如月未緒の殺人



 昼休み。
 私・藤崎詩織は先週借りた本を返しに図書室へいった。
「……はい、いいですよ」
 貸し出しカードを入れた本を私がもと会った場所に返し、何気なく後ろを振り向くと、
「あら? 如月さんに虹野さん……」
 如月未緒さんと虹野沙希さんが教科書とノートを広げ、何やら勉強をしていた。
「……そうか。もうすぐテストなのよね」
 私は二人のことを「如月さん」「虹野さん」と呼んでいるのだが、この二人は昔からの
親友、とかで「未緒ちゃん」「沙希ちゃん」と呼びあってるらしい。私が親友の美樹原愛
のことを「メグ」と呼ぶのと一緒なのだろう。
 如月さんは一応文系が得意なのだが、理数系もかなりよくできるようで、文系も理系も
苦手な虹野さんが教わっているところをよく見かけるが。
    *
 放課後、部活が終わったあと、私は虹野さんを見かけたので、メグとともに三人で帰る
ことにした。
「あーあ、未緒ちゃんがうらやましいなあ」
 虹野さんはいきなりこう言い出した。
「うらやましい、ってどういうこと?」
「だって、未緒ちゃん頭いいもん。私なんかぜーんぜん勉強できないものね」
「でも虹野さんはサッカー部のみんなにとってはアイドルじゃない。そんなに嘆くことな
いわよ」
 彼女はサッカー部でマネージャーをしているのだ。
「そういえば私、如月さんを駅前の塾で見かけたことあるわ」
 メグが言う。と虹野さんが、
「ああ、関東ゼミナールでしょ? そこ」
「関東ゼミナール?」
「町内じゃ一番の実績を持ってる学習塾よ。未緒ちゃんも週に三日通ってるんですって。
未緒ちゃん理数系が弱いから、そこで勉強してるんですって。今日も行ってるはずよ」
    *
「おはよう、メグ」
「おはよう、詩織ちゃん」
 きらめき高校の玄関前で私はメグと会い、二人で校門のなかに入った。
 ……と、私たちの前を虹野さんが歩いていた。何やらショボン、としているのが後ろか
らでもわかった。
「……なんか元気ないわね」
「どうしたのかしら?」
 私とメグは虹野さんの側に近寄る。
「虹野さん、おはよう」
「お……、おはよう」
 なんか元気が無い。おまけに目が真っ赤になっている。
「どうしたの、虹野さん?」
「なんか元気ないわよ」
 私とメグは虹野さんに話し掛ける。と、
「藤崎さあああん!」
 いきなり虹野さんが私に抱きつくと大声で泣きはじめた。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ?」
「だって……、だって……」
「おいおい、朝っぱらからどうしたんだ?」
 後ろから声がした。見ると高見公人くんが立っていた。
「ね、虹野さん。ここじゃ何だから、教室へ行こう、ね」
 そして私たち四人は教室へ向かった。

「何い? 如月さんが人を殺した、だとお?」
 公人くんが教室中に響きわたりそうな大声で言う。
「絶対なにかの間違いだと思ったんだけど……。私見ちゃったの。未緒ちゃんがお巡りさ
んと一緒にパトカーに乗ったのを。上着のようなもので手を隠してたけど、きっと未緒ち
ゃん、手錠をかけられてたんだわ」
「いったいいつ見たの?」
「昨日の夜。ウチへ戻ってから、用を思い出して駅のほうへ行ったの。そしたら……」
 虹野さんの話すところによると、関東ゼミナールの建物の前で何やら人だかりがしてい
たので、何があったのか行ってみると、ここの生徒が講師を刺し殺した、ということがわ
かった。そして、何人かの警察官とともに如月さんが出てきて、パトカーに乗って走り去
った、ということだ。虹野さんは昨日、一睡もできなく、一晩中泣いたらしい。

