宴会済んで夜が明けて
朝、目覚めて隣に人が居て驚いたというのは良く聞く話だ。
しかし流石にこれはどうだろう……と思わずにいられない状況下に置かれている事に気付いた俺――は、驚きのあまり思わずあげかけた絶叫を寸での所で呑みこむ事に成功した。
「お、起きらんねぇ……。」
それだけ呟いて俺は、ふう――と大きく溜息をつく。
そうせざるをえない、いかんともしがたい理由が俺にはあった。
意識は覚醒したにもかかわらず起床する事が出来ない理由…。
それは俺の身体に折り重なるようにして寝こけている3人の野郎どもにある。
その3人とは言うまでも無く、俺が公園でナンパに成功した不動峰中テニス部員である橘桔平・神尾アキラ・伊武深司の3人に他ならないのだが。
その3人が何故俺の家――それもリビングで重なり合って寝こけているのかというと。
全ては一週間前に遡る。
『大会があるんだ。』
そう聞かされたのは今からちょうど一週間前の事だった。
何でも地区大会ってやつに参加するんだとか。
こいつらと親しくなって、少しばかり奴らの置かれている状況を知っていた俺は、その言葉に驚いて目を見開いた。
だって、テニスに関してまだド素人の俺でも分かる事だけど、奴らの現状は必ずしも良いものだとは言い難い。
名ばかりの顧問くらいは居るだろうが、マトモな指導者が居るわけじゃないし、当初は部室さえ倉庫を使用していたという。
練習場所ですら、充分な状況じゃなかったらしい。
元から整えられた環境ではなく、全てを一から創り上げてきたこいつらは、他の学校の奴らみたいに与えられた良質な環境の中で、安穏と部活をしてきたわけじゃないのだ。
そんなこいつら不動峰テニス部が、それら全てを撥ね退けて大会にエントリーする。
そんな奴らの姿勢が、情熱が、強さが俺には少し眩しかったし、そしてそれが何より好ましく感じられてならなかった。
だから俺は、俺が出来る事であいつらを支えたいと思ったし、実際奴らが勝利したと聞いた時は自分の事のように嬉しくもなった。
そんなこんなで俺は出来うる限りあいつらの試合を観戦しようと心に誓ったわけだ。
まあ正直な話、試合を見るにつれて、あいつらの事を見る目が変わったといわざるをえない。
こんな言い方をするのは何だけど、凄くあいつらが『カッコ良く』見えたんだ。
イケてるとか容姿が整ってるとかそういうんじゃなく、テニスにかけているあいつらを見ていると同じ男としてカッコイイと思った。
俺より遥かに年下の野郎どもにそう感じたのは何だか癪といえば癪だけど、そう感じてしまったのだから仕方ない。
結局優勝する事は叶わなかったけれど、周囲の予想以上の好成績をおさめて不動峰中テニス部は地区大会を終えた。
それが昨日の事。
大健闘をしたあいつら3人を労ってやりたくて、俺は編集長に嫌味を言われるのを覚悟で2日間の完全な休日をもぎ取って。
そして昨日、試合後に労いと祝いの意味を込めたささやかな宴会を俺の部屋で催した……というのがここまでの事の経緯だ。
で、今に至るわけだけど――。
流石に今のこの状況まで俺は理解しているわけじゃなかった。
(そもそも、どうしてこんな格好でザコ寝する事になったんだっけ?)
ボンヤリした頭で考えを巡らせてみるが、どうしても思い出せない。
「5本目のビール開けた所までは覚えてるんだがなぁ……。」
流石に3人に酒を出すわけにはいかなかったから、奴らには大量の食いモンとジュースやお茶なんかを用意したわけだけど、俺自身はビールやサワー・カクテルなんかをチャンポンで飲んでいたから、結構酒のまわりが早かったらしい。
いつの間にか気を失ってしまったんだろう。
気付けば朝。そしてこの状況。
顔を左に向ければ、すぐ真横にドアップの橘の顔。
右側から左側にかけて腹の上に伊武の腕。
そして俺の左足を抱え込むようにして神尾の姿が。
未だあどけない寝顔のまま、くーくーと寝息をたてている。
もう完全に身動き出来ない状態だ。
「ホント、何でこんなんなってんだか……。」
俺は再度大きな溜息をついた。
俺が潰れたのは、ほぼ間違いないだろう。
それは俺自身が悪いわけだけど、しかし俺に折り重なるような状態で寝ているこいつらは一体何なんだ?
