○そばの美味しい不味いは、どこで判断できるのか
・老舗のそば屋の主人は「もりそば」が目の前に出てきたところで、食べないうちに一瞬でそこの店のそばが、美味しいか不味いか判断できます。それは、「そばの姿」を見るのです。
・先ず第一に、そのそばは若い健康な人の素肌のように張り切ってツヤがなくてはいけません。ツヤがなかったり、なんとなくブヨブヨしていたり、ザラついていてはいけません。先ず失格です。こうなる原因は「木鉢に骨を折っていない」からです。「水回し」がいい加減で「ツヤが出てから寄せる」ものであるのに、それをしていないからです。その原因は、水が多すぎて、一生懸命水回しをすると、ツヤが出る前に早く団子になってしまうからです。
・その次には、そのそばに「角」があるかないかです。これも木鉢でしっかり揉み込まれ、全部が均一になっていて、やわらかいところ、固いところのばらつきがなく、それを切れる包丁でスカッと切ったかどうかにかかっており、やはり原因は木鉢の技術にあります。見るところの最後は、「厚さ、太さがそろっているかどうか」です。
・そして、最後に食べてみて、その店の「釜前」の腕を見ます。そばを作るところまでは「板前」の仕事です。
・そばを食べ始める前に、そば汁を一寸なめてみて汁の出来具合とそのそばと合っているか、どこまで漬けるべきかを判断します。それからそばを食べます。これからは、「盛り出し」というそばを盛る係りの腕とそばを茹でる「釜前」職人の腕が分かります。
・そばが真ん中が高くなりように盛ってあれば山のてっぺんからつまみ上げます。もしも、平均に平らに盛ってあれば、蒸籠の右下の四角い部分から箸をつけます。箸でつまみ上げて一度でそばが蒸籠から離陸すれば上等です。そばが適当な長さにそろえて取り分けられているのです。これは「釜前」のそばの洗いと取り分け方が丁寧な証拠です。
・そばを「たぐり込む」食べ方をする江戸風ですと、短すぎてはたぐれないので「45p」くらいまでです。この長さでは蒸籠から離陸しないかもしれませんが、その時は一度蒸籠におろして、その束の中央あたりをつまみなおします。「たぐり込む」食べ方ですと、そばは口の中でつながっています。それを胃袋までつながったまま食べるのではなく、上の前歯と下唇で軽く押さえてふっつりと切りがてら奥へ送り込み、さらに喉の奥で、舌の奥の部分を奥の上顎へぶっつけて切りながら飲み込みます。このようにすれば、そばは連続的に飲み込めるのです。そのとき、そばに芯棒があって切れないと窒息しかねません。ですから、そばは生煮えでは出さず、十分に茹でなければならないのです。釜前は「煮え前は恥、そばの煮過ぎは恥じゃない」といっています。芯まで十分に茹でたのを冷たい水で表面を締めておくと、ふっつりと切れるのです。そば屋が楊枝を出さないのは、前歯の上下も使いませんし、奥歯で噛み切ったりする必要がないのですから「いらない」と威張っているのです。