―――サキの夜―――



 月の美しい夜だった。
 真夜中だというのに、窓から差し込む煌々とした月明かりのせいで室内は昼間のように明るい。
 微かに吹き込む風がベージュ色のカーテンをゆらゆらと揺らす。
 二階だからか、窓は不用心にも開け放たれていた。
 室内には、ベッドに横たわる少年が一人居るだけだ。
 瞼は閉じている―――が、少年は決して眠ってはいなかった。否、眠れるはずがなかった。
 呼吸こそ穏やかな寝息を装ってはいるが、その実、心臓は全力疾走直後のようにドクドクと波打ち、手のひらにはびっしょりと汗をかいている。
 少年は若い―――というより、幼い。おそらく年はまだ10に届くか届かぬかくらいであろう。
 薄いブラウンの髪は少年というにはやや長いけらいがあるが、そのせいで見ようによっては少女、とも見ることができた。
「…………………………」
 少年は息を潜めて、ひたすらに瞼を瞑り続ける。
 他の部屋で寝ている家族はおそらく既に皆心地よい夢の世界に旅立っていることだろう、それだけの時間が、彼がベッドに潜り込んでから経とうとしていた。


 ―――”それ”は突然来た。


 室内に降り注ぐ月明かりの量が急に著しく減り、闇が舞い込んできたのだ。
 月が、雲に翳られたのか―――いや、それだけではなかった。
「…こんばんわ、ちょっと遅くなっちゃったカナ?」
 舞い込んできた”闇”が静かに少年のベッドの側へと降り立つ。
 そのまま、少年の顔を覗き込んではクスリと笑みを漏らす。
「ふふっ、もう寝ちゃってるみたいね。それじゃあ、今日は帰ろうかしら」
 そっと、まるで少年に囁くように耳元で呟くと、”闇”は少年から遠ざかっていく。
 刹那―――、
「ま、待ってください! ボク、ちゃんと起きてます!」
 バネ仕掛けの人形のように、少年はブランケットをはねのけ、”闇”が部屋から出て行くのを制止した。
 ”闇”は少年のそういった行動を予想していたかのように、窓際へと腰掛けたまま、静かな微笑を浮かべていた。
 否、それはただの闇ではない。
 微かな月明かりの中、窓際に立つその人影は確かに、少年の知っている女性の姿そのものだった。
 髪の長い、大人びた、笑顔の優しい女性だ。そしてそれは少年の初恋の相手でもあった。
「ふふっ」
 女は嗤い、静かに少年のベッドへと歩み寄ってくる。
 衣類は何もつけていない、全裸だ。
 それでも、女にはそれを隠そうという意思は毛頭無いらしい。
 少年のベッドの端へと座り、少年の上半身へと体重を微かにもたれさせてくる。
「私が言った通り、起きて、待っててくれたンだ?」
「……っ…は、い…」
 少年の返事には微かに躊躇いがあった。
 まるで、今から懺悔をしようとしている罪人のような…。
「あっ…!」
 ふいに、少年の体が跳ねた。
 ブランケットと、パジャマのズボンの間に女の手が滑り込み、既に怒張しきっている少年の股間を撫でたのだ。
「ちゃんと、オナニー我慢してた?」
「は、はいっ……我慢、しまし、た…」
「一回もシてない?」
 態と焦らすように、少年の股間をなで回しながら、女は囁きかける。
 少年の敏感な耳に針のように尖った舌を這わせて、裏まで丁寧に舐めながら。
「はいっ…一回もっ…シて、ません…」
「そう、いいコね」
 ご褒美、とばかりに女は少年の耳を優しく唇で食み、舌先で漫ろに撫で回す。
 両手で小柄な少年の体をしっかりと抱きしめ―――否、左手だけは、少年の股間の怒張をしっかりと掴んで。
「ぁっ…やっ…だ、ダメっっ……!」
「ン…耳だけで、イッちゃいそう?」
 ちゅぱ…、唇を離して、囁き。
 既に焦点の良く定まらぬ目で、痙攣するように震えながら、少年は短く、何度も頷いた。
(…ホント、感度抜群なんだから)
 女は喉の奥で嗤いながら、同時に味見でもするように少年の頬に舌を這わせる。
 女は、そのまま左手で少年のズボンごと下着をおろしてしまうと、まだ恥毛も生えてないペニスを露出させた。
 それは色こそまだ経験の浅さを物語っているが、しかし形そのものは牡性器として成り立っており、さらには自らの性欲を示すように少年の体には不釣り合いなほどに怒張していた。
