本日晴天。
雲ひとつないいい天気である。
客足もいつも午前中は少なく。
外で体を動かすのが大好きなヘリオライトが、愚痴をこぼすのも仕方のないことといえば仕方のないことだった。
「いい天気だなあ・・・。」
「そうですね。」
「体がうずうずしないか?」
「しません。」
そのヘリオライトの愚痴に冷静なツッコミをいれるのも仕事のうちだとセルフォスは思っている。(もちろんそんなことはないのだが)
「あ〜あ、もったいないなあ・・・・。」
「そんなに外で体を動かしたいですか?」
「だってもったいないじゃん。」
「何が?」
「こんないい天気なのに室内にじっと閉じこもってるなんて。」
「それが仕事なんですが・・・。」
顔色一つ変えない同僚のその一言にヘリオライトはがっくりうなだれて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・まあ。そうだな。」
「ないこともないんですが・・・。」
「何が?」
「外で仕事。」
ヘリオライトはさっき自分の言っていた事をことごとく一蹴していた同僚がそんなことをいうのに驚き、眼を見開いて、
「もしかしてずっと考えてた?」
そう言うと、セルフォスはむっとして顔をそらした。
そんな態度にヘリオライトは苦笑した。
そうだ。この同僚は自分の言う事を冗談でも聞き流したりしないのだった。
そのまま、薬品棚の部屋に逃げ込もうとする同僚の腕をつかみ、自分の方へ引きずり寄せた。
「ごめん。ごめん。で?その外で仕事って?」
「・・・・・・・・途中で投げ出したりしませんか?」
ヘリオライトの腕の中に引きずり込まれて、体が斜めになって体勢的にはかなりきついにもかかわらず、セルフォスは無表情。
もはや意地なのか・・・。
「しない。仕事は一応けじめつけて真面目にやるぞ?俺は。」
「そうでした。」
「で?その内容は?」
「薬草の天日干し。」
「ええ〜〜〜〜〜。」
ここの薬屋には膨大な数の薬草もある。基本的に薬棚のある部屋は魔法によって一定の温度と湿度に保たれているが、薬草の種類によっては定期的に日光に当てなければならないものもあるのだ。
天日干しのやり方は簡単。
天日干しの必要な薬草のある引き出しを外に出す。
日のあたる場所にシートを広げてそこに引き出し内の薬草を並べる。
それを数時間、飛んだり、他の薬草と混じらないように見張ったあと、また引き出しの中にしまう。
これだけだ。
これだけなのだが、
「今回は30程お願いしますね。」
つまり30種類ということだ。
30種類、シート広げて薬草並べて数時間ずっと何もせずに見張って・・・・。
外には出れるが、これではヘリオライトにとって拷問の域だ。
「・・・・・・一人で?」
「そのほうがいいでしょう?一人一人別に働いた方が効率的ですし、私は別に外に出たくありませんし。」
その淡々とした突き放したような言い方に今度はヘリオライトがむっとして。
「・・・・あの、そろそろ離してもらえませんか?」
「外で一緒に天日干ししないか?」
「いえ、だから・・・。」
反論しようとする同僚の体をさっきより強く抱きしめてみる。
遠まわしの脅迫。
「分かりました。」
重々しくため息をつくと、あきらめたようにそう呟く。
本日晴天。
雲ひとつないいい天気。心地よい風が頬を撫でて。
ヘリオライトの希望通り、外に出て。隣には、無表情だが不機嫌オーラを出している同僚と30個の引き出しとシート。
「そういえば。」
シートを広げながら、ヘリオライトはふと隣で同じくシートを広げている同僚を見る。
「セルフォスはあの空まで飛ぶことができるのか?」
なんせ自称「緑竜」だし。
「できますよ?」
表情を変えずにそうさらりと言った同僚はだがそのあとただ・・・と付け加えた。
「ただ?」
「禁止されてますが。」
「飛ぶ事を?」
「いえ。本来の自分の姿に戻る事を。」
「なんで?」
「薬屋がつぶれるからです。」
「それは、え〜と・・・。」
「ここで変身するには狭すぎて。」
「あ、なるほど。」
「前に一度やってお店壊して店長にこっぴどく怒られました。」
そう言う横顔は相変わらず無表情だ。
「今の姿って窮屈?」
「慣れました。こういうものだと思えば窮屈だとも思いません。」
「思いっきり翼広げてあの空を飛び回るのって気持ちいい?」
「それはもちろん。」
同僚の横顔が少し笑ったような気がした。
「あ〜。いいなあ。風とか気持ちよさそうだなあ。」
「気持ちいいですよ?」
「いいなあ〜。あ!そうだ。じゃあ、こんどセルフォスが変身して空を飛ぶ時は背中に乗せてもらおう!」
そういうと、セルフォスは雲ひとつない空を懐かしむ様に見上げ、そのあとヘリオライトのほうを向いてにっこりひと言。
「嫌です。」