河原シュタイナー教室

上棟式


 基礎コンクリートの上に角材をはわせ、所々をボルトで締める。
その上に、いっせいに柱が立ち上がり始めた。
 柱の先は梁につっこむように細工され、梁の下には穴が開いている。ただの穴ではない。木槌でゴン、ゴンとたたいて梁に入れたら、ギュッと吸い付くような、二度と抜けないような細工なのだ。

 1ヶ月前に材料を購入した棟梁は、一本一本の木を手に取り、図面をにらみ、
「ここの柱は壁に埋もれて見えなくなるから、このフシのあるものでもいいだろう。玄関のこの柱は、フシのないこれがいいだろう」
そうやって手作業で継ぎ目の細工をし、やはり一本一本を紙に包んでこの日を待たせたのだ。

工場の機械で継ぎ目のカットをやれば、それだけの本数が1日で出来るという。しかし、どこにどれを使うかという配慮もないし、
継ぎ目も簡単に入り、それだけでは何の強度もでない。強度は金具やボルトで持たせるのだ。手間をかけなければ経費を削減できる。

 簡単で安ければ・・・たいていの場合はいい。しかし、簡単に出来ないもの、してはいけないものもある。数学の学び、スポーツの上達、家造り・・がそうだ。
 5年や10年住むだけの「仮住まい」なら、安くていいだろう。
しかしこの教室は50年をにらんだ「終の棲家」である。受け継がれてきた棟梁達の知恵と技を総動員して、しっかりとしたものを造らなくてはならない。そこには適正なお金はどうしてもかかる。

 クレーンで持ち上げられた1階の最後の梁がゆっくり降りてくる。
何人もの大工達の手で受け止められ、慎重に位置を定める。真剣な眼差し、1つ1つの動きがとても雅だ。
ゴン、ゴンと打たれ、梁と梁のL字の継ぎ目がピタリと合わさり、見えなくなった。杉や松の圧倒的な香りに包まれて、1日目の作業は終わった。

棟上げとは、すべての柱や梁、すなわち家の骨格造りのことだ。
たぶん最も重要で大変な作業だから、多くの大工達が手伝い、一気に組み上げるのだ。2日目の作業は、2階と屋根だ。1階の梁の上に、いっせいに柱が立ち上がる。
 ふと下を見ると、1階の柱が埋め込まれた梁に1つ1つ棟梁が木のくさびを木槌で打ち込んでいる。気がつかなかった。すべての柱の継ぎ手にはやはり穴が開いており、梁に開いた穴と合わさっているのだ。木のくさびを打ち込んで、完全に固定するのだという。
昔ながらの宮大工造りだ。棟梁は言う。
「毎回完璧な家造りを目指している。けど、いまだに出来ない」

いよいよ屋根を支える最後の梁だ。それで棟上げは終わる。
ところが棟梁は、最後の梁を取り付けずに作業を終えてしまった。
 この教室の柱や梁は、見えるところはすべて吉野杉や松だ。
しかし見えないところは輸入材だ。お金が足りなかったからだ。
強さは変わらないが、白っぽくて気品がないという。屋根裏の柱はすべて輸入材だが、一番下の柱、一番短い柱の2本だけが見える。
その2本は松で作るつもりだったのが、輸入材で作ってしまったという。別に、その程度なら・・・
「ダメだ。今夜作ってくるから、明日取り付ける」

 1階に簡単に神棚が作られた。2度礼をし、2度手を打ち、1度礼をする。
2日間見守ってくれたマナベさんや三谷も礼をした。棟上げを支えてくれた大工達に、心ばかりの祝儀をわたす。

 我々はこれから長くこの教室で働き、この教室に抱かれて死んで行くだろう。それまでずっと、
「この教室はこうやって建てられた。立派に立ててもらったんだ」
と、心から感謝でき、安心していられるだろう。それはお金には替えられないものだ。

 順調なら12月には引っ越しだ。旧教室の最後の春と夏を、生徒達はどのように過ごしたのでしょう。少しだけのぞいてみましょう。

              塾長  河原 博







算数・数学  担当 河原

小6 (24期生)