 女は微笑を漏らすと、躊躇いもなくその竿を握る。
「あっ…!」
 ただ握られただけで、少年はまるで処女膜でも失ったような声を上げる。
 が、声を上げただけだ、その両手は未だ自由であるというのに、女の行動を制止するようなことはしない。
「お、おねえさん…ボク……!」
 ただ、怯えるような口調で、視線で女に訴えるだけだ。
 少年と女は母親と子供ほども体格が違う、少年の格好は丁度母親に後ろから抱かれながら両足を開いているような状態だ。
 至極、羞恥が湧く、がそれでも少年は足を閉じようとはしない。
 この後に女から与えられる快感を体で覚えてしまっているからだ。
 女は意地の悪い笑みを浮かべながら、握りしめた手は一切動かさず、ただ親指だけで少年のピンク色の先端を優しく擦り―――、
「…シて欲しい?」
「あううっ…!!」
 ただ親指の腹で擦られるだけでも、少年には耐え難い快感らしい。
 背を仰け反らせ、大げさに手足をばたつかせながら何度も首を縦に振る。
「くすくす…、分かったわ、まずは一回、出させてあげる」
 女の手が、徐々に、ゆっくりと艶めかしく蠢動し始める。
 少年のペニスの先端からひっきりなしに漏れ続ける汁を潤滑油としてカリ首から竿までまんべんなく塗りつけ、少年が苦痛に感じない程度に扱く。
「はぁ…あっ…! おねえ、さんっ……あぁっあっ……!」
 女にペニスを扱かれながら、少年は淫らに声を上げる。
 その姿はまるで飼い主に対して仰向けに寝そべり、腹でも撫でてもらってる飼い犬のように無防備だ。
 女の手つきはそうとう慣れたものらしく、時折緩急をつけては見事に少年の快楽中枢を刺激し、容易に高みへと登らせていく。
「あっぁっ…ぁっ……ぁっ! お、おねえさっっ……あっっ…ぼ、ボクッ…もうっっ…あっ!!」
 少年の体がびくんと跳ね、今にも白濁の塊が飛び出してきそうなほどに先端が怒張する―――が、女はそれを遮るように握力をこめ、少年の射精を制止した。
「あっ!あっ! な、なんで………」
 少年は悲鳴にも近い声を上げながら、何度も体を痙攣させる。
 だが、女は握力を緩めず、その先端からは一滴の汁も出ることはない。
「ダメよ? ちゃんとイク時は”イクッ!”って言わなきゃ、約束でしょ?」
「は、はひっっ…ご、ごめんなさっっ……あァっ…あァああっあッ!!!!!」
 少年が返事を返す暇も与えず、女は尿道の圧迫を解放した。
 同時に、今までよりも激しく竿を扱きあげ、まるで女のその手つきによってますます初速を得たかのように、白濁の飛沫は遠く、窓の枠まで飛び、べっとりと張り付いた。
「あうッ!あうっ…!!!」
 びくんっ!びくんと少年は幾度となく体を震わせる。
 その都度、そのペニスからはびゅるびゅると濃い粘質の精液がたっぷりと飛び出し、壁や床に淫らなアートを描き出した。
「アハハッ、すっごぉい…ずいぶん溜まってたんだ…?」
 女は態と、ペニスの方向を操作して少年の最後の一射はほぼ真上に打ち出させた。
 案の定それはそのままべっとりと少年自身の頬へと張り付く。
「あはっ、凄い匂い…さすがにガマンしてただけあるわね」
 女は舌を伸ばして少年の頬に張り付いたそれをさも美味そうに舐めとる。
「ぁっ…!…ぁっ!………お、おねえ、さ…」
 息も絶え絶えに、少年はぐったりと体を預けてくる。
「ふふッ…どう? ひさしぶりの射精、気持ちよかった?」
 女は、少年のペニスから手を離し、その指、手の甲に付着した先走り汁さえもピンク色の舌で舐めとる。
 まるで、それが”食事”であるかのように、貪欲に。
「おねえさんっ…ボクッ…口、で……おねえさんの…口で……!」
「口…? 私の口でシテ欲しいって…コト?」
 少年は微かな狂気すら滲ませた瞳で、未だ怒張したままの股間を強調する。
 開きっぱなしの口からはハァハァと手負いの獣のような息切れが続いている、少年の興奮は極度の域に達していた。
 それもその筈だ、彼はこの瞬間を、夜、女が訪ねてくるのを文字通り一日千秋の思いで待ち続けていたのだから。



