「東宝特撮映画感想文」スペシャル
「日本沈没」感想文


(はじめに)
私こと管理人(ともゆき)はこれまで2003年〜2005年まで「ゴジハム感想文」と銘打っ
て「ゴジラ」シリーズ3作(「ゴジラ×メカゴジラ」「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京
SOS」「ゴジラ FINAL WARS」)と「劇場版とっとこハム太郎」2作の感想文
を当HPで掲載していますが、今回それに倣って2006年7月15日に鑑賞した「日本沈没」
の感想文を掲載したいと思います。
なお、以下にあげる文章は当日、管理人が運営しているブログ「管理人のHITORIGOTO」に
掲載したもので、一部手直しをしています。また、これを掲載した後に感じた事を「追記」
として掲載しています。

それは、明日かもしれない。
「日本沈没」

(スタッフ)原作/小松左京(小学館・刊)、監督/樋口真嗣、脚本/成島 出・加藤正人、
      特殊技術統括・監督補/尾上克郎、特撮監督/神谷 誠、
      音楽/岩代太郎、主題歌/「Keep Holding U」SunMin thanX Kubota


本日樋口真嗣監督の話題作「日本沈没」を見に行って参りました。
公開初日の第1回上映、と言うことでどれだけ入るかな…、と思ってたんですが6割程度
の入りで(管理人が見た劇場はどういうわけか第1回上映が12時30分過ぎだったんだよ
な…)、年配の方が多かったのが印象的でしたね。
で、見た感想なんですが…(以下、ネタバレあり)。

はっきり言います。
管理人がプロデューサー(or製作担当)だったら樋口監督が
「ストーリーを変えていいですか?」と言った時点で監督を断っ
てましたし、加藤正人氏には脚本の書き直しを命じてました!


まあ、色々とツッコミを入れたくなってくる部分はあるんですが(例えば世界中から掘削
船を集める金と暇があったらその分輸送船を集めて国民の避難をさせるべきだとか、未曾
有の大災害だというのに国連は何もやらないのか(原作では重要な役割を演じている)と
か)、今回の作品を見て思ったのは「一体樋口監督は原作や1973年版の映画を見て何を感
じ取ってたんだ?」ということですね。もしかして「特撮がすごいな、災害描写がすごい
な」としか思ってなかったんでしょうか?

確かに特撮は凄かったと思いますが、その特撮(災害描写)と小野寺と玲子のドラマの部
分がかみ合ってなかったような気がするし、その肝心のドラマ部分も何だか安っぽい感じ
がしたし…。
それに肝心のストーリー自体も何だか構成間違えたんじゃないか、と思えるくらいで…。
何の前触れも無くいきなり「日本列島が将来沈没する」と言われるわ、小野寺や田所博士、
結城たちはどういう理由だかわからないけど調査をしているわ、何の脈絡も無くN2爆薬な
る超兵器は出てくるわ…、と。人間ドラマを少し削ってでも、こういった部分でもう少し
説明が出来なかったんでしょうか? 何だか「実は上映時間が4時間近くあったのだが、
あまりにも長すぎるため前半部分を削った作品」のように思えました。
(管理人だったら原作に沿って小野寺たちの海底調査→駿河湾の地震&美咲や玲子との出
会い→コックス博士の日本沈没発表とするけど)

どうしても1973年版と比較してしまいますが、'73年版はそういった人間ドラマを省いて
災害描写中心にしたためか、そういった部分はよく説明できたと思うのですが…。
一体樋口監督はこの作品で何を見せたかったのでしょうか? 「災害時の中で生まれる人
間ドラマ」を書きたかったら何も「日本沈没」を使う必要はなかったような気がしますが。
原作は「国土を失ってしまった日本人は日本人である事ができるのか、果たして世界の中
で日本人はどうなるか?」と言うのがテーマなのに、今回の作品はどうもその辺りが抜け
落ちている感じがしました。それが結局ああいった形で「N2爆薬を使って日本沈没を阻止
する」と言う話にしてしまった、と言うのは考えすぎでしょうか?

これが「日本沈没」と言うタイトルが付いていなければ、あるいは「日本沈没〜Another
Story〜」みたいなタイトルだったらこれはこれでありなのかもしれませんが、どうしても
「日本沈没」とタイトルがある以上、原作や'73年版と比較してしまいますよね。
せめてクレジットを「原作・小松左京」ではなく「原案・小松左京〜『日本沈没』より〜」
とでもしてあったら割り切ってみる事ができたかもしれませんが…。

それこそリメイクするのだったらピーター・ジャクソン監督の「キングコング」位原作に
対するリスペクトを持って製作して欲しかったです。
(何でもパンフレットによると最初のプロットは「日本列島は完全に沈没。でも主人公達
は最後の一人を救出するまで戦う」みたいな話だったとか。何だかこっちの方がよかった
ような気がするが…)
それとも本編監督デビューしてまだ作品数が少ない樋口監督には「日本沈没」と言う作品
は荷が重すぎたのでしょうか?

管理人、何年でも待ちますから、樋口監督がもう少し本編監督として経験を積んでから(勿
論特撮の絡まない映画などもやってから)、もう一度リメイクして欲しい気がします。
…それにしても、もし「第二部」の映画化が決定して、樋口監督にオファーが来たとした
らどうするつもりなんでしょうか…?



