独占欲
コンコンという規則正しいノックの音に気付いて、生徒会長用のデスクに座っていた手塚は、音のしたドアの方へと意識を向けた。
「失礼するよ?」
「どうした、不二?何か問題か?」
入ってきたのが同じテニス部の不二周助だと気付いて、手塚は僅かにその整った眉を寄せる。
部活中のこの時間に部員がわざわざ生徒会室に顔を出すのは、その場に居る者だけでは対処できない何らかの問題が起こった時か、部長の判断をあおがなくてはならない事がおきた場合が多い。
又今回もそのうちのどちらかだろうという思いが、無意識に手塚の表情を硬くさせてしまう。
そんな手塚の表情に小さく苦笑して、不二はゆっくりと首を振った。
「大丈夫だよ手塚。部活の方は大石がちゃんとに見てくれてるよ。」
「ではどうした?こんな時間にお前がわざわざここに来るのは、何か理由があるのだろう?」
「ああ、うん。に会いに来たんだ。」
「?の事か?」
にっこりと笑う不二の口から発せられた思いもよらない名前に、手塚は驚いたように目を見開く。
確かに、生徒会の連絡事項などで度々テニスコートにも顔を出していた事もあったから、とテニス部員達の間にはお互い少なからず面識はあるが、名前を呼び捨てに出来る位に親しい関係を築いているとは思ってもいなかった。
「うん。で、は?」
「今、事務室に書類を出しに行っている。もうじき戻るだろう。」
「そう?じゃあ悪いんだけど少し待たせてもらうよ?」
窓際に置かれているソファーを指差して、不二は微笑む。
それに無言で頷いて、手塚は再びデスクの上に広げられた書類に視線を戻した。
ギシッというソファーのスプリングのきしむ音。
不二がソファーに腰を降ろす音以外は、手塚がペンを走らせる音しかしない生徒会室は、酷く静かだった。
遠くから野球部らしい生徒達の、いくつもの掛け声がぼんやりと聞こえてくるのを聞きながら手塚はすぐ横の窓辺に視線を向ける。
ほんの一時手を止めて視線を向けた空は、雲一つ無く晴れわたっていて、手塚は静かに目を閉じた。
どの位の時間そうしていたか、不意にガラリと生徒会室のドアが開いて、不機嫌そうな表情でが駆け込んできた。
両手いっぱいに抱えていた書類をすぐ側のデスクに投げ出して、はこめかみを押さえる。
「手塚!やっぱりダメだ。2割減らせと言ってる………!」
吐き捨てるようにそう言うと、は一番近くにあったイスに身体を投げ出すようにして腰を降ろした。
半ばイライラしたような様子のは、すぐ側に不二が居る事にも気付かないようで更に言葉を続ける。
「このままだと、企画そのものを変更しない限り、向こうが言う予算枠には収まらない!」
「落ち着け。もう一度俺が行って折衝してくる。お前がそこまで気に病む必要は無い。」
盛大な溜息と共に頭を抱え込んだに、手塚は書類作成の為に動かしていたペンを止めて静かに口を開く。
生徒会の会計としてのの力量は、歴代トップの力を持っていると誰もが認める程で、そのの手腕が今まで手塚の生徒会においての負担を、相当数減らしていた。
そのが最善と判断して決定した予算案が、問題のあるものだとは手塚にはどうしても思えない。
だからこそ、最善を尽くしたがそこまで頭を抱える必要など無いという意味を込めて、手塚はゆっくりと首を振って見せた。
「別に気に病んでるわけじゃない。ただ………。」
「ただ…?どうした?」
「あいつ!手塚の事を力不足の会長だって言ったんだ!部活との掛け持ちで生徒会長職をないがしろにしているって!だからこれ位の事もまとめられないんだろうって、そう言ったんだ!!」
手塚ほどではないにしろ、常に冷静沈着で通っているにしては珍しく、感情もあらわに声を荒げる。
