○なぜ、機械のない江戸時代から「手打ちそば」があったのか

 

・「手打ち」という言葉は江戸時代からありました。「二八と手打ちということについてだいたい大量少量の製造の差のようです。手打ちは小仕事だという意味らしい。そばを足で踏むような大量を作らずという事らしく、手打ちの店は、木鉢も中釜も小型であった」

 

・手打ちは足でやらず、木鉢の中だけで「くくり」「出ッ尻」という作業を完成させます。ですから大量には一度に作れないのです。だいたい3`が限度でしょうか。

 

・乾麺類を製造、販売する会社のグループは、他との競争から「手打ち」という言葉の意味を決めています。業界規約では、「手で延ばし、手で切ったものを手打ちという、捏ね行程は機械で良い」ということになっており、「木鉢の悪いそばは不味のようです」から木鉢で捏ねない手打ちは偽物なのによいことにしています。そして、この「手で延ばさずに」機械で延ばしてから、手で切ったものは「手打ち風」と袋に表示します。この手で切るのも、包丁ではなく「秣切り(まぐさきり)」と称せられる、紙を切る機械のような形で、刃を持ち上げると少しずれる機械を手で動かせば、手で切ったことになります。

 

・こうした表示や、店先で、手で延ばし、手で切っているから「手打ちそばだから美味しい」と思ってしまうのは、美味しいそばの味を知らないからです。昔は、お客様は、作るところは見えませんし、口で食べて、美味しいものは美味しいとご自分で判断していたのです。ところが、最近、「お料理は目でも味わいます」というのに騙されて、口で味合うことをせず、見て、表示を信じるし、耳で聞いて評判店のものは美味しいと思うものですから、料理屋でよけいな説明役が出てきていう能書や、買い物でも表示にごまかされるのです。

 

・最近「純手打ち」「本手打ち」という看板を見かけます。「ニセ手打ち」が横行しているのでしょう。「日本そばの本手打ち」とはややこしい話です。伝統食品というものは、その民族が何世代にもわたって食べ続けてきたものですから、その民族の細胞に、その味は刷り込まれているものです。ですから、昔は日本人はチーズは食べられませんし、そのかわり、外国人も沢庵は食べられないのです。そばの「本当の美味しさ」はご自分の口が一番ご存じのはずです。ご自分の舌で味わった美味しさを信じなければいけません。