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第3章 初期のスピリチュアリズムの歩み……驚くべき心霊現象の現出と、近代心霊研究の展開

アメリカで始まった初期のスピリチュアリズムは、早くも四年後にイギリスに伝わりました。当時イギリスは産業革命を成功させ、先端科学の中心地として世界をリードする立場にあり、その時代を代表する世界一流の学者が集まっていました。近代心霊研究(初期のスピリチュアリズム)は、こうした英国を中心とする一流の科学者によって進められることになりました。そして優秀な科学者たちの研究にタイミングを合わせるかのように、欧米には研究対象となる優れた霊媒が次々と輩出することになりました。このような中で近代心霊研究は発展していきます。生まれたばかりの初期のスピリチュアリズムは、「近代心霊研究」を軸として展開していくことになりました。

心霊現象の中で、まず科学者が研究の対象としたのが「物理的心霊現象」です。これは、私たちの周りで怪奇現象とか超常現象としてよく騒がれる現象のことで、宗教では古来から“奇跡”として扱われてきたものです(*聖書の中に出てくるイエスが行った数々の奇跡が、この現象に相当します)。これらの現象は物質次元で引き起こされるため、その場に居合わせた人なら誰もが同時に見たり聞いたりすることができます。フォックス家事件で幽霊が起こしたラップ音などは、この現象と言えます。

そうした現象は現場に居合わせた者には無理なく受け入れられますが、ただ話を聞いただけの人間には、すんなりと受け入れられるものではありません。特に現代の科学思想に馴染んだ者にとっては、なおさら認められるものではありません。心霊現象は科学の枠内に収まらないし、科学をもってしては説明できないからです。心霊現象はどこまでも事実であり厳然として存在するものなのですが、自分の考える科学の常識と食い違うために頭から否定するようになるのです。物質世界の法則だけを研究対象とする現在の科学にとって、心霊現象は初めから研究対象とはなり得ないものなのです。

近代心霊研究では、さまざまな心霊現象に対して、当時の一流の科学者による厳しい検証・研究が進められました。心霊現象には、いろいろな種類があります。そうした種々の心霊現象の一つひとつに対して、徹底した検証と実験が行われました。その結果、心霊現象はあの世(霊界)にいる霊によって演出されることが明確になり、「霊魂説」が事実であることが証明されることになったのです。それと同時に、これまで宗教において特別な奇跡として取り扱われてきた心霊現象が、いくつかの条件さえ整えば、実験室の中でも再現できることが明らかにされました。

以下では、当時行われた心霊研究の中から代表的なものを見ていくことにします。

(一)空中浮揚――霊媒ホームとクルックス博士

人間が空中に飛び上がったり、しばらく空中に浮くなどという話を聞けば、まるで漫画か映画の中のシーンであるかのように思ってしまいます。しかし実際に、そうした現象は数多く存在するのです。インドやヒマラヤの行者、TM瞑想(タントラヨーガ)の空中浮揚は有名です。また日本でも密教行者などの空中浮揚は知られており、テレビでも放映されたことがあります。

この「空中浮揚」において心霊研究史上、最も有名で際立った能力を発揮したのが、スコットランド生まれの米国人D・D・ホームです。彼はトランス状態で空中に浮揚し、ビルの三階の窓から出て、しばらしてまた窓から帰ってくるという、常識では考えられないような離れ業をやってのけました。しかもそれを白昼堂々と、何人もの人間が見ている前で、何回も(百回以上)行っているのです。ホームは他のあらゆる心霊能力にも力を発揮しています。ホームによる空中浮揚が事実である以上、聖書の中の“イエスが水の上を歩いていた”という記述も単なる作り話ではなく、現実であった可能性が考えられるようになります。

ホームの霊能力のあまりの素晴らしさに“超人として崇拝の対象にしよう”という動きが人々の中に生じ、しばしば彼を困らせることになりました。彼はきわめて高潔な人格の持ち主であり、生涯にわたって一度も報酬を受け取りませんでした。ホームは、自分が人々の崇拝の対象になるということを最も忌(い)み嫌っていたのです。彼は、科学者から要請のあったあらゆる心霊実験に喜んで応じました。彼は生涯を通して、一度もトリックの嫌疑をかけられたことはありませんでした。

ホームの人格がいかに高潔であったとしても、話を聞いただけでは、人間が空中に浮き上がるなどということは信じられないのが普通です。現場でホームの空中浮揚を見ていたという全員が集団催眠にかけられ、幻を見せられたのではないか、と疑うこともできます。そこで、この霊媒ホームを使って研究を始めることになったのが、先に述べた当時第一級の物理学者であったクルックス博士でした。彼は一八六三年、英国学士院会員に選ばれ、一八九七年にはサーの称号を受け、後には英国学士院をはじめ、化学協会・電気技師協会・英国学術協会の会長を歴任しています。そしてその間、タリウム元素の発見、クルックス放電管の発明などで世界的な名声を博しました。文字どおり英国科学界だけでなく、世界科学界のトップの立場にいた人物でした。

そのクルックス博士が、本格的に心霊研究に乗り出す際に出した声明文が、次のようなものでした――「まだ何ひとつ理解していない問題について、見解だの意見だのといったものを持ち合わせてはいない……一切の先入観を持たずに研究に入りたい。この研究の結果、間違いないと確信した情報はいつでも提供しよう……」そしてこの声明文は、「科学によってスピリチュアリズムの愚にもつかない現象を追放しよう!」といった言葉で締めくくられています。