(追記)

まあ、今回の作品は色々と見てみたんですけど、賛否両論真っ二つに分かれてますよね。

今回の作品、樋口監督は監督を引き受ける際に「原作とストーリーを変える」と言う条件
を出したそうですが…。その中で私がどうしても納得できないのが樋口監督が今回のリメ
イクに際し「原作や旧作(1973年版)は諦観(諦め)の物語だったから、今回の作品では
最後まで諦めないで戦う物語にしたかった」と言った、とされる言葉でして。

…あの〜、樋口監督。原作のどこをどう読んだらそんな解釈が出来るんでしょうか?

原作(小学館文庫版)の下巻の342ページにこう書いてありますよ。
「正確な意味で、真にこの問題に必死にとりくんでいるのは悲劇の当事者たちだけだった。
――日本の救出組織は、この厄災に対しても「日本の奇跡」を生み出そうとしているかの
ように、不眠不休で働きつづけた。」
「既に二百人を越える犠牲者を出していた、アメリカ海軍海兵隊の救出作戦指令ガーラン
ド准将は、テレビのインタビューに、驚きの念をこめてこう語った。
「日本の救援組織は、官、民、軍とともに、驚くほど勇敢だった。――いくつかの実戦で、
死地を乗りこえてきたベテラン海兵隊員でさえ、二の足を踏むような危険な地点にも、彼
らは勇敢に突っ込んでいった。同胞の命を救うとなれば、ある意味で当然であろうが、そ
れにしても、あまりにも無謀と思われる地点にまで、彼らが果敢に救援活動に突っ込んで
いくので、私たちはしばしば、彼らが国土滅亡のあまり、気が狂ってしまったのではない
かと語り合ったものだ……」」

それに1973年版でも藤岡弘(当時)氏演じる小野寺の台詞にこんなのがありますよ。
「オレは最後の一人まで助ける。オレには捜さなきゃいけない人がいる。その人を見つけ
るまでこの日本から離れないぞ」

…この辺にしておきますけど、誰もが最後の最後まで一人でも多くの日本人を救出しよう
と戦っているじゃないですか。
もしかしたら樋口少年は1973年版を見た時に解釈を誤ってしまい、そのまま現在まで来て
しまったんじゃないか、とも思えるくらいでして。
いや、今回の映画化に関し、樋口監督は原作をもう一度読み直したかも知れませんが、そ
のときもやっぱり「原作の持っている本当のテーマ」に気がつかなかったんでしょうか?
それとも、気が付きはしたんですけど、「こういうテーマはとてもじゃないけど自分には重
過ぎる」と思ってあんな形で逃げちゃったんでしょうか?

…まあ、それはとにかく、上でも言ってますけど、この作品で樋口監督は何を見せたかっ
たのでしょうか? 「33年前と比べてこれだけリアルになった特撮」を見せたかったんだ
ったら、あの取って付けたようなラブシーンはどう考えても長すぎ。あのシーンをもう少
し削って、その分を日本各地の災害描写に力を入れるべきだと思うんですが。あれでは何
だか「ぶつ切り」の印象を受けるんですよね(まあ、もう少し災害が起こる都市の描写を
あちこちに飛ばなさないで、もう少し絞ってもよかったと思うが)。
で、「人間ドラマ」を見せたかったら、挿入の仕方が不自然だと思われないようにもう少し
脚本を練り直すべきだと思うんですけどねえ。
この件に関しては「人間ドラマが下手すぎ」「あのシーンは余計」と言う声も聞きますが、
こればっかりはある意味仕方がないことのような気もします。例えば、(「ゴジラ」シリー
ズや「戦国自衛隊1549」の)手塚昌明監督が特技監督に転向して2作目とか3作目で神谷
監督並の特撮が出来るようになるか、と言われれば「?」なのと一緒で、これから樋口監
督にはもっと本編監督としての経験を積んでもらうかないでしょうね。

それともうひとつ賛否両論の「N2爆薬」ですけど(私はどっちかと言うと否定派ですが)、
あれをはじめとして、オープニングでいきなりの「日本が沈没する」というアメリカ側の
発表といい、小野寺がいきなり生まれ故郷の会津にやってきたことといい、何だか唐突な
印象があるんですよね。その辺りに関してはもう少し伏線が欲しかったですよね。
なんだかこの作品は樋口監督が頭の中で描いていた構想を撮影して、そのまま編集せずに
見せられた感じがするんですよね。それが「特撮と人間ドラマがかみ合っていない」と言
う批判にも繋がっているのでしょうが…。もしかしたら私が「話の構成を間違えたんじゃ
ないか」と思ったのもその辺にあったんでしょうか?

今回の作品は結局、真の意味での「本編監督」と言うのがいなくて特技監督3人(樋口監
督、神谷監督、尾上氏)で作ったような作品だったんでしょうね。
あるいは「『日本沈没』はいつか誰かにリメイクして欲しい作品ではあったが、本編監督と
しての樋口真嗣でリメイクするには早すぎた作品だった」という事でしょうか?
繰り返し言いますけど、これから樋口監督はもっと本編監督として(勿論特撮に頼らない
ような人間ドラマ中心の話なんかも演出して)経験を積んでから、もう一度リメイクして
欲しいですね。今度こそ「日本が完全に沈没してしまう」と言うラストで(笑)。


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