敷地の周囲を常緑に彩られた静かなその正門前に、一台のタクシーが停車した。
「どーも!」
ドアの開いた後部座席から、一人の少年が降りてくる。
肩に着く位の茶色い髪を緩く結い上げ、身体より少し大きめの服を着流した少年は、降りてすぐに目の前に広がる校舎を見上げた。
「ほえ~やっと着いたー。」
感慨深げに呟くと、手にしていたディバックを肩にかける。
乗ってきたタクシーがゆっくりとその場を離れていくのを見送ってから、少年は正門をくぐった。
歩く度に無造作に肩に掛けたディバックが揺れて、ガサガサと音をたてる。
それを気にするでもなく、少年は正門から校舎の方へ向かってゆっくりと歩き始めた。
「ここが青春学園か……。」
まだ、どこかあどけなさを残すその声は、心なしか嬉しそうに弾んでいた。
しばらく歩いていると、終業を知らせるチャイムが遠くから聞こえてくる。
「さあ~ってと!軽く挨拶にでも行くか!」
そう言って校舎を見上げた少年――はニヤリと笑みを浮かべた。
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「とは言ったものの……肝心のあいつが何処に居るかなんて分かんないんだよな~どうすっか……。」
フラフラと歩き出してはみたものの、探している人物が今何処に居るのか、かいもく見当がつかない。
最終的に、テニスコートに行けば会える可能性は大きかったが、そのテニスコートの場所さえも分からないにとっては、どちらにしても状況は変わらなかった。
学生に尋ねてみても良かったが、授業が終わってまだ間もない為か、近くに人影はまるで見当たらなかった。
「仕方ない……散歩がてら探索してみるか。」
茶色の髪をガシガシと掻いて、は再びフラフラと歩き出す。
その足取りは軽かったが、歩くスピードは外見に似合わず比較的のんびりとしたものだった。
「にしても……大きいトコだよなー。あいつ、こんな所通ってたのか。」
見慣れない景色に、きょろきょろと辺りを見回しながらは感嘆の溜息をもらす。
確かに、青学はこの辺りでは有名なマンモス校だと聞いてはいたが、聞くのと実際それを自分の目で見るのとでは、やはりかなりのギャップがある。
自分が想像する学校像が小さいものだとは思わなかったが、青学の規模の大きさは自分が想像していたよりも、遥かに上だった。
「でも、まあ…良さそうじゃん。」
校舎脇の大きな大木から漏れる木漏れ日を見上げて、はニコリと笑みを浮かべる。
明日から自分も通うことになる、この青学の雰囲気をは一目で気に入ってしまった。
今まで自分の周りには無かった環境、風景、空気。
そして何より数ヶ月ぶりに会える、自分にとってかけがえのない存在。
その全てが今の自分を高揚させる。
は気を抜くとスキップでもしてしまいそうな気持ちを抑えて、人の居そうな所を探して歩き続けた。
「あれ?」
暫く広い敷地内をぼんやりと歩いていると、急に目の前の景色が開けて渡り廊下のような所へと出る。
さっきまで歩いていた所とは一変して、人の気配が多くなった事に気付いては足を止めた。
渡り廊下の少し先の方に人垣が出来ていて、生徒達が何やら騒いでいる。
そのざわつく人垣を見て、はその騒ぎの方へと足を向けた。
「オイ!面白い事になってるぜ!」
「1年と2年の対決だろ?!」
「そうそう!フリースロー対決らしいぜ。一人はバスケ部の2年だけどさ、もう一人の1年の方はテニス部だってよ!」
「何それ?!勝ち目無いじゃん!」
「それがさ、何か互角らしーよ。」
「へえ~~見物じゃん!!」
ザワザワとしている人垣の中で、様々な興奮した声が飛び交う。
その騒ぎを横目に見ながら、は人垣から少し離れた見通しの良い場所へと移動すると、騒動の中心であろう二人の少年達の方を見やった。
当初はこの騒ぎにそこまで興味を惹かれた訳じゃ無かったが、『フリースロー対決』という言葉を耳にしてしまった以上は、そのまま通り過ぎるわけにはいかない。
は背負っていたディバックを足元のコンクリートの上に置くと、品定めをするかのように目を細めて腕を組んだ。
