ハットを被った小川先生
Vignerons Japonais

小川孝郎さん 
(塩山市在住)



小川さんは私たちのブドウ栽培の先生です。新短梢剪定と草生栽培による土壌づくりの組み合わせでバランスのとれた樹体をつくりあげ、土地の個性を表現するブドウづくりを目指されています。栽培指導官として長年にわたり山梨県の農業に貢献されてきましたが2年前に退職され、現在はブドウ、スモモなどの低農薬栽培の実践と講演活動などに飛び回っておられます。

小川先生の人柄を一言で言うことはたいへん難しいのですが、あえて言わせていただくなら<万能うるさ型>とでも申しましょうか。とにかく、いろんなものに関してこだわりをお持ちで、ちょっと面白そうな物や事を見つけると自分風にアレンジして楽しんでしまわれます。目をつけるものは人が見放したりうっちゃってしまったものが多く旭洋酒の話を私たちにもってきたのも実は小川先生だったのでした。ただのエコ栽培家と思ったら大間違い、いろんな所でいろんなことをコーディネイトしては面白がっているのです。(旭洋酒直売店の家具の配置にまで執拗にこだわりました!)

ワインも大好きで昨年からワイン用高貴品種ピノ・ノワールの栽培を始められました。山梨市岩手地区のメロウの丘(芳醇なワインになるようにとの願いが込められているそうです)と名づけられた30aの畑ではピノ・ノワールの幼木が着実に育っています。私たちもピノ・ノワールのワインが大好きなので来年からの仕込をとても楽しみにしています。

小川さんがピノを選ばれた第一の理由は「やさしいワインになるから」ということですが、長年ブドウを栽培してきた経験から<日本では断然早熟品種が有利>と判断されたからでもあります。ブルゴーニュでのピノ・ノワールの収穫期は9月中旬ですが勝沼や山梨市など峡東地区では9月上旬の収穫が見込め、秋雨前線の到来を待ちません。この点で、収穫が秋雨とぶつかりやすいメルローや晩熟で年によっては熟しきらないカベルネ・ソーヴィニョンと比べて良く熟したブドウを収穫できる可能性は高いのです。ただ、ピノ・ノワールの房は小振りで果粒同士が非常に密着している<にぎりっぷさ>であるため病気になりやすい、というのが最大の難点で、日本のワインメーカーでも実験の末栽培をあきらめたところもあります。この点は昨今海外でも注目されているクローン・ヴァラエティーによる差異や成長過程で未然に密着化を防ぐ方法などを検討していく必要があります。メロウの丘でも現在4系統のクローンを2種の台木に接いで経過を見守っています。


メロウの丘では小川さんが第一人者として研究・実践されている一文字短梢の棚仕立てで芳醇なピノ・ノワールを目指します。一文字短梢仕立ては全ての成葉が重ならずに上を向いているため光合成効率が良く、狭い面積を有効に活かせる日本にあった仕立て法です。地表は草に覆われその根は過剰な水分を吸収すると同時に地中深く伸びて天然の排水路をつくり、草と共生する微生物が土の団粒構造をつくります。雨の多い日本ではブドウの根が土中深く入らず地表を這うように伸びる傾向がありますが、台木の選択と草生栽培による地道な土作りでブドウ根をできるだけ深く入らせ、深層にあるミネラル分を吸収できるようになれば、その土地の個性を表現したといえるでしょう。


西日の当たる斜面

メロウの丘は南西向きの緩やかな斜面。近くにはサクランボ畑が多くあります。

ピノ・ノワールの花穂。もうすぐ花を咲かせます。

株状にこんもり生えたイタリアン・ライグラス。いかにも引っこ抜き難そう。

栽培者紹介

これらのことは一朝一夕になされることではありません。
3年後5年後を見据えて、ここで醸造家のつくりたいピノ・ノワールの
ワインについて語っておこうと思います。

ピノ・ノワールの魅力は、小粒のベリーやスパイス・トリュフなど香り成分が複雑であること、タンニンが繊細で味わいがふくよかであることです。巷では濃縮感のある力強い赤ワインがもてはやされていますが、特にピノ・ノワールでは力強さを追求することよりも上述の魅力を引き出した、柔らかで、温かみの感じられるワインを目指したい。
太陽と北風が旅人のコートをどちらが脱がすか競う話をご存知ですか?
力まかせに吹き飛ばそうとした北風ではなく、燦燦と陽を当ててあげた太陽に、旅人は自分からコートを脱ぎました。
力で納得させるのではなく、優しさでほっとさせるような、そんな太陽のワイン:ソレイユ・ワインをつくりたい。

小川先生、ひとつよろしくお願いします!

さすが<万能うるさ型>、ハットもきまってます。


シュナン・ブラン、シラー、グルナッシュなどワイン専用種の種からの栽培

一文字短梢で栽培されている甲州種。樹勢が治まり、安定した品質を保っている。甲州種は短梢にすると房が着かないと言われていたが、この通り、4節目と5節目に必ず二房つく、もっとも短梢向きの品種のひとつ。

その1

標高500m以上のポーの丘の最も高いところで甲州種が栽培されている。甲州種の一文字短梢栽培は20年程前にこの地から始まった。