序にかえて(ある夏の日〜忘れてならない笑顔と心)

堀川通りをどんどん北へ行くと、鞍馬の看板が出るだろう。
指示通り進めば鞍馬寺だ。
しかし今回はさらに先へ進み、4才の娘が車酔いするほどの峠を越えると、ようやく花脊だ。

山だらけの花脊の中程に「交流の森」という広場があり、その日は「森都市フェスティバル」が行われていた。

広場の前を流れる透明な川で子どもが遊び、いかだを作る。
畑でトウモロコシを取ってきて、炭火で焼いて食べる。
木工、竹細工教室、魚つかみ・・・盛りだくさんだ。
子どもを遊ばせておいて、私のねらいはしかし、
午後から「森愛館(しんあいかん)」というホールで行われる、
京都フィルハーモニー室内合奏団の演奏を聴くことにあった。

ただの体育館とも言うべき森愛館は、上部がガラス張りで、
強い日差しの中、杉山がよく見え、下のドアはすべて開いている。
陰ならクーラーなどいらない。
200ほど並ぶパイプいすは、水着のままの子どもや、
首にタオルを巻いた、半袖・短パン・ゴム草履の大人ですぐにいっぱいになった。

20人ほどの団員がステージに上がってきたが、なんと彼らもまた私服だ。
「なんだ、なんだ?楽器を持ってなかったら、ただのおっちゃん、おばちゃん・・・だぞ」

一人、すごい美人が司会をする。京フィル専属のソプラノ歌手だそうで、やはり良い声だ。
ホームストレッチ(アンダーソン)という曲から始まった。
ただのおっちゃん、おばちゃんではなかった・・・
確かな技量、確かな音色が響く。
まるで山全体が演奏しているようで、聴衆全員が一気に引き込まれてゆく。
一曲が終わると、心から拍手をする。
何より良いのは、団員の表情だ。フルートのおっちゃんの笑顔が語っている。

「リラックスして演奏したけど・・・そうですか、気に入っていただけましたか・・・ありがとう・・・私の演奏で良ければ、どうぞ楽しんでください」

何も飾らない聴衆と団員の、拍手と笑顔で贈りあう、ありがとう・・・
「森の静けさ」という曲では、その場の山と太陽と空気に優しくつつまれて、幸福感でいっぱいになり、涙が流れてきた。
クラシックには不思議な力がある。

美人ソプラノのプロの声のすごさは皆を圧倒し、子ども達とのコミカルな共演は皆を笑わせる。

京フィルのステージを見ていると、同じプロなのに、
教育界の忘れているものがはっきりする。

確かな技術、楽しませようとする創意工夫。そして、自らも楽しむ、笑顔とありがとう・・・だ。
私は、あのフルートのおっちゃんでありたい。


それでは今年のシュタイナー教室を覗いてみましょう。

                (塾長  河原 博)