 4月からスタートしたこのクラスは、倍数・約数の整数論から分数の四則を済ませてしまった。今の教科書では最後に分数のかけ算・わり算をやるが、全然練習にならず、まったくよくない。
先に済ませて、平均・体積・単位当たり量の話でどんどん分数の計算をさせて行く。繰り返すことでようやく身に付いて行く。
「俺、この計算苦手や・・・」
ヒロキ、自分の弱点を自覚してるってすごいぞ。
エミはついつい小数の計算を失敗する。あわてることはない。じっくり、ゆっくり身につけて行こう。
すぐに算数なんて恐くないことがわかってくるよ。



中1 (23期生)

 小学校から持ち上がったこのクラス。ずいぶん育ってきた。
正負の数、文字式の約束、カッコの使い方、方程式の解き方、文章題・・・どれほど重要なことを繰り返してきたことだろう。
この子達は頭で数学を捉えるのではなく、全身で数学に浸っている。
数年もすれば、自分の方向性を決めて行くときに、数学はこの子達の強力な道具となっているだろう。



中2 (22期生)

 この子達が去年入ってきたとき、155分が何時間何分かに直せなかったっけ。もちろんこの子達の頭が悪かったのではない。
カリキュラムのせいなのだ。
 反復をさせず、基本しかやらせない「ゆとり教科書」
すると、基本すら身に付かないのだ。応用、発展問題を正しく学ぶとき、初めて基本が定着する。
 この子達は正しく学んできた。ものすごく伸びた。年内に中2の範囲を終えようとしているほどだ。どの子も数学が得意になっている。チャンスだ。徹底的に伸ばしておこう。



中3 (21期生)

 「算数は苦手や」と言う子が多かったこのクラス。
「難しすぎる。もっと基本をやるべきや」そういう子もいた。
もちろん基本は徹底する。そして発展も考えるのだ。
考えて、考えて、考えて・・・よくわからないままに帰って行く。
2年経って、いつの間にか数学が自分の内に入っていることに気づく。
あれほど恐ろしかった数学が、恐くない。顔つきも仕草もすっかり落ち着いている。まだ少し不安な子もいるが、落ち着いて高校受験を迎えられるだろう。



高校1年 (20期生)

 因数分解の発展、実数論、2次関数、場合の数。
なんとまあややこしいところを、何とか進んでこられた。
毎年のことだが、高1は一種のカルチャーショックを受ける。
どの教科も中学時代より格段にレベルが上がるからだ。
真剣に教科と向かい合わなくてはならない。
厳しく、厳しく育てよう。すぐ側で共に歩いてやれるのは、あと2年半しかない。



高校2年 (19期生)

 整式論に相当時間を取られた。数式を好みの形に変形できるよう、かなり深くまでやる必要があるからだ。
平面ベクトル、3角関数、数列。
表面だけ触って通り過ぎようとする奴はビシビシ鍛え、それなりの力はついてきたか。
私が側を離れても自分で歩いてゆけるよう、もう少し鍛えなくてはならない。



高校3年 (18期生)

 私の予想を、いい方に裏切り、ものすごく伸びたクラス。
もうこの子達はいつでも、私の元を離れても大丈夫だ。
最もこの教室の生徒らしい、自慢の子達。
あとは大学選びだけである。





数学  担当 三谷

中1 (23期生)

明るくて元気いっぱいなクラス。
まだまだ子供だが、だからといって甘えていてはいけない。
学ぶべきことはきちんと学び、理解する楽しさをともに見つけていこう。それができるクラスだと信じている。



中2 (22期生)

 理解することの喜びを味わえていないクラス。
数学に限らず、何事でも理解できると楽しいもの。この楽しさを味わえるようにこれからはより一層気を引き締めていこう。
もう、甘えていられない。本当に「学ぶ」こと、それを追求していこう。



中3 (21期生)

 全員がレベルの高いクラス。
みんながあたりまえのように数学を理解し、自分に必要なことを自らできる。
これからは数学の持つ洞察力、論理力を高めていき、中学生が到達できる最高のところを目指していこう。



高2 (19期生)

 昨年からの1年で本当に大人に近づいた感じを受ける。
それぞれが自分のしなければならないことを認識し始めたのだろう。
これからさまざまな場面で自分の現状を目の当たりにするだろう。そこから目をそらさずに、最終目標につながるステップを自ら設定し、こなしていってもらいたい。





