高層マンションの屋上は、思ったほど寒くも無く。風も穏やかだった。
本当に、いつでも。君の選択に間違いはない。
さっきから流れるような君の声を聴いている。
僕はずっと言わなかったし、この先言うつもりもないけど。君の声はかなり気に入っている。
女の子にしてはちょっと低めだよね? そして語尾が霞むように響く。いつでもゆったりしたリズムを取る。笑うと本当にコロコロ転がるように弾むんだ。
その声が時に恥ずかしげに、時に嬉しそうに。誇らしげに、楽しそうに。
今、この鮮やかな夕陽と共に、僕を包み込む。
うん。勿論、ちゃんと聞いているよ。
君の大切な恋の話だ。もう何年も前から、ずっと温めてきた、恋の成就の話だ。
君の顔が赤いのは、夕陽の所為だけじゃないね。
おめでとう。嬉しいよ、嘘じゃない。心から。
君は僕の大切な人だから。
君が抱えたその想いに苦しんだり、慰められたり、泣いたり微笑んだり。そんな君をずっと隣で見てきたのは僕なんだ。
何をしてやれるわけでもなかったけど。胸や肩やそんなものはいつだって借りてくれて良かったし。嬉しそうに笑う君の背中をポンと叩く掌だって、大したことじゃなかったよ。
僕は君の、一番の友達だ。
うん、もう、お行き。君の想いを受け止めてくれた、その人のところへ。
報告ありがとう。うん、嬉しいよ。一番に知らせてくれて。じゃあ、また。
走っていく君の背中まで嬉しそうに恥ずかしそうに弾むから、思わず吹き出してしまった。
僕は自分で思った以上に、君の恋が叶ったことが嬉しいらしい。だってそうだろ。
僕は君の一番の友達で、そしてこれからは、永遠に友達でいられるんだ。
こんなに嬉しいことはない。
こんなに素敵なことはない。
今日はその始まりの日なんだ。これまでと同じような、けれどそれよりもっと祝福された、新しい僕らの絆が生まれた。
ああ、本当に君のすることには間違いがない。こんな綺麗な夕焼けを望める場所はそうはないだろう?
落日は、新しい日への生まれ変わりの儀式。昇るために沈んでいく。その身を焼いて。
この夕陽に誓おうか。
僕は死ぬまで、君のよき友人だ。
僕は死ぬまで、君の永遠の友達だ。
それは、つまり。
ぐんぐん迫る灰色のコンクリに激突するまでの、この一秒間のこと。
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