柚木麻子

終点のあの子 ナイルパーチの女子会 BUTTER  

終点のあの子 2012年5月30日 (水)
 「フォーゲットミー、ノットブルー」:世田谷にあるプロテスタント系の私立女子高、クラスは六つのグループが存在する立花希代子は中等部から同じグループだった森ちゃんたちと真面目系。高校から入ってきた朱里は父が有名な写真家で、個性的な子。希代子は急速に惹かれていく。オール読物新人賞受賞作。
 「甘夏」:森奈津子は夏休み、市民プールで禁止されているアルバイトを始める。隣のクラスのアルバイトをしているらしいという噂のあるミッツーに事前に相談して、親しくなっていた。そして、同じアルバイトの大学生に誘われる。
 「ふたりでいるのに無言で読書」:学年で一、二を争う美人でその取り巻きたちの中心にいる恭子は、夏休み失恋して行くところもなく隣町の図書館へ行くと、オタクグループの保田早智子と会う。保田が選んでくれた本を読んでほぼ毎日図書館で過ごすようになる。
 「オイスターベイビー」:美大へ進んだ奥沢朱里は、絵の才能に見切りをつけて写真にたどりつき、父とのコラボ展を目前にしていた。親友の杉ちゃんは優秀賞の常連。付き合っている淳之介は就職活動であまり会っていない。
 女子高生の世界も生きづらいらしい。希代子の変身ぶり、自分を取り戻す奈津子、元に戻る恭子と、それぞれ結末はおもしろかった。自由奔放で魅力的だった朱里の結末は寂しい。

ナイルパーチの女子会 2020年4月22日 (水)
 栄利子は父が勤めていた国内最大手の商社の営業部員。家と美貌とキャリアに恵まれた彼女が夢中になっているのは、おひょうさんというぐうたら主婦のブログ。記事から家の近所に住んでいることがわかり、行動パターンを読んで通う店に行って出会い、「友達」になる。おひょうさんこと、翔子はブログ通り最低限の家事しかしないということにして、夫の賢介と暮らしていた。栄利子は同じマンションの幼馴染圭子と中学生のときトラブルを起こして、友達というものがなかった。祥子は、何もしないくせに高圧的な父を嫌って家を出て、勤めていたアパレルショップでの女子社員たちとの人間関係に疲れて人付き合いが面倒になっていた。栄利子は、「友達」になった翔子のブログにますますのめり込んでいく。
 栄利子と翔子、共感できたかと思うと反発しをくり返し、二人それぞれ思いがけない事態につながっていく。栄利子、翔子、圭子、そして派遣社員の真織、よくこんな強烈のキャラクターを造形できたと思う。山本周五郎賞受賞作。

BUTTER 2020年10月10日 (土)
 週刊誌記者の里佳は、結婚を餌に近づいた男たちの財産を奪い殺害していた梶井真奈子の取材を試みていた。学生時代からの親友で今は専業主婦の伶子のアイデアで、料理の話で近付く。取材を受け入れる条件として、真奈子が勧めるものを食べているうちにぶくぶく太っていく。気が付けば真奈子に操られ、恋人の関係にも影響が出て、さらに伶子まで巻き込まれていく。
 シチュエーションが前読んだ小説に似ているなと思ったら、同じ作者の「ナイルパーチの女子会」だった。おもしろかったが、話がひろがりすぎて、強烈な割には散漫な印象になった感じもする。