読書会での出来事(ケンカ) 

河原 博



 京都府宇治市で「シュタイナー教室」という学習塾を開いて17年、「学ぶこと」「大人になること」などを生徒と共に探し続けてきました。ふとしたことから知った平野さん(日本ホリスティック教育協会常任運営委員)の「もうひとつの学びの場」に刺激され、毎年5月から2ヶ月間週一回、「大人のための読書会」を行っています。塾生の母親、卒業生など10数名で読み進めます。

 今年は3回目。初めこそどうなることかとおっかなびっくりだったのですが、本を肴にそれぞれの社会観、人生観、子供観、お父ちゃん観までがどんどん出てきて、「なるほど。考えを言いたい、聞きたい、発散したい人は多いのだな」と、何とも楽しい会になっています。

 今年は遠山啓の「競争原理を超えて」を読みました。しかし、やはり25年も前の本。どうしても内容の古さ、現状とのずれはぬぐい切れません。そこで「プロ教師の会」が出す「最新の生々しい現状リポート」を織り込んでいくと、ちょうど良くなりました。会は進んでゆき、いよいよ総括のエピローグを残すだけ。今まで来られなかった人や学生、そして新風を入れるために平野さんをも招き、曜日を日曜に変え、場所を福祉会館に変えて最終回となりました。20数名が車座になり、読み進めては対話してゆきます。平野さんは期待に違わず、今までになかった角度から鋭い意見を入れ、会を引っ張ります。一方、母親達も負けてはいません。少々勉強はしてきているので、聞くべきは聞き、反論もまた平気で平野さんに投げ返します。和やかな中にも緊張感があります。

 そんなとき、並んで座っていた大学二年の男女二人(共に卒業生で講師)がケンカを始めました。

 「な!こう書いてあるではないか。それにしては、お前の指導はなんだ!生徒は軟弱になるばかりではないか」

と、どうやら昨日、生徒が少しふざけたことに腹に据えかねているらしい。

 「あんたに言われたくない!その言い方は時代遅れも甚だしい!」

 その様子と内容は、まさに今読んでいる「遠山啓」と「プロ教師」の対決そのままであり、読書などどこかに吹っ飛んで、皆そのケンカに見とれています。今時の若い二人が口角泡を飛ばしながら、眉をつり上げて論争する。・・・そう言えば、いつの頃からでしょう・・・このようなシーンを、どこにも見かけなくなったのは。その場にいた大人たちは、後で異口同音に「可愛いかった、おもしろかった、頼もしかった」と言いました。

 平野さんの指摘にもあったのですが、今時の若者が忘れているもの、無くしているものは、少々やぼったくっても、あのようにきちんと相手にぶつけていくエネルギーではないのでしょうか?おかげで会終了後、母親達は「いいものを見せてもらった」と喜んで帰ってゆき、私や平野さんは、卒業生10人ほどとの打ち上げの席で、そのホリスティックなケンカの続きを大いに楽しみました。当人達も少しは冷静に事柄を把握し、話し合えるようになりました。