RIGHT!
いつか、こういう日が来る事は分かっていた。
そう遠くない未来、こうなるだろうことは……。
(だから、言ったのに……)
は、悲しそうにも見える曖昧な笑顔で、目の前の人物を見つめた。
「すみません。あなたの忠告を、無駄にしてしまった」
低い声で謝罪する彼の表情に変化はなく、何を考えているのか分からない。
はため息をついたあと、困ったように笑った。
「僕に謝る必要なんてないよ。後悔してないなら、それでいい」
は青く澄んだ空を見上げた後、再び視線を戻した。
「で、手塚君はどうしたいの?」
真っ直ぐに目を見つめると、手塚は視線を反らすことなく瞳を見つめ返した。
「ドイツに行こうと思います」
(ああ、やっぱり)
は心の中で呟いた。
医療なら、やはりドイツだろう。
日本とは、リハビリ施設などが段違いなのだから。
「分かった。そのことは、誰かに話した?」
心をよぎった思いを胸の奥に隠し、は真剣な表情で手塚に向かい合った。
「竜崎先生には、話してあります。他の部員には、来週にでも……」
は手塚に気づかれないように、きゅっと唇を噛み締めた。
そして、すぐにいつもの笑顔を浮かべる。
「大丈夫。僕だって出来る限りの事はするから、しっかり肩を治してきなよ」
そして、手塚の頭を胸の中に抱え込む。
「大丈夫。君は一人じゃないから、頑張れる。きっと全て上手くいくよ」
子供をあやすように撫でられ、最初は抵抗していた手塚も、いつしか力を抜いていた。
ゆっくりと目を閉じて、そのぬくもりに身をゆだねる。
「出発までに、一仕事しなくちゃね」
しばらくして言った、全てを見通したかのようなの言葉に、手塚は驚いて目を見張る。
「次の『柱』は、まだまだだから……ね?」
いたずらっ子のようなの笑みに、手塚もつられて微笑を浮かべた。
後日、手塚はドイツへと旅立った。
二人とも、最後まで思いを告げることなく―――。
「失恋決定かな~? クン?」
昼休み、昼食を取るの横では、にやついた笑みを浮かべている親友の姿があった。
「人聞きの悪い事いわないで、!」
ぶすっとしているの顔には、いつもの笑顔はなかった。
それでも可愛いと思ってしまうのは、やはり本来が持つ人懐こさのせいだろう。
「手塚君は、戻ってくるって言ったんだから」
にからかわれて不機嫌なは、のパンを横から掠め取った。
「俺の焼きぞばパン! ~~~!!」
の怒号が聞こえるが、はそ知らぬ顔でパンに噛り付いた。
「傷心の親友を慰めようって気はないの?!」
は、実は子供っぽくて甘えんぼなのだ。
素直に甘えられないから、代わりに他人を甘やかすのだ。
いつも笑顔なのは、本心を悟られないため。
がいつからそういう風に笑うようになったのか、は知らない。
「ん? それなら、いつでも慰めてやるぜ?」
腰を引き寄せられての胸に倒れこんだは、抵抗するでもなく身を預けている。
「いつ帰ってくるかわからないような年下じゃなきゃダメなわけ?」
「うん」
ふざけていると装ったの言葉に、は即答する。
「あ~あ! 愛されちゃってるねぇ、そいつ。恥ずかしくって聞いてらんねぇや」
の頭をがしがしとかき回すように撫でると、はの背中をぽんぽんと叩いた。
まるで、母親が子供にするように……。
「待つって決めたなら、気合入れてとことん待てよ?」
「うん」
は、の腕の中で気持ちよさそうに笑った。
大丈夫、きっと全て上手くいく。
そう、自分に言い聞かせながら。
「あんまり遅いようだったら、迎えに行っちまえよ」
「それもいいかもね」
二人は声を上げて笑った。
あの手塚を引きずって帰るのも、面白いかもしれない。
は空を見上げた。
あの青空の向こうに彼がいるのだと思うと、自然と笑みがこぼれた。
(頑張らなくっちゃ……ね)
青学は、これから気合を入れていかなくてはならないのだ。
手塚のいないテニス部を、引っ張っていかなくてはいけない。
自分にどこまで出来るかはわからないが、彼の分まで頑張ろうと誓った。
「さ~て、の本領発揮と行きますか!」
は、満面の笑みでを見上げた。
「やっとやる気になったな? じゃあ、俺も協力するとするか」
これからが勝負。
大丈夫、きっとうまくいく。
太陽の光は、目を開けていられないほどまぶしかった。
END
★管理人コメント★
椎名紀伊さまのサイトにてキリ番リクエストをさせて頂いたものです。
何と、手塚BLドリームです!そして、切ないです。
本当はお互い想いあっているはずなのに、一言も告げる事無く
二人とも自分の進む道に歩いていくんですね…(ホロリ)。
二人の関係が微妙でたまりません!切なさ更に倍増です。
手塚の為に笑顔を浮かべてみせる、本当の意味で強い主人公に脱帽です!
本当に、じんわりと心に来ましたvv
許可を頂きましたので、当サイトでもアップさせて頂きました。
椎名さま、ありがとうございました!