動揺







 は実にコーチらしくないコーチだった。
「ねぇ、乾君。そろそろレギュラー陣の練習メニュー変えたいんだけど・・・」
「個人別にメニューを作成しますか?」
乾はがそう言ってくると分かったいたかのような口ぶりだ。
「うん。悪いけど、メニュー作っておいてくれる?僕が作るより乾君が作ったほうがいいと思うから。僕、まだみんなの様子把握しきれてないから・・・」
はすまなさそうな顔で乾を見た。
「分かりました」
「ありがとう。ごめんね」
は嬉しそうに笑った。
「近いうちに作ろうと思っていたので、丁度いいです」
「そう?」
は小さく首を傾げると、忙しそうにその場を走り去った。




「えーっと、ドリンクどこ置いたっけ・・・?」
あたりを見回すが、目当てのものは見つからない。
ふと上を見上げると、棚の上にそれはあった。
「あそこなら、届くかな?」
台になるようなものがなかったため、はぐっと背伸びをして棚の上の箱に手を伸ばした。
箱に手が届き、それを下ろそうとしたとき・・・。
「え?!あ・・・・っ」
バランスを崩して、後に倒れるかと思われた。
「・・・?」
しかしその衝撃はなく、変わりに背後に温かい体温を感じた。
「何してるんですか。危ないでしょう」
「あ・・・え?乾君?ありがとう、助かったよ」
乾はを支え、箱が落ちないように持っていた。
「届くかなって思ったんだ」
「無理だと思ったらすぐに誰か呼んでください」
怪我でもしたらどうするんですか、と少し怒ったように言われ、はしゅんとした。
「ごめんね?今度から気をつけるから」
下から見上げるように笑顔を向けられ、乾はわずかに赤面した。




どこか頼りないだったが、実は意外としっかりしている事が明らかとなった。
それは対氷帝戦、例の手塚が負傷した時である。
手塚が負傷したとき、真っ先に飛び出したのはだった。
まるで、怪我をする事が分かっていたかのように―――。
「馬鹿! だから言ったのに! 無茶して!」
は辛そうに顔をゆがめた。
テニスが出来なくなる辛さがわかっているだから、取り乱すのも頷ける。
しかし、は動揺を隠すように、手際よく手当てを施していく。
「しっかり固定しておくからね?」
更に驚いた事に、は手当てを施すと、にっこり笑って言ったのだ。
「ここまで無理したんだから、最後までやるといいよ」
これにはレギュラー陣も目を丸くした。
もしかして、キレたのか?!と思ったほどだ。
さん?」
乾が名前を呼ぶと、は真剣な顔で言った。
「だって、ここでやめると後悔するから」
ははっきりと言い切った。
その意志の強い言葉に反論できる者は、誰もいなかった。




「それにしても、あのさんがねぇ」
「ホント、以外だったよね」
菊丸の横では、不二が同じように頷いている。
「まさか、あんなに感情が豊かな人だったとはね」
乾はといえば、横でなにやらノートにメモをしている。
大方、の事でも書いているのだろう。
「部長にあんなことができる人がいるなんて、思わなかったっす」
リョーマをも驚かせた出来事は、試合終了直後に起った。


「手塚君、ちょっと来てくれる?」
コートからでてきた手塚を呼び寄せたは、にこおっと嬉しそうに笑った。
一同が首をかしげていると、は手塚の頬を両手で挟み込んだ。

バシ――――ン!!!

両手で挟むように頬を叩かれた手塚は、他のメンバー共々目を白黒させた。
「無茶し過ぎだ、馬鹿! 後日グラウンド100週!」
あっけに取られる一同を尻目に、は大声で怒鳴り散らした。


「普段大人しい人ほど怒ると恐いって、本当だったんすね」
桃城はまだショックが抜けないらしく、半ばぼんやりとしたまま呟いた。
「いいデータが取れたよ」
乾だけは、嬉しそうに笑っていたという……。





その後、はといえば、すっかりいつものようにドジを踏んだりしているという。
いったいアレはなんだったのかと、皆首を傾げたという。



END







★管理人コメント★

椎名紀伊さまのサイトにてキリ番リクエストをさせて頂いたものです。
乾?!乾です!めったに見かけない乾ドリームです!!
いざという時には頼りになる、ある意味最強の主人公!
手塚部長にあんな事出来るなんて、まさに最強としか(笑)。
そして乾にデータを取られる位の存在なんですよ~vv
まさにうっとりな状況…クラクラしてしまいます(爆)。
許可を頂きましたので、当サイトでもアップさせて頂きました。
椎名さま、本当にありがとうございました!




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