落武者伝説殺人事件

・第2話


「…で、その状況を詳しく教えてくれないか?」
 居間。大神と紅蘭とアイリスに話しかける。
「うん。丁度ウチとアイリスがそこで涼んでいた時や。お祭りが近い言うことでこの家の
前にも色々と人が通りがかっとったんやけど…」
「まあ、確かに明後日がお祭りだからね」
「それで人通りが少し少なくなった、思うてたら突然変な格好をした人が通りかかったん
や」
「変な格好?」
「勿論最初はどんな格好かわからんかったわ。でもよく見ると鎧武者のような格好をして
おったからなんか変や思うたんや。あんな格好して出歩く日なんておらんやろ?」
「…確かにそうだな」
「最初はその、大神はんの言うお祭りの余興か何か思うたんや。でもsれにしては何だか
様子が変や思うて、アイリスと話しとったら、その鎧武者が突然ウチらのほうを向いたん
や」
「…それであの悲鳴、と言うことになるのか」
「そういうことやな」
「うーん…」
 そういうと大神は考え込んでしまった。
「…どうしたの、大神くん?」
 あやめが聞く。
「…だとしたら、何で犯人はそんな事をしたのか、と思いまして」
「そんな事を?」
「はい。大体そんな事をしたって意味がありませんし、大体何の目的があってそんな事を
したのか、もわかりませんし…」
「誰かを驚かそうとしてやったこと、とかは考えられない?」
「だとしてもそんな目立つような格好で出歩くなんて普通の神経じゃ考えられませんよ。
それに、鎧武者の格好と言ったって戦国の頃じゃあるまいし、そう簡単に入手できるもの
ではないでしょう?」
「…確かにそうは考えられるけれど…」
「どっちにしろ不可解としか言いようがないですね」
「…確かにね。目的も何もわからないようでは私達だけではどうしようもないことね」
 あやめがそういうとその場に沈黙が流れた。
「…とにかく、もう今日は寝なさい」
「…わかりました」
「お兄ちゃん、お休み」
「ああ、お休み」
 そう言うと紅蘭とアイリスはあやめを含めた三人のために用意された寝室へ行った。
    *
 その翌朝のことだった。
「大神さん、大神さん!」
 大神に家の玄関の前で声が聞こえた。
「…どうしたんですか?」
 丁度起きていた大神が玄関に顔を出す。
「あ、神社の方で騒ぎが起こって」
「神社で?」
「とにかく、来てください!」

 そして大神は状況を把握できないまま神社に駆けつけると、神社の離れの方で人が大勢
集まっていた。
「一体どうしたんですか?」
 大神が聞く。
「いや、この中においてあった鎧がないんだよ!」
「なんですって?」
 そう聞いた大神は離れの建物の中に入った。
「…これは…」
 そう、確かにそこに置いてあったはずの鎧一式が無くなっていたのだった。
 大神は何気なく外を見ると、
「…鍵が壊されている」
 そう、普段は扉に掛かかっているであろう南京錠が壊されていたのだ。
 おそらく何者かが鍵を壊して中にあった一式を盗んだのであろう。
「…いつ、無くなったのに気が付いたんですか?」
 大神が聞く。と、一人の村人が、
「…うん、昨日の夕方に宮司さんが確認した時にはまだあったらしいんだ。それが今朝見
てみたら無かったらしいんだ」
「となると、昨日の夜から今朝にかけて…」
「そういうことになるな」
「…一体どうしたの?」
 大神の背後で聞き覚えのある声がした。
「あ、あやめさん」
 そう、あやめが紅蘭とアイリスを連れて神社に来ていたのだ。
「大神君のお父様に聞いたらここにきている、って言ってたから…。一体どうしたの?」
「いや、実は…」
 と大神は何者かによって鎧一式が盗まれた事を話した。
「…本当?」