この声明文の終わりの一行から、研究に乗り出した当初のクルックス博士は、巷(ちまた)で騒がれている心霊現象には何かあると思いながらも“どうも疑わしい”といった疑念を強く持っていたことが分かります。ジャーナリストたちはこの声明を大歓迎し、これでスピリチュアリズムの“化けの皮”がはがされ、すべてにケリがつくと考えました。ところが、この期待は見事に裏切られることになります。ホームの研究、さらにこの後で紹介するケーティ・キング霊の研究により公表された実験報告は、百パーセント心霊現象を肯定するものだったからです。

ウィリアム・クルックス

ウィリアム・クルックス

クルックス博士は――「信じがたいことだが事実である」との霊魂の存在を認める声明を出しました。これが出版されると、英国中に大センセーションを巻き起こしたことは言うまでもありません。完全に裏切られた形となったジャーナリストの中には、博士は女性霊媒と恋に落ちて説を翻(ひるがえ)した、などというデタラメをでっちあげた者もいました。

クルックス博士は、巷(ちまた)で心霊現象と言われているものの中に多くの詐欺・不正・トリックがあることを知って、それらを率先して暴いてきました。歴史上の人物の名前を騙(かた)って出るまやかしの霊界通信を見抜き、人間の欲望に迎合した程度の悪い霊媒を徹底して非難してきた人物でした。まさに“インチキ霊能者”のペテンを暴露し摘発する名人だったのです。その彼が、最終的に霊魂の存在を認めるようになったという事実は、「霊魂説」が単なる作り話や迷信の類ではなく、信憑性の高い説であることを物語っています。

(二)物体移動・物体浮揚――エクトプラズムの存在

人が直接手を触れないのに物体が移動したり、空中に浮き上がる現象が存在します。外から見ているかぎりマジックショーと似ているため、何かトリックがあるに違いないと頑(かたくな)に思い込んでいる人がいますが、実際には何のトリックも仕掛けもありません。

こうした現象は今日でも、世界各地でひんぱんに見られます。以前テレビでも放映されましたが、東南アジアのある国(インドネシアかマレーシア)から招待された行者が、机の上に置いてあったタバコ数本を空中に浮き上がらせていました。タバコは五十センチくらいの高さの所を跳ねるように浮いていました。また旧ソ連邦ではこの種の研究がかなり盛んに行われており、机の上に置かれたボールや木片などを手を触れずに(二十センチほど離して)あちらこちらへ動かしている様子が、テレビでたびたび紹介されました。

こうした現象に対する近代心霊研究で最も有名なものが、クローフォード博士がゴライヤー家の七人の霊媒を使って行った実験です。この実験では、重さ二十キログラムのテーブルが空中に浮揚しました。クローフォード博士は、この浮揚中の写真を何枚か撮っています。そして物体が空中に浮き上がるメカニズムについても言及しています。それによると霊媒の膝の辺りから出た“エクトプラズム”という半物質が、足先から床を伝わってテーブルを支えているということです。そして博士がテーブルの下に手をやると、ヒヤッとするような感触でエクトプラズムが確認でき、その瞬間にテーブルは落下しました。「物体の空中浮揚」や先に述べた「人間の空中浮揚」は、霊媒の体内から出たエクトプラズムが下から支えたり押したりして引き起こされる現象であることが明らかにされました。

近代心霊研究では、このエクトプラズム解明のために、かなりの時間が費やされました。特にノーベル生理学賞を受賞したフランス人、シャルル・リシェは、エクトプラズムについて集中的に研究しました。“エクトプラズム”という名前は彼の命名によるもので、“抽出された”を意味するギリシア語のエクトスと“原形質”を意味するプラスマからつくられた合成語です。

シャルル・リシェ

シャルル・リシェ

エクトプラズムは、入神状態に入った霊媒の鼻や口や膝などから、濃い霧のような状態で出てきます。それが徐々に凝縮して粘着性を持った物質のようになり、やがて手に触れたり握ったりできるようになります。エクトプラズムの堅さは、状況に応じてさまざまに変化します。驚くべきことに霊媒から出たエクトプラズムは、時には人間の全身の姿や、人間の身体の一部(腕や指先など)を形づくることもあります。これがエクトプラズムによる「物質化現象」です。

そして時間が経つと、エクトプラズムは再び霊媒の体内に戻っていきます。エクトプラズムが体外に出ている写真は数多く撮られています。エクトプラズムの性質を化学的に分析してみた結果、その匂いは角(つの)を焼いたときのようであり、主成分は唾液(だえき)に似ており、ある種のリン酸塩であることが確認されています。

さらに驚くべきことに、エクトプラズムが体外に放出されているときは、霊媒の体重が極端に減少することも確かめられています。人間の身体の一部が溶け出したり、元に戻ったりするというようなことは常識的には信じがたいことですが、これは間違いのない事実なのです。おそらく研究に携わった学者たちも、初めはこの現象をなかなか信じることができなかったに違いありません。今日のスピリチュアリズムでは「物理的心霊現象」には、このエクトプラズムが関係していることが常識となっています。

ゴードン・ヒギンソンとエクトプラズム

物理霊媒のゴードン・ヒギンソンの口から流出しているエクトプラズム

Psychic Newsより)

