〔本章では、これまで見せなかったシルバーバーチの意外な一面を紹介しよう。読者にとって、これまでのシルバーバーチは教えを説く霊、慰めと勇気を与えてくれる霊、そして人工のドグマに対して容赦のない批判を浴びせる霊といった印象が強いであろう。本章では二人の子供を相手に語る、優しくて無邪気な側面を見せている。まずシルバーバーチが開会の祈り(インボケーション)から始める。例の大審議会が催されるクリスマスも間近い頃のことだった〕
「あゝ、大霊よ。どうか私どもが童子のごとき素直な心であなたに近づき、愛と叡智に溢れる親へのまったき信頼心をもつ者にのみ啓示される霊的真理を学ぶことができますように。あなたが完全なる叡智と愛と優しさの権化であるとの信仰のもとに、何一つ恐れることなく近づくことが出来ますように」
そう祈ってから、八歳になる姉のルースと、六歳になる弟のポールを左右の膝の上(もちろん見た目にはバーバネルの膝の上)に座らせて、二人の顔に自分の顔をすり寄せながら、こう語った。
「今日はお二人のために本物の妖精を何人か連れてきましたよ。今夜はその妖精たちがお二人が寝ている間もずっと見守ることになっています。今夜はあなた方にもその姿が見えるようにしてあげましょうね。絵本に描かれている妖精ではありません。妖精の国からやって来た本物の妖精ですよ。今夜は大人たち(サークルのメンバー)とは話をしないことにします。この部屋には二人以外は誰もいないことにして会を進めるつもりです。私はよくお二人と遊びにやって来ているのですよ。ウィグワムまで持ってきて……」
ポール「ウィグワムって何ですか」
「テントのことです。私がインディアンとしてこの地球上で生活した時は、ウィグワムの中で暮らしていました」
ルース「シルバーバーチさんはきれいなお声をしてますね。とてもはっきり聞こえます」
「これは私自身の声ですよ。この霊媒の声ではありません。特別に(声帯を)こしらえるのです」
ルース「霊界ではどのようにして話し合うのですか」
「こちらでは話すということはしません。お互いが思ったことに翼をつけて送るのです。あっという間に空間を飛んで行きます。返事も同じようにして届けられますから、言葉は要らないのです。心の中に美しい絵を描いて、それを送ることも出来ます。樹木、花、小鳥、小川、その他地上には無いものも沢山あります。欲しいものはすぐさま作ることが出来ます。必要なものは何でも作れます」
続いてルースは、普通だったら苦しみながら死んで行くはずだったのにシルバーバーチとその霊団のお蔭で安らかに息を引き取った隣人の話を持ち出して、霊界でも面倒を見てあげて欲しいといった趣旨のことを述べた。さらにルースは、後に遺された二人の子供のことも大霊が面倒を見てくれるよう祈っていると述べた。するとシルバーバーチが、二人のことはちゃんと面倒を見ているし、これからも見ていきますと答えた。
ポール「(亡くなった)あの人はシルバーバーチさんのような立派な霊になれるでしょうか」
「それは、なれるでしょう。時間が掛かりますけどね。二、三百年くらいかな」
ルース「ずいぶん掛かるんですね」
「そんなに長く感じますか。慣れれば長く感じなくなりますよ」
ルース「シルバーバーチさんは生まれて何年になるのですか」
「そろそろ三千年になります。でも、まだまだ若いですよ」
ルース「三千歳は若いとは言えないなあ。死んだらみんな霊になるのですか」
「人間は大きな霊に成長しつつある小さな霊なのです」
ポール「でも、僕たちはシルバーバーチさんと同じではないでしょう?」
「私も僕たちもみんな大霊の子であるという点では同じですよ。大霊の小さな一部分です。それがみんな繋がっているのですから、私たちは一つの家族ということになります」
ポール「するとゴッドというのはすごく大きいでしょうね?」
「この広い世界と同じくらい大きいですよ。しかも僕たちの目には見えないところも沢山あるのです」
ポール「ゴッドが大霊をこしらえたのですか」
「そうではありません。ゴッドが大霊なのです。いつどこにでも存在するのです」
ルース「この地球を訪れることもあるのですか」
「ありますとも。赤ちゃんが生まれるたびに訪れています。自分の一部をその赤ちゃんに宿しているのです」
続けて子供たちが、霊の存在を信じていて良かったと思うと言うと、死んでこちらの世界へ来た人たちに守られているお二人は本当に幸せです、とシルバーバーチが言う。
ルース「そちらの世界は地球よりも広いのですか」
「ええ、広いですとも。ずっと、ずっと広くて、しかも、そちらにないものが沢山あります。美しい色、素晴しい音楽、大きな樹木、花、小鳥、動物、何でもあります」