 と、
「…これは…」
 中を見た紅蘭が呟いた。
「どうしたんだ、紅蘭?」
「…この鎧、昨日見た鎧武者が着ていたのと同じ鎧や!」
「なんだって?」
「…確かそうやったな、アイリス。この鎧やったな」
「う、うん。昨日見た人、この鎧を着てたよ!」
「…あんたたちも見たのかい?」
 一人の村人が二人に話しかけた。
「…あんたたちも見た、って…」
「実は昨夜、鎧武者を見た、って何人かの村人が言っていたんだよ」
「本当ですか?」
「ああ。それがここの神社においてある鎧と同じような鎧だったからって、みんなで確か
めに行こう、ってことになって今朝神社に来て見たら宮司さんがきて、鎧がひとつ無くな
っていた、って言うんだ」
「そうだったんですか…。となると、犯人は夜のうちにこの神社から鎧を盗み出した、と
言うことになりますね。そしてそれを来て昨日の夜の間に村中のあちこちに顔を出した。
でも、なんで犯人はそんな事したんでしょうか?」
 その後、暫くして地元の警察がやってきて現場検証をすることになり、その場にいた村
人達は解散、と言うことになり、大神たちも家に戻ることになった。
    *
 そして午前10時を少し回った頃だった。
「御免ください!」
 玄関の方で声がした。
「…はい!」
 その声に大神が応え、玄関に出る。
 そこには警官の制服を着た男が立っていた。
「あ、これは大神さんの…確か少尉、でしたね。いつ頃お帰りになられたんですか?」
「昨日帰ってきたばかりですが…、ところで鎧の盗難事件のほうはどうなりました?」
「…難しいですなあ。どうやら犯行時刻は昨日の8時から9時頃というのがわかったんで
すが、丁度その頃の目撃証言がまったくと言っていいほどないもんですよ」
「…どういうことですか?」
「ほら、昨日、今度の祭りの集会が神社であったでしょう? それが終わって集まってい
た村人達がみんな自分の家に帰った直後だったので誰も神社の方に言っていないんです
わ」
「…となると、犯人はその時刻を狙った、と言うことになりますね…」
「確かにそうとも考えられますが…。ところで大神少尉」
「どうかしましたか?」
「少尉殿の御友人に田村弘和、と言う人物はおられますか?」
「…田村がどうかしましたか?」
「実はですなあ、昨夜から行方がわからなくなっているんですわ」
「何ですって?」
「ええ。昨日、神社で行なわれた集会に顔を出したところまでは確認されたのですが、そ
こからの足取りがつかめていないんですわ」
「本当ですか?」
「はい。ご両親から息子を捜して欲しい、と言う連絡が入りまして。村の人たちにも協力
をお願いしているんですわ」
「…わかりました。自分も協力します」
    *
「…一体どうしたの、大神くん?」
 大神のただならぬ様子に気が付いたか、あやめが話しかける。
「あ、あやめさん。実はですね…」
 と大神は警官とのやり取りを話した。
「本当?」
「ええ。あんなことがあったばかりだというのに今度は新しい事件が起きたんで心配で…」
「…わかったわ。私も協力するわ」
「ありがとうございます」
「それからアイリスと紅蘭にも手伝ってもらいましょう。二人には私のほうから話してお
くわ」
    *
 そしてあやめから話を聞いたアイリスたち二人を加えて大神たちは手分けして行方不明
になっている、と言う田村を捜し始めた。
 その途中でのこと。
(…そうだ!)
 大神は友人でもある横川の家に寄ることにした。田村が行方不明になっている事を話し、
探すのを手伝ってもらおうと思ったのだった。

「ゴメンください」
 大神が玄関で呼びかける。
「あ、これは大神さん所の…」
「すいません、横川いますか?」
「え? 大神さんのところに行ってたんじゃないのか?」
「? どうしたんですか?」
「いや、今朝西田さん所の息子と『何処かへ出かける』と言ったきりまだ戻ってきていな
いんだよ。てっきり大神さんのところにでも行っているのかと思って」
「何ですって? それじゃあ西田も…」
「…ああ、話は聞いたよ。田村さん所の息子が行方がわからなくなったと聞いて、捜すの
を手伝ってもらおうかと思っていたのに、帰ってこないんだから…」
「だとすると…」
「? どうしたんだい?」
「いえ、どうも済みませんでした!」
 そして大神は家を出た。