エクトプラズムによって浮遊するテーブル1

45ポンド(約20キロ)のテーブルが、エクトプラズムによって持ち上げられている

エクトプラズムによって浮遊するテーブル2

エクトプラズムによって浮揚するテーブル。テーブルは直前まで、前かがみになっている男性の後頭部の辺りにあった

(三)物質化現象(幽霊現象)

すでにこの世を去った人が、もう一度、地上人の肉眼に見える形をとって現れることがあります。これが巷でよく言われる「幽霊現象」であり、私たちの周りには、そうした死者の姿を見たという人々がかなりいます。最近では米国世論研究協議会が、米国人の半数に近い四十二パーセントの人が、すでに死んだ誰かとの接触を持ったと信じており、このうち七十八パーセントの人が死者の姿を見たと報告しています。

歴史書をひもといてみると、数えきれないほど、同じような記述が出てきます。有名なものは何と言っても聖書に出てくる記述で、イエスが死後、弟子たちの前に生前の姿で現れたというものです。クリスチャンにとって、「幽霊として現れた」というような解釈は復活というキリスト教の根本教義を否定する受け入れがたいものであり、イエスを冒涜(ぼうとく)するものであると考えます。しかし真実はどこまでもここに述べた通りで、二千年前の出来事は単なる幽霊現象の一つにすぎません。

この現象にも、エクトプラズムが中心的役割を果たしています。地上側にエクトプラズムを大量に放出できる霊媒がおり、一方、霊界側には他界後あまり時間の経っていない霊がいます。この霊はいまだ地上の波動を残しているためエクトプラズムに感応し、ある程度までこれと接触することができます。またエクトプラズムを吸収して、自分の生前の身体をつくり出すことができるようになります。こうしてできたものが“幽霊”ですが、幽霊形成の過程は、ほとんどの場合、霊自身にとって無自覚のうちに進行していきます。幽霊が無表情であることが多いのは、霊自身に主体的な自覚がないところで幽霊現象が引き起こされてしまうからです。霊本人も知らないうちに、地上人のエクトプラズムを自分のうちに吸収して、エクトプラズム体をつくってしまうのです。

そうした一般的なケースとは別に、スピリチュアリズムの初期に頻出した幽霊現象は、「幽霊像をつくり出して地上人に見せよう」との霊界側の明確な意図のもとに引き起こされたものでした。この後で紹介する「ケーティ・キング霊」の場合がそれであり、霊界側から積極的に幽霊をつくる働きかけがなされています。

近代心霊研究史上、「ケーティ・キング霊に関する研究」ほど注目を浴びたものは他にはありません。この幽霊現象を研究したのは、先に述べたクルックス博士です。実験で使われた霊媒は、当時十六歳だったフローレンス・クック嬢で、博士はクック嬢を十八歳になるまで徹底的に調査・研究しました。研究は主に博士の実験室を用いて行われ、いずれの実験にも信頼のおける知人や友人を数名招待して、証人になってもらう手筈を整えています。

クック嬢がトランス状態に入ると、彼女の身体から放出されるエクトプラズムによって、地上時代に「ケーティ・キング」と名乗っていた女性の幽霊が出現します。この幽霊の物質化レベルは完璧で、地上人と全く変わらないような身体がつくり上げられました。驚くべきことに、この幽霊は呼吸をし、汗もかき、心臓も鼓動していました。ケーティ霊は、参加者の間を歩き回って一人ひとりと言葉を交わし、特に子供との対話を楽しみました。

博士はその様子を、ケーティ霊の許可を得て四十数枚の写真に収めています。ケーティ霊が霊媒クックの詐欺や仮装でない証拠として、ケーティ霊とクックの二人が並んでいる写真も撮られています。その二人を比べると、背の高さ・髪の色・容姿が全く違っていることが分かります。

写された写真の中で特に興味深いのは、英国学士院のガリー博士がケーティ霊の脈を取っているシーンで、霊媒クックが九十だったのに対し、ケーティ霊の脈拍はずっとゆっくりで七十五でした。そして実験が終わると、ケーティ霊の姿は徐々に消えていきます。あるとき、ウォルクコンという非礼な男が急にケーティ霊に抱きついて離さないでいると、そのまま溶けて消えてしまいました。

こうした足かけ三年に及んだ調査も、ケーティ霊の使命終了宣言をもって終わることになりました。ある日、「私の使命はこれで終了しました。もう二度と出てまいりません。あちら(霊界)での仕事が待っておりますので……」と言い、その言葉どおりそれきり出てこなくなりました。

このケーティ霊の最後の言葉は、当時の幽霊現象に代表される一連の心霊現象が、霊界側から周到な準備のもとで演出されていたことを示しています。霊界側は、そうした心霊現象を通じて地上人に「霊魂説」を認めさせ、死後の世界への関心を促そうとしたのです。その目的をより効果的に達成するために霊界側は、当時の第一級の科学者で、しかも徹底した懐疑論者であったクルックス博士を選んだものと思われます。そして霊界側の計画どおり、博士は生々しい心霊現象に直接ふれる中で、自らの考えを根本から変えていくことになったのです。

