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(新建ちばNo.176より抜粋)

高齢社会の団地再生事例の紹介

 梅雨の真中の晴れた午後。その日は午前中の打合せが長引き、10分ほど遅れて会場に到着(すみません…)。既に20名ほどの参加者が、新井さんの説明を熱心にかつ楽しそうに聞いているところでした。
 改めて。本講座は千葉大学在学で新建会員でもある新井信幸さんが研究する、公共賃貸団地の再生の事例を紹介するといった内容です。前半は事例の紹介、後半はディスカッションという構成で進められていきました。今日紹介された主な調査対象は、高根台団地、草加団地、久米川団地、武蔵野緑町団地etc.。会場は、新建会員、学生をはじめ、実際の住人の方々、市役所の方、元公団の方も参加していただき、この問題に関わりのある方々が一堂に会したといった感じでした。 

 前半は、写真や調査結果をグラフにしたもの、問題点など、プロジェクターを使って解りやすく説明していただきました。そもそも団地の再生事業として、公団のとる方法は一貫して前面建替えだそうです。目的は居住水準の向上とのことですが、そのかわり家賃は大幅に引き上げられます。当然、今までの住人は生活が苦しくなり、家賃が払えなくなる状況がでてきます。その対策として、公団側がとった方法が家賃優遇や傾斜家賃といったもの。しかし、実際は、高齢者優遇措置なるもののおかげで高齢者は戻ってきますが、若い世代はそのまま他へ引っ越してしまうことが多いのだそうです。結局、戻り率は5割以下(高根台団地に至っては3割!)というのが現状だというのです。つまり建替えをすると団地の高齢化が進むというわけです。

 「今からは休憩感覚で…。」といいながら見せてくれた、古い団地の写真からは、ご近所と競って畑をつくるテラスハウスや公団住宅とは思えない程のお洒落なインテリアなど、古い団地を住人の手で快適に暮らせるように工夫している様子がわかります。また、緑の中に建つ色あせたコンクリート造りの住棟が映る景色には、「こんないいところ、建替えする必要ないんじゃないかな。」という新井さんの言葉通り、“いい味”があるように思えました。現場写真には、今日参加してくれた方の御宅も写っており、それについてあれこれ説明する新井さんを笑いながら突っ込むなど、新井さんと現場との親密さも感じられました。
 おもしろかったのは、団地を建て替える前と後で行ったご近所の人との挨拶と立ち話の回数を集計したもの。たかが挨拶。されど立ち話。こんなささいな行動にも大きな違いがでていました。建替え前と後ではベランダ、玄関、住棟の周りでの挨拶、立ち話は共に減っているのですが、廊下においては共に増えているというのです。これはテラスハウスや階段室型から、住戸面積を広くとることが出来る廊下型の団地が増えているからとのことでした。また、最近のマンションのエントランス付近によくある、空きスペースを使った休憩コーナーは、使われることがほとんどないそうです。「周りとの関わりがないと居心地の良い場所にはならないんです。」と、新井さん。

 前半も終り5分程の休憩の後、自己紹介の後、机を囲んで始まったディスカッションは、それから終るまで1分間空いた事があっただろうか(いや、なかった)と思うくらいの盛り上がり。さすがに現場に関わっている人が話すことは切実だし、よくわかります。

・かなり積極的に団地造りの活動をしないと自治会は動かせない
・住まいを変えるとボケる人もいる
・建替え自体は居住者には問題ないこともある
・立ち退くつもりがないでいるといざ引越しというときに立退き料が出ない
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などなど、建替えに関する現状や、
・設備・間取り・電気など、変わるものと変わらないものを分析すべき
・公団の手法としてリフォームがない
・お金のまわるような地域づくりも大切
・公団側に対抗するにはコストの面でも有利である事をアピールしなければいけないのでは
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などの今後の対策を話し合いました。元公団、市役所の方もいらっしゃったので、両方の意見も聞けて密度の濃い…かなり充実したディスカッションでした。正直、まとめきれないぐらい。第二回に期待です。

 実はこの講座で密かに一番驚いた事は、船橋の高根台団地の住棟が300棟近くあるということ!49万u!4870戸!すごいの一言。近くを何度か通ったことはありましたが、そんなにあったとは…。私の住んでいるみつわ台にも団地は多くありますが、せいぜい15棟前後。住棟の形、一棟当りの世帯数に多少の違いはあるでしょうけど、それにしてもすごい数ですよね。 
                                        (加瀬澤恵)

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