 初めて女が現れたのは、半年前の新月の夜のことだった。
 月明かりもない闇の中、女は音も立てずに窓の鍵を外して少年の部屋に舞い込んでくるとそのまま添い寝でもするように少年のベッドの中へ潜り込んだのだ。
 勿論、少年は驚き、大声を上げようとしたが、しかしそれよりも早く口を女の手に塞がれ、手足を押さえつけられ、抵抗を封じられた。
 その後で、女は静かに一言、
『大丈夫、怖いことなんて何もないわ』
 そう、少年に言い聞かせたのだ。
 そしてそれは、少年のよく知っている声だった。
 少年が通うスクールへの通り道、その花屋の二階の窓際で時々読書をしていた女性、何度か無理に口実を作って一言二言会話をした、少年の初恋の女性の声だった。
 その女性自身は数週間前に既に引っ越したらしく、少年の住む街には居ない―――が、少年の耳には今でもハッキリと、その女性の声は残っている、間違いない、今目の前に居る女の声は確かに記憶の中の声だった。
 そう思うと、不思議なことに全くの闇の中、女の顔までもがおぼろげに見えてきた―――勿論それは、少年が脳裏に浮かべたとおりの、初恋の女性の顔そのものだった。
 あっ…、と途端、少年の体からは力が抜けた。
 驚きと混乱、その他の感情も入り交じってどうしたらよいか分からなくなったのだ。
 女は、そんな少年を見て、一言だけそっと囁きかけた。
『…気持ちよくしてあげる』
 と。

 その後のことは、少年はよく憶えてなかった。
 女にされるがままに体を、ペニスを弄られ、未だかつて体験したことのないような感覚―――そう、”快感”というものを徹底的に教え込まれ、その挙げ句気を失ってしまったのだ。
 それまでは少年は射精や自慰といった言葉すら知らなかった、自分の股間から生えているその牡性器ですら、ただの尿を放出するための道具としか認識してなかったくらいなのだ。
 少年は女の手で初めて射精をした。
 そしてそれを皮切りに口で、さらには性行為そのものまで少年は女に教えられた。
 女はだいたい7日に一度のペースで少年の部屋を訪れては、朝日が昇るか、少年が意識を失うまで少年と行為を続けた。
 約束事もあった。
 一つは、自分のことを誰にも、勿論家族にも言わないこと。
 二つは、自分が居ないところでは、決して射精―――つまり、自慰行為はしないこと等々。
 少年は女との約束を遵守した。破れば女がもう二度と来ないと思ったからだ。
 初めの数回こそ、少年は恐れ、苛み、女とのことを誰かに相談しようかとも思った。
 が、そういったことすら女から与えられる快楽の前には砂の城にも等しく、やがては快感という名の濁流に飲まれ、跡形もなくなってしまったのだ。
 半年で、少年はすっかり変わってしまった。
 女の虜と化し、ただひたすら女が来る夜を待ち望み、その他のことはどうでも良いとばかりになげやりになった。
 女から与えられる快楽のみを目的に生きていると言っても過言ではないくらい、少年は女に陶酔しきっていた。
 …そしてそれが、女に飽きられるきっかけになると、まだ若い少年は知らない。















