1998.2.20

 『人間の生命の尊厳と性、中絶』

 今月のテーマ〜「性と生命の尊厳、その回復」


《緒論》文盲の多かった進駐軍、スポーツ新聞をよむ日本のホームレス
    マッカーサーによる日本人の精神年齢12歳、倫理判断を行政と有識者にお任せ

《中心聖句》箴言29:18「幻がなければ、民はほしいままにふるまう。しかし、律法を      
守るものは幸いである」→神の啓示への従順と拒絶が、祝福と呪いの分岐点。
《1》二つの倫理の比較

(1)この世の倫理〜御言葉に従わなければ、自己中心による罪が横行。
 ローマ1:18〜32:偶像礼拝→欲望肯定と性的汚れ(24〜)、神の拒絶→罪の横行(28〜)

 現代倫理の特徴(加藤久武氏による)とその結果(筆者による)
 脱宗教的な世俗性(功利主義的)→自らの欲望、利益追求の最大限肯定
 背景にある市場経済(自由主義的)→人命さえも経済原則、経済効率で測られる危険 
 多数決原理の認知(民主主義的)→誤った倫理観を持つ多数派が決定権をもつ危険

 現代倫理のキーワード:「欲」、「金」、「数」

(2)聖書の倫理〜御言葉に従う中にこそ祝福された人生、社会の実現
 律法の要約は「神と隣人への愛」(マタイ22:34〜40)
聖書倫理の代表、黄金律は「自己愛の隣人愛への改変」(マタイ7:12)
 福音の力によって、利己的自己愛を超越、克服し、神と隣人への愛に生きるのが聖書倫理
マザー・テレサ「傷つくまで愛しましょう。それはどれほど多く与えるかではなくて、ど         
れだけ多くの愛を注いで与えたかによるのです」

聖書の倫理の特徴(現代倫理との比較による)
 神の主権の絶対性(反功利主義的)→人間側の欲望、利益に対しての神の主権の優先
 生命の尊厳の絶対性(超経済原理的)→人命、人権、人格に対しては経済原則は適用範囲外 
御言葉の絶対性 (非民主主義的)→多数派であっても御言葉に反する決定は無効

 聖書倫理のキーワード:「神」、「生命」、「御言葉」

 以下では、以上の二つの倫理観を通して中絶、性倫理、医療倫理、問題を扱います


《2》人口妊娠中絶について(生命の選別管理体制)

 〜森岡正博氏による生命管理体制論「姥捨山問題」(生命学への招待より)〜
(1)生命の選別管理の論理
 救命ボートの論理:6人定員の救命ボート、7人目を乗せれば沈没し、全員志望は明            
白な場合、7人目を乗せるか否か(典型的極限状況)

 姥捨山の論理 :6人定員の救命ボートに5人、6人目を乗せるか?
     苦難を分かち合う選択:食料割り当ての減少、生存確率低下、苦難の増加
苦難を回避する選択:自分たちの状況のより一層の悪化を避けるため見捨てる
 《生命の選別管理の論理》
 「今以上の苦しみを引き受け得る状況において、それを引き受けず他者を見捨てる」

(2)同様の問題として考えられるもの
 中絶(一肉体)、ペット問題(一家庭)、姥捨山(一社会)、飢餓、環境問題(地球規模で)

 中絶の場合:出産して苦しみを分かつことができないわけではないが....
 予想される苦しみ:シングルマザー、進路問題、快適な生活の喪失、経済上の負担、
          住宅環境悪化、障害児の場合の様々な問題
 結論、決断:その子を見捨てることにより、将来予想される自らの苦しみを回避

(3)見捨てた結果(その苦しみの構造)
 苦しみの二面性〜殺せば回避できる現実の苦しみ
 回避した故に覚える良心の痛み
 「苦しむのが嫌だから捨てたはずなのに、捨てた行為そのものが私を苦しめる」(同書)
(4)苦しまないシステムの必要
 中絶容認社会、ペットの殺処分施設、姥捨山制度、有り余る中からの寄付
 中絶の場合:都合のよい法律、手軽なシステム、権利の正当性、社会的容認
 「自分は残酷な行為をしていないと思いたいから、こういう処分施設が必要となる」
 「食料とエネルギーを大量消費しながら、一度だけアフリカに毛布を送る」

(5)盛岡氏の結論
 人は利己的傾向を克服し得ない。苦しみを分かちたくないという事実が姥捨山を生む。
(例)アメリカ国民のほとんと中絶自体には反対、しかし、ほとんどが法的権利として希望   
富める国の人々は生活苦をしてまで、飢えた人々とともに苦しまない


