幼馴染
俺には幼馴染がいる。
幼稚園の年長組からの付き合いで小学校も3、4年はクラスが離れたけどそれ以外はずっと一緒だった。
二人同じ中学に上がってからは最初の1年だけで後のクラスは違ってしまったけど、お互い気があったし親友なんだって思っていた。
「南~、いるか~?」
予習しようと珍しく家に持ち帰ったのが仇になって。見事に忘れてしまった俺は2クラス先の教室を覗き込む。
窓際の真ん中辺りにいつもどおり腰掛けてる姿があって、近づくとその前の椅子に座って話していた相手のほうがなぜだか席を立った。
「あれ?君じゃん?何のよう?」
まるで俺と南の間に割り込むようにするそいつに俺は首を傾げる。南もおいおいと腕を延ばしてそいつの肩を掴んだ。
「千石、なにやってんだよ。それでどした?」
「あ~、英語の辞書貸してくんねえ?」
「え?お前も?」
お前もと言われて俺はちょっと焦る。もう誰かに貸してしまったのだろうか、南はしょうがないなと席を立った。
「前の時間に雅美に貸してんだよ。こっち今日英語ないから放課後でいいって言ってたからさ……ちょっと行って取り戻してくる」
「え?悪ぃ」
本当にすまないなーとも思うのだがすでに歩き出しているのでその言葉に甘えることにする。そんな俺に千石は酷く不服そうに唇を尖らせた。
「なんでだと南ってばあんなにするわけー?俺なんかこないだ古語辞典貸してっていったのにムロ君に貸してるから自分で取りにいけって言われたんだぞー」
「……そう言われてもなぁ。俺って南との付き合い古いし」
その差じゃねえと進言してみるが千石は納得した様子は見せない。こんなん相手に南も苦労してるなあなんてほんのちょっとあいつに同情してしまった。
「そりゃは幼稚園のころからの付き合いって知ってるけどさ~、時間だけですべてが解決するなんて思わないことだね」
一体何が言いたいんだこいつは……意味もなく宣戦布告めいたことを言われて訳がわかんねえ。
時計の針はそろそろ休み時間が終わりそうなことを示していて、ちょっと焦った気分になっていると背後からぽんと肩を叩かれた。
「ほら、辞書」
「あ、サンキュ」
「も~南ちゃんてば甘やかしすぎ!辞書くらいマサミンのところへ取りに行かせなよ」
「はぁ?何バカ言ってんのお前?」
「だってこないだ俺にはムロ君の教室までわざわざ出張させたくせにさ」
「何で四六時中借りに来るはた迷惑なお前のために2年の教室まで出張しなきゃ何ねーんだよ。もうとっとと教室戻れ、授業はじまっぞ」
バカらしいといわんばかりに自分の席に戻る南に強いなーと俺は思わず感心する。以前の南はもうちょっと人当たりのいい節が強かったが、あのいろんな意味で賑やかなテニス部の部長になってからはすっかりたくましくなって見えた。
「じゃ俺も行くわ」
「おう、勉学に励めよ」
酷ーいと乙女めいた口調とそぶりで教室から出て行ってしまった千石に続いて俺も自分の教室へと戻る。
ちょうど教室に入ったところでチャイムが鳴って、俺は早速南から借りた辞書を開いた。
放課後
「おーい、南」
部活を終えて、部室から出てきた南に俺は声をかける。
振り返った南の隣には、今度は千石ではなく南のダブルスパートナーの東方がいた。
「あれ??」
「これ、返すの遅くなって悪ぃ」
英語の授業の後は体育、午後からは教室の移動で結局返せなかった辞書を俺は差し出す。南はああと苦笑して見せた。
「んなの明日でも良かったのに」
「お礼もしたかったからさ……あー、でも今日は東方と約束?」
お互いに部活が忙しくなってからはあまり帰ることも少なくなって。たまにはと思ったけど無理かなと東方を見る。
「いや、俺ももう帰るから」
「あ……」
じゃあなと踵を返した東方に南は何事か言いかける。東方は振り返ってひらひらと手を振った。
「じゃあな南、」
そのまま颯爽と立ち去る東方の後姿は酷く大人びている。こういうところが「え?テニス部の部長って東方じゃなかったの?」なんていまだに言われてる要因なのではないだろうか?