ポール「動物もいるのですか」
「いますとも。でも怖くはありませんよ」
ポール「殺して食べるようなことはしないでしょうね?」
「どんな生き物も決して殺したりなんかしません」
ポール「おなかはすかないのですか」
「全然すきません。あたりに生命があふれていて、疲れを感じたら生命を吸い込めばいいのです。ポールくんは夜ベッドに横になって深呼吸しますね。あの時ポールくんは生命も吸い込んでいるのです」
それから二人は、霊界での生活の記憶がないことを口にし、これはこの地上生活が最初だからではないかという意見を述べた。それからルースが尋ねた。
ルース「人間は何回くらい生まれ変わるのですか」
「ネコと同じくらいですよ。ネコは九回生まれ変わると言われているのは知ってるでしょ?」
ポール「ネコはそのあと何かほかのものに生まれ変わるのですか」
「いいえ、ネコはネコのままです。ですが、ずっときれいなネコになります。ポールくんのような人間の子供も、地上での生活が長いほど霊界へ来た時にきれいになっているのです。霊界というところは醜さも、残酷さも、暗さも、怖いこともない世界です。いつも晴天の国、と言えるでしょう」
ここでポールは「いつも晴天」ということは雨が降らないということになるので、地上だったらみんな死んでしまうと言った。するとシルバーバーチが――
「ポールくんの住んでる地球がすべてではありませんよ。地球は小さな世界で、生命が永遠の旅に出かける出発点にすぎません。ほかにも生命が生活する世界は沢山あります。恒星の世界にも惑星の世界にも、大霊の子が生活している天体はいくらでもあります」
これを聞いてルースが、八歳にしては博学なところを見せて大人たちを驚かせた。
「(週刊紙の)サイキック・ニューズでは『世界は一つ』と言っています」(バーバネルが毎週書いている巻頭の記事のタイトル)
「その通りですよ。ですが、宇宙には数え切れないほどの生命が数え切れないほどの天体で生活していることを知らないといけません。しかも、みんな大霊の子ですから、その意味で一つですし、みんなの中に大霊がいることになるのです」
ルース「こんなにお話をして疲れませんか」
「いえ、いえ、まだまだ話せますよ」
ルース「あたしにも霊の目があるのなら、いつから見えるようになるのでしょうか」
「霊の目もありますし、耳もありますし、手も指も脚もあります。もう一つの身体、つまり霊の身体があるのです。今でも実際には霊の目で見ることは出来るのです。ただ、その物的身体の中にいる限りは、霊の目で見たものを意識できないのです。でも、少しずつ意識できるようになります」
ルース「あたしの霊の目は大きくなるでしょうか」
「大きい小さいは関係ありません。霊の目は遠い遠い先まで見えますよ」
ポール「地球の果てまで見えるのでしょうか」
「望遠鏡みたいなものです。遠くにある物がすぐ近くに見えるのです」
続いてポールが急に話題を変えて尋ねた――
「また戦争が起きるのでしょうか」
「小さい戦争ならいつもどこかで起きています。でも、ポールくんはそんなことを心配する必要はありません。平和のことだけを思い、その思いをその小さな胸の中から広い世界へと送り出すのです。すると世界中の人がそれに触れて平和への願いをふくらませ、それが戦争を遠くヘ押しやることになるのです」
ルース「シルバーバーチさんときちんと会えるようになるのはいつでしょうか」
「もう少し時間が掛かりますね。今でもよく会っているのですよ。それを覚えていないだけです。お二人が寝入ると、私はお二人の霊の手を取って霊界へ連れて行くことがあります。その身体はベッドに横になったまま、お二人は霊界で素敵な冒険をします。が、その身体に戻ると、そのことが思い出せないのです。変な夢をみたなあ、と思うだけです」
ルース「どこへ行っていたのかも分かりませんけど……」
ポール「夢も見ない時があります」
「本当は見てるんだけど、思い出せないのです」
ルース「シルバーバーチさんも霊界へ帰ると、地上の体験は忘れるのですか」
「そうね、霊界に長くいるほど思い出せなくなります」
ポールがまた話題を変えて言う――
「人間はなぜ動物を殺すのか分かりません」
「それは、殺すことはいけないことだということが、まだ分からないからです」
ルース「殺して食べるために飼っている人がいます」
「動物を食べなくても生きて行けるようにならないといけません」
ポール「殺して食べるというのは残酷です」
「どんな生き物でも殺すということは間違いです。決して殺してはいけません」
ルース「霊界というのは素敵なところなのでしょうね」
「それはそれは素敵なところですよ。醜いものや暗いところや惨めなことが全くないところです。美しいもの、輝くようなものばかりです」