遠目にも身長差のある二人の少年の姿がハッキリと見て取れる。
「あれ……?」
その内の一人、左手に掃除用の箒を手にした背の低い方の少年の後ろ姿を目にして、は目を瞬かせた。
「……リョーマ………??」
探していた当人の姿には目を丸くする。
ここからでは後ろ姿しか見えなかったが、それは間違いなくリョーマのものだった。
「って事は、リョーマが1年のテニス部員ってやつ?ったく!あいつってばいつも騒ぎの元凶なのな……。」
は腕を組んだ姿勢のままで、騒動の中心に居るリョーマに小さく苦笑する。
昔から意思表示のハッキリしていたリョーマは、いつも何かにつけて騒ぎのタネになる事が多かった。
大抵は、リョーマよりも相手の方に何か非があったが、リョーマの負けず嫌いが状況をより悪化させてしまうのも、また否定出来ない事実だった。
そう考えると、おそらく今回も何かよほどの事があったんだろうと思う。
数ヶ月でそうも変わるとは思わなかったが、やはりここでも以前とまるで変わらないリョーマの姿には更に笑みを深めた。
「変わらないなあ、リョーマってば。」
「へえ~越前君の知り合い?」
「え?」
物思いにふけりながらぼんやりとリョーマを見ていたは、ふと後ろから掛けられた声にビクリと肩を震わせる。
昔から、人の気配には比較的敏感な方であるが全く気付かないうちに、いつの間にか背後に立っていた少年に、大きな目を零れんばかりに見開いてはその姿を凝視した。
「ああ、ごめんね。驚かせちゃったみたいだね。」
「あ…いや、別に………。」
言葉とはうらはらにニコニコと笑みを浮かべるその姿は、決して悪びれた素振りなど感じられなくて、は僅かに言葉を濁す。
別に多少驚いた位でそれを責めるつもりは毛頭無かったが、ここまで悪びれる様子も無いのには、いささか戸惑いを隠せない。
何と言うべきか、暫くの間逡巡したが口を開くより前に、声を掛けてきた少年は視線を巡らせてリョーマ達の方を指差した。
「ねえ、あれ…止めなくて良いの?」
こうしている間にも、事態はますます大きくなっていて、周辺一帯はかなりの数のギャラリーで埋め尽くされている。
その少年の指し示した方――リョーマの姿を目で追ってから、は楽しくてたまらないというように笑ってみせた。
「ああ、止めても無駄だしね。ああなったら、とことんやらせる方がいいから。それにリョーマは負けないし。」
「勝つって信じてるんだ?」
「んーちょっと違うな。『知ってる』んだ。」
意味深な言葉で隣に立つ少年に笑ってみせて、は再び視線をリョーマ達の方へと向ける。
折りしも、バスケ部の2年生との勝負は佳境に入っていて、何度目かのフリースローを外したバスケ部員が己のミスにうなだれている所だった。
(あれを入れればリョーマの勝ちか……。)
じっとリョーマを見詰めて、は口元を綻ばせる。
あの様子なら、リョーマが次を外す事はまずありえない。
リョーマの勝利を確信して、はにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「その辺がテニスの距離…だよな越前。いるだろ、コレ。」
「サンキュー桃先輩。」
視線の先のリョーマが、手にしていた箒をラケットに持ち替えて、遥か前方のゴールを見据える。
リョーマの手から離れたボールがフワリと宙に舞った瞬間、リョーマの腕が大きく振り下ろされ、綺麗な弧を描いてボールはゴールへと吸い込まれていった。
「ねえ先輩……言っちゃ悪いけど…まだまだだね。」
周囲の歓声や驚愕するバスケ部員を横目に、リョーマはニヤリと笑ってみせる。
その表情は誰よりも自信に満ち、周りを圧倒させるだけの力強さを持っていた。
「もう少しマシなプレイした方がいいんじゃない?こんなレベルでいい気になってると足元すくわれるよ。」
「なんだと?!」
それまで呆然とうな垂れていたバスケ部員が、リョーマの言葉に激しく反応する。
そんなバスケ部員の様子を特に気にするでもなく、リョーマは地面に転がったままのボールを拾ってから、壁に立てかけてあった箒を手に取った。
