白の一族(ミズキの章)
「ミズキは、全寮制の学校に入って、そうですね・・・。15歳くらいまではとても良い子だったのですが、16歳くらいから私を酷く拒絶するようになりまして・・」
「ああ。分かる。そこら辺の年ってなんか親を突っぱねたくなるんだよな~」
「そうなのですか? ・・・まあ。結局ミズキとはそのまま会ってないのですが・・・」
「そうなの?」
「ええ。ミズキは私に相談せずに私の故郷に行ってしまいましたから」
少々怒りが含まれたその台詞に彼の同僚であるヘリオライトは、同じ人間としてミズキのその頃の気持ちが自分の経験からも十分に分かる為、そちらのほうに同感しつつ、外見では同僚に同感するという器用な真似をしてのけた。
それは店長が白竜オフェリアと共に去り、ヴェルガが仕事疲れの為、セルフォスを早々に諦めて、仮眠室に姿を消し、カウンターのある部屋に店員二人だけになったときにセルフォスがぼそりと語った話で。
「一度くらい私に顔を見せても良いと思いませんか?」
その台詞に、この同僚がミズキの完全な親替わりになっている事を再認識しつつ、人間の親と思うことと変わらないんだなあとその考えに苦笑しつつも、ヘリオライトは自分の経験を言葉にする。
「照れくさいんだよ」
「照れる必要がどこにありますか」
「いやいやいや。じゃあ、セルフォス。セルフォスがさ、もし店長の元を長く離れていたとするよ? そんで、その後再び会わなきゃいけなくなったときって、妙に顔が合わせにくいとか、そういう気持ちってないか?」
「・・・・・・・・・・・ないですね。義務ですし。顔を合わせない方が恐ろしいです」
その答えにヘリオライトは思わず片手で自分の顔を覆う。
「しまった。例が悪かった。店長を例に挙げてはいけなかった・・・」
「悪いとはなんですか。店長が悪い例などと・・・」
「違う違う。そうではなくて・・・」
そうヘリオライトが訂正しようとした時、店のドアが静かに開いた。
思わず、口論に発展しそうになった会話を止め、二人はドアの方に意識を集中させる。
ややあって、一人の男性がおずおずと中に入ってきた。
顔立ちは、これまた街一番の大富豪デリ家の一人息子ロバートに匹敵するか、それ以上の整った顔立ちと、どこか高貴な雰囲気を全体的に漂わせつつ、かつ同様にどこか野生的な雰囲気も少し漂わせていた。
ヘリオライトは、その雰囲気に自分達平民とは違う空気を感じ取り、少し圧倒されつつもとりあえずいつも通りの笑顔で対応する。
が、もう一方の同僚といえば。
顔に驚愕の色が浮かび、何か言いそうに口を開けたと思えば、次の瞬間は呆れた顔で口を閉じ、しばしその人物をまじまじと頭から靴の先まで隅々と眺めたあと、入ってきた人物の名前を呼んだ。
「ミズキ」
その名前にヘリオライトは思わず目を見開き、入ってきた人物、ミズキと呼ばれたその男を凝視する。
想像では、竜に拾われ、その後自分も十分同情できるような反抗期を経て、結局そのまま育て親の元から姿を消してしまい、今ではりく以上の竜オタクという経緯から、自分とさほど変わらないか、もしくは相手には悪いが、もう少しすたれた雰囲気を持っていると思っていたが、彼を見る限り、これはさすがセルフォスが育てただけの人物である、というかなんと言うか。元々の血統が良かったのか。
とにかく、立っているだけでその高貴な雰囲気が彼の周りの空気を凛としたものに変える空気を漂わせていた。。
そして、ヘリオライトはただただそれに圧倒されていた。
「・・・・・・・・・・・・・」
ミズキは何も言わず、じっとセルフォスを見つめた。
そしてそれに対してセルフォスもミズキを、こちらはやや怒気を孕んだ瞳で見つめ返す。
ややあって、セルフォスが口を開く。
「・・・何か言うことはないのですか?」
すると、初めてミズキが言葉を発した。
それは、聞くものに心地よい、セルフォスとはまた違った声の高さだった。
「相変わらず・・・。何年経ってもセルフォスは変わらないね」
その言葉にむっときたセルフォスが、言葉を返す。
