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クレヨン
若い画家はスケッチブックをめくりながら、二人の刑事を見上げた。
「発見したとき、本当に大変でしたよ。さすがに本物の遺体なんて見たことなかったから」
言いながら、彼はクレヨンの茶色を手に取った。画家は、クレヨンによる風景画を主に描いているらしい。今キャンパスを彩るのは、秋の紅葉だ。
「そりゃあ、大変だったでしょう。遺体はずいぶん切りつけられていたようですから。出血も多かったようですし」
髭をたくわえたベテラン刑事が言うと、画家は大きくうなずく。
その横から、若い刑事が、スケッチブックをのぞきこんだ。
「それにしても、風流ですね。クレヨンなんてわたしらが聞いたら子どものモンという印象ですが、クレヨンでも、これだけ描けるんですねえ。しかしこれほど大きな絵だと、すぐに消費しちゃうでしょう?」
「ええ、一枚につき大体一箱は消費しますよ。お金もかかります」
と、赤いクレヨンを手にしながら、画家は苦笑する。
「ほう。この絵もそろそろ完成ですね」
ベテラン刑事の目が、きらりと光る。
「なのになぜ、赤のクレヨンはそんなに長いのでしょうね?」
画家の手が止まる。
絵には、面積の半分以上に赤が使われている。どの色よりも消費しているはずだった。
「署までご同行願いましょうか」
こわばる顔を見下ろし、ベテラン刑事は告げた。
「その、血塗られた絵と一緒にね」
FIN
※文字書きさんに100のお題「クレヨン」回答