「桃先輩…これ。」
今まで手にしていたラケットを、すぐ側まで来ていた桃城に返し、リョーマはラケットを担ぐように箒を左肩に担ぐ。
「先輩、イキがるんなら、もう少しマシになってからの方がいいよ。」
「ぐっ!…じゃあ、てめえはどうなんだよ?!そんなに言うんなら、てめえもやって見せろ!!」
「やだね。俺テニス専門だから。」
凄い剣幕でリョーマに食って掛かるバスケ部員に、リョーマはあっさりとそう答えてスタスタと歩き出してしまう。
そのやる気の無さそうな素振りに、相変わらずテニスの時以外は面倒くさそうにしているな――と思いながら、は微かに苦笑した。
「ケッ!逃げるのかよ、腰抜けが!!」
ふと飛び込んできた言葉に、完全無視を決め込んで歩いていたリョーマの肩がピクリと反応する。
「誰が腰抜け?」
箒を担いだまま首だけで振り返ったリョーマの顔は無表情だったが、その瞳はいつもよりも更に鋭い光をたたえていた。
しかし、そのバスケ部員の言葉に過剰に反応したのは、リョーマだけでは無かった。
バスケ部員の発した言葉に、二人の様子を見ていたの表情も、一瞬にして強張る。
先程までの穏やかな笑顔はすっかりなりを潜め、眉間に深い皺が刻まれるほどに、の表情は大きく激変した。
「………にゃろう…………っ。」
ボソリと呟くと、は隣に立っていた少年の制止を振り切って、周りを囲む人垣を乱暴に掻き分けると、ズカズカとリョーマを腰抜け扱いしたバスケ部員の前に立ち塞がった。
「何だてめえは?!」
「っ?!っっ??!」
バスケ部員とリョーマの驚きの声が重なる。
突然のの姿に、驚いたように声をあげたリョーマの方ににっこりと微笑んでみせてから、は自分より一回り以上も大きなテニス部員の顔をキッと睨みつけた。
「あんた!ずいぶんな事言ってくれるじゃん。リョーマへの暴言、取り消しな!」
「暴言だぁ?」
「リョーマの事『腰抜け』って言っただろーが!」
「腰抜けを腰抜けと言って何が悪い?!えらそうな事言っても、逃げ出しやがったのはこいつの方なんだからな。」
バカにしたように鼻でせせら笑うバスケ部員の姿に、の眉が更に吊りあがる。
もう、これ以上は我慢の限界だった。
何より、リョーマを侮辱される事が耐えられなかった。
「そんなに言うんだったら、俺がリョーマの代わりに相手してやるよ!そのかわり、俺が勝ったら土下座してリョーマに謝れよ?!」
噛み付かんばかりの勢いで、人差し指を突きつけると、は相手を睨みつけたままキッパリと言い放った。
「いいぜ。そのかわりお前が負けたら、そのガキ共々土下座してもらうからな。」
の言葉に、最初から見下したようにニヤニヤと笑みを浮かべて、バスケ部員は自分が手にしていたバスケットボールを差し出してくる。
そのボールを奪うようにして取り上げると、はリョーマの方へと視線を向けた。
「、何でこんな事するのさ……。」
振り返ると、何とも言えない表情を浮かべてリョーマがの頬に両手を添える。
そのままリョーマの透き通るような茶色の瞳にじっと見詰められて、は困ったように瞳をそらした。
「ごめん、リョーマ。でも、俺にやらせてくれよ…な?」
「あんな奴、が相手する必要ないよ。」
リョーマファンクラブの会長を自負している小坂田朋香あたりが見たら悲鳴をあげそうな、誰にも見せたことの無い穏やかな笑みを浮かべて、リョーマはの柔らかな前髪をそっと掻き揚げる。
すぐ後ろで様子を見ていた桃城が、リョーマのその表情に驚愕の表情を浮かべたが、そんな事も目に入らないといったように、リョーマは何度もの髪に手を伸ばした。
触れる度に色素の薄い茶色の髪がサラサラと零れ落ちるのを満足そうに見ながら、リョーマは何度もの髪に指を絡めては、その柔らかな感触を楽しむ。
愛撫と言ってもおかしくないようなリョーマのその仕草に、くすぐったそうにしてみせるの姿は、それだけでリョーマのささくれだった感情を抑えるのに充分だった。
「だって、あいつリョーマの事腰抜けって言った。許せないんだよ!」
上目遣いでリョーマを見ながら、はその柔らかな頬を膨らませる。