まるで、それぞれが意図的に俺のすぐ側で眠りについたとしか思えない。
やれやれと困ったように微かに首を振ると、その振動が伝わったのか、ピクリ…と伊武が小さく身じろいだ。
「…………………………。」
「………伊武?」
「……ん………。」
「おはよ伊武。目ぇ覚めたか?」
顔を上げて半目状態でボンヤリ見上げてくる伊武に小さく声を掛ける。
まだ完全に覚醒していないのか、暫くボーッと俺を見詰めていた伊武の目に、少しずつだが段々と光が宿り始める。
ようやく意識がハッキリとし始めたらしい伊武に微かに笑ってみせると、伊武はその綺麗な顔に僅かに朱をのせた。
「どした伊武?変な顔して?」
「……………。」
「ん?」
「………まったく……反則だよね…さんってさ。」
「え?何…?」
「そんな顔するなんてさ……。」
俺から視線を逸らしてボソボソと呟く姿に、俺は目を数回瞬かせる。
(えーと…何が何だって?)
伊武の言葉の意図する所が分からなくて、起き上がった伊武をじっと見上げると、伊武は先刻以上に更に頬を紅く染めた。
いや正直何でそういう反応が返ってくるのか解らないんだけど、今はあえてそこは考えない事にしよう。
いつまでもこうしているわけにもいかないだろうし。
橘と神尾を抱えている俺は身動き出来ないから仕方ないとしても、伊武をいつまでもボーっとさせておく事も無い。
俺は残りの2人を起こさないよう右手でチョイチョイと伊武を手招いて静かに口を開いた。
「部屋出てすぐ左に風呂あるからシャワーあびてこいよ。夜そのままダウンしちまったみたいだし。」
「さんは……?」
「ん~…俺はもう少しこうしてるよ。こいつらもまだ起きないしな。」
「…っ!じゃあ起こせばいいよ……。」
俺の言葉に一瞬ムッとしたように眉を寄せた伊武が、足元の神尾の方へと視線を向ける。
それを右手で遮って俺は再び小さく声を発した。
「皆いっぺんに起きたってゴタつくだろ?この後こいつらもシャワー浴びさせるから、お前は先に入ってこいよ。いいな?」
言い聞かせるように言って、すぐ側に近付いてきた伊武の頭を軽く撫でる。 サラサラとした指通りの良い髪の感触が酷く心地良い。
そんな伊武をもう一度見上げると、渋々といった様子で伊武は頷いた。
「脱衣所の所の棚にタオルがあるから。好きなの使っていいぜ。」
そう言うと、分かったというように無言のままコクリと頷いて、伊武は部屋を出て行く。
何だか、そんなしぐさや後ろ姿が妙に可愛くて、俺は思わずこらえきれずに小さく吹き出してしまった。
「……んっ…?」
ふと、すぐ横で小さな声があがる。
その声に首を左側に巡らすと、ボンヤリとした表情の橘の顔が目にとまった。
「あ、悪ィ。起こしちまったか?」
「……………さん?」
「うん?どした?」
不思議なものでも見るように俺を見ていた橘の目が、段々と大きく見開かれていく。
その顔に、驚きと共に朱みがさしてくるのに、たいした時間はかからなかった。
「あ……お、おはようございます…!」
「ああ、おはよ。よく眠れたか?……って言っても、こんな状態じゃ無理か。」
慌てて起き上がった橘にそう言って小さく笑うと、橘はブンブンと大きく首を振って見せた。
普段の橘と違って、どこか幼い感じのするそのしぐさに、俺は更に笑みを深める。
いくら同年齢の奴らの中で落ち着いている方だとはいっても、やはりまだ中学生。
この状況下で動揺を隠せないんだろう。
やっぱりこいつも可愛い所あるよなぁ――なんて思いつつ俺は目を細めた。
「いえ、そんな事は!それよりすみません俺達……。」
「ああいいって。俺の方こそ、きちんと見てやれなくて悪かったよ。俺の方が先に潰れちまったみたいだしさ。」
申し訳なさそうに眉を寄せて頭を下げる橘の短い髪に手を伸ばす。
伊武とは違った感触を楽しみながら、俺は伊武にしたように数回橘の頭を撫でた。
「――っ!さん……。」
「ちょっとばかりハメ外しすぎたかな?俺は楽しかったんだけどさ。ゴメンな?」
「そんな事ないですよ。さんにこうして祝ってもらえて……嬉しかったです。本当に……。」
