河原シュタイナー教室

 

2003                     

 

 淡路島の最南端、鳴門大橋のすぐ側に「阿万海水浴場」はある。

浜に座って海を見渡すと、右手にその鳴門大橋と徳島が見える。

左手は山が岬のように海に突き出しているが、中程に巨大な扇風機が回っている。塔の高さは560b、プロペラのような3枚の羽根は30bほどもあろうか。たぶん風力発電なのだろうが、音もなく回る羽根は心地よいモニュメントとなっている。

 暑い夏の日、海辺の空気はレンズのように透き通り、そんな景色を眺めているのが私は好きだ。

 

 海の水もとてもきれいで、乾いた風が吹き抜ける白浜には、淋しくない程度に人が出ている。これくらいが一番いい。

 この夏はここが三つ目の浜だが、すでにすっかり「ガン黒」になっている娘と息子は、やはりここでも海から出てこない。シュノーケルで底を探索し「魚の群れだ」「ヤドカリがいる」などと叫んでいる。子どもにとって、海の中ほど神秘的でおもしろいものは滅多になかったっけ・・・

 シュノーケリングに飽きると、少し沖にある、ポリタンクをいくつもつなげた浮島まで泳いで行き、上に登ってしばらく寝そべっている。夏の海は、何をやってもおもしろい・・・

 

 ヘルメットをかぶり、自転車にまたがった体操服の中学生が20人ほどやって来た。荷物など何も持っていない。浜に出てくると、その場で服を脱ぐ。女の子は皆、黒のスクール水着だ。すぐに海に飛び込んで、ワイワイとやっている。地元の中学生なのだろう。

 

 売店にビールを買いに行くと、白人の若い女性が水着で歩いてくる。アイスクリームを食べていたスクール水着が、つと近づくと

「ハロ〜」と声をかけた。『なんて度胸のある娘だ!』と驚いていたが、どうやら中学の英語講師のようだ。

 剣道部の皆が泳ぎに来ていたようで、英語講師も驚き、皆のところへ行って、楽しそうに話している。何ともほのぼのとする一場面だ・・・・

 海へ戻ると、いつの間にか高校生軍団もやってきており、すっかりにぎやかになっている。

 中学生はスクール水着であったが、女子高生はカラフルで大胆なビキニを着ており、少々驚いた。まったく日焼けしていないところを見ると、バスケットボール部か何かだろう。トレーニングとレクレーションをかねて来ているようだ。

 男の子達は無関心を装って泳いでいるが、内心はどうなのだろう?同世代の女の子の、あんなに大胆なビキニに、平常心でいられるはずがない!

 

 一時間ほど泳いでいた高校生達は、海から上がり、やはり浜に脱ぎ捨ててあったジャージとシャツを取ると、ろくに体を拭きもしないで水着の上から着て、すぐに帰っていった。

 な、なるほど!これが地元の子の海遊びなのだ。ちょいと水風呂にでも入る感じでやって来て、さっさと帰る。着替えは学校の教室にでもおいてあるのだろう。

高校生達が帰ってしまうと、浜辺はまた、少し静かになった・・・

 

時には荒れ狂うこともある海の、しかし、なんと包容力のあることだろう。どの世代、どんな立場の人間も、それぞれに楽しませてくれる。

特に私の息子や娘のような子どもには、海の中で見たもの、触れた波、乾いた風などは、頭の中からはやがて忘れ去られるものではあっても、心の栄養として、その身体の中にとけ込んで行くことだろう・・・海は何もしていない。ただ小さな波をたたえているだけで、何も変わらない。

 

それはシュタイナー教室の理想の姿だ。教室自体は何も変わらず、子ども達がそれぞれに心の栄養を取り入れて行く・・・

 

そんなことを願う教室で、今年の前半、子ども達はどのように過ごしたのでしょうか。少しだけ覗いてみましょう。

 

 

        (シュタイナー教室 塾長 河原 博)

 

(数学  担当 河原)

 

1

 

 まだまだ中学生にはなりきっておらず、無邪気に話し合い、一生懸命数学にも取り組む子達。その方向性はとても良い。

 「赤と黒」のゲームにもワイワイと取り組むうち、いつの間にか負の数の足し算や引き算を身につけた。かけ算の約束は簡単だった。

文字式の扱いはややこしいけど、基本は十分身につけたので、方程式の文章題でどんどん実践して行こう。

 どこにでもいる普通の子達。しかし心の中で、方向性の第一歩は確実に踏み出した。この子達は、どんどん良くなっていくでしょう。

 

 

2

 

 少しゆとりのあったこのクラスも一杯になり、「学ぼう」とする雰囲気に満ちてきた。もう去年までの「子ども」ではない。

 直線の傾きとはどういう物なのか、平行線の力とは何なのか、

「考え方」だけがあって「公式」がない数学なんて初めての経験だった。一つ答えを出しても「別の考え方では?」なんて言われて、それで終わらない数学・・・

 初めはとまどったけれど、それが本当の数学だ。そのおもしろさを、さらに深めて行こう。きっとそれはお前たちの大人への第一歩だ。

 

 

3

 

 あんなにチビだった二年前。もう私より大きくなった子もいる。

その方向性の良さ、思考力の高さは、歴代でもトップクラスにまで成長した。「努力しなければならないことはあるし、その努力は誰にでもできる」と言うことを、この子達は身体で理解している。ここまでレベルが上がってくると、もう崩れない。望む方向へ進んで行くだろう。しかしそれ故、逆に、預ける高校を慎重に選んでやらなくてはならない。名前だけで預けることのないように・・・

1

 

 突然教科のレベルが上がり、とまどいを見せる時期。一つ一つ乗り越えて行くしかないし、それができつつあるクラス。

 ただ、教科の難易度などはどうにでもなるが、「有名校」のスピードの速さといい加減さだけは、どうにもならない。

大量の宿題を出してめくら判。チェックなど入れない。一人一人の理解度などどうでも良い。ついて来れない奴が悪い・・・

もうこの子達を守ることだけで精一杯だ。来年、この高校へは誰も進ませない。

 

 

2

 

 まだ自分の足元がよく見えない。それだけ力の弱い子が多いクラス。しかし何とか意識だけは創り上げてきた。それだけでいい・・・とは思わない。後は技術力も必要だ。この子達の意識を自ら支えるだけの技術力が・・・

 この後半で高校数学が一通り終わる。すべての知識が総動員されてくる。あと半年でできるだけレベルを上げておきたい。場合によっては冬休みの授業もあるかもしれない。

 鉄は熱いうちに・・・・

 

 

3

 

 紛れもなく史上最強のクラス。個性、方向性、意識、技術、どれも申し分ない。

 しかしそれだけに、望む進路も史上最強だ・・・あ、頭が痛い。

少しも楽をさせてもらえないが、大山、川戸、山田の力をも借り、思いっきり頂点を目指してみよう。

 たまにはこんなクラスもあって良いだろう。ただし、すべてがこのクラスのようではない。たまたま現れただけだ。

 しかし世間では、シュタイナー教室のすべてのクラスがそうだと思っているらしい。・・・あ、頭が痛い・・・