++HOT−BLOOD!++
〜アーケードBOXゲーム賛歌〜
夜も更け始めた繁華街を俺は吹き出さんばかりのイラツキを抑えながら歩いていく、今日の事を思い返すだけでどうにかなってしまいそうな程怒りが沸きあがっていた。
あのクソ課長・・・アレは俺のミスじゃ無くてお前の指示の仕方が悪いから契約が上手くいかなかったんだよ、前に俺が何度も忠告したじゃないか・・・・・・
それなのに何もかも俺のせいにしやがって・・・・・・・ああ腹が立つ、このままじゃ本当に頭がどうにかなっちまう・・・・何かやって気分を変えないと・・・何かスカッとする事をやれば・・・
一番いいのは誰かをぶっ飛ばしちまえばいいんだが残念だが俺にそんな度胸は無ぇ、度胸があったら今頃課長の顔面にお見舞いしてるしな(苦笑)
ハァ・・・・・・と深く大きい溜息をついた時、ソレは俺の眼前に飛び込んで来た。視線の先にはよくある場末のゲームセンター、お世辞にも繁盛してるとは言い難い雰囲気な店だ
ゲームセンター・・・・か、学生時代は結構友達と入り浸っていたっけ・・・懐かしいなと思い一つ入ってみる事にした、それに今日は持ち合わせも無いがまぁゲーム位なら・・って感じで
中に入ってみると案の定繁盛してる感じの無い薄暗くちょっと陰気な空気が漂っていた、チカチカとモニターから一昔流行ったゲームの画像の光が漏れて
奥まった所にあるカウンターにはこういう場所にはお約束と言わんばかりの年老いた店員が呑気に煙草を吸いながら座っている、俺は自販機でコーヒーを買うと
一通リゲームを見て回った、大体予想してた事だが最新のゲームは置いておらず流行遅れで安っぽそうなゲームばかりが置いてある、まぁこの際贅沢は言ってられないから
その内の一つにコインを入れようと思った時、「もしお客さん・・・・・?」とカウンターの店員が俺に話しかけて来た「ハイ?・・・何でしょう?」と俺が尋ねてみると
「お客さん・・・・もしかしてかなり怒っておられるようですな?それならあのゲームを試されては如何かな?」と枯れた枝のような指を店の奥に向けて指し示す。
「?????」俺が指し示した方向を見ると・・・・一際大きな筐体が目に映った、所謂ソレは体感筐体という奴で実際に自分で戦ったりレースしたような気分を味わえるゲームだ
「アレ・・・・・・・ですか?」俺が店員に聞いてみるとゆっくりと頷き「少しはお客さんの気が晴れるじゃろうて・・・・・・」と呑気に煙草の煙を吐き出しながら老店員は答えた。
多少はスッキリするねぇ・・・・・・まぁ体感ゲームだし普通のビデオゲームをプレイするよりかは幾分にも違うしな、やってみるかと思いその筐体の前に行ってみる
「・・・・ボクシングゲーム・・・・・かぁ」俺は筐体のインストを見て納得した、ソレは自分を視点としたタイプのボクシングゲームで向かってくる相手を実際にパンチを振るって
打ちのめす、という感じのヤツだった。成る程コレなら幾分所か結構スッキリする事請け合いだな、と俺は思い背広を脱いでネクタイを緩めつつプレイ準備を整える。
コイン挿入口に200円を放り込む、結構高いなと思いつつ「スタート」と表記されたボタンをグイッと押し込むようにプッシュする、するとパァッとモニターが明るくなりスピーカーから
観客の歓声とレフェリーの声らしい英語が流れて来た、臨場感結構ある凝った作りだなと思いつつ筐体の横にセットされてるナックルコントローラーを手に持つ
実際に俺がパンチを出すと画面にあるグローブがパンチを繰り出す仕組みになってる、コレはスカッとしそうだと思いつつCPUが操る対戦相手を待つ(自分じゃセレクト出来ない)
暫くして相手側のコーナーに対戦相手が現れる、「・・・・・え?」と俺は思わず驚きの声を上げた。何故なら其処にいた相手はインストに描いてあったゴッツイ禿頭の黒人じゃ無く
少女が立っていたからだ、スクール水着を着ていてリングシューズにグローブという格好、青紫が掛かったショートでまだ幼い印象を感じる(下手すると13歳位か)
スクール水着の名札に「神音」と書いてあった所を見るとこのキャラは神音という名前らしいな、画面上部に表示される体力ゲージの下にも同様の名前が表記されてる
