橋本美弥の悪夢
(橋本美弥対真田克己)
美弥の身体を眩しいライトと鈍い衝撃が包んでいた、周りには歓声が聞こえてくる。
「・・・う・・」何発目かのボディーブローが腹部にめり込み、美弥が呻いた。
美弥の目の前には同期生である真田がいた、自分は真田と戦ってるらしいのだ。
「か・・克己ちゃん・・・ぐはっ!」言い掛けた瞬間、真田のフックが美弥の頬をえぐった。
美弥はグラついたものの何とか体勢を立て直し構えを取る、レフェリーが試合続行を聞いてくると美弥は小さくうなずく。
「ボックス!」レフェリーの一声で再び試合が始まる、真田は軽快な足さばきをしながら美弥に言う、
「どうしたの橋本?ちょっとは打ってきなよ」クイッとグローブを向けて挑発する、「・・・・」美弥は構えたまま動じない。
「なんだ、つまんないのっ!」真田が接近し左フックで美弥のガードを弾き飛ばす、「あっ!」
「ほぉら、ココががら空きだよっ!」次の瞬間、鈍い音と共に再度ボディーブローが美弥の腹に埋まる。
「う・・げ・・・」美弥の口から透明な液が流れ出る、マウスピースもこぼれそうになるがそれは咄嗟に口に収める。
「ふん」真田は美弥の腹からパンチを引き抜くと右のフックを美弥の頬に見舞う、「ぐうっ!」美弥が再び揺らぐ。
「あはは、まるでサンドバックだねぇ!」真田が面白そうに美弥を殴り続ける、顔面に、腹に容赦ない強打が炸裂する。
誰が見ても凄惨かつ悲惨な光景・・・
その中で美弥は考えていた・・・何故自分は真田と試合してるんだろう?
真田も自分もまだリングに上がる事を許されて無いのに・・・無論スパーに参加する事も、だ。
その間にも真田は次々とパンチを浴びせて行く、既に美弥には真田の姿は霞んでしか見えない、それ程までに美弥の顔は腫れ上がっていた。
こうして見ると・・・やはり真田の方が自分より素質に恵まれているようだと美弥は思った、パンチの切れはかなり上手い。
それに比べ・・・アタシは・・・ろくに攻撃も出来ないし・・・ガードだって・・・・
林原さんや・・・西岡さんみたいには・・・なれない・・・・・、美弥の意識は朦朧としかけていた。
「さてと、もうそろそろ楽にしてやろうかな・・・つまんない試合だったな、あーあ」真田が渾身の左フックを美弥に打ち下ろす、
美弥の身体が瞬間振るえ、血まみれのマウスピースが勢い良く飛び出る。
パッと二人の間に真っ赤な華が咲いた。
意識が途切れる刹那、美弥は最後の思考に至った。
「これは・・アタシの・・・ゆ・・・め・・・・・」
そのまま美弥は勢い良く倒れこみ、そのまま血に染まったマットに沈み込んで行った・・・・・
「・・・・や、美弥ったらぁ!」ハッと美弥が気が付くとそこは医務室のベットの上だった。
「大丈夫?アンタ大分うなされてたけど?」聞いてきたのは真田だった、「っ!」美弥が思わず後ずさりする。
「?何ビクッてるの、アタシ何かしたっけ?」真田は不思議そうに聞く「う、ううん・・気に・・・しないで」
「そう、ならいいけど・・・とりあえずゆっくりしてた方がいいよ、なにせアンタ頭打ってんだから」
「・・・・そうだったの・・そうだったのね・・・・」美弥は雑務の最中、足を滑らせてしまい階段から落ちたらしいのだ。
「ねぇ・・・克己ちゃん・・・アタシ達・・・いずれ戦うのかな・・・」美弥がぼそりと真田に言った、「へ?ま、まぁいつかは・・そうなるかもね」
「・・・そう・・・そうよね・・・いつかは・・・」美弥は思った、
あの夢はいずれ来る自分の姿を映したものではないかと・・・・・