僕は狂獣の檻の中・・・
今回の林原優香の試合は正に血みどろの修羅場と言っても過言ではない程に壮絶だった。
対戦相手はかなりのスタミナの持主で何発も優香選手の殺人(に近い)パンチを喰らっても平然と起き上がって来た
しかも負けじと優香選手の顔面や腹部を強打するので試合開始から2分もしない内に流血戦に突入、
互いの顔面は醜い程に腫れあがりキャンバスには血が飛び散ってる、しかも優香選手に至っては歯もへし折れてるようだ
それなのに・・・・優香選手は相変わらず不気味な笑みを絶やさないし相手もやる気満々で荒い息を立てている。
これではボクシングというよりまるで獣同士の死闘だ。
そして何より一番の不遇はコレが僕のレフェリーとしての初仕事だと言う事、なんてツイてないんだろうか・・・とつくづく思う、
まぁ・・昔からあまり運周りがいい方じゃなかったがいくらなんでもこんなんはねぇよ神様・・・・
やっと正式にレフェリーになっての初仕事がケダモノ共の審判かよ・・・と思うとつくづく僕の運の無さが呪わしい。
そうこう考えてる間にも耳には嫌な打撃音が飛び込んでは染み付いていく
優香選手がニヤニヤしながら相手の顔面を強打してグチャリと何か潰れたような音とか
相手が優香選手の顎を思い切り突き上げたと同時にボキリ、と歯がまた一本へし折れた音とか
優香選手が相手をフックで思い切りキャンバスに叩きつけてまたグチャッと嫌な音がして・・・・・
あ、そうそうカウント・・・・分かってるからそんな目で見ないでよ優香選手・・・・
カウントをとってる間の優香選手の視線が何故か僕の方を向いてるのを背中に感じる
ふと思う、・・・まさか俺まで襲われないよな・・・・いや・・・・考えるのも変か・・・・・・・でも・・・・・・・・・・
ありえない事でも無い・・・・此処は言わば獣を閉じ込める檻みたいな場所と化してる、自分はそこに立ってる
今目の前に倒れて呻いてるコイツが倒れたら・・・次は僕が襲われてもおかしくは・・・ないよなぁ・・・・
あの優香選手ならやりかねない、目が語ってるよ、どうしよう・・・・・ってやっぱり考えすぎか・・・・・・でもなぁ・・・・・・・
とボンヤリ考えてると倒れた対戦相手は何時の間にやら跳ね起きていた、息荒く闘志満々な感じだが
目がやや死に掛けてきた様子、長くはモタンナ・・・・・・・と思わず試合再開の合図を忘れてた、ボックス!
また再び凄絶な試合が始まったが流石に相手も根尽きかけてるだけあって
それが優香選手最近お得意の拷問ショーに変わるのはそう長くは無かった、相手はもはやいいように殴られてるし。
耳にはグチャリとかボキッとかドゴォとか本当に殺す気かよお前というような嫌な音が次々に飛び込んで来てる
目の前に繰り広げられる光景を見てやっぱり僕はツイてない事を改めて思い知らされる。
・・・・・・・やっぱり俺もついでに殺されるかも・・・・・・・脳内で真剣に考え始めた
優香選手の目にはもう狂気の光しか宿ってない、コイツならやりかねない、どうする僕?
レフェリーという大役を背負ってはいるが・・・逃げるか、今すぐ?そうすれば殺されなくて済む・・・・・・・
何、こんな状況なら先輩達も納得してくれるだろうし例え納得されなくても殺されるよりマシだ
「・・・・・ろ!」え?今誰か僕に言った?耳を澄ますとリングサイドから先輩の怒声が聞こえる?・・・・・
「おい!何やってるんだよお前!早く止めろよ!あのままじゃ殺しちまうぞ!」だって・・・?
目をすぐさま写すと・・・あ、ハイハイ良く分かりました先輩が何言ってるのか
優香選手ですね?何かコーナーポスト付近で相手の顎を何度も何度も強打してますね
ゴキィ!ゴキィ!と打たれる度に後頭部がコーナーに当たって更に勢いでバウンドして更に強打を喰らって仰け反って・・
ハイハイ納得しました、アレじゃ殺しますね多分・・・と言うかもう死んでてもオカシクないような気もしますが
アレを止めろって言うんですか?・・・・・ちょっとソレは勘弁して欲しいです先輩
ソレじゃ僕まで殴り殺されますって・・・・・ホラ見てくださいよ優香先輩の顔、嬉しそうに笑ってますよ?
あんなの前に出て行ったらそれこそライオンに「喰って〜♪」と言ってるようなものですって
悪いけど僕は行きませんし止めませんよ、そんなに言うなら先輩が止めて下さいよ・・・自分が行くのが怖いからって
僕に言わないで下さい、レフェリーにも自分の身を守る選択くらいありますって、え?ない?それでも結構です。
僕は止めませんよ・・・・・・死にたくないからね。
・・・・結局こうなる事は最初から運命付けられてたのかも知れません、ハッと気がついたら僕は優香選手の腕を掴んで止めに入ってました、
後は自分の想像通りの結果優香選手の目標は僕の方に向けられました、つくづく自分の生真面目さが呪わしいと思う。
ぼやけた目に大勢のスタッフに取り押さえられる優香選手が写った、耳にはゴングのキンキン響く音が飛び込んで来る。
ロープにもたれかかって意識がブラックアウト寸前の僕を強制退場中の優香選手が一瞬振り向きました
その不気味なくらい腫れた顔に異常な笑みを浮かべて何やら口元が動き喋ってるような気がした。
・・・・・馬鹿ですね、弱いくせにしゃしゃり出るからそうなるんですよ・・・・・そんな台詞が脳内に浮かんだ
そりゃ止めたくは無かったけど・・・だって仕方ないだろう、無茶言うなよ・・・・僕はやっぱりレフェリーなんだから・・・・・・・・
それにしても僕は何でレフェリーになろうと思ったのだろう・・・・こんな危険と隣り合わせの仕事なんて選んで・・・・・・
あーあ、僕ってツイてないよなぁ・・・・・・つく・・・・・づ・・・・・く