「それは何ですか? ミズキが私の知らない間にそこまで大きくなった事に対しての貴方からの挑戦ですか? と、言うか、ミズキは一体いつまで我らの王に迷惑をかけ続けるのです? 今回だってあれほど禁じられていると小さい頃から教えられていた白竜の里に入って、結果、また王に迷惑をかけて」
「・・・小言は増えた。すごく増えた」
半分苦笑交じりのそのミズキの台詞にヘリオライトが思わずツッコミを入れる。
「いや。いつもと変わらず」
「そうなんだ」
「ヘリオライト! 申し訳ありませんが口を挟まないでもらえませんか?」
苛立ちを含んだ同僚の台詞に、ヘリオライトは体を縮こめる。
そんなヘリオライトに哀れみにも似た視線を向けてミズキが声をかける。
「同情します」
「あ、やっぱり?」
「ミズキ!!」
二人のやりとりにセルフォスがとうとうきれた。
「いや。ここへは、セルフォスがいるっていうから立ち寄っただけで」
ちょうど、昼休みと重なったので三人は場所をカウンターのある接客間から、休憩室に移動した。
ミズキはセルフォスの小言を散々もらったあと、これまた半分とばっちりで小言をミズキと同等ぐらいもらったヘリオライトが出したお茶を受け取る。
「粗茶ですが。てか、本当はセルフォスが淹れたやつの方がおいしいんだけどね」
「知ってる」
「なるほど」
「ミズキ。ヘリオライトに失礼です。彼の淹れたお茶も充分おいしいです」
眉根を寄せて再び怒りを立ち上げようとしたセルフォスに、ミズキの冷静な一言が入る。
「いや。冗談だから。ヘリオライトさんの淹れたお茶も充分においしいと思う」
その台詞に今度はヘリオライトがそっけなく、
「知ってる」
「なるほど」
「・・・・・・セルフォス。なんか、俺、今、ものすごくミズキさんに親近感を覚えた」
先ほどのヘリオライトの台詞をミズキが同じように同じ台詞で返したことにヘリオライトはひどく感動した面持ちでミズキを見つめる。
「私もヘリオライトさんとはすごく気が合いそうな気がする」
そう言って見つめあう二人に対し、セルフォスは大きなため息をつく。
「ミズキ。冗談はそれくらいにして下さい。いったい今までどこで何をしていたのです?」
「・・・だいたいはあのセルフォスが傾倒して止まない偉大なるセルヒ王から聞いたんじゃないの?」
少々嫌味が入っているような感を受けたその台詞に軽く眉根を寄せながら、しかし受け流そうと心に決め、セルフォスは言葉を返す。
「だいたいは。しかし、また何故貴方はあれほど禁じられた白竜の里に足を踏み入れたのです?」
「白竜は、竜の中で一番綺麗で気高く、聡明だと聞く。だから、一度見てみたかったんだ」
「けれど、危険が伴うことも重々承知でしょう? そして、王に迷惑をかけることも」
「でも、行ってみたかった。見てみたかったんだ」
「何故?」
答えるミズキに沈黙が落ちる。
何かを考え、口に出そうとし、そしてまた口ごもり、再び考え込む。
「ミズキ?」
「・・・・・・・・・・・・セルフォスに似た種族を探したかったんだ」
その台詞に、詰め寄っていたセルフォスが一気に脱力する。
「・・・・・・・・・は?」
「だから」
呆れたような、セルフォスの一言に今度はミズキが苛立ちを表す。だがそれよりも、セルフォスの更なる言葉がミズキの台詞を止めた。
「ミズキ。私は緑竜だと、貴方は知っているはずだと私は思っていましたが」
呆れた声音と表情でミズキに問いかけるセルフォスに、ミズキはまるで子供に返ったような、少々甘えを表情と声に含ませ、セルフォスがこれ以上怒らないように、おずおずと言葉を返す。
「だって・・・。違ったから」
さっきの態度とは感じが明らかに変わっているのがヘリオライトには感じ取れて、ミズキを意外な顔つきで見つめる。
対するセルフォスは、こちらも子供を諭す親の表情で、軽い溜息のあと言葉を再び返す。
「ミズキ。貴方が言いたいことは分かります。どうせ、緑の一族は私と気質や考え方がまるで違うと言いたいのでしょう?」
その言葉にミズキは、セルフォスの怒りになるべく触れぬようにか、おずおずと、だがしかし大きく頷いた。