――エクトプラズムの研究の箇所で紹介した、ノーベル生理学賞受賞者でスピリチュアリストであったリシェは、クルックス博士が心霊現象を肯定する実験結果を公表した時点では、まだスピリチュアリズムに反対する立場をとっていました。クルックス博士を尊敬していたリシェは、博士が心霊現象を肯定したというニュースを耳にしたとき、「博士ともあろう方が何ということを……」と嘆いたと言われます。そしてクルックス博士が物質化したケーティ霊の写真を公表し、しかもその物質化霊には脈拍があったという報告書を読んだときには、「いかに尊敬申し上げる高名な物理学者とはいえ、私は声を出して笑ってしまった」と告白しています。

しかしそのリシェも、一八九二年、イタリア人霊媒ユーサピアによる心霊実験会に委員として出席し、驚異的な心霊現象を目のあたりにして圧倒されることになります。そしてそのとき彼は、「神よ、私が間違っていました!」と叫んで、これまでの懐疑的な態度を一変させることになりました。

ケーティ・キング霊とクルックス博士1

クルックス博士の肩に手を置く、ケーティ・キング霊の物質化写真

ケーティ・キング霊とクルックス博士2

ウィリアム・クルックス博士とケーティ・キング霊

ケーティ・キング霊の脈を計る

英国学士院のガリー博士が、ケーティ・キング霊の脈を計っている有名な写真

アストリッド王妃霊の物質化

ケーティ・キング霊の物質化に劣らない物質化霊の写真。ベルギー王国レオポルド三世の王妃で、交通事故で死亡したアストリッドがコペンハーゲンでの交霊会に出現

下左/上の写真の拡大写真

下右/ベルギーの切手に使われているアストリッド王妃の写真

(四)物品引き寄せ現象(アポーツ)

何百キロメートルも離れた場所から物品が瞬間的に移動し、それが霊媒の体内や土中から出てくることがあります。この場合、途中の障害物(壁・建物など)は一切関係なく移動してしまいます。これを「アポーツ(物品引き寄せ現象)」と言います。時には、動物や植物や人間までもがアポーツによって移動するようなことがあります。当時の心霊研究では、こうしたアポーツ現象についても徹底して調査・研究が行われました。そして霊媒の体内から金属性の像が出てくる瞬間など、多くの貴重な写真が撮られています。

この現象は、ある場所にあった物品が分解・気化して移動し、再び物質化して復元するというメカニズムで起こされると考えられています。ただし現在に至るまで、アポーツに関してはそれ以上の明確な説明はなされておらず、詳しいメカニズムの解明は今後の心霊研究の発展に依らなければなりません。アポーツのメカニズムが完全に解明されていないとしても、そうした現象が存在することは紛れもない事実です。

ここで大切なことは、アポーツは偶然的に引き起こされる現象ではなく、霊界からの明確な働きかけによって発生するということです。「霊的法則」に基づいて霊界からエネルギー操作がなされることによって、物質界の存在物が移動するようになります。霊界からの働きかけで、地上にあった物体が一瞬にして気化し消滅するのです。

この現象(アポーツ)に関連して思い出されるのが、“イエスの死体が墓から消滅した”という聖書の話です。キリスト教では、イエスの死体が消えたのはイエスが復活したからであるとしていますが、実際は霊界からの働きかけによってイエスの死体は分解され消滅したのです。

(五)心霊治療(スピリチュアル・ヒーリング)

聖書の中には、イエスが手を触れただけで長患(ながわずら)いの病人が、たちどころに治ったというような奇跡治療の話が数多く書かれています。科学時代の今日でも、現代医学に見捨てられた人々が「心霊治療(スピリチュアル・ヒーリング)」によって救われたという話を、至る所で耳にすることができます。不治の病(やまい)で苦しむ患者やその家族にとって、奇跡ともいえるような心霊治療は最後の拠りどころと言えます。その意味で心霊治療は、現代人が最も関心を寄せている心霊現象の一つです。

心霊治療(スピリチュアル・ヒーリング)は、それまでの物理的心霊現象に代わって、現代人の知性に合わせた新しい心霊現象として霊界側が演出するものです。事実、第一次世界大戦までは“スピリチュアリズム”の中では物理的心霊現象が中心となっていましたが、大戦を期にスピリチュアリズム本流の心霊現象は、スピリチュアル・ヒーリングに移行していきました。スピリチュアル・ヒーリングは現在、霊界側の全面的援助と協力のもとで世界中に展開するようになっています。

[1]心霊治療の種類とメカニズム

現代医学では手の施しようもなかった病気が「心霊治療」によって奇跡的に好転したり完治するメカニズムとしては、次のような要因が考えられます。

①純粋な生体反応

血流やリンパの流れが促されて痛みの原因となる物質が取り除かれたり、脳内麻薬様物質(エンドルフィンなど)がつくられて、痛みが和らげられる。

②プラシーボ(暗示)効果

暗示によってプラスの精神状態がつくり出され、それによって自然治癒力・免疫力がアップする。(*昔からマイナスの精神状態やストレスが人間の健康を害し、反対にプラスの精神状態が健康を回復することが体験的に理解されていた。現代医学では、最近になってやっとその事実に気づき「心身相関医学」という新しい医学が確立されるようになった。)

③治療家(ヒーラー)の生体エネルギーの注入

人体には東洋医学で言うような、ある種の生体エネルギー(生体磁気)の流れがあって、全身をコントロールする働きをしている。この流れが滞ると部分的・全体的に不調となる。外部から生体磁気を与えることによって全身の生体エネルギーの流れがスムーズになり、体調が改善されるようになる。鍼灸(しんきゅう)や按摩(あんま)・マッサージなどによって患者の症状が一時的に快癒するのはこのためである。