 その後大神はあちこちを捜したのだが、田村も、西田も横川も見つからず、ひとまず家
に戻ることにした。あやめや紅蘭たちからも情報を聞こうと思ったのだ。
    *
 家に戻ると既にあやめたち三人は戻ってきていた。
「あやめさん、そちらはどうでした?」
「特にこれと言った情報はなかったわ」
「紅蘭は?」
「こっちも時に有力な手がかりはなかったけど…」
「それよりどうしたの大神くん?」
「いや、実はですね…」
 と大神は、横川と西田も行方がわからなくなっていることを話した。
「…なんですって?」
「勿論、田村たちが行方不明になっていることと今回の事件が関係あるかどうかはわかり
ません。でも、ああいった事件があった後だけにこういうことがあるとなんか気になって」
「確かにそうよね。今回の事件と関係があるかどうかも気になるし。それじゃあ、こうし
ましょう。私たちは私たちのほうでその村の人たちと一緒に、その田村と言う人を探すの
を続けるから、大神くんは他の二人を捜す方をやって」
 やはりこういう時はあやめは一番頼りになる。
「わかりました。村の人たちにも協力してもらいます」
「お願いするわ」
    *
 しかし、それから村人達が手分けして捜したのにもかかわらず、三人は見つからず、時
間だけが過ぎていった。
 そして、夕暮れが近づいてきた頃だった。

「…これだけ捜しても見つからないなんて…」
 紅蘭とアイリスが並んで道を歩いていた。
「…どうする、紅蘭?」
 アイリスが聞く。
「うーん…、この村はそんなに広くないからすぐ見つかる思うたんやけどな」
「でもこの辺り、山とか一杯あるよ」
「確かに山の中に隠れてしまえば捜すのも一苦労やしな…。大神はんに頼んで山の中を捜
すしかないんやろか。でももう暗くなっとるから捜すにしろ、明日の朝になってまうし…」
「とりあえずお兄ちゃんの家に戻ろう」
「せやな。それで今後どうすればええか相談した方がええかもしれんな」

 そして二人が神社の前に来た時だった。
「…ここは…」
 紅蘭が神社に続く階段を見上げる。
「…紅蘭、どうしたの?」
「大神はんが言うとったお祭りをやるいう神社は確かここやったな」
「…うん。確かお兄ちゃん、そう言っていたよ」
「…行ってみよか?」
「え?」
「そういえばまだ、ここ見ておらんし、もしかしたら何かわかるかもしれんで、行ってみ
よ! 大神はんの家に戻るのはそれからでもええやろ?」
「…うん!」
 アイリスも頷いた。
「ほな、行ってみよか」
 そして紅蘭は階段を昇っていった。
 アイリスもそれについていく。

「アイリス、気をつけるんやで」
「うん」
 二人は神社の階段を昇っていった。
 階段は思った以上に急な高さで昇るのにも一苦労である。
 そして上まで昇りきったときだった。
「…紅蘭、あれ!」
 アイリスが指を指す。
 そう、本殿の近くに建っている建物の近くの扉が開いていたのだった。
「…行ってみよか」
 その言葉に頷くアイリス。
 二人はゆっくりと歩いていく。
 そして紅蘭が扉の中に入っていった。
 そして部屋の中を覗いた瞬間、
「うっ…」
 紅蘭が口を塞いだ。
「どうしたの紅蘭?」
 そう言いながらアイリスも部屋の中を覗く。
「…!」
 アイリスも自分の目の前の様子を見て言葉を失ってしまった。
 そこには首がない死体が転がっていたのだ。
「あ…あわ…、あわわわ…」
 恐ろしさのあまり、声が出ない。
「ア…アイリス、み…みんなに、みんなに報せに行くで!」
 やっとの事で正気に戻った紅蘭は、隣で茫然と立ちすくんでいるアイリスに話し掛ける。
「う、うん…」
 二人は死体に背を向け、外へ出ようとした。
 その時だった。
 紅蘭は後から抱きかかえられると、何やら湿ったものを口に押しつけられた。
 あっという間に紅蘭の意識が遠退いていった。
「! 紅蘭、どうし…」
 アイリスが話し掛けた時、アイリスにも口に湿ったものが押しつけられた。


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