プレッシャー!
「ルフ!腹だ!奴の内臓をぶち壊してやれ!」 「そのまま打ちのめしまえ!」 ルフ.バンディッドのセコンドが大声で叫ぶ。
「・・・ったくウルセェな!ちったぁ黙ってろよ!」リング上のルフはセコンドに舌打ちしながら怒鳴った。
そうほざくんならお前等がコイツとやってみろよ・・・・ルフは両手をやや上段に構えつつ眼前の相手を見つめつつそう思った。
ルフの正面には息も絶え絶えに立ちつくしている優香がいた、その顔には紫色に醜く変色した痣と鼻や口から噴出した血がこびり付いていた。
動きももはやぎこちなくトロンと生気の無い瞳がルフをじっと見つめていた。
「ルフ!何突っ立ってやがる!そんな奴とっとと沈めちまえ!」 セコンドが激を飛ばす。
「ウルセェって、言ってんだろうがぁ!」ルフが優香を見つめながら思い切り叫んだ。「そんな事ぐらい分かってるよ・・・・・」
流石のルフももはや優香に反撃の猶予は無い事を知っている。後一発、腹でも顎でも打ち込めばそれで終わる事も理解してる。
だが・・・・この威圧感は・・・・・・何だ?
どうして今にも死にそうな相手に、それもテクニックやパワーが圧倒的に自分より劣る優香にそんな物を感じるのか・・・・
ルフは恐らく今までの試合の中で一番長い思考に陥ってた。試合的に見れば圧倒的に有利で楽な試合なのだが・・・・・
「これが・・・・西岡の感じた感覚なのか・・・・・」 優香の事は西岡から聞いてはいたがまさかいざ正面に対峙して見ると
これ程のものとはな・・・・。ルフの頬から汗が一筋ツーッと流れた、それがひどく冷たく感じる。
目の前の優香は相変わらずフラフラ動きながら構えて立っていた。その虚ろな瞳でじっとルフを見つめながら。
長い、ルフにとってはかなり長い思考の後、意を決したように優香の前に素早く歩みよる。
自分の中に芽生えた得体の知れない「何か」を振り払うが如くルフは疾風のように、それでいて渾身の力を込めた一撃を
優香の顎に向かって振り上げた、「当たれ・・・・・・!」ルフは急激に加速するプレッシャーに襲われつつそう祈った。
その刹那、ほんの一瞬だが・・・・・優香の目が光った。
そして右腕がフッと素早く震えたようにルフには見えた、「クソッ!」思わずルフは目をつぶる。
グゥシャアッ!・・・・・・大きな音がルフの脳内に響き渡った。そして再び目を開けると・・・・・
目の前には大量の血を噴水のように噴出しながら宙を舞う優香の姿があった。
ドサァッ!と勢いよく優香の身体がマットに叩きつけられると同時にルフの足元にボトリと血に染まったマウスピースが落ちてきた。
同時に鳴り響くゴングと騒ぎ出す観衆、セコンド陣そしてリングに慌しく上がってくる救護班の連中。
ルフはそれらを放心しきった目で見つめていた、そしてゆっくりとレフェリーが自分の手を上げる。
「やったな、ルフ!圧倒的な勝利だぞ!」 セコンドが立ち尽くすルフに声をかける。
「・・・・・・・・仕留めたのか?・・・・・アイツを・・仕留められたのか?」ルフがぼそりと呟く、「?何言ってるんだ?お前の勝ちだぞ?」
セコンドが不思議そうに答える、「そうか・・・・・・・良かった・・・・・・・・でも・・・・・・」ルフが視線を下に落とす。
「また・・・・・・負けちまったようだね・・・・・・アタシは」 苦笑いを口に浮かべつつ血塗れのマウスピースを見つめつつルフがそう呟いた。