④治療家(ヒーラー)の霊体エネルギーの注入

人間の霊体からは、古来より“チャクラ”と呼ばれてきた肉体と霊体の接点を通して、肉体に霊体エネルギーが送られている。このとき霊体エネルギーは生体エネルギーに転換して、肉体全体の機能をコントロールするようになる。心霊治療では、治療家(ヒーラー)の霊体エネルギーが患者のチャクラ部分から注入され、それによって患者の肉体のエネルギーレベルが高められ病状が回復するようになる。気功治療や手当て療法などは、こうしたプロセスによって治療が行われる。

⑤霊界の治療者(霊医)からの霊的エネルギーの注入

霊界にいる治療者(*その多くは地上時代に医者の経験者で、これを「霊医」と呼ぶ)が、地上の治療家(ヒーラー)を媒介にして患者にふさわしい霊的エネルギーを注入して病気を治す。とは言っても、霊界の医者から発せられる霊的エネルギーはあまりにも純度が高いため、そのままでは地上の患者の身体には入っていかない。そのため霊医の霊的エネルギーは、地上のヒーラーの肉体を通過させ物質性を加えてから患者に与えられることになる。

実際の心霊治療(スピリチュアル・ヒーリング)の治療効果は、これらの要因の組み合わせによって引き起こされます。例えば最近注目されている気功治療は、主として③と④の効果によるものです。また、ある新興宗教に入ったら病気が治ったというケースは、②の効果によるところが大きいと言えます。さて、この中で純粋な意味で心霊治療と言えるものは、⑤の霊界の医者(霊医)によって行われるヒーリングのことです。霊界の治療者(霊医)が主役になって進められる治療を“スピリチュアリズム”では、本当の意味での心霊治療とし、これを「スピリット・ヒーリング」と呼んでいます。

なおスピリチュアル・ヒーリングについては、『スピリチュアル・ヒーリングとホリスティック医学』(日本スピリチュアル・ヒーラーグループ発行)の中で詳しく述べられていますので、関心のある方はそれをご覧ください。

[2]代表的な心霊治療家(スピリチュアル・ヒーラー)

スピリチュアリズムの歴史の中では、多くの優れた「心霊治療家(スピリチュアル・ヒーラー)」が誕生しました。そうした優れたヒーラーたちによって、スピリチュアリズム運動は知名度を高め、さらなる発展がもたらされることになりました。ここでは代表的な心霊治療家について見ていきます。

①チャップマンの霊体手術

ラングという霊界の治療者(霊医)が、イギリス人心霊治療家「チャップマン」の肉体を一時的に支配し患者を治療します。チャップマンはトランス状態に入っているので、その間の出来事は覚えていません。その治療方法は、主に患者の幽質結合体に対しての直接的な心霊手術です。幽質結合体とは、地上人が地上生活を送る間にだけ存在する霊体と肉体の中間体であり、肉体と同じ形をしています。肉体の一部に異常があると、幽質結合体の同じ部位にも異常が生じるようになります。霊医がこの異常部分を取り除くと、肉体の異常が治るようになります。チャップマンの治療では、患者の治癒力が低下しているときには、まず初めに霊的エネルギーを患者に注入することを行っています。

チャップマンはこうした直接的な心霊治療以外にも、チャップマンの依頼に応じてラング霊が患者のもとに赴き治療するという形式の治療も行っています。これは「遠隔治療(アブセント・ヒーリング)」の特殊なケースです。

②トニーの心霊外科手術

フィリピン人「トニー」の心霊手術は、チャップマンの幽質体への手術と違って、患者の肉体の患部を直接取り出すというものです。手術はトニーが手刀(てがたな)で肉体をなぞると、まるでナイフかメスで切ったかのように肉体が開きます。そしてトニーはその切り口から素手を体内に突っ込んで患部を取り出します。患部を取り出した後、彼が手でなぞると切り口はきれいにふさがり跡形もなくなります。手術の最中、患者はほとんど痛みを感じることはありません。

一時期、日本からも多くの患者がトニーのもとに押しかけたことがありました。それほど際立った治療能力の持ち主であったトニーも煩悩の誘惑に負け、生活を乱して能力を失ってしまったことがありました。そのとき人間の腫瘍の代わりにブタの肉片を用いたトリックが発覚し、著しく評判を落とすことになりました。その後、彼は改心し、神の道具として誠実な治療師の道を歩み直すようになると、かつての治療能力が戻りました。心霊現象や心霊治療には、絶えずこうした不正が付きまといます。ニセ治療師は金儲けと名声のために、しばしば心霊治療を悪用します。トニーもこうした悪徳ヒーラーの中に足を踏み入れかけましたが、すんでのところで思いとどまることができたのです。

トニーと同じように直接的に肉体患部を取り除く心霊治療家がブラジルにもいました。またタイをはじめとする東南アジア各地にも存在します。タイ東北部ラオスに近い地区に住む中年女性の心霊治療師は、トランス状態になると地上時代ラオス人だった霊界の治療者が乗り移ります。そして女性の口を使って患者の患部にかぶりつき、それを取り出します。患部と思われるものが取り除かれると病気はよくなっていきます。この様子は十数年前、テレビで放映され大きな反響を呼びました。東南アジアにはこうした心霊治療師が、まだまだ多くいるものと思われます。「なぜこの女性を霊媒として選んだのか?」という質問に対して霊は、「この女性は身体が健康で利己心が少ない。人と争うことがないから」という印象的な答えをしていました。