コレは初心者用のキャラか何かか?良く子供向けのボクシングゲームだと明るいイメージ(またはイロモノ系のノリ)で女の子キャラが出てくるけど・・・・・・
まぁムサイ男を相手にするよか可愛い女の子を叩きのめした方が面白そうだし楽しめそうだ、相手の神音はグローブをバシバシ打ち合わせてやる気満々の表情を見せている
やがてゴングが鳴りゲームが開始される、ゆっくりと神音がこっちへジリジリと接近して来た、かつてゲーム小僧だった俺の腕前を見せてやろうじゃ無いの。
先ずはガードを固めて様子見をする、神音のパンチは比較的早くも無いが右、左、上下段の打ち分けがなかなか細かいし防御も結構する為ダメージを与え辛い
防御を固めつつパンチを振り切った隙に攻撃するが軽いヤツが頬に入りプッ・・と唾を噴出すだけで効いてはいないらしい、何かやりにくいお嬢さんだな
ボディーも試してみるが浅く入り少しゲェッと咽るだけだしアッパーを打ってはみるも後方に僅かに仰け反るだけで体力は大幅には減らない、逆に神音を怒らせるばかりだ
怒った神音は強力なパンチを繰り出してくる、辛うじてガードはするがガード状態からも少しづつ体力を削ってくれるからたまったもんじゃない、ダウンして無いのが救いだが・・・
時間もジリジリと進んで行く、このゲームはシビアな事に1R制で時間切れになるとダメージ等に関わり無く強制的に負けにされる、いくらゲームでも女の子に負けるのは嫌だな
男としてのメンツも立たないしな・・・・さて何か攻略の糸口は無いか?とガードを固めながら神音の攻撃パターンを見る、良く見ると神音の左パンチを放つ時僅かに隙が出来る
もしかしたら其処にパンチを叩き込めば上手い事ゴッソリ体力を奪えそうだなと閃いた、実際のボクシングでいうカウンターというヤツだ、試してみる価値は大いに有るだろう
多少動きを見て左ストレートを誘う方法も分かって来た、先ずは此方のボディーをガードさせて・・・・神音は必死の表情でボディーをガードする。
来た!・・・・・と俺は神音の振りかぶった左を見て誘導の成功を確信する、後は打つ瞬間を狙って此方のパンチを放って・・・・・どうだ??
バキィ!と俺の放ったカウンターは見事神音の頬を捕らえ抉る、神音の口からマウスピースが飛び出しドロッとした血飛沫が勢い良く花火のように咲いた
グハァ!と神音が苦悶の表情を浮かべる、ダメージも予想通リゴッソリ奪えたが獲得ボーナスも結構な得点だ
此処まで体力を奪ってしまえば後はパターン化する事も可能だ、普通ならもう2〜3発殴ると「FINISH!」と表示されるんだが此処は一つ
カウンターでノックアウトを狙ってみるかなと思い始めた、幾つか他の攻撃でも一瞬狙えそうな箇所を見つけたしな?そうと決まれば誘導作業だ
ダメージを受け流血しながらもまだチョコマカ体を左右に動かす神音のパターンを見る、理想としては攻撃の瞬間同時に体が前に出るモーションが狙い時だ
さてそのチャンスは・・・・・ダッシュアッパーのモーション?コレだ!コレに狙いを定めて此方のパンチを当てれば派手に吹き飛ぶぞ!!!
只タイミングがちょっとシビアだな、成功するかな・・・・・・・・神音が振りかぶりその血まみれの顔が一瞬アップになった瞬間に打ち込んでみる
グゥシャァッ!!は、入った・・・・・・!モニターにはスローモーションで宙を吹き飛んでいく神音の姿があった、体力ゲージは・・・・ゼロ!!
ドサァ!と紺のスクール水着がキャンバスに叩きつけられるとノーカウントでゴングの音が鳴り響いた、一発KO!!ハハ軽いもんだぜ・・・・・・・
更に集計表が表示され最高のSSS(トリプルS)ランクを獲得!思わず俺は歓喜の声を上げた、すっかり気分も爽快になり心地よい気分で俺は倒れた神音を見ていた。
それから暫くして、ある夜俺は再びあのゲームをやろうと例の寂れたゲームセンターを探したが何故か店は跡形も無く消え去っていた、消えたと言っても取り壊された様子は無い。
あの空間は何だったのだろうか?今思うと俺の黒い願望を街が投影して産み出した幻想だったのかも知れないな・・・と思い俺は夜の街を再び歩き出した。