自分の事を責められるよりも、手塚に対する暴言の方がにとっては、許しがたいようだった。
「まあ、その点は必ずしも否定しきれないな。こちらの仕事ををお前達に任せきりでいる事が多いのも事実だしな。」
「そんな事無いじゃないか!いつも部活終わってからや家で、遅くまで生徒会業務をやってるのは、生徒会役員だったら誰でも知ってる!誰よりも学校の為に動いてるのは手塚じゃないか!!」
苦笑する手塚に噛み付くような勢いで、は言葉を返す。
「言いたい奴には言わせておけ。俺達は俺達の仕事を、俺達の出来る事をすればいい。だからが俺の事でそこまで腹をたてる必要は無い。」
立ち上がっての座っているイスの隣に立ち、そっとの柔らかな髪に手を触れる。
が自分の為に怒ってくれるのが嬉しい反面、自分の為にこうして嫌な思いをさせてしまうのは手塚には忍びなかった。
いつも誰に言われるでもなく自分から進んで手塚の分の仕事をこなし、手塚が部活動に集中できるようにと、生徒会活動では必要最低限の事以外は決して口にしようとはしない。
だからこそ、こういう時はを助けてやりたいという手塚の想いはより大きくなる。
手塚の目に映る今のは、張り詰めた糸のようだった。
「………分かった………。」
見上げた先の手塚の穏やかな瞳に見詰められて、は大きく息をつく。
釈然としない思いを抱えながらも、は手塚の言葉にコクリと小さく頷いた。
「…………で、話は終わったかな?」
「……っっ?!!」
突然の事に声を掛けるタイミングを完全に失ってしまって、成り行きを見守っていた不二がようやく声を掛ける機会を得たとばかりに声を掛ける。
その思わぬ所から聞こえてきた声に、はビクリとして声を詰まらせた。
「周助!!いつからここに居たんだ?!」
「が戻ってくる前から居たんだけどね?気付かれなかったみたいで。」
予想通りのの反応に、やれやれといったように不二は肩をすくめてみせる。
「悪い!!俺ちょっと頭にきていて…っ!」
困ったように苦笑してみせる不二に、目の前で手を合わせて、気まずそうにはペコリと軽く頭を下げた。
「別に構わないよ。が一つの事に熱中すると他の事が見えなくなるタイプだってのは分かってるからね。」
「本当にすまん。所で周助、どうしてこんな所にいるんだ?部活はどうした??」
隣に立つ手塚と不二とをそれぞれ見やって、は怪訝そうに首をかしげる。
本当なら、部活動真っ只中のこんな時間に、不二がここに居る事自体が考えられない。
手塚に用があったのならとっくに二人で話をしていただろうに、不二はが見る限り手塚と話している素振りは少しも無かった。
だからこそも不二の存在に全く気付かなかった。
「に用があるそうだ。」
「え?俺に??」
「そう!さっきおばさんから僕の家に電話があったらしくてね、僕の携帯に母さんから連絡があったんだ。」
「まさか……又?」
「そう。おばさん今日帰れないから、今日は僕の家に泊まっていくようにって。」
「そうか…分かった。いつも悪いな周助、連絡係みたいにさせてしまって。」
不二の言葉にやれやれといったように溜息をつく。
その慣れたような二人の様子に、手塚は微かにその整った眉を寄せた。
先程からの二人の会話を聞く限り、不二との間には、ただの同級生以上の親密さが感じられる。
何よりもが相手の名前を呼び捨てにするのを、手塚は初めて耳にした。
「ずいぶん親しいんだな……。」
ポロリと、おもわずこぼれてしまった言葉。
発した言葉が刺々しくなってしまった事に内心で舌打ちしながら、手塚は目の前の二人から目をそらした。
が自分以外に親しげな笑みを向けている。
そう思うだけで、手塚の心の中はモヤモヤとした感情が渦巻いてしまう。