英語  担当 大山

中1 (23期生)

be動詞と一般動詞の区別、ここは毎年混乱する生徒が続出するところなのだが、今年は夏休み前の段階でほぼ全員が比較的すんなりとマスターできた様子。夏には、これに加えて「名詞の複数形」と「3人称単数現在のs」を学んだ。理屈の理解は一通り済んだとはいえ、特に「3単現のs」については練習の積み重ねによる慣れが必要。2学期にはおそらく「理屈」も忘れているだろうから、またしつこく基礎から復習する予定である。
教室の空気は、4月当初の緊張感が薄れてきている。良く言えば「寛いできている」のだが、悪く言うなら「だらけてきている」ので、2学期以降は気をひきしめて勉強に取り組んでいきたい。



中学2年 (22期生)

この学年は例年より進度が速く、品詞の働きや、to不定詞、動名詞の基礎なども夏休み前に一通り済んでしまっていた。夏には、接続詞の学習の続きから入り、特にSVが2組以上出現する従属接続詞をかなり念入りに扱ったあとで、いつもなら秋頃に取り組むはずの「比較」まで進んでしまった。やや急ぎすぎている感もあるが、2学期以降もこの調子でどんどん快調に進めていこうかと考えている。



中学3年 (21期生)

文法という理屈の定着に苦労してきた学年。生徒たちの成長に伴って、文法の理解もようやく深まってきた様子であり、まずは一安心。夏にはto不定詞の仕上げを行ない、入試でも頻出の仮主語itの構文などを徹底的に行なった。また、とにかく覚えなければどうしようもない不規則動詞の暗記課題も夏から本格的に開始することにした。不規則動詞については、ほとんどの生徒が予想以上の熱意をもって取り組み、嬉しい驚きを感じている。



高校1年 (20期生)

1学期は文法中心に基本例文の暗誦に力を入れてきたのだが、例年に比べ進度は思わしくない。また、短文ばかり扱ってきたせいか、やや長めの文章の読解力や、基本的語彙も不充分なままである。夏は、文法よりむしろ読解に重点をおいて、やや長めの文章を正確に読みとる訓練を行ない、同時にディクテーションなどの課題を通じて、英文の骨組みや語彙を体に定着させることを試みた。2学期以降は少しピッチを上げて、再び文法中心に授業を進めて行く予定。



高校2年 (19期生)

1学期までに文法はほぼ全範囲を学習し終えることができた。夏は、まとまりのある長文にチャレンジすることとし、E.A.ポーの『黒猫』のリトールド版(原文を優しい英語で書き換えたもの)を読んだ。個人差はあるが、ほとんどの生徒が予想以上の読解力を示してくれた。2学期以降は文法の残りの部分を早めに片づけてから、より高度な英文に取り組んで行く予定。



高校3年 (18期生)

4月から文法の確認と平行して進めている短文暗誦課題は順調に進んできている。夏は、難易度高めの長文を丁寧に読むことに重点を置き、主に京大の過去問から長文問題に取り組んだ。現段階では、語彙などの知識が量的にまだ不足しているが、英文読解の正しい基本姿勢は十分にできあがっていると見ている。2学期以降、入試本番まで、多くのテキストを正確に読む訓練をひたすら積み重ねることによって、必要な知識が自然に身に付いて行くようにしていきたい。





物理  担当 三谷

高校2年 (19期生)

 夏の授業では全員が大きく伸びた。
新課程になってから学校ごとに授業の進め方が異なるので、学校にはあわせていない。そのために生徒には負担が多くなるが、それは覚悟してもらうしかない。
しかし、そんなことも気にせず全員が予想を越えてくれている。このまま気を抜かずに理解することを続けていってもらいたい。これからが楽しみなクラスである。



高校3年 (18期生)

 夏の授業で、高校生が学ぶすべての範囲が終了した。9月からは全範囲を復習をし、大学入試の準備をしていくが、後は調整をするだけだろう。
みんな本当によく頑張ってきた。あと少し、入試問題をこなしながら物理のさらに奥深いところを追求していこう。