セルフォスは、再び、だがさっきよりも深く溜息を一つついた。
「・・・・・いいでしょう。もう貴方も大きくなったし、話すには良い機会です。どうせ貴方のことだから、その事に関してまた王を散々追及したのでしょう。昔から貴方は一度気になると自分が満足するまではとことん追求を止めない子供でしたから」
そこまで言ってセルフォスはふと言葉をきる。何か思い当たる事があったのか、しばし顔をうつむかせ、片手を顎に沿え、考える仕草をした後、ゆっくりと、だが今度は驚愕を顔ににじませ、言葉を恐る恐る口にのせる。
「・・・・・もしかして・・・・、貴方が竜に興味を持った原因は私、ですか?」
その言葉に、ミズキは今度はしっかり頷いた。
「最初はそんな気にしなかったんだ。でも、セルヒ王がセルフォスの事をやたらに褒めるから。だから他の緑の一族もみんなセルフォスみたいなのかな、と思ったら調べてみたくなって・・・。でも、実際会ったら全然違ってて・・。それで、セルフォスは緑の一族じゃないんじゃないかと思って、他の種族も調べて見ていってたんだ。セルフォスに合った種族を。セルフォスの本当の種族を」
申し訳なさそうに俯きながら喋るミズキの顔を覗き込むようにセルフォスは言葉を返す。
「ミズキ。私は嘘はついてませんよ」
そう言って、セルフォスはミズキの顔を覗き込むのを止めて、再び大きく溜息をつく。
それは、まるで何かを諦めたような、だが決意したような、そんな表情も読み取れて。
「いいでしょう。今が話し時なのかもしれませんね。ミズキにも」
そして、ヘリオライトを見つめる。
「貴方にも」
セルフォスはそして、ゆっくりと語り出す。
「まず、第一に私は正真正銘の緑の一族です。生まれたのも一族内ですし、両親は今もしっかり健在していると王から聞いております」
そして、ミズキをじっと見つめた。
「でも、貴方の言うように、緑の一族と私は考え方が違うと私も思います。貴方と同じように私もここの一族ではないのでは、と考えたこともありました。何故なら」
言葉を一度とぎらせ、今度はヘリオライトを見つめる。
「緑の一族は何に対しても疑問というものを持たないのですよ。そして興味も。彼らはただ時が流れるまま流されてのんびり、本当に頭を使わずのんびり生きております。私がもし、風がどこから流れてくるのか、その答えを彼らに求めても、例え我ら緑の一族の王に聞いたとしても、答えは一つ。分からない。流れてくるなら流されるままで良いじゃないか、という考えの一族なのです」
その台詞にセルフォスとのギャップを感じたヘリオライトは思わずセルフォスの視線をまたいでミズキを見つめるが、彼も深く頷いた。
「まさにそう。本当にのんびりしているよ。まあ、体格は竜一番の大きさだけれど」
セルフォスもその台詞に軽く頷き返して言葉を続ける。
「だから私はそこにいるのが耐え切れなくなったのです。もっといろいろな事を知りたいと思ったから。いろいろなことを話し合える、そして教わる相手が欲しいと思ったから。でも、あそこにいると本当に気が狂いそうになりました。何度自分を追い詰めたことか」
セルフォスが再びミズキを見つめる。
「だって、問いかけに対して自分の満足する答えが返ってこないのですよ? しかもそこにいる全員から。私がこの考えを持つこと自体が間違っているのかと何度思ったことか。まあ、実際緑の一族としては間違っていたのかもしれませんが」
それに対してミズキが首を軽く横に振る。
そんなミズキの優しさにセルフォスは穏やかな、しかしどこか痛みを堪える様な、自虐的な笑みで返す。
「でも、私は正真正銘の緑の一族ですよ。そのことには誇りを持っていたいのです。もし私があそこから追放されることになっても」
ヘリオライトはここにきてやっと納得した。
何故同僚が、以前王と共に薬屋を訪れてきた白の一族、オフェリアに緑の一族とは違うと言われ、ショックを受けた顔をしていたのか。何故王があんなにセルフォスを労わったのか。