それが子供っぽい嫉妬なのだと分かっていながら、手塚はそれを抑え込む事が出来なかった。
「周助とは小学校の時からの付き合いなんだ。うち、母さんが仕事で帰って来れない時もあるから、昔から周助の家に良く泊めてもらったりしていたんだよ。」
「おばさんも、一人でを家に残しておくのが心配なんだよ。」
「ああ、それは分かってる。でも、もうそこまで子供じゃないんだし、一晩くらい平気なんだがな……。」
そう言って苦笑するを見て、手塚は以前に一度聞いた事のあったの家庭環境を思い出した。
の家は海外に単身赴任中の父親と、研究所に勤めている母親との3人家族。
一年の大半を海外で過ごしている父親を除けば、殆ど母親との二人暮しと言っても過言ではない。
確かに自分と違い大変な環境だとは思っていたけれど、母親が帰ってこない事があるなんて、手塚は一度も聞いた事は無かった。
「やれやれだな。まあ、とりあえず今日は一回家に帰ってみるよ。」
「えっ?!来ないの?母さんも姉さんもが来るの、いつも楽しみにしてるんだよ?」
「う~ん…そう言ってくれるとありがたいんだが、いつまでも迷惑掛けるわけにはいかないし、さっきも言ったが、いい加減子供じゃないんだから留守番くらいはな……。そろそろ自立しないと。」
照れ臭そうに言って、は小さく笑う。
そのの言葉に、どこかホッとしている自分が居て、手塚は二人に気付かれないよう小さく息をついた。
「そう?でも、うちは全然迷惑なんかじゃないのに。」
「ありがとうな。でも、いい機会だから今日は遠慮しておくよ。」
「そう?……じゃあ、何かあったらすぐに電話してよ?姉さんに言って車出してもらうからさ。」
「大丈夫だ。心配してくれてありがとうな。」
心配そうに眉を寄せてみせる不二に、くすぐったそうに微笑んで、は照れ臭そうに僅かに頬を染めた。
(―――!)
フワリと笑うの笑顔に、手塚の胸は締め付けられるように痛む。
親しげに交わされる会話、当然のように呼ばれる名前、柔らかにほころぶの笑顔。
全てが自分にではなく不二に向けられている。
そう思うだけで、モヤモヤとしたどす黒い感情が胸を占めて、今すぐにでもを不二から引き離したい衝動に駆られてしまう。
当然のようにを心配する不二を妬ましく思う自分が、手塚の中でどんどん膨れ上がっていくばかりだった。
「じゃあ、本当に気が変わったらすぐに連絡してよ?」
「分かったって。気が変わったらな?」
いつの間にかドアの前に移動していた不二との声に、ぼんやりと考え込んでいた手塚はハタ――と我に帰る。
「そこまで言うなら…じゃあ、また次の機会にね?」
「ああ、又な。部活…頑張れよ?」
後ろ髪引かれるようにして何度も振り返りながら生徒会室を出て行く不二の後ろ姿を見送って、手塚はに気付かれないよう溜息をついた。
これでを、少なくとも今だけは独占する事が出来る。
たとえ不二以上の存在にはなれなくとも、この一時だけはが自分の近くに居ると思えば、少しは胸を占める想いを和らげる事が出来そうだった。
「全く…いつまでたっても周助は俺を子供扱いだ。これじゃあ裕太がひねくれるはずだ…。」
ふう――と一つ大きく溜息をついて、は肩の力を抜く。
「すまないな、騒がせて。手塚の方は終わりそうか?」
申し訳なさそうに苦笑して後ろにいる手塚を振り返ったは、振り返った先の手塚の顔を見てその笑いを凍りつかせた。
「て、手塚?どうしたんだ?!」
「何がだ?」
「何がって……凄く辛そうな顔してるじゃないか。」
慌てて手塚の側に駆け寄ると、はそっと手塚の頬に手を伸ばした。
手塚より僅かに冷たい指先が、おずおずと手塚の頬をなぞっていく。
