第10章 そして俺の選んだ道

 数日後、Jさんから連絡があった。結果は、、、やはりダメであった。
「ヴォイパが期待してたよりもずっと良くて驚きでした。
独学でここまでできるのはかなりのセンスがあると思います。みんなで絶賛してました。
反面、アカペラの基本となるハモリの部分での不安さが正直ちょっと気になりました。
もともとヴォイパで募集をかけているわけだけど、全体でハモる曲もやはりやりたいので、、、」Jさんはこのように言った。やはり予想した通り、俺がMENSOULに入る事は出来なかったのである。しかし、結果はダメであったが、俺はMENSOULに出会った事によって、アカペラをやっていく上で大切な事を学んだ。
「俺は、ボイパをやっているんじゃない。アカペラをやっているんだ!」という事である。俺はボイパを始め、ボイパのみを練習し、ボイパの技を磨いてきた。しかしそれは、アカペラをやっているのではなかった。ただみんなが歌っている事に対して、一緒にボイパをやっているだけであった。

 そう。俺はアカペラをやるんだ!MENSOULに出会って、俺は大切な事を学んだ。だから、ボイパのいらない曲には、俺はコーラスをやるべきなのである。今、歌串は4人という状態。その状態で、リードにタネヤ、コーラスにハヤノ、ボイパが俺、ノリタケはベースをしたりコーラスをしたり、、、。という状況である。そこで俺が選んだ道は、今の歌串でボイパをやるのはやめよう。。という事であった。今の歌串では、俺がボイパをやるより、俺がコーラスに入るか、ベースをやった方がいいと思った。そう、アカペラをやるのであるなら・・・。そしてもともと低い声の方がきれいに出せた俺は、ベースをやる事になったのであった。

 俺は、ベースとして、アカペラをやっていく事を決めた。今練習しているのは「TUNAMI」この曲をとりあえず4人で完成させる事が俺の目標であり、歌串の目標であった。ハヤノが加わり4人になり、そして俺がベースになり、いい状態の歌串が、出来上がりつつあった。もちろん歌のレベルとしてはまだまだであるが、俺がもしボイパを続けていれば、コーラスが薄くなるか、ベースがいなくなったのである。そんなアカペラより、今の歌串はいい状態なのである。 3代目となる歌串。4人という少ない人数であるが、必死の練習の末なんとか「TUNAMI」を形にすることが出来た。10月には、5バンド合同となる、ストリートライブも行った。納得のいく結果ではなかったが、メンバー全員が今までのライブで一番楽しめる、今までで一番の演奏であった。今の歌串で、やれる事はやったと思った。俺もやっと、アカペラをやる事が出来たのであるから、今までにないものを得る事が出来た。歌串はこれからも、リード、タネヤ。コーラス、ハヤノ&ノリタケ。そしてベースの俺。この4人で頑張っていこう!そう思ったのであった。しかしもちろん俺は、ボイパへの未練がなくなった訳ではない。いつかもし、ベースが加わってくれる日が来たら、俺はボイパをやりたいという気持ちも、この時、なくはなかったのである。ボイパをやりながら、コーラスも勉強して、ボイパがいらない曲にはコーラスをやる。そういうアカペラをやりたいという気持ちも、もちろんあったのである。いつかもし、、、ベースが加わってくれるとしたら・・・。

第11章 歌串5人目の男
 「いつかもし・・・ベースが加わってくれるとしたら・・・。」そんな俺の思いは、意外にも早く訪れたのであった。そう。あれは歌串のストリートライブが終わって、数日経った、「ある水曜日」のことであった。

 俺の通う南山大学は毎週水曜日が、どの学部も午前授業である。そのため午後は、部活やサークルなどの活動に、割り当てられている。実は俺は、南山大学でアカペラサークルを、夏休み前に作っていた。毎週水曜日の午後、学校が終わってから練習できるサークルをやろうと。そして、より多くの人に、アカペラのよさを分かってもらおうと思って、作ったのであった。そんな俺の意気込みに乗ってくれた大学の友達が、少なからずいた。呼びかけて数日後には、10人程の仲間が「やりたい!」と言ってくれた。そして、みんなの協力もあり、ついに南山大学にもアカペラサークルが誕生した。「ある水曜日」とは、そんなアカペラサークルのいつもの練習の日の事であった。

 サークルの友達が、俺に言った。
「今日は名大のJP−actから遊びに来てくれた人がいるよ。」
その人は、南山大学の瀬戸キャンパス(俺がいるのは名古屋キャンパス)に通っていて、南山のサークルの事を聞いて、遊びに来てくれたそうだ。そう。これが、俺とショウジの出会いであった。聞くところによると、ショウジは今、メンバーを探しているらしい。JPで組んでいるバンドの他、カケモチをして、もっと自分のベースを鍛えたいと、俺に話した。南山のサークルに来たのは、そのメンバー探しも兼ねて来たそうだ。