「……そうか、今朝のテレビでやってた関東ゼミナールの講師が殺された、って事件がそ
れか……」
「でも……、でもなんで未緒ちゃんが……。だって、未緒ちゃん虫も殺せない子なのよ。
その未緒ちゃんが人を殺すなんて……」
「……虹野さん、今日学校終わったら面会行こうよ」
「え?」
「如月さんの面会に行こう。そうすれば何かわかるかもしれないわよ」
    *
「……それにしても、ヤダネー、マスコミって」
 昼休みの図書室。公人くんが私たちの前に新聞を広げた。
「……見ろよ。昨日の事件が早速載ってるぜ」
 公人くんが指差す。
「……知らなかった。もう載ってるの?」
 虹野さんが言う。新聞、といったらラジオ・テレビ欄しか読まない人、というのは結構
いるようだ(虹野さんはそれにスポーツ欄しか読まないらしい)。それはとにかく、私は
その記事を見る。さすがに未成年、ということで「如月未緒」という実名は出ず、「女子
生徒」となっていたが、その女子生徒が「刃渡り十数センチのナイフ」で「前田講師を刺
し」、「その前田講師はすでに死亡していた」ことが書かれてあった。

 放課後。私は公人くんと虹野さん、それから如月さんのクラスの担任の先生と一緒に警
察へ行き、如月さんに面会を申し込んだ。

「あれ? 高見くんどうしたのかしら?」
 面会室。虹野さんが辺りを見回して言う。
「さっきまでいたのにね……」
 やがて如月さんの姿が透明の壁越しに見えた。
「未緒ちゃん! どうしてこんなことしたの?」
 如月さんは疲れ切った表情だったが、
「……沙希ちゃん、藤崎さん。ご迷惑をおかけしてごめんなさい。でも、仕方なかったの
よ」
「仕方なかった、って?」
「……私ね、本当のこと言うと前田先生と関係があったの。前田先生の言うこと聞くかわ
りにいい点数をもらってたのよ……。昨日もそうだったわ。でも先生だんだんやることが
エスカレートして、私耐えられなくなってきたの。……それで私、先生のことをナイフで
……」
「未緒ちゃん、本当のこと言って! 未緒ちゃん、人殺しなんかしてないわよね?」
「……いいのよ、沙希ちゃん。先生が死んだのは事実なんだから。私は罪を犯したんだか
ら、それに対する制裁を受けるのは当然だわ」
    *
 自動販売機に硬貨を入れ、「コーヒー 砂糖・ミルク入」のボタンを押す。数秒後、紙
コップに入ったコーヒーが出来た。
 私は紙コップを取ると、それを虹野さんに渡した。虹野さんは黙って受け取る。
 その目には涙が溢れんばかりに浮かんでいた。
 ところで、そのころ公人くんがどこからかやってきた。
「公人くん、どこ行ってたのよ?」
「あ、悪いな。ちょっと刑事に話を聞いてたんだ」
「よくできたわねえ、そんなこと」
「おいおい。これでもオレは『きら高の名探偵』の異名をもらってんだぜ。だからさ、い
ろいろと聞くことができたんだぜ」
 公人くんのことは町内の噂になっていたが、まさか警察の人の耳にまで入っていたとは
思わなかった。
 公人くんは自動販売機に硬貨を入れ「コーラ」のボタンを押す。出てきたそれを一息で
飲み干すと、
「ガイシャの名前は前田篤史、といってあの関東ゼミナールで数学を教えていた教師だそ
うだ。虹野さんが如月さんが逮捕された、っちゅう現場を見た少し前、六時十五分頃に警
察に『先生が刺されて死んでいる』という連絡があったらしいんだ。知らせたのは如月さ
んと同じ関東ゼミナールの生徒で内山由香里、という子らしい。彼女が忘れ物を取りに戻
ったところ、如月さんがその前田講師を刺した所を見たらしいんだ。そして警察が現場に
急行して如月さんを逮捕した、とこういうワケだ。如月さんが刺した、っちゅう折り畳み
式のナイフから彼女の指紋とその前田、っつう講師の血痕が検出されたそうだ」
「折り畳み式の……、ナイフ?」
 虹野さんが聞く。
「ああ。カバンの中に入れていたそうだ」
「ところで、その前田、って先生はどういう人なの?」
 私が聞くと、
「どういう人、ってねえ……。三年前に勤めていた会社が倒産してからあそこの講師にな
ったらしいぜ。ただなあ……」
「ただ何?」
「色々と浮いた噂もあったらしんだ」
「浮いた噂?」
 虹野さんが聞く。
「……もしかしたら……」
 私と虹野さんは如月さんとのやりとりを公人くんに話した。
「……成程ね。でもまさか如月さんがなあ……。人は見かけによらぬもの、ってヤツなん
だな……。で、詩織。今如月さん、何やってんだ?」
「ん? 確か担任の先生と面会してるはずよ」
「……じゃ、オレもちょっくら話聞いてくるか」
    *
 翌日。
「えっ? それって本当なの?」
 虹野さんが言う。
「ああ。好雄が校長室で聞いた、って言うぜ」
 公人くんが言うには如月さんは体が弱いこともあってか、釈放され任意で取り調べを受
けているそうだが、今日如月さんが退学届を提出した、というのだ。
「そんな……、未緒ちゃんが退学なんて……」
 虹野さんが突然立ち上がった。
「? どうしたの、虹野さん?」
「私……、私も退学届出す!」
「虹野さん、何言ってるの?」
「私も退学届出す! だって……、だって、未緒ちゃんのいない高校生活なんて考えられ
ないもん!」
「虹野さん、落ち着け! まだ如月さんが殺した、と決まったわけじゃねえんだ!」
 公人くんが叫んだ。
「……どういうこと?」
「如月さんに面会して思ったんだが……。如月さん、何か隠してるよ」
「何か隠してる、って……?」
「いいか。よく聞け、虹野さん。如月さんが刺した、っつうナイフには如月さんの指紋と
前田講師の血痕しか付いてなかったんだ。これが何を意味するかわかるか?」
「何を意味する、って?」
「如月さんの指紋しかなかったんだぞ! あとは何かで拭き取ったかのように指紋が付い
てなかったんだ。おかしいと思わねえか? なんでカッとして、人を刺したヤツが、一度
はそんな証拠を湮滅するような真似をするんだ? それに如月さんの指紋しかない、って
いうことは、如月さんが自分から逮捕してくれ、って言ってるようなもんだぞ。それに、
刺した直後に内山由香里って子が忘れ物取りに戻ってきたんだぞ。そんな短時間で指紋吹
いたりするような細工ができると思うか?」
「そりゃあ、そうだけど……」
「とにかく待てよ。退学届出すのは、それからでも遅くないだろ?」
「……うん……」