「あぁっ…!うっ…ぁっ……!!はぁっ…あっ………!!」
 女の髪を掻きむしりながら、少年ははしたなく声を上げる。
 ベッドの縁に座ったまま足を開き、その股間に顔を埋める女の唇には少年のペニスがしっかりとくわえ込まれており、ぬらぬらとした液体が時折糸を引いて床へとしたたり落ちる。
「んむっ……ん…!…はぁっ………気持ちいい…?」
 ちゅぱっ、と女が唇からペニスを引き抜くと、少年のそれは中にバネでも入ってるように力強くピンと仰天した。
 女はさらに、ぬらつく舌でその竿を丁寧に舐めしゃぶる。
「は、はひっ…きもちいい、れすっ…! おねっ…おねえさんっ!もっとっ、もっと口でっ…口でっっ…!!」
 女が舌を動かす都度、少年は大げさに体を震わせてよがり狂う。
 端から見れば、少年の感じ方は異常とも見れる―――勿論それは女の仕業なのだが、少年にはそのようなことは分からない。
「ふふふっ…そんなに私のクチ、気持ちいい?」
 つつつ…、女は尖らせた舌先で浮き彫りになった血管と筋を一本一本丁寧に辿っていく。
 勿論くびれ、カリ首の辺りを擦りあげることも忘れない、丹念に引っ掻くように刺激し、さらには柔らかい唇の肉で吸い付き、優しく噛みつく。
「は、はひぃいいいいいっっ!!!!」
 たまらず、少年は悲鳴とも取れる嬌声を上げ、仰け反る。
「ふふ…」
 女は少年の反応に満足げに微笑みながら、態とゆっくり、そのペニスを口に含んでいく。
「うはぁああっ…ぁ…!」
 自らの牡性器がなま暖かい肉唇の中に飲み込まれていく感触に、少年は再び体をくの字に曲げて絶える。
 もちろん女の口戯、舌技は少年のそんな行為で絶えられるほど生ぬるいものではない。
 少年の敏感なペニスの中でも特に少年が弱いところ、感じるところを徹底的にねぶり、しゃぶり、擦り、吸い、突き、噛み、舐める。
「あっ…あぁっ…! お、ねえっさ……ボクッ…ボクッ…もうっっ…」
 女の髪を掻きむしる手に力が籠もり、指が引きつる。
「ぁっぁっ…ぁっ…!ダメッ……イクッ…!イクッ…イッちゃうゥゥっッッッ!!!!」
「んぐっ…!」
 咄嗟に少年は女の頭を引き寄せ、さらに自らの腰をも突き出した。
「はうううっ! 出るっ…! おねえさんっ! 出るっ!精液出ちゃうっっ!!」
 どくんっ!
 ペニスが一瞬膨れあがるほどの勢いで女の口腔内に濃厚な牡液があふれ出す。
「んむぅうううっ!!!」
 女も眉を寄せ、それらの全てを受け止める。
 びゅっ!びゅ!びゅっ!
 先ほど出したばかりだというのに、少年の射精には容赦も止めどもなかった。
「んくっ…んんぐっんんっぷっ…!」
 ごくりっごくりと何度も女の喉が鳴る。
 それでも少年の射精には追いつかない、女の口の端からつつと白い筋が走る。
「はあぁああっっ……!」
 少年は女の顔を自らの股間に押さえつけながら、法悦のため息を漏らす。
 だらしなく開いた口の端からは涎を垂らし、射精の都度その喉億からはまるで少女の喘ぎ声にも似た声が飛び出してくる。
「ぷはぁっ…ぁっ……」
 十数度の射精を終えて、漸く女の唇からペニスが引き抜かれた。
 つ…と伸びた銀色の糸が途中で爆ぜ、夜の空気のなかに消え失せる。
「つ、次っ…! おねえさんっ…次っ! おねえさんの中に挿れたい!!」
 度を超した快感の反動か、それとも狂気の交わりのせいか、少年はまるで白痴のような言葉遣いで女の腕を掴み、ベッドへ押し倒す。
「きゃんっ…! もぉ、乱暴は……あぁんンッ!!」
 女が抗議をする間も無かった。
 少年はまさしく獣のような仕草で女を組み敷くと、口戯の最中から既に潤みきっていた女のヴァギナへと自らの怒張を押し込んだのだ。
「はあぁああっ…! おねえさんっ! おねえさんの中っ…気持ちいいっ! 気持ちいいよぉぉっっ!!」
 女の両腕の付け根を掴み、ひたすら遮二無二に少年は腰を振る。
 瞳には狂気。
 口の端からはダラダラと野犬のように涎を零しながら。

(……そろそろ、潮時かな…?)

