○なぜ「もりそば」に熱湯をかけた「湯通し」があるのか

 

・蒸籠に盛ったそばに熱湯をかけ、そばを熱くする「湯通し」があります。これはそばの「釜揚げ」ではなく、釜から上がり、完全に処理され、蒸籠に盛られてからあらためて熱湯をかけて熱くするのです。熱いので「あつもり」と呼ばれます。「敦盛」の字は当てられません。無官太夫平敦盛は、先にすし屋に取られてしまっています。

 

・それは、一の谷で熊谷直実が敦盛の首を取るに忍びなく、実子で病気の小太郎とすげ替えて逃がしますが、落ちた敦盛は熊野の山中に隠れ、若いので食べて行かなくてはならないので、すし屋にアルバイトに入り「与助」と名乗ります。そこからすし屋に「与助」という屋号ができ、樋口一葉さんの「たけくらべ」にも「与助でもとろうか」というフレーズが出てくるようになるのです。

     (与助の由来、敦盛は直実に首を取られたのでは?) 

 

・なぜ冷たい「もり」に熱湯をかけ、わざわざ熱くするのかというと、これは、冬、寒い季節にも「もり」を食べたいからばかりではなく、夏でも「あつもり」と注文になります。そばの香りが一段と高くなるからで、だいたいそばの香りは、冷たいままですと鼻に押しつけてもそんなに分かりません。僅かでも熱を加えると立ち上ります。もっとも、そば粉が多い場合で小麦粉が多いとそばの香りのかわりに小麦粉の臭いがします。

 

・熱湯をくぐらせると、良い香りが立ち上りますが、「かけ」などでは汁の味が邪魔して香りはあまり分かりません。普通、水を切れば、口に含んだときに香りも出てきますが、水にくるまれているとなかなか感じません。こんなところがそばをひと水切って出す理由でしょう。

 

・ただし、細打ちの挽きぐるみの生そばは湯通しを受け付けません。バラバラになります。お土産の一度水を切ったそばも、湯をかけたとたんバラバラになります。生そばでも、太打ちは湯通しのほうが美味しいでしょう。

 

・一度、「もり」を「土用、寒」でメシャがってみてください。「土用」とは熱いので「あつもり」のこと、「寒」はふつうの冷たいもりです。「あつもり」の汁はやはり温めて出てきます。この「湯通し」のやり方は、ふつうの「もり」のように、きれいに蒸籠に盛ってから、その上にもう一枚蒸籠をかぶせ、その蒸籠のスダレ越しに熱湯を二、三杯かけ、蒸籠を傾けて隅から余分なお湯を絞り出し、蓋をした蒸籠を取り去ってから上の乱れを直し、蒸籠の周りを布巾でぬぐってからお出しします。

 ◎近場では堺市宿院の「ちく満(ちくま)」