言う。
「はい。それから美樹原様もお越しくださるよう、お願いします」
「…わかりました」
「では」
そういうと外井さんは私たちの元を離れた。
*
「…詩織、外井の話聞いたか?」
間もなく公人くん達が私たちの元に来た。
「うん、聞いたわよ。7時に客間に来てくれ、って」
「…今、そこで朝日奈に会ったから聞いたんだけどさ、あいつも伊集院に呼ばれたらしい
ぜ」
「朝日奈さんも?」
「他にも如月さんや片桐さんも呼ばれたらしいが…、一体アイツぁ何考えてんだか?」
7時5分前に私たちは2階へと向かった。
ドアを開けると、既に何人かが中に入っていた。
「あ、藤崎さん」
虹野沙希さんが私に話しかけてきた。
「虹野さんも呼ばれたの?」
「うん、何か未緒ちゃんも呼ばれたらしくてさ」
見ると如月未緒さんが公人くんたちと話していた。
「…まったく、きら高の生徒ばかりが集まって、どういうことかしら?」
「さあ、一体何をしようと思ってるのかしらね」
私のすぐ後に入ってきたのは鏡 魅羅さんと紐緒結奈さんの二人だった。
午後7時。
「…全員揃ったようだな」
伊集院くんが部屋に入ってきた。
見回すと部屋の中は私、公人くん、メグ、好雄くんと優美ちゃんの兄妹、如月さん、虹
野さん、鏡さん、紐緒さん、朝日奈夕子さん、清川 望さん、片桐彩子さん、古式ゆかり
さん、そして館林見晴さん――私は学校で数回しか見かけたことが無いのだが――とかい
う女の子の全部で14人がいた。
「…さて、余興の前に君たちに見てもらいたいものがある」
と、伊集院君が宝石箱を持ってきた。
「…見てくれたまえ、わが伊集院家が誇る世界でも有数のダイヤ『Tears of Venus』、日本
語に訳せば『ヴィーナスの涙』だ」
そう言いながら伊集院くんが箱を開けた。
そこにいる全員が歓声を上げる。
中には綺麗にカットされたダイヤのネックレスが置いてあったのだ。
やはり私も女の子なのか、そのダイヤに何やら惹かれる思いがした。
「…で、なんだ。これからやる余興、ってヤツで優勝したらこれをくれる、って言うのか?」
皮肉混じりか、公人くんが聞いた。
「まさか。こんな君たち一生かかっても手に入れられそうに無いものをボクが手放すはず
が無いだろう。これは特別に君たちに見せるだけだ」
そういうと伊集院くんは宝石箱をメイドさんに渡すと、隣の部屋の金庫にしまうように
命じた。
*
「さて余興というのは、だ。まず君たち、好きなパートナーを選んでペアを組みたまえ。
今ここに14人がいるから、7組出来るはずだ」
「…詩織、いいな?」
公人くんが聞く。
「え?」
「よし、決まりだ」
私が答えるより早く公人くんは勝手に私とペアを組んでしまった。
やがて7組のペアが出来た。私と公人くん、好雄くんと優美ちゃん、如月さんと虹野さ
ん、鏡さんと紐緒さん、朝日奈さんと古式さん、清川さんと片桐さん、そしてメグは館林
さんと組んだようだった。
「出来たようだね。それでだ…」
と言いかけた時、
「レイ様!」
外井さんが部屋に駆け込んできた。
「何の用だ、外井?」
外井さんが耳打ちをした
「何だって?」
そして伊集院くんは私たちのほうを向いた。
「…大変な事になった。『ヴィーナスの涙』が何者かによって盗まれた!」
ええっ、とその場にいた全員が驚く。
「…余興は中止だ。君たち、頼む! 『ヴィーナスの涙』を探してくれたまえ! 君たち
にちゃんと御礼はする!」
*
私たち14人は隣の部屋に案内された。
みんながあちこちに散らばって探し始めたと言うのに公人くんは窓やドア、壁などをそ
れぞれ1〜2分眺めただけで、
「詩織、下へ降りるぞ」
と言い、下へ降りてしまった。
「ちょ、ちょっと公人くん」
私は公人くんの後をついていった。
既に他のお客さんは帰ってしまったのか、そこにはテーブルに料理が置いてあるだけだ
った。