セルフォスは、自分の考え方等が緑の一族とは完全にかけ離れていることを自覚している。でも、緑の一族に執着している。何故ならそれがセルフォスの誇りであり、自分を見失わない為に必要不可欠の事だから。自分達が人間であると言う事と同じように。
もし、自分が自分以外の人全員と考え方が違っていて、自分が人間じゃないと他の人全員から言われたらどうしよう。
そこまで考えたとき、セルフォスが再び言葉を発した。
「だから私はあそこを離れたのです。新しい世界を知るために。・・・・追放される前に」
その言葉にヘリオライトもさっき自分が考えた疑問に対する答えは、きっとセルフォスと同じ行動を取るだろうなということに思い至り、思わず大きく頷く。
竜の一族は相手がどの一族出身かを酷く気にかけるという。そしてそれに対し、自分自身も自分の一族に対して、高い誇りを持ち、それと同時に一族に対して強い執着と依存をしているのだ。
一通り話し終えたセルフォスはといえば、今まで自分が抱えていた秘密を吐いてすっきりしたのか、さっきよりも明るい面持ちで顔を上げる。
「まあ。私の経緯はそんな感じです」
そう言って、ヘリオライト、ミズキ、それぞれ二人に視線を移す。
だが二人といえば、さきほどのセルフォスのように、ばつの悪い、気まずい顔で俯いていた。ややあって、ヘリオライトがおずおずと口を開く。
「その、じゃあセルフォスはもう一族の元には帰らないのか?」
それは相手を気遣った台詞で。
だが、かえってきた言葉はヘリオライトの予想に反して遥かに明るいものだった。
「帰りますよ。もちろん」
その言葉にヘリオライトとミズキが思わず顔を上げてセルフォスを見つめる。
その視線を、何故そんなに驚いた顔で自分を見るのか分からないという表情で受け止めながら、セルフォスが言葉を続けた。
「言ってるじゃないですか。ヘリオライトには」
「いやだって・・・」
戸惑う同僚にセルフォスは首を軽く傾げながら言葉を再び返す。
「? 何が言いたいのです?」
「そんな経緯があったのに」
ヘリオライトの言葉を繋げるようにミズキが話す。
それに対して、セルフォスは今度は顔に少し笑みをのせ、自信を持った面持ちで二人に話す。
「だってもう恐くないですから。私の考えは間違っていないと王が自信を持たせてくれましたから。だから、私はもう迷わずに一族の元に帰れます」
その台詞に、その表情に、見ていた二人は思わず笑みを返す。
「・・・・そんな経緯があったのか」
いきなり自分の背後から、低い、だが女性には耳に心地よいであろう声が発せられ、セルフォスは思わず背後を振り返る。
「ヴェルガ」
セルフォスの声に冷たさが宿った。
「かわいそうなセルフォス。わたしの一族に来ればよいのに」
「お断りです。貴方がいる一族など誰が好き好んで・・・」
「はいはい! 私は行きたい!」
セルフォスの言葉を遮って、ミズキが前のめりになりながらも必死で挙手をする。
その態度に半分怒り、半分呆れながらセルフォスが叱る。
「ミズキ! 知らない人にそんなに無防備に接触を図ろうとしてはいけません! だいたいヴェルガが何の一族か知っているのですか?」
「知らない」
きっぱりあっさりとしたミズキの台詞にセルフォスは思わず均衡を崩しかけた。
「でも竜なんでしょう?」
そう言ってミズキがヴェルガを見つめれば、ヴェルガもその視線を受けてにっこりと人懐こい笑みを返す。
「どこの一族なんですか?」
興味津々、目も輝かせながら聞いてくるミズキにヴェルガは笑みを作りながら言葉を返す。
「黒の一族だよ」
「!! す、すごい! 本当に黒の一族なんですか!? 貴方達一族は竜の中でも一番戦闘能力が高くて、そして、そして向こうの大陸では、白竜に次いで見つけにくい竜だと人間の間では噂になっていて・・・私は結局見つけられなくて。でも・・・うわ~!! 本物だ! 凄い! こんなところで見られるなんて!」
かなり興奮したミズキの台詞にヴェルガは笑顔で対応しつつ、セルフォスにぼそりと問いかける。
「これは・・・・。尊敬されているのかな」
「尊敬ではないですね。希少価値が高いので、発見できて喜ばれてるだけです」