 「ベース」・・・・。「今もし歌串にベースが加われば・・・・。」ショウジの話を聞いた時、俺は頭の中の空想が、妙に現実を帯びた気がした。しかし、それを俺はすぐに否定した。なぜなら、歌串の練習は、毎週水曜日夜10時から・・・。メンバーの都合もあり、いつからかそんな練習日が固定している。これはメンバーが全員地元だからなせることで、地元でない、(あとから聞いたら春日井出身の)ショウジにとっては、到底無理な話であった。だから俺は、メンバー勧誘の目的なしで、歌串のことをショウジに話した。いいリードがいること、すごい相対音感を持っているコーラスがいること。そいつほどではないけど、高いポテンシャルを持っていている熱いコーラスがいること。そして、俺達にはいまベースがいないことを。するとショウジは、歌串に対していい印象をもってくれて、できたら一緒に・・・という態度を示してくれた。しかし、俺が練習日のことを話すと、やはり俺の予想通り、難しい顔をしていた。

 やはり、ベースの加入は、俺の空想で止まるものであった。まぁ分かっていたことなので、おしいなぁというくらいにしか考えてなかった。しかしそう思っていたやさきの事であった。そのショウジから1本の電話が来た。
「もしもし。今日やっぱり、歌串の練習に一度参加させてくれん?」
俺はその言葉に、驚きしか覚えなかった。そしてそのままショウジに聞き返した。
「え?!でも、10時だよ。」
「いいよ!行く!!」
ショウジの答えは即答であった。「熱い!!」ショウジの思いはとても熱かった。春日井から、わざわざ夜の10時に、来てくれるのである。彼の熱い思いに、俺は嬉しかった。すぐさまメンバーに、今日の練習に、ベースを連れていくと連絡をした。

 そして夜10時、いつもより1人多い中で、練習が始まった。ショウジのベースはどんなのだろう。メンバー一同期待と不安が漂う中、「夜空ノムコウ」をやった。ショウジのベースを聞いて、俺達は思った。「ベースだ。」と。言い方は悪いが、西川のベースには、ないものがあった。ベースの音がでる。それだけで歌串には頼もしかった。そしてやはり、ベースとボイパが入った曲をやれる事が、メンバーにとって嬉しかった。

 その日の練習は、ベースのショウジが入ってくれたおかげで、とっても有意義なもので終わる事ができた。他のメンバーも、ショウジの加入に、なんらの異議もなかった。ただ、俺には一つ気がかりな事があった。ショウジが毎週、この時間に一宮まで通ってくれるかどうかである。俺は帰りにショウジに聞いてみた。すると彼はこう答えた。
「歌串でやりたい!時間は全然いいよ!毎週楽しみにしてるから!」
熱い!!ショウジは俺の予想を遥かに上回るほど熱かった!こうして、歌串に5人目の男、ベーシストショウジが加わったのであった。

最終章 We Are SongSpit
 ショウジが加わり、これで、初期メンバーと同じ、5人の歌串ができあがった。まだ知り合って間もないはずなのに、みんなと早く打ち解ける事が出来て、まるで彼も同じ高校からの付き合いのようである。ショウジが加わった歌串は、今までにない盛り上がりを見せていた。メンバーが4人の頃は、やはりアカペラというのをやるには少ない人数であった為、練習にも張りがでず、練習の4分の3を雑談で終わってしまう事もあたのだが、彼が入ったことにより、歌串が活気付いたのであった。週に1回の練習、しかも1時間半という少ない練習時間ではあるが、1回1回を大切にし、時間を無駄にしない練習ができるようになった。逆に1時間半という短い時間だからこそ、その時間集中して練習をすることができるようになったのであった。

 そして、、、、ショウジが加入後わずか2ヶ月足らずで、歌串は3曲のレパートリーをもつ事ができるようになった。決して上手いと言えるレベルではないが、いや、下手と言えるレベルではあるが、歌串はなにより、アカペラをやることの楽しさを見つける事ができた。アカペラで歌う事、みんなの声だけで作り上げる演奏が、俺達はやっていて楽しかった。もちろんメンバー全員のキャラ、性格も、俺は好きだ。アカペラで歌える事、アカペラ仲間と笑い合える事が、とても楽しかった。俺だけでなく、メンバー全員がそう思っているはずである。楽しく集中のできる練習は、上達も早く進むものである。アカペラをはじめてまだ間もないハヤノも、ノリタケを先生としてみるみる上達を見せている。タネヤももともとのきれいな歌声にさらに磨きがかかり、ノリタケは、より高いレベルでのハモリを追求し、ショウジもベースの道をどんどんと鍛えている。そして俺も、ボイパの道をさらに鍛錬し、コーラスも勉強している。歌串はまだ下手くそで荒削りで、アカペラバンドとしては最低のバンドかもしれない。しかし、アカペラを楽しく伝える事ができるバンドであると思う。俺達のアカペラを見て、ほんとに楽しそうと思ってくれる人がいる。そんなバンドだ。もちろん楽しいだけではダメだ。アカペラのハーモニーのきれいさ、美しさも、これからどんどんと練習していき、身に付けていこうと思う。そしていつか、楽しく上手いアカペラバンドになってやると、俺達はそう誓うのであった。俺達のアカペラは、まだ出発点なのだから。そして俺とアカペラとの関係は、これからも続いていくだろう。。。。


 2002年12月22日。〜ショウジが加わってから初のライブにて〜

タネヤ「どうも!一宮で活動していますアカペラバンドです!We Are!」

シンタ「♪DorururururuTuToun」

全員「SongSpit!!♪」



俺達の物語はまだ、始まったばかりである・・・。