③ハリー・エドワーズの心霊治療

イエスが地上時代に行った以上の病気治療をしたと絶賛され、スピリチュアリズムの歴史上最も有名な心霊治療家が、イギリス人「ハリー・エドワーズ」です。彼の治療では、医学で“不治”と宣告された患者の八十パーセントに何らかの好転が見られ、そのうち三十パーセントの人が完治しています。心霊治療を依頼した患者の多くが現代医学に見放されていたことを考えると、ハリー・エドワーズの治療実績は驚異的と言えます。

ハリー・エドワーズの心霊治療では、霊界の治療者(霊医)が、彼の身体を媒介として患者に霊的エネルギー・治療光線を注入します。ハリー・エドワーズの治療の様子は傍(はた)から見るかぎり、ただ単に手を軽く患者の身体の一部に触れるという、実に地味で何の変哲もないものです。しかしそうした地味な行為の中で、霊界サイドでは驚異的な心霊治療が進められていたのです。

ハリー・エドワーズの心霊治療は、まさに「スピリット・ヒーリング」の見本と言えます。彼の治療は、常に霊界の医者たちによって主導されていました。彼の背後には多数の霊医からなる医師団が控え(*その中心者が、パスツール霊でした)、そこでは絶えず地上の研究所のように治療光線の研究がなされていました。こうして霊界の実験室でつくられた治療光線が、ハリー・エドワーズという地上の治療家を通して患者に与えられたのです。

スピリット・ヒーリングにおいては、地上のヒーラーは、霊医の治療エネルギーの変圧器(トランスフォーマー)の役割を果たすことになります。ヒーラーが霊的エネルギーの良き媒介体・霊医の道具となることで、治療効果はいっそう高まることになります。ハリー・エドワーズは、常に「良き霊界の道具」を目指して生活を正し、自分の心を清め高めるように努力していました。彼には“自分が患者の病気を治してやるのだ”というような思い上がりや気負いは一切ありませんでした。霊界の道具に徹しようとする彼の謙虚さの中に、スピリチュアル・ヒーラーとしての模範的人格を見ることができます。

彼と同じような形式で治療を行う心霊治療家は、今日、世界各地に数多くいますが、その治療効果は次の二つの内容(条件)によって決定されます。治療効果を決定する一つ目の条件とは、トランスフォーマー役を務める治療家自身の霊的レベル(霊性)と精神状態です。治療家の内面性(霊性・精神性)によって、霊医から受けられる霊的エネルギーの質が決定されます。もう一つの条件は、治療を受ける側(患者)の霊的成長レベルと精神状態です。これによって患者自身がヒーラーから受け取ることのできるエネルギーの内容が決められます。

スピリット・ヒーリングは「霊的法則」に基づいて進められます。常に厳密な法則の支配のもとで進行します。患者の「霊的成長レベル」によって治療が制約されるということです。それは患者の魂が、霊医から送られてくる治療エネルギーを受け取ることのできるレベルにまで成長していないかぎり、どれほど優れた治療家(スピリチュアル・ヒーラー)から治療を受けても病気は治らないということを意味します。これがスピリット・ヒーリングにおける大原則なのです。

④カール・ウィックランドの除霊治療

米国の精神科医師「カール・ウィックランド」は、スピリチュアリズムに関心があり、自分で交霊会を催していました。あるとき霊界側から一つの提案がなされました。それは、「ウィックランドが扱っている精神病患者の大半が低級霊による“憑依(ひょうい)”が原因となっているので、その憑依霊を患者から引き離して妻アンナに乗り移らせ、しゃべらせる。その憑依霊に博士が応対して実情を聞き出し、目覚めさせてやって欲しい」というものでした。霊界側は、アンナの身の安全は保証すると言い、全面的な協力を約束しました。そうして始めた「除霊治療」は実に三十年にわたって続けられ、おびただしい数の精神病患者が癒され正常になりました。それと同時に、患者に憑依していた霊たちも救われることになりました。

日本の新興宗教の中には、これと似たような除霊治療を行っているところがあります。患者に対して手をかざしたりオーラを放射すると、憑依していた霊が苦しみながら出てきます。この霊を説得したり、他の霊に連れていってもらったり、時にはさらにオーラを放射して追い出すなどして、患者から引き離すことが行われています。しかし現実の様子を見るかぎり、そうした方法では、さほどよい結果は得られません。その時だけは霊が離れて病気がよくなっても、しばらくするとまた同じ霊に取り憑かれたり、別の霊に憑依されるといったことを繰り返すようになるのです。

それに対しウィックランドの除霊治療は、霊界側の全面的な協力と援助のもとで行われたため、見事な結果を残しています。

⑤エドガー・ケイシーのリーディング治療(霊界からのアドバイス治療)

二十世紀のアメリカ人霊媒として、「エドガー・ケイシー」は最も広く知れわたった人物でした。一九四五年に亡くなるまで、何百万人もの患者が彼の診断を求めてやってきました。彼が横になってトランス状態に入ると、彼の意識を支配した霊が患者の体を透視して診断と処方について語り出します。この霊界からの助言によって、多くの患者の病気が治癒しました。ケイシーのリーディング治療の治癒率は、きわめて高かったのです。