精悍な顔を赤らめたまま目を伏せる橘に、俺は再び笑みを向ける。
そう言ってくれるだけで俺も嬉しかった。
結局の所、昨日の宴会は俺がしたくて始めた事だから、橘達が鬱陶しく思っていたのなら意味が無かったから。
「ありがとな。そう言ってくれると俺も嬉しいよ。」
俺は再び橘の少しばかりコシの強い髪を撫でた。
「…っ!そ、そういえば深司は?居ないようですけど?」
「あいつは今シャワー浴びてる。あいつが出たら橘も入れよ?」
「俺より先にさん入って下さい。」
「俺はいつでも入れるからいーの。それに神尾もほら……まだ寝てるしな。」
そう言って足元に絡みついている神尾を指差すと、途端に普段の保護者の顔を覗かせて橘は溜息をついた。
「まったく……凄い格好で寝てるな神尾の奴………。」
「そんな事言って。お前も似たようなモンだったぞ?俺の肩口に擦り寄ってたんだからな。」
からかうようにそう言うと、途端に橘の頬にカッと朱が走る。
「はは……冗談だって。そんな気にすんな。」
何ともぎこちない素振りの橘に笑ってみせて、俺は扉の方を指差した。
「それよりさ、悪いんだけど部屋出て右側にキッチンがあるから、そこでコーヒー煎れてくんないかな?俺まだ動けないからさ。終わった頃には伊武も出てくるだろうし。」
どうしたものかと戸惑う橘にそう言って、俺は顔の前で両手を合わせてみせた。
実際喉が渇いているのは事実だから、コーヒーの一つでも飲んで喉を潤したいのは本音だ。
そんな俺の頼みに橘は小さく微笑んで頷くと、静かにドアを出て行く。
一度振り返ってこちらに視線を向けた橘に、軽く手を上げてみせると、橘は一瞬だけ驚いた顔をしてから、苦笑したままダイニングへと消えていった。
「さて………後は神尾だけか……。」
橘の姿がドアの向こうに消えたのを確認してから、俺はゆっくりと上半身を起こす。
そのまま己の足元の方へと視線を向けると、相変わらず奇妙な格好で神尾が俺の左足を抱き込んでいた。
「寝かしておいてやりたいのはやまやまだけど、流石にそういうわけにもいかねぇしなぁ………。」
俺は成人してるし、昨日と今日は休日だから徹夜明けでダラダラしてても構わないけど、流石に学生――それも義務教育中のこいつらはそうもいかないだろう。
昨日の試合が土曜日だったのは幸いだったけど、いくら日曜日だからって未成年をいつまでも外泊させておく事も出来ないだろうし。
いや、もちろん昨日は家に外泊の連絡はさせたけど。
「仕方ない…もう7時半過ぎたしな。流石に起こすか。」
気持ち良さそうに寝息をたてている神尾を起こすのは忍びなかったが、俺は心を鬼にして神尾の肩をそっと揺さぶった。
「神尾、起きろ。朝だぞ?」
「う~~~ん~~~…。」
俺の声に少しだけ眉を寄せると、僅かに神尾は唸る。
幼い子供がぐずっているようなその様子に、俺は思わず口元が緩んだ。
「ほら起きろ!朝だって言ってるだろ?」
「も……ちょっと………。」
「あ、こら!……んんっ…!」
俺の足を更にしっかりと抱きこんでモゾモゾと身じろぐ神尾の前髪がサラサラと俺の足の上を流れて、俺はくすぐったさに思わず声を漏らした。
「うひゃあ…っ!こっ…こらッ!いいかげんにしろ…って!も……くすぐったいんだよ……っっ!!」
前髪の感触に加えて、一定の間隔で漏れる寝息が肌に当たって、俺はその場で悶えてしまう。
慌てて神尾の身体を引き剥がそうと伸ばしていた足を引き寄せると、流石にその振動で目が覚めたのか、半開きの目を擦り擦り神尾が身体を起こした。
「んあー?…さん?」
「やっと起きたか?あーもー朝っぱらからエライ目にあった……。」
「???」
「おいおい……ちゃんとに起きろよ?目ぇ閉じかけてんぞ?」
「今……何時?」
ボンヤリとした声に壁の時計に目をやると7時45分を過ぎている。
「7時45分過ぎだ。もうそろそろ8時になるから、いいかげん起きろよ?」
「~~~~まだいいじゃん。もう少し寝かせてくれよ………。」
こっくりこっくりと舟を漕いでいた神尾が、俺の言葉にパタリと床に倒れる。