公人くんは近くにあったお皿を取ると、テーブルから三、四個のサンドイッチを取って
お皿に乗せた。
そして、ブレザーを脱ぎ、ネクタイを緩めると、ソファにどっかと腰掛けて、サンドイ
ッチを食べ始めた。
「公人くん、なんで部屋をよく調べないの?」
「……」
「ちょっと、公人くん! 伊集院君が困ってる、って言うのに!」
「…アイツが困ってると思うか? これがアイツの言う余興、ってヤツだよ」
「余興ですって?」
「…詩織。お前ミステリーナイト、ってヤツ知ってるか?」
「ミステリーナイト?」
「ま、いわば探偵ゴッコだ。まず『事件編』を上演してからしばらく時間を置いて『解決
編』を上演するんだが、その間に証拠を探して推理する、ってヤツだよ。アイツはこの伊
集院家を舞台にそれをやってる、ってわけだよ」
「でも、だからと言って…」
「心配するな。オレもちゃんと考えてるよ。…それより詩織、このサンドイッチうまいぞ。
食うか?」
公人くんは私の前にサンドイッチを差し出す。が、
「そんなのいらないわよ!」
「あっそ…」
そう言うと公人くんはサンドイッチを頬張る。
いったい公人くんは何を考えてるのか? あの部屋には5分足らずしかいなかったのに
何がわかるのか?
(そういえば、メグどうしたかな…)
どうもメグは私と組みたかったようだ。公人くんが強引に私と組んだ時、メグが残念そ
うな顔をしていたのを覚えているからだ。実は私もメグと組もうかな、と考えていたのだ
が。
公人くんに愛想を尽かした私はもう一度部屋に戻った。
部屋に入ると、虹野さんと如月さんのペアと朝日奈さんと古式さんのペアが何やら探し
ているようだった。
「虹野さん」
私はいちばん近くにいた虹野さんに声をかける。
「あ、藤崎さん。高見くんはどうしたの?」
「あんなのどうでもいいのよ。それよりメグ見なかった?」
「メグ? …ああ、美樹原さんね。私は見かけなかったけど…。未緒ちゃん、美樹原さん
知ってる?」
「え? 見なかったけど」
「そう…」
私が部屋を出て行こうとしたときだった。
「沙希ちゃん!」
如月さんが虹野さんを呼んだ。私も虹野さんについていった。
「どうしたの?」
「これを見て!」
如月さんが指をさす。見ると、上にふたつ、下にふたつ、計4つあるサッシの窓を閉め
る際に使う取っ手のひとつに何やら引っかき傷のようなものが付いていたのだ。
私は他の3つを見るがどれもちゃんと閉まっているし、傷も無かった。
「…何かわかった?」
虹野さんが聞く
「…私、ミステリーとか読まないからよくわからないけど…」
如月さんは何か考えているようだった。
「…あれ、これなんだろう?」
いつの間にか私の隣に朝日奈さんたちが来ていた。
「…何か見つけたの?」
私が聞くと、
「あ、藤崎さん。…あの手すり、見てよ」
朝日奈さんは部屋の外にあるベランダの手すりを指差した。
ベランダの下にはプールがあり(さすがに今の時期に入ろう等と考えている人はいない
ようだが)、そこで好雄くんと優美ちゃんが外に出て何やら話していた。
そして、見るとベランダは床といい手すりといい塵ひとつ落ちてないほど綺麗だと言う
のに、一部分だけ何かでこすったかのような汚れが付いていたのだ。
その向こうには大きな木があった。
「…これはもしかしたら…」
*
「あ、詩織ちゃん!」
私が廊下に出ると、メグが私を見つけて近寄ってきた。
「…メグ、どうしたの?」
「うん。…あれからいろいろ探したんだけど、全然解からなくて…。それより高見くんは
どうしたの?」
「ああ、公人くんね。何だか解からないけど、下へ降りちゃってお料理食べてるわ」
「詩織ちゃんほっといて?」
「…っていうか、私が愛想付かしたの。全く、何考えてるかわからないわ」
その時だった
「う〜、やっぱり外は寒いなあ…」
と、好雄くんと優美ちゃんの二人が上にあがってきた。