 ※「欲」利己心、「金」利益、「数」多数の要望、によって中絶のシステムは成立

(6)私的反論
 キリストの愛は救命ボートの論理を超越:「その友のために命をすてる」(ヨハネ15:13)
 同様に福音は姥捨山理論(利己性)を克服しうる:黄金律、聖書的隣人愛
 実例としての奴隷制度、人種差別制度の廃絶、(多数派の利益放棄)
 福音は自己愛を隣人愛に転化し得る、ただし、その前進の程度と範囲はクリスチャン次第 
「あの人見てたら自分のために生きていないと思った。」(ある求道者)


《3》性倫理について(本来の姿からの逸脱)

 加藤久武氏によれば、現代倫理を要約すると以下のようになる
 判断能力のある大人なら  自分の生命、身体、財産などあらゆる自分のものに関しては 
他人に危害を及ぼさない限り   たとえ、その決定が当人にとって不利益なことでも 
 自己決定の権限を持つ

それぞれに対しての典型例と批判
 「もう、大人なのだから」 →日本人一般に見られる性に関する知識の未熟さ
 「私の体、私の人生だから」→神様のもの、社会と家庭の共有財産、胎児は独立人格
 「人に迷惑かけないから」 →他者に影響を及ぼさない性行動(社会的行為)があるのか 
「損したっていいから」  →一人の不幸はまわりの悲しみ、愛は人の不利益を望まない 
「自分で決めたい」    →幸せを願えば、干渉もする

 このような神なき現代倫理はマスメディアを通じて大衆文化を形成
(例)日本男性の性倫理に最大の影響を与えたもの〜プレイボーイ誌と11PM
・プレイボーイの哲学:快楽追求こそ人生の目的
・大橋巨泉の倫理 :人に迷惑かけない限り、あるゆる方法での快楽追求は正当
・日本の性倫理を極論すれば:「法律上、医学上、社会通念上問題なければ何をしてもよい」
 聖書の性倫理〜結婚制度の中での人格的愛の交わりと生命の伝達を目的とする
 そのキーワードは「結婚」、「人格的愛」、「生命」

 (問題となる性行動)   (聖書的根拠)  (現代倫理的特徴)
 援助交際、婚前交渉、不倫→結婚との分離   /欲望の無限肯定
 同性愛、SM、中絶   →生命との分離   /制限なき快楽追求、自己決定権
 ポルノ文化、売春行為  →人格的愛との分離 /性の商業化、経済原


《4》医療倫理について(最先端の生殖技術、移植技術)

 アメリカの一部では中絶された胎児の組織(母親の了承で)が移植治療手術用に売買
 (胎児組織は、増殖力に優れ、拒絶反応が少ない、研究用に日本でも輸入)
 正当化の根拠:母親の許可、死亡後、ごみ箱行きよりは人の役に、治療希望者の要求
 ※聖書的にはどう考えるべきでしょう。

 イギリスでは、胎児組織獲得のため倫理的問題を回避するため以下のような実験が実施
 人工受精卵に対する遺伝子操作→脳を持たぬ胎児を形成→人口子宮で育成→組織採取
 ※実験者がこれを倫理上問題ない方法と考えるのは、なぜでしょう?

 イギリスでは、出生前診断の全面無料化、義務化し、選択的中絶により障害者の出産の減 
少を図ることを検討中
 出生前診断義務化無料化と中絶費用等:障害者が一生に要する費用=3:1
 ※これは国家財政負担を削減する善と言えるでしょうか。

 W.H.Oは生殖技術に関する試案を作成中:出生前診断と選択的中絶は両親の自由意志に 
よるものであるから、ナチス的優生学ではないとする内容


結論〜神なき現代倫理は、人を「ほしいままに振る舞わせ」その結果、生命と性の尊厳     
を喪失し、自らに呪いを招いています。
      生命と性の尊厳を守り、個人と社会に本当の祝福をもたらすものは聖書の倫理     
とそれに従った性行動や医療であることを確信します。  


《参考図書》
マザー・テレサ著「生命あるすべてのものに」(講談社現代新書)
丸本百合子、山本勝美著「生む生まないを悩むとき」(岩波ブックレット)
森岡正博著「生命学への招待」(勁草書房)
加藤尚武「現代倫理学入門」(講談社学術文庫)
「ETV特集:生命誕生の現場から」(教育テレビ)