そしてそのまま再び寝の体勢に入ってしまった。
「あっ!寝るなっつーの!」
流石に今回は俺の足を抱き枕にはしなかったけれど、くるりと丸まってしまった神尾に俺は慌てて声を上げた。
又寝られたら困ると、今まで以上に強くガクガクと身体を揺さぶると、閉じていた片目を開けて不満そうに口を尖らせる。
「今日くらいは寝坊したっていいだろー?」
「そういうわけにいくか。」
「さん、今日仕事?」
「いや、今日は休みだけど。」
「じゃあいいだろ?もう少し寝てよーぜ?」
な?と言って俺を見上げてくる神尾の目は、けれど言葉とは対照的に完全に覚醒しているようだ。
なるほど…どうやらこのままゴロゴロしていたいらしい。
眠そうな素振りは狸寝入り……いや、狸芝居といったところか。
悪戯っぽくニッと笑ってみせる神尾に、俺はやれやれと大きく溜息をつくしかなかった。
「ったく……完全に起きる気無いな、お前?」
「いや別に…起きても構わねぇんだけど……。」
「けど?何だよ?」
何やら言いよどんで神尾がフイ――と顔を伏せる。
それに俺は首を傾げるしかなかった。
「神尾??」
「………してくれたら………。」
「は?!だから何だって?」
「…だから……その………ス……して………れたら…なっ……。」
「?????」
まるで伊武のようにボソボソと小さく呟くだけの神尾。
いつもの神尾らしさが完全になりを潜めている。
どうにも要領を得ない神尾の様子に、俺は困りきって小さく頭を掻いた。
別に変な事を言ったつもりは無いんだが、どうしてこんな事になっているんだ?
俯く神尾を見ていると、何だか俺が無理を言って苛めたみたいな気になるじゃないか。
「あ…あのよ、神尾?」
「………………。」
「いや、何か分かんねえけど、そんなに言いたくないんなら無理に言う必要ねぇし。」
「…………………。」
「あー…その………っ!」
ああもう!一体どうしろって言うんだ?!
やっぱ何か俺マズイ事でも言わせようとしてんのか?
ああああ………ティーンエイジャーの考えは、お兄さん理解出来んよ全く……。
どうして良いのか分からなくなってグルグルする頭を抱え込んでいた俺は、その時完全に気を緩めていて。
そのせいでチラリと顔を上げた神尾がニヤリと笑ったのにも咄嗟に反応出来なかった。
そして唐突に間近に迫る影――。
「え?」
「へへっ……スキありぃ…ッ!!」
「どうわぁっっっ…?!?!」
嬉々とした声と共に勢い良く仰向けに倒される。
頭を打たなかったのは不幸中の幸いと言うべきか。
いやいやいやいや!今はそんな事言ってる場合でなく!
俺は目覚めた時同様、再び仰向け状態で転がされたあげく、神尾に圧し掛かられるというちょっと情けない状況に陥っていた。
「ちょっ…何すんだ神尾?!」
「油断大敵だぜーさん?」
楽しそうにそう言って笑う神尾。
………あー…うん……何だ………つまり、これは一種のプロレスごっこなわけか?
まあ、この年頃ならまだジャレつきたいってのも分からなくもないけど。
俺自身、ガキの頃はダチとよくくだらない事でじゃれ合ってたし。
でも、やっぱり若いってイイなぁホント……。
俺は朝っぱらから元気な神尾に、ただ苦笑するしかなかった。
「はいはい分かったって。俺の負け。だから降りろ、な?」
なだめるように言って、両手を挙げて降参してみせる。
流石にいつまでもこんな情けない格好は勘弁して欲しいし。
しかし、そんな俺の内心をよそに、神尾はそのままの体勢を崩そうとはしなかった。
「か、神尾?」
「……………………。」
さっきと同じ無言の神尾。
同じ沈黙のはずなのに、けれど何かが違う気がする。
いや、良く分からないけど、神尾の俺を見下ろしてくる目が何というか……妙に熱っぽく感じるのは気のせいだろうか?
「お、おい……どうしたんだよ?」
「……さん………。」
「え?ちょっ……何だよ?」
何かを言いかけて、神尾がゴクリ…と息を飲む。
そんな異様な雰囲気と神尾の様子に、俺は困惑するしかない。
えーと……俺もしかして、何かヤバイ状況に陥ってたりとかするわけ?