「…あれ、藤崎さん。公人のヤツ、下にいたけど」
「…ああ、もういいのよ、公人くんの事は。それより好雄くんは何かわかったの?」
「ああ、バッチリだぜ。あの部屋の真下にプールがあったのを見てわかったぜ。藤崎さん、
オレの名推理聞かせてやるぜ」
「…あんまり当てにしないほうがいいよ」
「こら、優美!」
*
午後8時30分を過ぎた頃だった。
伊集院君が私たちを最初に集まった部屋に呼びよせた。
「どうだね、『ヴィーナスの涙』は見つかったのかね?」
「…ああ、少なくとも犯人が盗んだ手口はわかったぜ」
好雄くんが言った。
「…ほお、かなりの自信だな、早乙女くん。では、君のその犯人の手口、と言うのを聞い
てみようか」
「…ああ、まず、この事件の犯人は運動神経がずば抜けていいヤツだ」
「…その証拠は?」
「ここの部屋の真下にプールがあるだろ」
「…ああ、確かにあるな」
「犯人はそのプールを渡って、現場まで来たんだ」
「まさか泳いでここまで来た、とでも言うのではないだろうね?」
「まさか。そんなことしたら風邪をひいちまうだろ? 今は12月だぜ。…犯人はこの部
屋に届くくらいの高さの竹馬か一輪車を使ってここまで来たんだ。プールの中なら足跡と
か車輪の跡が付かないからバレないだろ?」
「…ふん、確かに面白い推理ではあるな。…しかしな、早乙女くん、ひとつ聞かせてもら
うが、もし君の推理が正しいとして、犯人は何処にその一輪車や竹馬を隠すのかね?」
「え…?」
好雄くんが絶句した。
「この伊集院家の2階まで最低でも4メートルはあるんだぞ。そんな長い一輪車や竹馬あ
らかじめ用意しておいたら誰だって不審に思うのではないのかね?」
「う…」
好雄くんは何も言い返せないようだった。
「…どうやら君の推理も的外れのようだったね」
「だらしないねえ、もっと頭を働かせなよ」
そう言ったのは朝日奈さんだった。
「…ほお、夕子くん。君は別の推理をしたのかね?」
「勿論! …この部屋の外のベランダの手すりが一箇所汚れているのを見つけたんだ」
「それが?」
「犯人はロープをそこと外にある大きな木に結び付けて、それを渡って、この部屋に入っ
て宝石を盗んでまたそれを渡って引き返したの。そういうことだよ、好雄」
「ふうん、…となると、夕子くん。犯人はベランダに侵入した際の足跡を調べればわかる
と言うことだな?」
「その通り」
「では早速調べてみようか」
そう言うと伊集院くんはベランダの窓を開けた。
冷たい空気が中に入ってくる。
私は見ると、ベランダに足跡はおろか、塵ひとつ落ちていなかった。
「な…ない! 足跡が無いわ!」
「…弱ったなあ。足跡が無ければ犯人がどうやって侵入したかわからないではないか」
その時だった。
「あの…」
如月さんがおずおずと手を上げた。
「…なんだね、未緒くん?」
「…もし、朝日奈さんの推理が正しいとしても、ここは密室だったわけですよね?」
「…そうだが?」
「犯人はどうやってこの中に入り、どうやって出て行ったんでしょうか?」
「…確かにその問題もあるな、で、君はわかったのかね?」
「…少なくとも犯人がどうやって出たかは解かったんですが…」
「ほお…。その方法はなんだね?」
「はい…」
そう言うと如月さんは窓を閉めた。
「…この取っ手を見てください」
と如月さんが取っ手を指差した。
「…よく見るとこの取っ手に引っかき傷のようなのがあります」
「…それがどうかしたのかね?」
「…犯人はここに釣り糸か針金を巻いて、外へ出ます」
「…それで?」
「犯人は外に出て、窓を閉めます。…そして、窓枠の上からその釣り糸か針金を出して、
それを引っ張ります。…そうすれば取っ手は閉まって密室は完成する…」
「…未緒くん、君の推理が正しいとすると、夕子くんの推理のように外に足跡が残るはず
だろう? それに…」
「それに?」
「窓枠に引っ掛けたなら跡が残るはずだろう? …まあ、確かに釣り糸でも使えば跡は残