 少年にそのような陵辱を受けながらも、女は心中で冷静にそう呟いた。
















 月も薄れ、夜闇も薄紫色に塗り潰された頃。
 度重なる行為と射精の疲労で漸く少年が意識を失した中、女はそっとのその脇から抜け出した。
 ベッドの側に立ち、少年の寝顔を一瞥。
 そこには、かつて彼女が最初に少年の元を訪れた時のような健やかな寝顔、純朴な面影は微塵もなかった。
 ただ、狂気の快楽によって不自然に歪んだ笑みだけが、そこにはあった。
「あらあら…すっかりコワれちゃって…ふふ、美少年もこうなっちゃカタナシね」
 意地悪く、女は微笑む。
 そこに居るのは、もはや少年の初恋の女性ではなかった。
 落ち着いた、悪女然とした雰囲気は失せ、どちらかというと小悪魔的な快活さを漂わせた風貌。
 体格は大分小柄、少女と言ってもいいくらいにまで縮み、髪も短く、全裸ではなく、特異な装束を身につけていた。
「ま、こっちもこれが仕事なんだし、悪く思わないでよね」
 少女はそう言い残すと、勢いよく少年の部屋の窓から飛び出した。
 即座に、背中のコウモリ状の翼を開き、落下速度を減少、そのまま翼を数度はためかせて上昇する。
 十分な高さを得た後は滑空し、街で一番高い―――そして彼女が一番気に入っている時計塔の頂上へと着地した。
「ん〜…この街の綺麗所もあらかた食い尽くしちゃったかなぁ?」
 少女は右手を眉の辺りに当て、遠くを眺めるようにして街全域を見下ろす。
 街のそこかしこに見覚えのある家々が点在していた、それはイコール、彼女好みの男が居た家ということだ。


 少女は魔族、それも女性型淫魔のサキュバス―――個体名をサキと言った。(尤も、この名は『サキュバスだから、略してサキ』と自分で勝手につけたものなのだが、しかし彼女自身はひどく気に入っているようだ。)
 彼女は約200年の間、さる魔導書に封じ込められており、そしてひょんなことからエルフの姉妹によって解放してもらったのだった。
 早速エルフの姉妹にかる〜く礼をして(サキュバス流の”お礼”というものがどういうものかはご想像にお任せする)200年ぶりの男漁りとばかりに街へと繰り出したわけだ。
 運良く近場に手頃な街(この場合の手頃とは、対魔業を生業としているような連中が巣くっていない、つまり魔族にとって安全な街)があり、そこに住み着いては彼女好みの男を毎夜毎夜襲い、精力を吸い上げ、魔力を回復させていたのだ。(ちなみに、サキの好みの男というのは純朴な美少年で年は12歳以下、尚かつ性行為に関して無知であればあるほどいいらしい)
 そして先刻、最後の”純朴な美少年”に見切りをつけてきたというわけだった。
 何故、見切ったのか、といえば、それは他ならぬサキ自身が”飽きた”と感じたからに他ならない。
 衆知の通り、淫魔というものは人間の寝室に忍び込み、性行為を通じて精力を吸い上げることで魔力を補充、増大させる生物だ。
 つまるところ、淫魔達にとって性行為というのは人間で言う食事とほぼ同義と言っていい、ともすれば、毎度毎度ただ性行為をするだけ、というのは毎回同じものばかりを食べているようなものなのだ。
 ましてや彼女らは魔族、何百年もそういうことをしていれば、自ずと性行為そのものよりもその他の要素のほうが重要視されてくる。
 それはサキュバスら個体によって様々なのであろうが、要するに容姿や性格その他の要素が彼女らにとって”エサ”を選ぶ理由になるわけだ。
 そして、サキの好みは上記の通り、12歳以下で美形で、性行為には無知。しかしどんなに純朴な少年でも、淫魔と肌を重ね続ければそう長くはかからず、性欲の虜と化してしまう。
 そうなってしまえば、もうそれはサキの好むところではない、捨てるだけだ。
 現に彼女はそうして、今まで何人もの少年を捨ててきたのだ。
 そのことに対して、罪悪感など感じる筈もない。
 それは人が牛や豚の肉を食べて、罪を悔いることがないのと同じなのだ。










「どーしよっかなぁ〜、次の街もまた安全とは限んないし〜」
 サキは時計塔の先端の針のように尖った鉄針にもたれかかり、思案していた。
 魔力を回復させたのはいいものの、そこから先の目的が彼女には欠落していたのだ。
 しばし、そのまま、太陽がその半分を覗かせるまで、彼女は目を瞑って思案し続けた。
 そして―――
「…よーし決めた! 誰がなんと言おーと決めた!」
 大きく翼を広げると、その身を大空へと投げ出した。

 ―――エルフの姉妹の住む森で”また”ひと騒動起きるのは、それからさらに数日後のことだった。





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