行成薫

名も無き世界のエンドロール 明日、世界がこのままだったら    

名も無き世界のエンドロール 2015年4月20日(月)
 マコトと俺は幼馴染で、二人とも両親がいなかった。マコトがドッキリを仕掛けるのが生き甲斐で、ビビリ屋の俺はいつもひっかかっていた。小学五年の時、金髪の女の子ヨッチが転校してきた。彼女も両親がいなくて、いつも三人でつるむようになった。二十歳になった俺とマコトは同じ車の板金塗装工場で働いていた。ある日、若い美しい、生意気なリサという女が数千万円の高級車を内緒で修理してほしいと言ってきた。犬を轢いてしまったという。マコトは金があればリサに近づけるかなと言って、姿を消した。半年後俺も首になって、社長に紹介された会社へ行くと裏稼業の会社で、マコトの情報が集めてあった。
 三十歳の現在から過去へ何度も行き来するので少しわかりにくい。金持ちで裏の権力を持つ男の娘で、美人でモデルの女に近づくための作戦かと思っていると、そのうちヨッチが登場しないことに気が付く。おそらく死んだんだろうと思う。そして最後に真相が明らかになり、過去の断片がうまくはまっていく。ミステリーとしても青春小説としてもおもしろかった。小説すばる新人賞受賞作。

明日、世界がこのままだったら 2025年3月11日(火)
 目が覚めてリビングに入ると見知らぬ男がいた。言われてリビングのドアを開けると、そこは男の部屋だった。クローゼットのドアの先に自宅の風呂、トイレ、玄関があった。ワタルが外へ出ると住宅街の中に高層ビルが乱立していて街には誰もおらず、無人のスーパーから食材を手に入れられた。サカキという中年の女性がやってきて、ここは『狭間の世界』、死者が魂になる場所、自分はその管理人だと言う。
 男は伊達恒、女は久遠幸。「狭間の世界」の章、それぞれの名前に七つの大罪が書かれた章が交互に続き、それぞれの章で二人にかかわる人物の視点から二人が描かれる。サチは裕福な弁護士の娘で、敷かれたレールの上の人生を歩んできた。ワタルは寝たきりの父に代わって母が働き、弟の進学のために家を出て美容師として成功していた。まったく別々の人生を生きる二人だが、それぞれ関係する人間がそれぞれとのかかわりを持っていて、それが二人を運命に導くことになる。ミステリーではないが伏線が見事に回収されて、ちょっと残念な結末ではあるがおもしろかった。