「、怒ってくれるんだ?」
「あたりまえだろ!リョーマの敵は俺の敵なんだからな。」
「がいてくれれば、他は全員敵でも構わないんだけどね、俺は。」
の言葉にニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせながら、リョーマはの首に腕を回して、その自分とさほど変わらない小さな身体を引き寄せる。
鼻先が触れるか触れないかまで近付いた二人の距離。
コツンと額をあわせると、すぐ間近にの照れたような瞳があって、その表情にリョーマは満足げに笑みを浮かべた。
「すぐ終わらせてくるからさ、待っててな?」
「本当に大丈夫、?」
両手での頬を包み込んで、今度は滑らかな頬の感触を楽しみながら、リョーマは心配そうにの瞳を覗き込む。
「リョーマは俺の力信じらんない?」
「そんな事あるワケないじゃん。」
「じゃあ、そんな顔する必要ないだろ?」
スルスルと頬を撫でられながら、はきょとんとした表情を浮かべてみせる。
何故リョーマがこの対戦をそこまで嫌がるのか、にはさっぱり分からなかった。
確かに好きでこんな事したいとは思わないけれど、リョーマの反応はにとっては少し過敏に思えてならなかった。
そんなの姿に僅かに眉を寄せて、リョーマは少し大げさに溜息をついてみせる。
「…………俺が嫌なのは、俺の大事なが、あんな奴に関わる…って事なんだけど?」
「リョーマ………。」
思いもしなかったリョーマの言葉に、はほんの一瞬驚いたように目を見開いてから、すぐに嬉しそうに破顔する。
昔から自分にとって何にも替えがたい、かけがえのない存在であるリョーマ。
そのリョーマが、自分の事を大事だと公言してくれる。
たったそれだけの事だけれど、は踊り出したいほどの幸福感を感じていた。
自分がリョーマを想うように、リョーマにとっても自分が特別な存在であると思うだけで、自然と顔がニヤけてしまうのを抑えられない。
「俺だって同じ!だからさ、俺があいつをねじ伏せるの…応援してくれよ、な?」
甘えるような、ねだるような眼差し。
上目遣いに見上げてくるのその視線に、リョーマは困ったように苦笑して肩をすくめてみせた。
「そんな顔されちゃ止められる訳ないじゃん。」
「サンキュー、リョーマ!!」
リョーマの肩口に顔を埋めて、は満面の笑みを浮かべる。
「さて……そーゆー事だから……さあ、いこうか!」
リョーマから離れて、一回だけボールを弾ませると、はボールを片手にゆっくりとゴールに向かって歩き出す。
さっきまでリョーマに甘えていたのとはまるで別人のような、自信に満ち堂々としたの表情と立ち振る舞いに、その場に居たバスケ部員をはじめ周りを取り囲んで見物しているギャラリー達は小さく息を呑んだ。
「俺の大事なリョーマに絡んだ罰だ。完膚なきまでに叩き潰してやる!俺はリョーマみたいに優しくないからな!!」
そう言って相手を睨みつけたは、誰もが見惚れるような美しいシュートフォームで、手にしていたバスケットボールをゴールへと放り込んだ。
「へえ~~そんで、そんで??」
子供のように目を輝かせて話の続きを促すと、菊丸は両手の拳ををぎゅっと握り締めた。
放課後の部活の時間は既に始まっていたが、部長の手塚と副部長の大石が居ないのを良い事に、菊丸・不二・桃城・リョーマの4人は先程まで校内を騒がしていたバスケ部員との対決の話で大いに盛り上がっていた。
「うん、結局くん全部ゴールに入れちゃったよ。」
「当然っス!が外すわけないし。」
菊丸の問いにニコニコと答えた不二の言葉を遮るようにして、リョーマは当然とばかりに胸を張ってみせる。
自分の事でもないのに自慢げにしてみせるリョーマの様子に、小さく苦笑して不二は隣に立つを見下ろした。
「一本目は普通にフリースローのライン上からだったんだけど、二本目は片手、三本目は目を瞑って、四本目は後ろ向き、五本目はスリーポイントエリアから、最後はハーフライン上から…で、全部入れたんだよね?」
「まあ…あれ位別にどうって事ないし。」
