「告白は夜に」
  半分だけ開いた窓の隙間から入り込む夜風がカーテンを揺らし、剥き出しになった背中を撫でて通り過ぎてゆく。それが何とも心地よい。
 人肌に寄り添うような生温い空気が、だるさを伴った眠気を誘って、クイーンは瞼を閉じたまま、白いシーツに包まってベッドの上で満足して丸まっている。
 夏が訪れる前の、とっくに春が過ぎたこの中途半端な季節が、クイーンは気に入っていた。
 時折、思い出したようにさらさらと雨が降り注ぐ気配が窓の外に感じられ、それも気付くと止んでいる。
 熱に浮かされたように快楽に溺れたつい先刻までは耳に入らなかったそれらが、身体の火照りをゆっくりと取り去っていくようだった。
 傍らには男がいて、ベッドサイドに腰掛けたまま、ゆっくりとクイーンの髪を梳いている。
 男は、そうするのが好きなようだった。
 身体を重ねた後には、そうして飽きずにクイーンの髪を梳くのだが、ばっさりと切った短髪では、髪をすくい上げた途端に指先から零れ落ちてしまう。
 その度に、クイーンは髪を伸ばそうか思案するのだが、結論が出る前に眠りに落ちてしまうのだった。
 やはり今夜も、眠気に抗えそうに無い。
 ゆるゆると眠りの深層に落ちてゆく前に、男が独り言のように何かを呟いた。
「……ゲド?……何だい……?」
 そう問いかけた筈が、言葉になっていたかどうかは分からない。
 だから、もう一度男が囁いたのが、夢の中の出来事かどうか、クイーンにはもはや区別がつかないのだった。