ともあれ、なんだか気まずくなって俺は耳の後ろをかいた。
「あ~……ごめんな?」
「いや気にしないでいいよ。たいしたことじゃねえし」
大丈夫だといわんばかりに笑って見せる南にも俺は大人になったなあとどこか親にでもなった気分でしみじみしてしまう。せっかく作ってくれた機会なので、俺はありがたく南と帰ることにした。
「最近テニス部の練習に亜久津見ないけど?」
「あいつなぁ……一応辞めるって言ってるみたいだけど」
「ふーん、でもそのほうがやっぱ良いんじゃねえ?」
帰り道、自然と話題は部活のことになる。俺はちょっと前まで校内で騒がれまくっていた亜久津のテニス部入部の真相について尋ねていた。
「そりゃ確かにおかげで団結とかできてきたけどさ……でもうちのウリは各自自由にテニスを楽しむことだしなぁ……それにやっぱりあいつ凄かったし」
「お前だって全国行ったじゃねえか」
「ダブルスとシングルスは全然ちげーよ。それよかサッカー部、準決勝決めたってな」
やったじゃんと肩を叩いて自分の事のように喜んでくれる南に俺もサンキュと頭をかき混ぜる。
「まだまだこれからだけどな、今年のうちは全国狙うぜ」
「なら出来るって、うちとどっちが先に決められっかな」
「競争ですか?」
「競争でしょう」
お互いにっと笑いあう。こーゆーところ本当に昔から変わってない。
しばらくうちが先だの言い合っていると、やがて周囲に鼻腔をくすぐるいい匂いが漂い始めて俺はそうだと手を叩いた。
「俺辞書のお礼にお前に今日おごってやろうと思ってたんだよ」
「え?マジ?やりぃっ」
帰り道途中にある肉屋で店頭販売しているコロッケは俺と南共通の好物で、南は早速店に駆け寄る。俺も後に続きながらそうだとちょっと声を張り上げた。
「南ッ!手前メンチ頼むなよ!今月ピンチなんだから!」
「え~?ケチくせーぞ」
「じゃかあしいわい、20円の格差は貴重なんだよ」
「じゃあ自分で20円追加するからメンチは?」
「却下」
「何で?自分で出すっつてんじゃん」
「貴様、俺がポテトコロッケを食う横でメンチを食おうたぁ言語道断」
「良いじゃね~かよ。メンチ食いたいメンチ~」
揚げたてのコロッケの前でじたばたと南が足踏みをする。
バカな俺たちの争いを見かねてか、オバちゃんが20円おまけして両方ともメンチにしてくれた……いい人だ。
熱々のメンチカツをはふはふ二人しばらく無言で齧ってから。そろそろ分かれ道というところで南がなあと俺の方を向いた。
「こやってさ、コロッケ齧ってと帰んの久しぶりだな」
「お互い部活が忙しいもんな」
南は部長、俺は副部長、それぞれ責任を背負ってる立場だ。
南はなんか寂しーなとコロッケの入ってた紙袋を手の中でクシャリと丸めた。
「ま、でも今日はこうやって帰れて嬉しかったからいいけど」
「そだな」
「又これからもちょくちょく帰ろうぜ、大体部活終わるのは同じ頃なんだからさ」
「つってもお前千石とか東方とかと良く帰ってるじゃん」
「それはそうなんだけどー」
なんだかんだ言って面倒見良い南はテニス部の奴らとつるむことが多い、たまに俺が南の後姿なんか見つけても大抵隣に誰かいる。
「でもやっぱこうやってお前としゃべんのも好きなんだよ」
分かるっしょ?と尋ねる南に俺も頷く。長い付き合いだからこそこいつとは気を張らなくって良いのが自分も好きだから。
「まーしばらくは大会でお互い忙しいからアレだけど。一息ついたらな」
「そうそう、部活引退したら受験勉強とかしなきゃだしな。したら一緒にしようぜ」
「あー、それはいいかもな」
やるときは真面目にやる南と一緒に勉強すると実は物凄くはかどるのでそれは悪くない。約束なと笑う南におうと拳ぶつけ合わせて。そして分かれ道を別々に歩き出した。
一人家までの残りわずかな距離を急ぎながら。
久々に南と友情を確かめ合えた気がしてなんだか俺は嬉しかった。
ところで次の日
どこで何を聞いてきたんだか、突然廊下であった千石が昨日みたいに俺を指差して宣戦布告をしてきたけど。
一体あいつはなんなんだ?
ドリームって書きなれてないからヘボでごめんなさい。
しかも何気に南受け…………ご、ごめん
そして南の好物は部活帰りのコロッケなのよんvvとアピール
聞いたときいかにも中学生男子らしいなあと笑ってしまった。
しかし揚げたてのお肉屋さんのコロッケはんまい
ではいらないだろうけどこの話を謹んで光流君に贈呈v
高原 睦月。 拝
★管理人コメント★
高原睦月。様におねだりをして(笑)頂きました!
まさか高原さんからドリームSSを頂けるなんて…(うっとり)。
もう、感無量としか言いようがないです!
それに何と山吹です!南君です!!
南くんと幼馴染になれるんですよ(興奮)?!
光流は思わず眩暈をおこしそうになりました。
さり気に千石くんとライバルっぽい所もそそります(笑)。
友情のようでもあり、又BLのようでもあり…
という微妙な南くんとの関係が凄くイイです♪
本当にうっとりするような作品をありがとうございました!