「詩織、虹野さん、ちょっと」
 放課後。公人くんが私に話し掛けてきた。
「何、公人くん?」
「たしか虹野さん、内山由香里、って子の家、知ってたよな?」
「うん。未緒ちゃんに聞いたことあるわ」
「今から行かないか?」
「え?」
「話を聞いてみたいからな。どうして如月さんがあんな事したのか気になるし」
「うん、わかったわ。後で未緒ちゃんに詳しい道順聞いてみる」
「なんだ、詳しく知らねえのか……。じゃ、一時間後、校門の前で待ち合わせな」
    *
 一時間後。公人くんが校門の前にやってきた。
「虹野さん、場所聞いた?」
「うん。ちゃんとメモもしといたわ」
 そして私たちはその内山さんの家に向かった。

「……内山由香里さんだね。オレは如月さんが通っているきらめき高校の同級生で高見公
人ってんだ。こっちはオレのクラスメイトの藤崎詩織さんに虹野沙希さん。……ちょっと
話を聞きたいんだけど、いいかな?」
「玄関じゃなんだから……」
 そういうと内山さんは私たちを客間に通した。

「……へえ、関東ゼミナールやめちゃったんだ」
「はい。昨日、退学届出しました。もうあんな所いられませんよ」
「まあ、そりゃそうだろうな。……でさ、如月さんがその前田先生刺した事件だけど、ど
うして君、あそこ行ったの?」
「……忘れ物取りに戻ったんです」
「それは何時頃?」
「六時ちょっと過ぎだったかと思います。それでその帰りに、何か奥の教室のほうで物音
がして……」
「ふーん。物音ねえ……」
「何事か、と思って見てみたら未緒ちゃんが何やら抱きついているように見えたんです」
「抱きついてる?」
「ええ。最初はそう思いました。未緒ちゃんの背中に前田先生が手を回したように見えた
から……。あの時、もう未緒ちゃんが折り畳み式のナイフで先生を刺してたんです」
「ふーん……」
「未緒ちゃん、私がいたのに気付いたようで、私、『未緒ちゃんが刺したの?』って聞い
たんです。そしたら未緒ちゃん『うん』って言って……。そして未緒ちゃん 『警察に連
絡して私がやった、って言って』って言ったんです」
「……それで、君は先生が死んだ、とか思ったのか?」
「いいえ。教室の中には入らなかったし、まさか、先生を未緒ちゃんが刺した、なんて思
わなかったし……。それにほんのちょっと見ただけだから……」
「そうか……。ありがとう、参考になったよ。もう遅いし、帰るか」
 公人くんが立ち上がるのに合わせて、私と虹野さんも立ち上がった。
「高見さん!」
 内山さんが呼び掛ける。
「……どうしたの?」
「……いえ、なんでもないです」
    *
「でも、まだ信じられないな……。未緒ちゃんが人殺ししたなんて……」
 虹野さんが言う。
「そうよね……。でもなんで如月さん、ナイフなんか持っていたのかしら」
 私は言った。