菊丸の興味深げな視線と、不二の賞賛に照れながらも、は素直に笑顔を浮かべてみせる。
事実、にとってそれだけの事は、本当に大した事では無かった。
リョーマがアメリカのテニスの大会で優勝の常連だったように、もバスケットの本場アメリカで名前を知られる程の実力者だったから、今日の勝負などにとって大したレベルのものではなかった。
だから、完全にが勝利をおさめた時に湧き上がった歓声を聞いても、あれ位で騒ぐ方がどうかしている――と思ったのがの正直な感想だった。
「すっごいじゃん!普通にやるだけじゃなくて、そこまでやったなんてさあ!」
「そうッスよね?『相手の土俵で完全に叩き潰した方がスッキリするだろ』って言ったアレ、シビレたぜぇ~!このこのぉ~!」
リョーマにするようにグリグリと髪の毛をかき混ぜると、桃城はの首元を挟んでグイグイと締め上げる。
その激しいスキンシップに、成すがままになってしまったは、力強い桃城の腕に翻弄されて、バタバタと暴れるしかなかった。
「わわわわわっ!」
「ちょっと!桃先輩、気安くに触んないでほしーんスけど!!」
「何だよ~別にとって食う訳じゃないだろ?かてー事言うなよ、な?」
ニヤニヤと笑う桃城に不機嫌そうに顔をしかめて、リョーマは無言で桃城の腕からを引き剥がす。
「ぷはっ!!」
「大丈夫??!」
「んー平気。」
桃城の腕の中から開放されて大きく息をついたは、暴れて真っ赤になった頬をほころばせてリョーマに微笑んでみせた。
「…………ところでさー、実はさっきから気になってたんだけど、ってさ、おチビとどういう関係なワケ?」
「あ、俺もそれは気になってたんだよな。どーなんだよ越前?」
「そうだね、僕もずっと気になってたんだ。二人はどういう関係?」
菊丸と桃城の言葉に不二も頷いてみせる。
いつの間にかこの空間に溶け込んでいたから誰も疑問に思わなかったが、は一度も自己紹介らしい事をしていなかった。
「俺たちの関係?ああ、そういえば自己紹介してなかったよな。俺の名前は越前。リョーマとは双子の兄弟です。」
「「「えええええ~~~~~っっっ??!!」」」
の爆弾発言に、3人それぞれが驚きの声をあげる。
そのあまりの過激な反応に、周りで練習していた他の部員達が何事かと振り返った。
「う…嘘だろ?!信じられねえな、信じられねえよ!」
「全然似てないじゃん……。」
唖然とした菊丸の言葉に、はニヤリと笑ってみせる。
「と、言われても、正真正銘俺はリョーマの双子の兄なんだけどね。二卵性ではあるけど。」
な?と、より笑みを深くしてリョーマに向き直る。
その表情は誰に向けられるものよりも優しげなものだった。
「まあね。は母さん似だから。」
「リョーマは、どっちかっていうと父さん似だって言われるよな?」
「……ムカつくけどね……。」
「何でさ?」
「あのバカ親父に似てるって言われても、嬉しくも無いね。」
「でも、俺リョーマの顔一番好きだけどなー?」
そう言ってリョーマの顔を覗き込んで、はクスリと笑みを浮かべる。
リョーマが自分で言う程父親似なのを嫌がっているわけではないのは分かっていたし、何より自分にとってリョーマが一番なのは考えるまでも無い。
「~~!」
の言葉に嬉しそうに表情を和らげて、リョーマはの柔らかな頬に何度も口付けた。
「何だよ、リョーマ。くすぐったいってば!」
その啄ばむようなキスの雨に、はくすぐったそうに僅かに身をよじるだけで、自ら抱きついてくるリョーマの身体をギュッと抱きしめる。
すぐ側にある暖かな温もり。
触れられる位置にリョーマが居る事が幸せでならなかった。
父親である南次郎の手続きミスで、だけ日本に戻るのが数ヶ月遅れてしまったが、これからはずっとリョーマの側に居る事が出来る。
こうしてリョーマの温もりを感じられる幸せを噛み締めて、は幸せそうに瞳を閉じた。
「はいはい、そこまで!所かまわずイチャイチャしない。部員たちの精神衛生上良くないからね。」
流石に呆れた不二が苦笑混じりにストップをかけるまで、越前兄弟のイチャつきぶりは留まる事を知らなかった。