こうした霊界からの治療や処方に関するアドバイスは、膨大な数に及んでいます。現在もケイシーの後継者たちが、その処方箋に従って患者の治療にあたっています。しかし、ケイシーの存命中のようなよい治療成果をあげることはできていません。その理由として、現代の物質文明の発展や生活スタイルの変化にともない、ケイシーの時代と比べて人々の体質が著しく劣化していることが考えられます。そのため当時の処方箋は、そのままでは現代人には適用できなくなっているのです。さらに重大な理由があります。それはスピリチュアル・ヒーリングでは、常に一人ひとりの体質やカルマや症状に合わせたオーダーメードの処方がなされるということです。時代を経た昔の処方箋は、このスピリチュアル・ヒーリングの大原則に一致しません。

したがって当時、ケイシーの前に現れた患者には有効だった処方も、今日の人間には効果を発揮することはできないということなのです。この意味でケイシーが残した膨大な霊界アドバイス(処方箋)は、すでに時代遅れになっているのです。

(六)スピリチュアリズムにおける心霊現象の本質と意義

以上のように、さまざまな種類の心霊現象を見てきました。心霊現象には、この他にもポルターガイストやラップ・心霊念写などがあります。また霊能者の霊能力によって引き起こされる霊視・霊聴・未来予知・透視といった超常現象もあります。心霊現象や超常現象を扱った研究資料は膨大な量にのぼり、とてもそのすべてを紹介することはできません。ここで取り上げたのは、その中のごく一部にすぎません(*心霊現象や超常現象についての詳しい説明は、別の機会に譲ることにします)。

本章の最後に、スピリチュアリズムにおける心霊現象の意義をもう一度確認します。

近代心霊研究は、スピリチュアリズムの一部分にすぎない

スピリチュアリズムの初期には、心霊現象や超常現象に対する科学者の科学的研究が人々の注目を浴びることになりました。それが現在にまで、“スピリチュアリズムとは近代心霊研究である”との一面的で偏狭な定義を定着させることになってしまいました。

しかし心霊研究は、スピリチュアリズムの中のほんの一部分にすぎません。この章で紹介したような優れた心霊現象は、すべて霊界からの周到な準備のもとで引き起こされたものです。きわめて高い霊格を持った高級霊の指導のもとで、明確な目的のために、計画的に演出されたものなのです。心霊現象と近代心霊研究は、霊界サイドから仕組まれた「スピリチュアリズム普及計画」の一つのステップに他ならなかったのです。

物理的心霊現象の演出は、低級霊の得意分野

心霊現象を理解するうえで大切なことは、物理的心霊現象のような物質的要素の強い現象は“低級霊”にも演出できるものである、という点です。巷でしばしば騒がれるような物理的心霊現象の大半が、高級霊ではなく低級霊によって引き起こされています。低級霊は、地上人の程度の悪い欲望や利己的で物質的な欲求につけ込み、地上人をからかって驚かせようと、それらしく演出します。そもそも高級霊が、地上人の程度の悪い物質的な欲望に耳を傾けたり、意味もなく地上人を驚かせるようなことをするはずがありません。

その一方で地上世界には、人々を騙して利益を得ようとする“悪徳霊能者”がいつの時代にも存在します。そうした霊能者は低級霊を引き寄せ、次々と華々しい物理的心霊現象を引き起こします。それを見た一般の人々は驚き、恐れおののいて、その霊能者を神の化身であるかのように思い込むようになります。こうして低俗な霊能者を教祖とする宗教教団やグループがつくられることになるのです。低級霊によって支配された宗教教団では、初めはご利益(物質的欲望)が次々と叶えられるような状況が展開するため、人々は信仰に夢中になります。そして宗教教団全体が“低級霊の餌食”にされるようになってしまいます。やがてそれまでのご利益をすべて台無しにするようなひどい仕打ちが低級霊によって引き起こされるようになり、教団内に憎しみや対立が生じ、多くの信者が絶望や苦しみの中に突き落とされることになります。

一般の人々は、心霊現象や超常現象といった不思議な出来事に強い関心を持っています。そうした不思議な力によって自分の人生に奇跡がもたらされ、幸せになることができると安易に考えます。せっかくのチャンスを逃したら大損とばかりに、他人を押しのけてでもご利益にあずかろうとします。不思議な現象を起こす卓越した霊能者がいるとの噂はすぐに広まり、連日人々が押しかけるようになります。こうして世間に“ニセ霊能者”や“悪徳霊能者”がはびこることになるのです。

病気が治ることよりも、霊的覚醒の方が大切

後述する「シルバーバーチ」という高級霊が、世界的に著名な心霊治療家ハリー・エドワーズに対して、次のように述べています。

「魂に霊的悟りをもたらせることこそ心霊治療の真髄だからです。身体的障害を取り除いてあげても、その患者が霊的に何の感動も覚えなかったら、その治療は失敗したことになります。もしもなんらかの霊的自覚を促すことになったら、その治療は成功したことになります。」