「え……」
 突然公人くんが立ち止まった。
「どうしたの? 公人くん?」
 私が聞くが、公人くんは気付かないのか、
「……だとしたら、アレをどう説明すりゃいいんだ?」
「公人くん……」
「……待てよ。もしかしたら……」
 公人くんは立ちっぱなしで何か考えてるようだ。
「公人くん!」
「……そうか! こういうことか!」
 いきなり公人くんは私の方を向いた。
「詩織、わかったぜ! この事件の真相がな!」
「え?」
「虹野さん!」
「え? なに?」
「今夜、如月さんと一緒に関東ゼミナールへ来てくれ。そこですべてを話す。ちょっとオ
レも考えをまとめたいからな」
「……うん、わかったわ」
「それから、あの、内山由香里、って娘も呼んでくれないか?」
「うん。未緒ちゃんに言ってみる」

 その夜、関東ゼミナール。
「みんな揃ったな。それじゃ、はじめるとするか。」
 公人くんは教室に集まったみんなを見て言った。
「今回の事件はこの塾に務めている前田、という講師が刺殺される、ということから始ま
った。容疑者は……」
 と公人くんは如月さんのほうを見て、
「……そこにいる如月未緒さん。彼女の自白によると、彼女は以前からその前田講師と関
係があり、その日も彼女はその前田講師に猥褻な行為を要求され、喧嘩となった彼女がカ
ッとなって持ってたカバンのなかに入っていたナイフで刺した、とまあこういうことだっ
た。しかしオレはこの事件の全容を知るにつれ、いくつかの疑問を感じた」
「疑問?」
 私が公人くんに聞くと、
「まず、何でナイフに指紋がついていなかったのか。何で自ら刺した、と言った人物がそ
んな証拠湮滅を図るような真似をしたのだろうか。それからもうひとつ。なぜ彼女がナイ
フを持っていたのか。護身用に持っていたにしては物騒だし、大体指紋を拭き取るような
ことをするなら最初から前田講師を殺すつもりで持っていた、と考えるほうが自然だから
だ。どう考えてもついカッとなって殺した、とは考えにくい」
「じゃあ、公人くんは……」
「ああ。この疑問と『ある理由』からオレはこの事件の真相に気が付いた。もちろん真犯
人が誰かもね」
「じゃあ高見くん。未緒ちゃんは……」
 虹野さんが聞くと、
「ああ。彼女は真犯人の替わりに自分が罪をかぶったんだ」
「その真犯人、って誰なの?」
 公人くんは一呼吸置くと、
「オレの推理から行くと犯人はこの人物以外にいない! ……この事件の第一発見者、内
山由香里、君だ!」