容赦のないセルフォスの言葉にかなり深く傷つき、思わず近くにあった壁に突っ伏すヴェルガ。それを、同情のまなざしで見つめるヘリオライト。
「相変わらず不憫な・・・」
そんなやりとりは微塵も気にせず、ミズキは嬉々としてヴェルガに話しかけてくる。
「あの、いろいろと質問しても良いですか!? 貴方のように人間の姿になっている黒竜って他にもいるんですか? あちらの大陸ではどこに行けば貴方の一族を発見できますか? 貴方の名前はなんですか? 黒竜の戦闘能力や力は時にはセルヒ王を凌ぐと聞きますが本当ですか? 王の座を狙おうと考えたことはありますか?」
矢継ぎ早に質問を浴びせてくるミズキにセルフォスはさすがに待ったをかけた。
「ちょっと待ちなさい、ミズキ。これではあまりに」
ヴェルガがかわいそうだと。
誰もがセルフォスはそう言うだろうと思っていた。だが。
「貴方がかわいそうです。ミズキ。だってヴェルガは貴方の話を全然聞いていない」
きっぱりと言い放ったセルフォスからはヴェルガを気遣う雰囲気など少しも感じさせなかった。
そしてヴェルガを見つめてみればセルフォスのその言葉に更に傷ついて、もし、壁が柔らかければきっとのめりこんでいたに違いないくらいに沈んでいた。彼を覆う空気がどんよりとしたものに変わる。
「セルフォス~。ひどい」
情けない声でセルフォスを睨むヴェルガを軽く一瞥してセルフォスは溜息を一つつく。
「そう思うなら、もっとしゃんとしたらいかがです? 仮にも黒の一族でしょう?」
そのやりとりを聞いていたミズキが。
「? セルフォスの方が強いの?」
その問いにヘリオライトは無言で、だが、真顔で頷く。
その態度を諌めようとセルフォスがヘリオライトに声をかけようとしたとき。
裏口のドアが急に開いた。
三人が驚いてそちらを見てみれば、そこには白の一族のオフェリアが立っていた。
「ごきげんよう。ヴェルガ様。我らが領域を侵した人間の消息がつかめるまでまだ少し時間が必要なようなので、その間に我ら一族の偏見をなくして頂こうと思いまして、参上いたしましたわ」
見れば、さっき傷ついて涙まで流した気持ちと顔はどこへやら。オフェリアは獲物を狙うかのような妖艶な笑顔でヴェルガに微笑みかける。その立ち直りの早さと、恐るべきプラス思考にヴェルガとの共通点を見つけたヘリオライトは思わず感心して頷く。
「なるほど~。きっぱりと断った上にあんなに傷ついておきながらこうくるとは。ヴェルガもそうだもんな。きっぱりと断らなきゃいけない理由が分かったよ。しかも、断ってもこうならなあ・・・。竜ってすごいなあ。いろんな意味で」
「言っときますがヘリオライト、竜によりけりですからね」
「え!? 言っとくけど、わたしは例外だよ。しっかり節度を保っているもの」
「わたくしだって、例外になりますわ。言われればしっかり傷つきますし、一度は引きますもの」
セルフォスがヘリオライトに付け足した一言にヴェルガとオフェリアが慌てて噛み付いてくる。
その台詞にセルフォスがじと目でヴェルガを見つめる。そして、ヴェルガは全く同じ表情でオフェリアを見る。そして見つめられたオフェリアが慌てて視線を逸らして見つめた、その先にはミズキが、いた。
「!!」
ミズキを見つけたオフェリアからは一気に只ならぬ警戒と緊張とそして怒気が入り混じった、凛とした、周りの空気を圧倒するような気が一瞬にして放たれた。
「やっとみつけた。我らが神聖なる領域を侵した愚かな人間。その罪は、謝罪か、死を持って償うがふさわしい」
その目はさっきとは打って変わった相手を威嚇するような目つきに変わり、ミズキから視線を逸らさず、一歩一歩ミズキに近づく。
「外に出よ。愚かな人間」
きっぱりと、だが拒むことは絶対許されない空気でもってミズキを制したオフェリアは、その空気に従っておとなしく外に出たミズキのあとを追う。
そしてドアが静かに閉められた。
しばらくその場になんともいえぬ重い空気が流れた。が、その空気に耐えられなくなったヘリオライトが最初に、そして誰もが思っていた一言を紡いだ。
「・・・・・・どうなるの? あれ」