らないかも知れないが、そうだとしても、上の窓が開いているのではないのかね?」
「ですからそれは、犯人が後で閉めた…」
「だとしたら、鍵はどうやって閉めたのかね? …ボクは先ほど部屋を見たが、この部屋
の窓は全て窓に鍵がかかっていたぞ」
…そういえばそうだった。…もし、如月さんの推理が正しいとすれば、どこかの鍵が開
いたままになっているはずなのに…。
「…ふう、やれやれ。結局『ヴィーナスの涙』は見つからないままか…」
「…待てよ、伊集院。大事なヤツを忘れてねえか?」
ドアの方で声がした。見ると公人くんが部屋に入ってきた。
「…ふふっ、やっぱり君との対決になったか」
伊集院くんが公人くんに言った。
「ああ、真打ちは最後に出るものと相場が決まってるんだぜ」
「その言葉だと、きみは結論に達していると言うことかな?」
「もちろん」
「じゃあ何で今まで黙っていたのかね?」
「ドラマが始まっていきなり水戸黄門が印篭を出すと思うか?」
「ま、ものは言いよう、ということか。それでは聞こうか、その印篭とやらを」
「…まず最初に言おう。如月さんの推理も、朝日奈さんの推理も、好雄の推理も間違って
はいないと思う。一度はオレもそう思ったからな」
「間違っていない?」
朝日奈さんが公人くんに聞いた。
「ああ。しかし、みんなの推理はことごとく覆される証拠が見つかった。しかし何故、そ
んなに都合よく証拠が見つかるんだ? 一つの家で6組が、オレと詩織を入れりゃ7組が
別々に行動して、そのうちの3組が別々に推理を立てたんだ。一つくらいは推理が当たっ
てたっていいんじゃないのか?」
「…それはみんなの推理力が不足していたということじゃないのかね?」
伊集院くんが言うが公人くんは、
「…違うな。あの状況下でのみんなの推理は決してレベルの低いものじゃない。普通の事
件だったら誰かの推理で解決しているよ」
「普通の事件?」
「ああ。そこでオレは一手先を読んでみた」
「一手先?」
私は公人くんに聞いた。
「ああ。みんなが推理したことを覆す証拠があらかじめ想定されていたら、ってな」
「あらかじめ想定されていた?」
「そう。そもそもこの事件は最初っからイカサマが仕掛けてあったんだよ」
「イカサマですって?」
「ああ。この『ヴィーナスの涙』の盗難事件の犯人…、って言っていいかどうかは知らん
けど、とにかく犯人は伊集院、おまえってことだよ」
と、いきなり伊集院くんが笑い出した。
「…ははは、公人くん。何を言うかと思ったら。…このボクが犯人だって? 冗談も休み
休み言いたまえ」
「冗談でこんな事言えるか。…この家はおまえの家だ。構造なんかは手をとるようにわか
るだろ? だったらおまえがどんな手を使おうといい筈だしな。…なあ、本当のこと言え
よ。…おまえが言ってた余興、ってのはコレなんだろ?」
「…そうか、君はそこまで見破ってたか。…どうやら君の勝ちのようだな、参ったよ」
そう言うと伊集院くんはポケットから宝石を取り出した。
間違いない、私たちが見た『ヴィーナスの涙』だった。
「まさかボクが犯人だろう、とは誰も思わないと思ったが…、君を少々甘く見くびってい
たようだな。…よかろう、約束どおり君に御礼をあげよう」
帰りに私は公人くんの家に寄った(私と公人くんの家はお隣同士なのだ)。
公人くんの部屋の中。私は公人くんのベッドに腰掛け、公人くんは床に胡坐をかいて座
っていた。
「さて、アイツのことだから大した期待は出来んが…」
そう言いつつ公人くんが紙袋の中から何かを取り出した。
「…? 何だこりゃ?」
出てきたのは伊集院くんの生写真とポスター、サイン入り色紙だった。
「…ったく、こんなもんいらんわ!」
THE END
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