第1章 俺とボイパ

 2002年1月。妹がハモネプに影響され、アカペラをやりたいと言った。妹は当時高校2年生で、どうやらクラスの友達とアカペラバンドを組むかも??ということことを俺に告げた。俺は遊び半分で「じゃあ俺ボイパやりたい!」と言って、妹が密かに買っていた『ハモネプSTARTBOOK』を見て、ボイパをやってみようと思った。その時はまだ、それがこんなにも俺を熱中させるものになるなんて思いもしなかった。

 当時俺はCsus4と言うバンド(アカペラでなく楽器を使ったバンド)でボーカルをやっていたが、俺は歌は好きだけどその能力には乏しいものがあり、だんだん歌をバンドで歌うことに疑問をもち始めていた。ボイパを練習して1ヶ月が経とうとしたころ、何となくコツと言うものをつかみ始めていた。気づけば俺はボイパの楽しさ、VPとして歌うことの楽しさに夢中になっていた。大学は春休みで、1日5時間練習を1週間継続したこともあった。首の筋肉が筋肉痛になったのは、産まれて初めての経験だった。そう、そのときの俺は、もう何よりもボイパがやりたかった!

 ボイパのコツを何とかつかみ、それからさらに個人練習を重ね、一通りの基本を覚えた頃、ボイパ1人だけでやっていることの虚無感を覚えた。ボイパ1人だけでは・・・。もともと始めるきっかけであった妹のアカペラバンドは、組むかも??にとどまっていて、結局は組まなかった。ボイパだけでなく、他のパートと合わせてみたい!その思いは日に日に強くなっていた。そんなある日、俺に1通のメールが届いた。現歌串のメンバーであり、Csus4のギターもやっていて、俺の大の友達である「則竹」からである。彼には1度Csus4の集いのとき、ボイパを見せたことがあった。そのときの俺のボイパはまだ、未熟極まりないものであっのだが。そんな彼からのメールにはこう書かれてあった。

「おいーす!ボイパの調子はどうだい?今度高校のやつらとハモネプ目指さないか?って話があるんだけどどう?」であった。俺のアカペラへの道が大きく広がる1通であった。


第2章 初代歌串
 則竹からのメールは、これからは仲間とボイパができるという喜びと、そしてこれから歩むアカペラ道への期待を運んできた。しかし高校の奴らとは誰だろう?次に疑問が俺の中に湧いた。則竹からの次のメールには2人の名前が記されていた。「くまげ」と「たねや」である。「くまげ」とは、高校の頃、則竹と同じハンドボール部に所属していた体格の良い歌好きである。俺はハンド部と仲が良かったので彼との多少の面識はあったが、「たねや」とは体育のサッカーで少し話したくらいの人だった。当時の俺は、後に歌串には欠かせなくなるこいつの声を、まだ知らなかったのである。

 則竹からのメールから数日が経ちCsus4の練習があった。そこで俺は則竹から、もう1人のメンバーは「ウッズ」だということを聞いた。「ウッズ」とは1年のとき同じクラスだったナイスキャラで、タイガーウッズに似ていることからそう呼ばれている。そして、彼のやたら低い地声も、忘れてはいなかった。則竹から聞いたのはそれだけではなかった。「くまげ」が、中学校のオペラの道にすすんだらどうかと先生に進められたほどの美声であること。「たねや」がかなりのハイトーンボイスだということだ。則竹のハモリのすごさは、同じバンドの俺が1番良く知っていた。すべてのメンバーを知ったこの日、俺の期待はいっそう強くなった。この5人が集まれば、きっとすごいアカペラバンドができる。そんな構想が、頭の中にできあがっていたのだ。

 そしていよいよ、俺が待ちに待った、俺たちのグループの第1回の集まりがあった。そこで、たねやの提案で、「ウッズ」「たねや」「ノリタケ」「くまげ」「しんたろー」それぞれの頭文字をとり、「うたのくし」=「歌串」(SongSpit)という名前がついた。まさに、歌串誕生の瞬間であった。その日、俺は初めてたねやの声を聞いた。正直驚きの一言であった。ハイトーンを越えていると思った。俺達がハモネプに向けてやる曲は、これもたねやの提案で安室奈美恵の「Say the word」だったのだが、たねやはそれを原キーで歌って見せた。男の声を越えた声だと思った。これにノリタケのハモリ、それからくまげの美声、そしてウッズの低音が加われば・・・俺の心の期待は、希望へと変わっていった。

第3章 歌串前進の日々

 歌串が結成されて2週間が経ち、たねやの受験が終わり、うっずとくまげの受験も残すところわずかになったところで俺たちは目標「ハモネプ3に出る」にむけて本格的な練習を始めた。(俺とノリタケはこの頃大学1年生であったが、たねや、うっず、くまげは浪人1年生であった。ちなみに大学生は春休みである。)デモテープを局に送らなくてはならなかったので集まれる日は毎日のように集まっていた.

 練習曲は「Say The Word」。毎回練習をしては、色々な問題点が沸いて出たがその中でもくまげの「オペラ」には苦戦であった。ノリタケは後に「普通の人は“地声”“裏声”とあるけど、あいつはその上にさらに“オペラ”が存在していた。」と語っている.つまり、彼のオペラ声がみんなの声に混じらなかったのであった。

 逆に良い点で目立ったのは、やはりたねやのり−ド。男なのに原キーで「Say The Word」が歌える。そしてノリタケのハモリ。彼の相対音感は抜群に凄かった。Csus4をやっている時より、アカペラでやるとさらにそこに彼の凄さが際立った。驚いたのはウッズ。途中彼も少しつまずいたが、低音のポテンシャルは、やはり相当であった。+持ち前の負けん気の強さが加わり、練習をつむにつれ俺のよきパートナー(リズム隊)へと成長していった。

 デモテープ収録の日、俺達はある程度のレベルに達していたが、やはり問題はくまげだった。結局その日くまげのパートはとれなかったが、締め切りがせまっていたので4人分のみの声が 入ったテープを局に送ることにしたのである。本番までの課題は彼にかかっていると、俺達はその時思った。その前に・・これで選考通過を考えるのはよそう。ハモネプ4にかけよう。もっと成長してからだ・・・。そう思っていた。

 しかしその数日後、リーダーたねやから、1本の電話が入ったのであった。