ここでルースが改めてシルバーバーチの声が素敵だと言うと、ポールも相づちを打つように、ちょっと珍しい感じがすると言う。さらに二人が、みんな声が違うのはいいことで、もし同じだったら面白くないよ、などと語り合っていると、シルバーバーチが割って入って、みんな違うようでいて、大霊の子という点ではみんな同じですと言い、ただ、小さな身体に大きな霊を宿している人がいるかと思うと、大きな身体に小さな霊を宿している人がいたりしますと言った。
それを聞いてすかさずポールが、霊界にも小びとがいるかどうか尋ねると、そういうものはいない――地上で小びとだった者も霊界へ来ると普通の大きさになる、との返事だった。
替わってルースが、指導霊というのはみんな同じでシルバーバーチさんみたいな人ばかりなのかと尋ねた。するとシルバーバーチが二人に少し離れたところから見ていなさい、と言う。そこで二人が離れて立ってシルバーバーチの顔を見ていると、その顔が次第に変形して、普段のバーバネルとまったく違う容貌になった。面長で、あごが尖っていた。その間、ルースの目にその顔から光が射すのが見えたという。
その現象が終わって二人が再びシルバーバーチの膝に座ると、いつもははにかみやのポールが頬をすり寄せて甘えるしぐさをした。するとシルバーバーチがしみじみと言う――
「大霊というのは今のぼくと私の間にある心――愛に満ちた方なのですよ」
するとルースが「一生涯、霊が存在することを信じ続けようと思うわ」と言う。
「信じ続けられますよ、きっと」とシルバーバーチが言う。
ポールが最初に出た妖精の話題を持ち出して尋ねる。
「今日シルバーバーチさんが連れてきた妖精はみんな同じ色をしているのですか」
「いえ、緑色をしたのもいれば青色をしたのもいます。それから、お二人が見たこともない色をしたのもいます。今夜ベッドに入ってから見えるかどうか試してごらんなさい。今夜はお二人が寝ている間じゅういっしょにいてくれますよ。守ってあげるように言ってありますから……」
そう言ってから、もうすぐ開催される天界での大審議会の話を持ち出して、こう述べた。
「お別れする前に言っておきたいことがあります。もうすぐ私はこの地球を離れて、天界で開かれる大きな集会に出席します。そこには世界中でこうした交霊会で私と同じような仕事をしている指導霊が大勢集まります。そして一人一人、あのイエスと呼ばれている、子供の大好きな方からお言葉をかけられます」
そこまで語った時ポールが、その天界というのは空の高いところにあるのですかと尋ねた。
「そうではありません。ポールくんのすぐ身のまわりにあるのです。ただし望遠鏡でも肉眼でも見えませんけどね」
そう答えてからさっきの話に戻り、こう続けた――
「もうすぐ来るクリスマスの直前に私はこの地球を離れて天界に戻り、イエスさまに会うことになっています。その時私はイエスさまに、地球にはルースという女の子とポールという男の子の友達がいることを告げ、お二人の愛の心を伝えるつもりです。
霊媒を地上に残して出席した指導霊たちは、一段と霊格の高い霊団から仕事の進展具合についての報告と助言をたまわります。そうして得た新しい計画と叡智、そしてより大きな愛と信念と力を携えて地上ヘ戻ってまいります」
「叡智って何ですか」とポールが尋ねると、あたかもその質問をあらかじめ予知していたかのように、
「それは心で理解しているものですよ」と答えた。
偉大なる霊と二人の幼い子供との、自由闊達で微笑ましい対話を大人のメンバーが笑顔で聞いているうちに、その日の交霊会も終わりが近づいてきた。そこでシルバーバーチが二人の頭に手を置いて閉会の祈り(ベネディクション)を述べた。
「大霊の名において二人を祝福いたします。願わくは二人がこれからの人生の最後に至るまで、いま二人を天国にいさしめている無邪気さを失うことのなきよう祈ります。また、いま二人を取り巻いている霊力に今後とも素直に反応して大霊の良き道具となることが出来ますように」
これを聞いてルースが問う――
「天国って、どこにあるのですか」
「天国はね、人間が幸せな気持でいるときに、その人の心の中にあるのですよ」
ルース「じゃあ、悲しんでいるときは天国にいないわけだ」
「悲しむ必要なんかないでしょ? いつだって天国にいることが出来ます。私も、いつも二人の側にいて力になってあげますよ。もし悲しくなったら、私を呼びなさい。すぐに来て涙をふいてあげ、笑顔を取り戻させてあげましょう」
ルース「シルバーバーチさんて、本当に優しい方ですね」
このルースの言葉にシルバーバーチからの返事はなかった。すでに霊媒の身体を離れていたのである。