#DOWN

エピローグ(1)

 管理局は、セルサスらによってクラッカーたちが捕らえられた、数時間後には本来の姿を取り戻しつつあった。
 機器だけが生きていた建物内に、人の気配が、声が戻ってくる。それだけで、時には無機質な印象を与える景色に、活気と温かさが生まれた。
 忙しくスタッフたちに指示を出す合間に、パストール局長は医務室の少年たちのもとに顔を出した。
 そこにいる少年少女は、ルチルとクレオだけだった。
「おや……もう二人はどうしたね?」
 読唇者は、いつの間にかいなくなっていた。しかし、その後少年たちがここに移動するまでは、確かに、リルとシータの姿はあったはずだ。
 ベッドに腰かけていた少年が、つまらなそうな顔をして首を振った。
「シータは、色々尋問されるのが面倒だとか言ってさ。リルちゃんはそれを追いかけて行った。さよならも言わずにいなくなるなんてさ」
「ふられたな」
 意地の悪いニヤニヤ笑いを浮かべる局長に、クレオは飛び上がって抗議する。
「いいや、絶対見つけ出して、振り向かせて見せるっ」
 ぐっと拳を握り、右手を天井めがけて突き上げる。なぜか、周囲の者たち――局長と看護師らから、拍手が起きた。
 そのまま、今にもリルを追って飛び出して行きそうな少年の手を、ルチルが取った。
 ガチャリ。
 突然の金属音につられて少年が振り返ると、彼の左の手首に、鈍い銀色に輝く手錠がかけられていた。
「え……ええぇぇっ !?」
 何が起こったのかやっと認識して、驚きの声を上げる。
 赤毛の少女は、笑っていた。
「逃がさないわよ。これからあんたの身柄は、サイバーフォースが預かる」
「ちょっ……確かに、色々悪いことはしたかもしれないけど……」
「まずは啓昇党の活動についての尋問。洗いざらい、話してもらうからね」
 手錠のもう一方の輪は、彼女の右手首にかけられている。そのまま、鎖でつながった相手を引きずるように歩き出す。
 転びそうになりながら歩くのがやっとの状態で、クレオはルチルの背中を見た。
「ル、ルチルちゃん? オレも、犯罪者として裁かれるってこと?」
「ま、情状酌量の余地はあるでしょ。それより、キミにはやってもらうことがあるんだから。両親を説得する自信、ある?」
 啓昇党のメンバーは全員拘束され、管理局内にあるサイバーフォースのオフィスに集められていた。そのなかには、長年教会で一緒に暮らしてきたクレオの両親もいる。
 彼は、一瞬怯んだような表情を浮かべ――それを笑みに変える。
「もちろん!」
 強い意志を込めて、少年はうなずいた。

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