「バ……、バカ言わないでよ! 何で私が犯人なの?」
 内山さんは公人くんに言い返した。しかし公人くんは動じる様子もなく、
「教えてやろうか? 君が見ているはずのないものを見ているからだ!」
「見ているはずのないもの?」
「君はオレにこう言ったよな。『未緒ちゃんが何やら抱きついているように見えた』って
ね。何故かというと『彼女の背中に前田先生が手を回したように見えた』からだ。という
ことは如月さんは君に背中を向けていたことになる。しかし刀や槍と違ってナイフで人を
刺すときは、普通はナイフを自分の手元に引き寄せるように持って体ごとぶつかるように
して刺すはずだ。ナイフってヤツは刃渡りが短いし、手を伸ばして刺そうとすると狙いが
定まらないからね。ってことは如月さんが背中を向けていたとしたら、君が見ていた、と
いう背中からじゃ彼女が刺していたところは死角になる。ナイフなんか見えるはずはない
んだ」
「……」
「それからもうひとつ。君は彼女が折り畳み式のナイフで刺した、とも言っている。オレ
も、そこにいる詩織や虹野さんもそう聞いているからね。しかし新聞には刃渡り十数セン
チのナイフ、とは書いてあったが折り畳みのナイフとは書いていない。それから、オレは
そこにいる刑事に聞いたが、その刑事も一度も折り畳み式のナイフで刺した、とは言って
ないそうだ。どうして君が、見ていないはずのナイフが折り畳み式のナイフだ、ってわか
ったんだ? 君は教室に一歩も入ってないし、死体を直に見たわけでもないんだ!」
 確かに新聞記事にはそう書いてあった。となるとやはり……。

 しばらく沈黙が続いた。と、内山さんは、
「……そうよ、その通りよ。私が前田先生を殺したのよ」
「内山さん、何言ってるの! 前田先生は私が殺したのよ!」
 如月さんが言うが、
「……もういいのよ、未緒ちゃん。こうなることはわかってたわ。私、数学の点数が悪く
て、前田先生と関係を持つ替わりにいい点数をもらってたの。でも、だんだん先生のやる
ことがエスカレートしてきて……。私、耐えられなくなってきた。あの日もそうだった。
殺そうなんて思わなかった、脅すつもりで持ってたのよ。でも気が付くと先生のことを刺
していたのよ。そのすぐ後だったわ、未緒ちゃんが忘れ物を取りに戻ってきたのよ。私じ
ゃなくて未緒ちゃんだったの、忘れ物を取りに戻ってきたのは。私、彼女にすべてを打ち
明けたわ。自首するつもりだった。でも未緒ちゃんがそれを聞くと、『わかったわ。じゃ
あ、私が先生を殺したことにするから、早く逃げて』って言ったのよ」
 如月さんが、
「高見さん、ごめんなさい。彼女の家、両親がすごく厳しい人なんです。もし本当のこと
が知れたら、と思うと我慢できなくなって。私一人が傷つけば済むことだ、と思ったんで
す」

「……友情じゃねえ! そんなもん友情じゃねえ!」
 公人くんが叫んだ。
「公人くん……」
 私が言うが公人くんは、
「そんなもん絶対友情じゃねえ! お互いがお互いを傷つけあって何が友情だ! そんな
ことしたって心の傷は一生消えねえんだ! そんなことして、本当にいいと思ってるのか
よ!」
「……そうよね、高見さんの言うとおりよね」
「内山さん……」
「……未緒ちゃん、ゴメンね。私がもっと早く本当のことを言えばよかったのよ。そうす
ればこんなことにはならなかったわ。未緒ちゃん、この償い、いつか必ずするからね。…
…バイバイ」
 内山さんは警官に手を差し出す。警官が手錠をかけようとするが、
「……待て。手錠はいいだろう」
 そして内山さんは連れていかれた。
 虹野さんが目を拭う。私も自分の頬に一筋の涙が伝ったのがわかった。

「……如月さん、ひとつだけ教えてくれ。何故、君が罪を被ろうとしたんだ?」
「……よくわかりません」
「よくわからない?」
「何故か守りたかったんです、内山さんを。彼女を私が守らなきゃ、誰が守るのか、と思
ったんです……」
    *
 結局如月さんは退学にこそならなかったが、学校に迷惑をかけた、ということで三日間
の停学になった。内山さんの方は、というと取り調べにも素直に応じている、という。

 三日後、如月さんが学校に戻って来た。
 虹野さんと如月さんは今までどおりの付き合いをしていた。
「これでよかったのかしらね?」
 私は公人くんに聞く。
「……さあな。オレにはよくわからねえよ。……そういえば、如月さんと虹野さん、内山
さんの面会に行ったんだって?」
「うん。思ったより元気そうだったって」
「ふーん。……でもさ、詩織」
「何?」
「もしおまえが殺人犯したとして、オレは罪を引っ被ることできるかね?」

THE END


この作品の感想を書く

戻る