どうにも出来ないわ、理解不能だわで、俺はただ呆然と圧し掛かってくる神尾を見上げる事しか出来なかった。
「さん………俺……っ!」
僅かに頬を染めた状態で声を詰まらせながらそう言って、神尾がスッ――と俺の頬に手を伸ばす。
その指先が俺の頬に触れようかという瞬間――。
「何してるわけ・・・?」
それはもう、地の底から響いてくるような伊武の声が神尾の動きを止めた。
「し、深司ぃッッ?!!」
「人がさんの言う事聞いて素直にシャワー浴びてる間に、何勝手に抜け駆けしてこんな事してんだよ?」
「あ、いや…こ、これはッ!」
「だからさん置いてシャワー行くの嫌だったんだよね。こうなるんじゃないかって思ったし。っていうか、神尾を残したままが心配だったんだけどさ?そしたら案の定だし?そもそも……。」
「わっ…悪かったって!」
しどろもどろの神尾は、伊武のぼやき攻撃に慌てて俺の上からその身を起こす。
「ははは……まったく仕方ない奴だな神尾は。深司の言う通りだぞ?せっかくさんが厚意で俺達を招いてくれたってのに、これじゃ失礼だぞ?」
「たっ…橘さん?!」
いつの間に戻ったのか、橘も伊武の隣で両手を組んで立ち尽くしている。
にっこり笑ってはいるが、こめかみのあたりとか口元とかがピクピクと痙攣しているあたり、どうやら伊武と感覚は同じらしい。
何か笑顔な分、余計怖ぇ気がするのは俺の気のせいだろうか?
まあでも、おかげで俺は神尾の下から抜け出す事に成功したわけなんだけど。
それにしても何で橘も伊武も、揃ってここまで過剰な反応を返すんだ?
もしかして………神尾と俺がじゃれてたから、嫉妬ってやつか?!
多分神尾を取られたような気でもするんだろう。そんな事ねーのに。
こういう所がやっぱり可愛いよなぁこいつらって♪
それにしても不機嫌になるほど、そんなにジャレつきたいもんなのかねーこの年頃ってのは。
いやはや、俺には理解出来ねぇわホント。
やっぱりこーいうのはジェネレーションギャップってやつかなぁ。
こう考えると、何かえらく歳を感じるよ、まったく。
と、そんなこんなで俺がギャップに頭を悩ませてる間にも、3人の会話はいつもと同じように何やらヒートアップしていく一方で。
「仕方ねーだろ!目の前でご馳走出されてんのにお預け喰らってるようなモンだったんだから!」
「へえ?そういう事言うんだ?言い訳がましいのはみっともないと思うけどね…。」
「なっ…!そういう深司はどうなんだよ?!深司はありえないって言えんのかよ?!」
「そうやって矛先逸らそうとしても、アキラの行為は正当化されないんだけど、分かってる?」
「そうだな…不利だからって開き直るってのは感心しないぞ神尾?」
「ちょ…待って下さいよ橘さん!橘さんだって同じ立場だったら……っ!」
「又そうやって話を逸らそうとしてる……。」
「だから俺の立場になってみろって言ってんじゃねーか!」
喧々囂々、えらい勢いだ。
いつもの事とはいえ、こうなると俺は完全に蚊帳の外になってしまう。
いや、もう慣れたから別に構わないけどさ。
そしてこの騒ぎは延々続いて――。
結局、やつらは晩飯まで食ってから帰っていきました。
本当に仲が良いのか悪いのか……。
まあ俺は、あいつらとのドタバタも楽しかったから良かったけど★
「ああ~っ?!深司!何チャッカリさんの寝顔なんか待ち受け画像にしてんだよ?!」
「い、いつの間にそんな写真を……。」
「明け方、一回目ぇ覚めた時にちょっと……。」
「ずりぃぞ深司!俺の携帯にもそのデータ送ってくれよ!」
「やだ。」
「深司てめっ!独り占めなんて許さねーぞ!」
「………深司、この笑ってる顔の写真のデータやるから、それ送ってくれるか?」
「た、橘さんっ?!!」
「わかりました。交渉成立って事で。」
「ちくしょー!俺だってカメラ目線の照れ顔画像があらぁ!」
「アキラ、それくれたらコレ送るけど?」
「右に同じ…だな。」
「「「……………………。」」」
(この画像………保護しておかないと)