ラケットを握る手塚の手と違い、陽に焼けていない白く柔らかな手の感触が酷く心地良く頬を滑っていくのを感じながら、その手塚よりも一回り小さい手の平に、自らの手の平を重ねて、手塚は俯くようにの肩に額を乗せた。
「てっ…手塚っ?!!」
驚いたようなの声。
耳に心地良いテノールの響きが、優しく手塚の耳をくすぐる。
「すまん、少し…疲れたらしい。悪かったな…。」
「疲れだけじゃないだろう?何かあったって顔してる。」
ゆっくりとの肩から顔をあげると、心配そうなの顔が飛び込んできて、手塚は気まずさにそっと視線をそらした。
は手塚に何か問題が起こる事を酷く嫌う。
それがたとえ微々たる事であっても、自分の事は全て棚に上げて、手塚の事ばかりを気に掛け、手塚の事ばかりを心配する。
そんな風にが自分を気に掛けてくれるのに、自分だけが些細な事で不二に嫉妬していたなどと、手塚には言えるわけが無かった。
「何も無い……心配するな。」
「嘘つけ!判るんだからな!」
「…っ?!俺の何が判ると言うんだ?!」
「判るさ!!」
予想外に強いの語調に、手塚は僅かにたじろぐ。
「ずっと……ずっと近くで手塚を見てきたんだ……判らないわけないだろう……。」
「………。」
呟くように紡がれた言葉に、手塚は胸をわしづかみにされたような感覚をおぼえる。
不二と比べれば決して長い時間ではないかもしれないけれど、確かにと手塚にも二人の時間があり、同じ時間を共に過ごしてきた。
手塚には手塚の、とのかけがえの無い時間が確かに存在していた。
が手塚を常に気にしていたように、手塚も同じようにの姿を追い続けていた。
その時間には決して大きな違いはない。
手塚だけがとの時間を持てなったのではなく、同じだけの時間ではいつも手塚を見続けてきたはずなのに、そんな事さえも忘れていた。
「俺じゃ…力になれないか?」
自分よりも一回り大きな手塚の手をぎゅっと握り締めて、は不安そうに手塚を見上げる。
眼鏡越しの瞳が静かに揺れていた。
「……。」
「俺じゃお前を助けてやれないか?」
「そんな事は無い……。」
「じゃあ、どうして俺を見ようとしないんだ?」
まるで自分の事のように辛そうに表情を歪めて、は小さく唇を噛む。
知的な印象を与える切れ長の瞳が、すっと悲しげに細められて、手塚は自分より一回り小さなの細い肩をそっと引き寄せる。
これ以上の辛そうな表情を見る事は手塚には出来なかった。
「見れるわけが……見せられるわけがないだろう…こんな情けない所は……。」
「手塚?」
の頭を己の肩口に抱き込んだまま、手塚はポツリと言葉を漏らす。
その頬には、ほんの僅かだけ赤みがさしていた。
「いつもに負担を掛け、心配ばかりさせている俺が、こんなくだらない事で又お前に心配を掛けているなど………。」
「おい、手塚何言って……?」
「くだらない嫉妬でお前に辛そうな顔をさせてしまった俺に、どうやってお前と正面から向かい合えというんだ?」
手塚にしては珍しくボソボソと口ごもりながら、抱き込んだの頭を更に引き寄せる。
まるで顔を見られまいとするかのように、その力強い腕はしっかりとを抱き込んで離さなかった。
「嫉妬……って誰が、誰に?」
「………………………。」
「手塚?」
答えようとはしない手塚の腕が、一瞬だけピクリとこわばる。
抱き寄せられた手塚の逞しい胸元から伝わってくる鼓動が、信じられない位に高鳴っている事にが気付いたのは、暫くしてからだった。
普段は決して感じることの無い、手塚の鼓動、体温、息遣い……全てがすぐ側で感じられる。
「まさか……手塚が………?」
「俺が嫉妬するのはおかしいか?」
「そんな事は無い。ないけど……誰に?手塚が嫉妬するような事なんてないだろう?そんな奴なんて居るのか?」
