○なぜ「手打ちそば」は美味しいのか

 

・現在ではとにかく手打ちそばでなければ美味しくないことになっており、昔からのそば屋は肩身の狭い思いをしております。

 

・なぜこうなったかの理由は、戦後の食糧事情の悪いときに、うどんの委託加工をし、それからだんだんそば粉が手に入るようになってからも、小麦粉が7割とか5割といったそばを提供してきた。その理由は、その頃のそば屋の技術では、それ以上のそば粉の混入率を増やすと、そばが長くつながらなかったからです。

 

・木鉢を使えなかったし、水とそば粉の混合粉をミキサーで混ぜ合わせ、そのサラサラに近い混合物をロールの力で板に固めて、長い帯にして何回も何回もロールに通して板にしてから「切り刃」という回転する刃で細くきることで、これはうどんの機械での作り方なので、そばの作り方を知らないそば屋がいたのです。

 

・世の中が落ち着いてくると、そば屋でも、現在のそばに飽きたらず、古いそば屋のやり方を見ていると手で捏ねていました。そこで、木鉢の復活です。さらに手で延ばし、手で切る「手打ち」をやったところ大成功だった。

 

・この木鉢というのは「栃の木」を縦割りにして丸くし、削りこんだ、直径60p以上の木のボールです。そば屋にとって一番大切な道具です。「木鉢が悪い」という言葉は道具が悪いということではありません。「良い木鉢」というのは「骨を折った木鉢」です。木鉢で入念に揉み込み、きれいな玉にし、足で踏まないようにしなければ、本物の「手打ちそば」とはいえません。

 

・ところが、そば粉が良くなると「骨を折らないでも」そばになるようになっています。そうなると、「たいていは、そばになるから」あまり美味しくないそばができます。ですから「手打ちそばだから美味しい」のではなく、本当は「良い木鉢のそば」でないと美味しくないのです。

 

・ところが、最近では、自分の腕が悪いからそばがつながらないのに、戦後の新規参入のそば屋のように、木鉢に骨を折らないで「もっと細かい粉を」を求め、そば粉が古くなるとつながらないので、そば粉を「自家製粉」しています。自家製粉は昭和初期まではどこのそば屋でもやっていたことですから、結構なことですが、篩いの目は精度が良くなったので、細かい粉が篩い出せます。ですから、木鉢に骨を折らなくても「たいてい、そばになる」のです。