「霊的自覚をもたらすことの方が、病気を治し悩みを解消してあげることより大切です。」

病気を治したいという思いは、人間としてごく当たり前のものです。そこには利己的要素はありません。しかし、そうした人間としての当たり前の願望に対してシルバーバーチは――「病気が治ることより、病気を通じて心が成長することの方が大切である」と言っているのです。それは肉体の病気よりも、心の病気の方が深刻で重大であるということを意味しています。極言すれば、心が成長するなら、肉体の病気は治っても治らなくてもどちらでもいい、ということになります。

このように物質的(肉体的)なものより心の成長を徹底して強調するのが、すべての高級霊に共通した姿勢であり、それこそが“スピリチュアリズム”が最も主張する点なのです。スピリチュアリズムの「霊的教訓」の真髄なのです。

近代心霊研究の究極の目的とは――「霊魂説」の証明と啓蒙

これまでの内容をもう一度まとめてみると、高級霊がわざわざ手の込んだ心霊現象を引き起こしてきた目的は――地上の人間に「死後の世界があること」「人間は死んでも霊魂として生き続けること」を教えるためでした。すなわち「霊魂説」を証明することが、その目的だったのです。

真摯な態度で心霊研究に取り組んだ科学者は、例外なく霊魂の存在を認めるようになりました。しかしその一方で、せっかくの心霊実験への参加要請を無視し、研究成果に目をつぶり続けた者たちもいました。そうした人間に対してコナン・ドイルは、次のように言っています。

「これほどの心霊研究の報告書を読んで、なお猜疑心が消えないようでは、その人間の頭が少しおかしいのではなかろうか!」

コナン・ドイルは一時期、SPR(英国心霊研究協会)に所属していたことがありましたが、最終的にSPRを脱退しました。それはSPRが、いつまで経っても霊魂の存在を承認する正式な態度を公表しなかったからです。するとこれに同調して八十三名が脱退し、その後、SPRは全く精彩をなくしてしまうことになりました。

伝統宗教に突きつけられる決断

さて「霊魂説」を論じるとき、最も厄介なのがキリスト教に代表される“伝統宗教”です。心霊現象をすべて頭から“悪魔の仕業”だと決めつけ、敵対的態度に出てきます。スピリチュアリズム(近代心霊研究)は、唯物主義という宗教全体の敵に対して決定的な打撃を与えました。本来ならば「唯物主義」こそが、キリスト教にとっての最大の敵であったはずなのです。しかしキリスト教は、一番の味方となるべきスピリチュアリズムを敵視するようになりました。率直に言ってキリスト教会は今後、勇気を持って間違った教義を改めないかぎり、いずれ地上から姿を消すことになってしまうでしょう。

キリスト教会はイエスの死を、大袈裟(おおげさ)に考え過ぎています。確かにイエスの死は感動的ですが、真理のために生命を捧げた人は他にもいます。イエスの真価は、その“気高く美しい人生”にあるのであって“死”にあるのではありません。イエスが死後、弟子たちの前に現れたという現象は、すでに述べたように単なる「幽霊現象」にすぎません。それをもって“将来イエスが復活し再臨して人類を救う”などと考えるとするなら、それは大きな間違いです。

では、仏教はどうでしょうか。キリスト教会のようにスピリチュアリズムに対して露骨な反対に出ないところは仏教のよい点と言えるかもしれません。しかし先に述べたように仏教の教えの中には、明らかに根本的な間違いがあります。

シャカは、明確に「霊魂」という実体を否定し、霊魂があると考えることを“錯覚”としましたが、霊的事実に照らしてみるとそれは完全な間違いです。霊魂は事実存在しますし、人間は死後、霊となって霊界で永遠に生きていくことになります。こうしたスピリチュアリズムの考えを受け入れることは、ある意味で仏教の根幹を揺り動かす事態となります。しかし事実の前には、自らの考え方を訂正していくことしか生き延びる道はありません。その意味で仏教も、やはりキリスト教会と同様、自らを改めていく勇気が問われることになります。

こうした問題は、キリスト教や仏教だけに限ってのことではなく、地球上のすべての宗教に当てはまることなのです。

心霊現象から霊的真理へ――“スピリチュアリズム”の次なるステップアップ

十九世紀後半から二十世紀初期にかけて、霊界側は目を見張るような心霊現象を次々と演出して、地上の科学者に「霊魂」や「死後の世界」の存在を認めさせることに成功しました。しかし華々しい奇跡的な心霊現象を起こすことが、霊界側の本来の目的ではありません。霊界側は、より高い目的に向けて人類を導くことを計画していたのです。心霊現象の研究(近代心霊研究)は、スピリチュアリズムの計画の中の、初期における一つのステップにすぎませんでした。“スピリチュアリズム”は心霊研究にとどまることなく、さらなる高いレベルに向かって進んでいかなければなりません。

霊界側の目指すより高い目標とは、「霊的真理の普及」です。私たち地上人に霊的世界に関する事実を教え、正しい生き方へと導くことです。「人間はいかに生きるべきか」を地上人に伝え、啓蒙することなのです。そうして地上人の関心を「物から心へ」「目に見える現象から価値観の世界へ」と上昇させることが、次の目的だったのです。

そのために演出される心霊現象は、当然それ以前と比べて一段と高いものが要求されるようになります。ここにおいて、従来の心霊現象とは別の種類の心霊現象が必要となります。その新しい心霊現象が、霊的真理を伝えることを目的とした「霊界通信」なのです。