「…………お前、自分の事には鈍いな……。」
僅かに呆れたようで、それでいてどこか拗ねたような響きの手塚の声に、は何度も目を瞬かせる。
きつく抱き込まれていて手塚の表情を窺う事は出来なかったけれど、聞こえてくる声の様子から今手塚の顔には、あの特徴的な眉間の皺がハッキリと刻まれているのではないかとは思った。
「俺、手塚に嫉妬される事なんてないぞ?」
「誰がお前に嫉妬していると言った?!不二にだ!」
「え?じゃあ………。」
手塚の表情を窺おうとしていたは、そこまで言ってピタリと動きを止めた。
抱き込まれている手塚の学生服に触れているの白い頬に、急激に朱がのぼる。
触れている身体を通して伝わってくる手塚の鼓動を遠く聞きながら、は目元を染めたままそっと目を伏せた。
「周助に嫉妬って………俺の為?」
聞いても手塚の眉間の皺を増やすだけで、決して答えてはくれないだろうと分かっていながらも、はそう聞かずにはいられなかった。
「………………………。」
「なあ、言葉で答えなくてもいいから……もし、そうなら…頷いてくれ。頷くだけで良いから……。」
どこか哀願するようなの声。
その切ないまでに小さな声に、手塚はゆっくりと一度だけ頷く。
「………っ!」
頭上でゆっくりと動く手塚の気配に、は小さく息を呑んだ。
「……………ごめん、手塚。」
「何故あやまる?」
「嬉しいと思ってしまう自分がいるんだ。」
僅かに力の抜けた手塚の腕を外し、は自分よりはるかに上にある手塚の顔を静かに見上げる。
ようやく目にする事の出来た手塚の顔は、の予想に反して穏やかにほころんでいた。
「がそんな風に思う必要は無いだろう?俺の独占欲が招いた事だ。」
「だから……それが嬉しいんだ。」
「独占されるのが…か?」
不思議そうに数回目を瞬かせて、手塚はの瞳をじっと覗き込む。
自分の一方的な感情でしかないと思っていたのに、その独占欲さえも嬉しいと言うの言葉の真意が手塚には分からなかった。
「なあ手塚、独占したいって思うことを独占欲って言うだろう?」
「ああ。」
「もちろん俺にだって独占欲はある。俺も……手塚を独占する事が出来たら…っていつも思っていた。でもそれだけじゃないんだ。独占したいと思うのと同じくらい、手塚に独占されたいと思った。誰からも求められるお前の……手塚の特別でありたいと思ってしまうんだ。」
「………。」
「だから、手塚が周助に嫉妬したっていうのが嬉しくてたまらない。独占されたいと思うから、独占して欲しいと思うから、嬉しくてたまらないんだ。ごめん……。」
まるで内心の想いを全て吐き出すかのようにそう言って、は手塚の胸元に額を寄せた。
縋るように手塚の制服を握り締める指が、微かに震えている。
その震える白い指にそっと自らの手を重ねて、手塚はもう一度の細い身体を抱き寄せた。
「独占させてもらえるのか?誰よりも……不二よりも近い存在であると自惚れてもかまわないのか?」
小さく囁くようにして耳元で紡がれる手塚の言葉に、はただ無言のまま静かに頷く。
口を開けば泣き出してしまうそうだった。
「……なら、俺も独占してもいいか?との時間を……。」
「え?」
「不二の家には行かないのだろう?だったら、その時間俺が独占しても構わないか?」
驚いて見上げた先の手塚の瞳が微かに和む。
「一緒に……居てくれるのか?俺と?」
「を独占できるのならな。」
唖然として見上げてくるの顔を、これ以上無いくらいに愛しげに見詰めて、手塚は腕の中の温かなぬくもりを離さないよう静かに抱き締める。
窓辺から差し込む日差しを受けて微笑むの笑顔は、今まで手塚が目にしたどの笑みよりも幸せそうにほころんでいた。